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ひとりのチャイナ服を着た男が、主人に整体を施している。
だが、男は整体師ではない。主人の専属医師である。
「ご主人サマ、姿勢が悪いから色々マズいですよ」
「あなたが何とかしてください」
「そう言われましても。ワタシは、根本的な解決を望んでいますので」
医師は、通称をナマエという。彼の主人は、Lと名乗っている。
「それに、甘いものを食べ過ぎですし、睡眠時間も足りてないですし」
「頭脳労働には糖分が必要です」
「だったら、たまにブドウ糖タブレットでも食べておけばいいではないですか」
「それは嫌です」
「……仕方のない人」
ナマエは溜め息をつき、やれやれというジェスチャーをした。
「はい。終わりましたよ」
「ありがとうございます。体が軽くなりました」
「どういたしまして」
医師は、恭しく一礼する。長く赤い髪が、さらりと揺れた。
「ナマエ。あなたは、キラをどう思いますか?」
「ワタシは、ヒューマンライツをなおざりにすることを良しとしません」
「そうですか。あなたは、やはり正義の側の人間ですね」
「ええ、もちろん。ご主人サマの味方ですから」
ナマエの口元が弧を描く。
「さて。ではワタシは、ワタリさんと食事の準備をしますので」
「はい」
Lと別れ、ナマエは厨房へ向かった。
医食同源。ナマエは、健康的な料理を作ることも得意である。Lが普段食べている甘味の一部は、彼が出来る限り体にいい材料で作っていた。
ナマエは、広義の医療のスペシャリストなのである。
そんな彼が、歳下のLを主人とし、支える理由。それは、彼の家族の仇が逮捕されたのが、Lの活躍によるものだからだ。
その恩返しのために、ナマエはLに助力し続けている。
鍋をかき混ぜながら、男は考えた。
家族を殺した者を、キラが殺したとしたら、ワタシは何を思っただろうか?
件の殺人犯は、すでに死刑になっている。
しかし、法的措置である死刑とキラの所業は全くの別物だ。
ナマエは、キラという人殺しへの熱狂を見ていると、人間という種に絶望しそうになる。
歴史を学んで来なかったのか? ヒトラーやポル・ポトと、キラは何が違う?
大衆は無責任に殺人犯を称賛し、信奉し、思考停止し堕落する。
それでも、この世界にはアナタがいるから。ワタシは、まだ人間を信じられる。
アナタを喪ったら、きっとワタシは立ち上がれないでしょう。
ナマエは、Lという光がなければ生きてはいけない。
だからワタシは、アナタのために力を尽くすのです。
◆◆◆
自室で、煙管を燻らせている。ナマエは、ラベンダーの刻み煙草の香りを漂わせた。
少しして、火皿に入れたものを吸い終わると、煙管から燃え殻を捨てて綺麗にする。
その後、敬愛する主人の元へ行った。
「ご主人サマ」
「はい。どうかしましたか?」
「そろそろ、何か食べたいのではないですか?」
「そうですね。では、アフタヌーンティーの用意をお願いします」
「お任せあれ」
ナマエは機嫌良さそうに去って行く。その背中を見ながら、Lは考えていた。
ナマエから、ラベンダーの香りがする。精神安定のために煙管を使ったのだろう。
その推測は、当たっていた。ナマエは、殺された家族のことを思い出して悲しくなったから、煙管に頼ったのである。
ナマエの傷を、Lにはどうすることも出来ない。明るく振る舞っている彼に、余計なことを言うことはしない。
しばらくして、ナマエがチャイニーズアフタヌーンティーを運んで来た。
温かい中国茶を注ぎ、生月餅や胡麻団子やマンゴープリンなどを並べていく。
「さあさあ、お召し上がりください」
「いただきます」
Lは、次々とナマエの作ったものを飲食した。
その様子を、ナマエはニコニコと見守っている。
「美味しいです」
「ありがとうございます」
ナマエは、拱手してお礼を述べた。
「たまには……」
「はい?」
「あなたも一緒にどうですか?」
「よろしいのですか?」
「ええ」
ナマエは、ふ、と笑い、「では、失礼します」と隣に座る。
