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歌うことが好きだ。そして、生きているうちに、特に好きなのがロックだと分かった。
だから、男はロックバンドを組むことにする。
「玄冬心中研究室 」は、ミョウジナマエが始めたバンドである。
衣装は、ボロボロの白衣。
バンドのボーカル兼ギターのミョウジナマエは、今日も狐坂高校の軽音部の部室で練習をしている。
彼のバンドには、ギターとベースとドラムがいて。4人のメンバーは、皆プロを目指していた。
玄冬心中研究室は、今は文化祭のステージに向けて練習を重ねている。
空を砕いて 海を割いて お前の脳髄に響かせてやるんだ 俺たちの歌 を
ボーカルのミョウジは、特徴的なしゃがれた歌声を響かせた。
それを、密かに聴いている観客が、ひとり。ミョウジの友人、久遠渉である。
久遠は、本気で音楽をやっている彼らが羨ましかった。
練習を終え、撤収することにしたミョウジたち。部室を後にする。
「お? 渉じゃん。球蹴りは終わったのか?」
「球蹴りって言うな」
「はいはい。で? サッカーは?」
「ひとりで練習してたら、虚しくなって。気付いたら、ここにいた」
こことは、軽音部の前の廊下だろう。
「そりゃあ、お疲れさん。お前だけじゃ、サッカーは出来ないもんな」
「…………」
沈んでいる久遠の腕を引き、「一緒に帰ろうぜ」と誘うミョウジ。
ふたりで帰路を歩いていると、急にミョウジが歌を唄い始めた。
それは、サザンオールスターズの曲。声質は全く違うが、力強い歌声である。
「元気出たか?」
歌い終えた後、ミョウジは尋ねた。
「少し……」
「プロになりてぇなぁ」
「ナマエなら、なれるだろ」
「まあな。私は、最強だから」
自信に根拠なんていらない。
それが、ミョウジナマエの信条である。
「渉」
「なに?」
「もし、万が一、ふたりとも上に行けなかったらさ。心中しようぜ」
「心中?」
「そ。私が一緒に死んでやらぁ。角島大橋から海に飛び込む。頼もしいだろ?」
「はは……」と、久遠は力なく笑った。
「ありがとう、ナマエ」
「どーいたしまして」
ミョウジは、豪快に笑う。自由な海賊みたいだな、と久遠は思った。
「あとは、そうだな。お互いにサインでも贈っとくか?」
「いいな、それ」
翌日。ふたりは、サインを書いた色紙を交換した。
「今は、ただの紙だがな。いずれはプレ値になるぜ」
ミョウジナマエは、口角を引き上げる。
久遠渉も、釣られて笑った。
ふたりの男は、まだ人生の序章にいる。
◆◆◆
ブルーロックから帰って来た久遠渉は、絶望していた。
何もする気が起きなくて、ずっと布団の中にいる。
数日そうしていると、スマートフォンにメッセージが届いた。親友のミョウジナマエから。
『渉、海に行こう』
メッセージは、それだけ。
ナマエらしいな。と、久遠は思った。
『行く』
『じゃあ迎えに行く』
『待ってる』
しばらくして、自宅にミョウジが来る。
「よう、久し振りだな」
「ああ、久し振り」
「さっそく行こう」
ミョウジは、久遠の手を引き、バス停を目指した。
バスを乗り継ぎ、ふたりは角島大浜海水浴場へ到着する。
眼前には、美しいコバルトブルーの海と白い砂浜が広がっていた。
潮風が、ふたりの少年を撫でる。
「綺麗だな、海」
「うん」
ミョウジナマエは、久遠渉の手を握り、波打ち際に進んだ。
そして、そのままザブザブと海の中へ入って行く。
「おい、ナマエ?」
「ん?」
「何をするつもりなんだ?」
「心中」
「……ナマエは、まだ終わってないだろ」
久遠は、下を向いて言った。
夢破れたことが辛い。
「お前は終わったのか?」
「終わったよ、もう…………」
「ほんとにそうか?」
ミョウジは、強く久遠の手を引いて進む。
そのまま、膝下が海水に浸かるまで行った。
「……ナマエ」
「どうした?」
「もうやめよう。あとは、俺ひとりで行くから」
「……そうか」
ミョウジは、手を離す。
久遠は、宣言通りにひとりで進んだ。
親友は、そんな彼を見つめている。
そして。とぷんと、久遠の全身が海に呑まれた。
「渉…………」
ミョウジナマエは、走る。水が足を重たくしたが、出来る限り早く久遠渉の元へ向かった。
「渉……!」
「っはァ……!」
ミョウジが海中から久遠を引き上げ、そのまま正面から抱き締める。久遠は、荒く呼吸をした。
死ぬつもりだったのに、久遠の体は生きようとしている。
「死なないでくれ、渉」
「ナマエ……」
ミョウジは、わずかに声を震わせていた。
「私 より先に死ぬな、久遠渉。お前は、まだ走れるだろ?」
「でも俺は…………」
「私の終わりを見届けてくれ。ロックンロールの果てを見ていてくれ。それまで死ぬんじゃない」
久遠は、ミョウジを抱き締め返す。自分より背が低い親友。筋力も弱い。でも、いつも王様みたいに笑っている男。そのミョウジが、泣きそうな顔をしている。
「分かったよ。俺は、ナマエの終わりを見届ける。だから、泣くなよ」
「泣いてない!」
「……ありがとう、ナマエ」
久遠渉は、親友のために生きることにした。
ロックンロールが死ぬまで。
◆◆◆
歌っている。叫ぶように。
ミョウジナマエは、ロックンロールを奏でていた。
喉を鳴らす。エレキギターを弾く。
幻冬心中研究室は、ライブハウスで思い切りロックンロールをしていた。
ミョウジの親友、久遠渉はそれを観ている。
久遠は、気付いていた。ミョウジが、たったひとりのために歌っていることに。
ミョウジナマエは、久遠渉の心臓にロックを届かせるために、特徴的なしゃがれた声で歌っていた。
爆心地が お前であるように 俺は歌う ロックンロールにゃ果てはない
ミョウジの歌は、生命力に満ちあふれていて、人を“生きる”ことに駆り立てる。
「ナマエ…………」
親友には届かないだろう呟き。
こんな大事な機会に。大切な時期に。俺のために歌っていいのか?
久遠の気持ちをよそに、ミョウジは歌を唄い続け、ギターをかき鳴らしている。
観客たちは、歓声を上げた。
「愛してるぜ!」
ミョウジが、間奏中に叫ぶ。
性別は関係なく、悲鳴のような声が聴こえた。
しかし、その台詞さえ、久遠に向けたものである。
華やかなライブが終わり、ミョウジは打ち上げへ。
久遠は、自宅へと歩いて行く。
道すがら、親友から渡されたものを噛み締める。
無形の芸術