そして、余分に持って来ていた茶杯にジャスミン茶を注ぎ入れ、一口飲んだ。
「うん。いい味ですね」
「ナマエ」
「はい」
「いつも、お疲れ様です」
「いえいえ。ご主人サマに比べたら、ワタシなんて……」
「なんて、ということはないです」
Lは、淡々と告げる。ナマエの働きを軽んじてなどいないから。
懸命に日々を生きるあなたを、頼りにしている。
Lの瞳は、ナマエを真っ直ぐ見つめた。
「……ありがとうございますね」
ナマエは、少し照れくさそうに笑う。
「ご主人サマ、杏仁ミルクもお飲みくださいませ。薬膳ドリンクですからね」
「はい」
ナマエは、Lが手製のものを食べたり飲んだりしているところを見るのが好きである。
アナタが生きていくことに関われるのが、ワタシは嬉しいのですよ。
どうか、いつまでもお側に置いてくださいね。
「ナマエ。この苺のタルト、もっと食べたいです」
「いけません。おひとつ限りです」
両手の人差し指でバツを作るナマエ。
ふたりは、しばし穏やかな午後を過ごした。
◆◆◆
第二のキラが現れた、と主人は言った。
ナマエは、最悪な殺人犯が増えたことを憂い、Lが自ら動くことが不安になる。
それでも、Lの意向には従う。それが、彼を信じるということだから。
仕方のないこと。ナマエが選んだ主人は、“解決する者”だから。時には、危険なこともある。
では、ナマエは?
彼は、“見守る者”だ。持てる医術の全てを使って、Lが生きることを手助けしている。
事件については、ナマエの領分ではない。だから、捜査に口出しすることはないのである。
ふたりは、お互いに背中を預けるような形で同じ道を歩いていた。
ワタリがLの右腕ならば、ナマエは別の役割を持つ腕であろう。
「ご主人サマ。お菓子をお持ちしました」
「ありがとうございます」
配膳台からカップや皿を取り出し、テーブルへ並べていく。
「アールグレイとフルーツケーキ、ファッジ、カスタードプリンです」
「美味しそうですね。いただきます」
「はい。お召し上がりください」
ナマエは、姿勢正しく脇に控え、Lが食べているところを見つめた。
長い前髪に両目が隠されてはいるが、主人には、その視線の先はバレているだろう。
実際のところ、Lは、自分が飲食しているところを見るのをナマエが好きなことは知っていた。特段、嫌でもない。
「ナマエ」
「はい」
「明日は、スコーンが食べたいです」
「承知しました。では、美味しいクロテッドクリームとジャムを添えましょう」
「よろしくお願いします」
こうしてリクエストされるのは嬉しい。
紅茶は、アッサムティーかセイロンティーか。ナマエが、そんなことを考えていると、Lが質問をしてきた。
「ナマエ。私が、あなたの過去に触れたら、どうしますか?」
「……ご主人サマに触れられて困る過去などありませんよ」
「そうですか。この事件が終わったら、あなたの事件の続きを解決しましょう」
「お気遣い、ありがとうございますね」
ナマエの家族を殺害された事件は、癒えぬ傷として残っている。それを、“解決する”とLは言った。
アナタがそう言うのなら、安心ですね。
ナマエは、柔らかく微笑んだ。
精神的な傷を、彼がどう“解決する”のかは分からない。だが、Lが自分のことを慮ってくれているというだけで、幾分か気持ちが楽になった。
「ナマエ、角砂糖がなくなりました」
「……いつの間に。ダメですよ、そんなに砂糖を摂っては」
そこからは、ナマエによるLの生活全般への小言が続く。
それも全て、ナマエの愛情だった。
◆◆◆
捜査本部としているホテルに入れなくなった。Lの命令である。
心配だが、ナマエは、通信のみで彼の安否を知ることしか出来ない。
食べ物の差し入れは、部屋の前に置いておく形でしているが、Lの健康状態を診られないことは、ナマエを不安にさせた。
やがて。弥海砂と夜神月が拘束された。
しばらくして、その拘束は解かれたが、Lは自分と月を手錠で繋ぐ。
そしてナマエは、新たな拠点となる高層ビルへ移ることになった。
ワンフロアを与えられたが、ナマエは一室しか使わない。必要がないからだ。
中華風の室内では、いつものチャイナ服を着たナマエが長い髪を一本の三つ編みにしている。
「よし」
身支度を終えると、Lの健康診断をしに向かう。
「おはようございます、ご主人サマ」
「おはようございます、ナマエ」
「この人は?」と月が尋ねた。
「私の専属医です」
「はじめまして。月さん。ナマエとお呼びください。よろしくお願いしますね」
「……よろしくお願いします」
前髪で両目が隠れているが、ナマエが笑顔であることが分かる。
しかしLは、その笑みが警戒の色をしているのに気付いた。おそらく、無意識。
「ご主人サマ、まずは採血しますよ」
「はい」
怪しい見た目の医師は、粛々と検査を続けた。
「では後日、検査結果をお知らせいたしますね」
「お疲れ様です。後で、甘いものを持って来てください」
「かしこまりました」
ナマエは、医療バッグと採取したものを持ち、一度自室へ戻る。
それから、キッチンでフルーツの盛り合わせとクッキーを用意した。
再び、Lのいる部屋へ行く。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
ナマエは、主人の横に控えている。
「竜崎の知り合いは、個性的な人ばかりだな」
月は、チェリーを食べるLと、その隣のナマエを見て言った。
画面越しの謎の男に、胡散臭い医者。一癖も二癖もありそうだ。
「ナマエさんも、捜査に協力してくれるのか?」
「いえ、ナマエは捜査には関わりません。司法解剖は出来ますが、キラ事件ではあまり意味がないでしょう」
「そうか」
後日。Lと月が殴る蹴るの喧嘩をした時は、ふたりともナマエに手当てをされながら説教された。
「全く、仕方のない人たちですね」
「すいません」
「へぇ。竜崎も謝ることがあるんだな」
「もう一戦しますか?」
「ご主人サマ?」
「冗談です」
ふぅ、とナマエは溜め息をつく。
Lは、いい大人なのに。月と殴り合いをするとは。負けず嫌いとはいえ、そこまでしなくても。
ナマエは、半ば呆れて、「仕方のない人…………」と呟いた。
だが、男は整体師ではない。主人の専属医師である。
「ご主人サマ、姿勢が悪いから色々マズいですよ」
「あなたが何とかしてください」
「そう言われましても。ワタシは、根本的な解決を望んでいますので」
医師は、通称をナマエという。彼の主人は、Lと名乗っている。
「それに、甘いものを食べ過ぎですし、睡眠時間も足りてないですし」
「頭脳労働には糖分が必要です」
「だったら、たまにブドウ糖タブレットでも食べておけばいいではないですか」
「それは嫌です」
「……仕方のない人」
ナマエは溜め息をつき、やれやれというジェスチャーをした。
「はい。終わりましたよ」
「ありがとうございます。体が軽くなりました」
「どういたしまして」
医師は、恭しく一礼する。長く赤い髪が、さらりと揺れた。
「ナマエ。あなたは、キラをどう思いますか?」
「ワタシは、ヒューマンライツをなおざりにすることを良しとしません」
「そうですか。あなたは、やはり正義の側の人間ですね」
「ええ、もちろん。ご主人サマの味方ですから」
ナマエの口元が弧を描く。
「さて。ではワタシは、ワタリさんと食事の準備をしますので」
「はい」
Lと別れ、ナマエは厨房へ向かった。
医食同源。ナマエは、健康的な料理を作ることも得意である。Lが普段食べている甘味の一部は、彼が出来る限り体にいい材料で作っていた。
ナマエは、広義の医療のスペシャリストなのである。
そんな彼が、歳下のLを主人とし、支える理由。それは、彼の家族の仇が逮捕されたのが、Lの活躍によるものだからだ。
その恩返しのために、ナマエはLに助力し続けている。
鍋をかき混ぜながら、男は考えた。
家族を殺した者を、キラが殺したとしたら、ワタシは何を思っただろうか?
件の殺人犯は、すでに死刑になっている。
しかし、法的措置である死刑とキラの所業は全くの別物だ。
ナマエは、キラという人殺しへの熱狂を見ていると、人間という種に絶望しそうになる。
歴史を学んで来なかったのか? ヒトラーやポル・ポトと、キラは何が違う?
大衆は無責任に殺人犯を称賛し、信奉し、思考停止し堕落する。
それでも、この世界にはアナタがいるから。ワタシは、まだ人間を信じられる。
アナタを喪ったら、きっとワタシは立ち上がれないでしょう。
ナマエは、Lという光がなければ生きてはいけない。
だからワタシは、アナタのために力を尽くすのです。
◆◆◆
自室で、煙管を燻らせている。ナマエは、ラベンダーの刻み煙草の香りを漂わせた。
少しして、火皿に入れたものを吸い終わると、煙管から燃え殻を捨てて綺麗にする。
その後、敬愛する主人の元へ行った。
「ご主人サマ」
「はい。どうかしましたか?」
「そろそろ、何か食べたいのではないですか?」
「そうですね。では、アフタヌーンティーの用意をお願いします」
「お任せあれ」
ナマエは機嫌良さそうに去って行く。その背中を見ながら、Lは考えていた。
ナマエから、ラベンダーの香りがする。精神安定のために煙管を使ったのだろう。
その推測は、当たっていた。ナマエは、殺された家族のことを思い出して悲しくなったから、煙管に頼ったのである。
ナマエの傷を、Lにはどうすることも出来ない。明るく振る舞っている彼に、余計なことを言うことはしない。
しばらくして、ナマエがチャイニーズアフタヌーンティーを運んで来た。
温かい中国茶を注ぎ、生月餅や胡麻団子やマンゴープリンなどを並べていく。
「さあさあ、お召し上がりください」
「いただきます」
Lは、次々とナマエの作ったものを飲食した。
その様子を、ナマエはニコニコと見守っている。
「美味しいです」
「ありがとうございます」
ナマエは、拱手してお礼を述べた。
「たまには……」
「はい?」
「あなたも一緒にどうですか?」
「よろしいのですか?」
「ええ」
ナマエは、ふ、と笑い、「では、失礼します」と隣に座る。
そして、余分に持って来ていた茶杯にジャスミン茶を注ぎ入れ、一口飲んだ。
「うん。いい味ですね」
「ナマエ」
「はい」
「いつも、お疲れ様です」
「いえいえ。ご主人サマに比べたら、ワタシなんて……」
「なんて、ということはないです」
Lは、淡々と告げる。ナマエの働きを軽んじてなどいないから。
懸命に日々を生きるあなたを、頼りにしている。
Lの瞳は、ナマエを真っ直ぐ見つめた。
「……ありがとうございますね」
ナマエは、少し照れくさそうに笑う。
「ご主人サマ、杏仁ミルクもお飲みくださいませ。薬膳ドリンクですからね」
「はい」
ナマエは、Lが手製のものを食べたり飲んだりしているところを見るのが好きである。
アナタが生きていくことに関われるのが、ワタシは嬉しいのですよ。
どうか、いつまでもお側に置いてくださいね。
「ナマエ。この苺のタルト、もっと食べたいです」
「いけません。おひとつ限りです」
両手の人差し指でバツを作るナマエ。
ふたりは、しばし穏やかな午後を過ごした。
◆◆◆
第二のキラが現れた、と主人は言った。
ナマエは、最悪な殺人犯が増えたことを憂い、Lが自ら動くことが不安になる。
それでも、Lの意向には従う。それが、彼を信じるということだから。
仕方のないこと。ナマエが選んだ主人は、“解決する者”だから。時には、危険なこともある。
では、ナマエは?
彼は、“見守る者”だ。持てる医術の全てを使って、Lが生きることを手助けしている。
事件については、ナマエの領分ではない。だから、捜査に口出しすることはないのである。
ふたりは、お互いに背中を預けるような形で同じ道を歩いていた。
ワタリがLの右腕ならば、ナマエは別の役割を持つ腕であろう。
「ご主人サマ。お菓子をお持ちしました」
「ありがとうございます」
配膳台からカップや皿を取り出し、テーブルへ並べていく。
「アールグレイとフルーツケーキ、ファッジ、カスタードプリンです」
「美味しそうですね。いただきます」
「はい。お召し上がりください」
ナマエは、姿勢正しく脇に控え、Lが食べているところを見つめた。
長い前髪に両目が隠されてはいるが、主人には、その視線の先はバレているだろう。
実際のところ、Lは、自分が飲食しているところを見るのをナマエが好きなことは知っていた。特段、嫌でもない。
「ナマエ」
「はい」
「明日は、スコーンが食べたいです」
「承知しました。では、美味しいクロテッドクリームとジャムを添えましょう」
「よろしくお願いします」
こうしてリクエストされるのは嬉しい。
紅茶は、アッサムティーかセイロンティーか。ナマエが、そんなことを考えていると、Lが質問をしてきた。
「ナマエ。私が、あなたの過去に触れたら、どうしますか?」
「……ご主人サマに触れられて困る過去などありませんよ」
「そうですか。この事件が終わったら、あなたの事件の続きを解決しましょう」
「お気遣い、ありがとうございますね」
ナマエの家族を殺害された事件は、癒えぬ傷として残っている。それを、“解決する”とLは言った。
アナタがそう言うのなら、安心ですね。
ナマエは、柔らかく微笑んだ。
精神的な傷を、彼がどう“解決する”のかは分からない。だが、Lが自分のことを慮ってくれているというだけで、幾分か気持ちが楽になった。
「ナマエ、角砂糖がなくなりました」
「……いつの間に。ダメですよ、そんなに砂糖を摂っては」
そこからは、ナマエによるLの生活全般への小言が続く。
それも全て、ナマエの愛情だった。
◆◆◆
捜査本部としているホテルに入れなくなった。Lの命令である。
心配だが、ナマエは、通信のみで彼の安否を知ることしか出来ない。
食べ物の差し入れは、部屋の前に置いておく形でしているが、Lの健康状態を診られないことは、ナマエを不安にさせた。
やがて。弥海砂と夜神月が拘束された。
しばらくして、その拘束は解かれたが、Lは自分と月を手錠で繋ぐ。
そしてナマエは、新たな拠点となる高層ビルへ移ることになった。
ワンフロアを与えられたが、ナマエは一室しか使わない。必要がないからだ。
中華風の室内では、いつものチャイナ服を着たナマエが長い髪を一本の三つ編みにしている。
「よし」
身支度を終えると、Lの健康診断をしに向かう。
「おはようございます、ご主人サマ」
「おはようございます、ナマエ」
「この人は?」と月が尋ねた。
「私の専属医です」
「はじめまして。月さん。ナマエとお呼びください。よろしくお願いしますね」
「……よろしくお願いします」
前髪で両目が隠れているが、ナマエが笑顔であることが分かる。
しかしLは、その笑みが警戒の色をしているのに気付いた。おそらく、無意識。
「ご主人サマ、まずは採血しますよ」
「はい」
怪しい見た目の医師は、粛々と検査を続けた。
「では後日、検査結果をお知らせいたしますね」
「お疲れ様です。後で、甘いものを持って来てください」
「かしこまりました」
ナマエは、医療バッグと採取したものを持ち、一度自室へ戻る。
それから、キッチンでフルーツの盛り合わせとクッキーを用意した。
再び、Lのいる部屋へ行く。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
ナマエは、主人の横に控えている。
「竜崎の知り合いは、個性的な人ばかりだな」
月は、チェリーを食べるLと、その隣のナマエを見て言った。
画面越しの謎の男に、胡散臭い医者。一癖も二癖もありそうだ。
「ナマエさんも、捜査に協力してくれるのか?」
「いえ、ナマエは捜査には関わりません。司法解剖は出来ますが、キラ事件ではあまり意味がないでしょう」
「そうか」
後日。Lと月が殴る蹴るの喧嘩をした時は、ふたりともナマエに手当てをされながら説教された。
「全く、仕方のない人たちですね」
「すいません」
「へぇ。竜崎も謝ることがあるんだな」
「もう一戦しますか?」
「ご主人サマ?」
「冗談です」
ふぅ、とナマエは溜め息をつく。
Lは、いい大人なのに。月と殴り合いをするとは。負けず嫌いとはいえ、そこまでしなくても。
ナマエは、半ば呆れて、「仕方のない人…………」と呟いた。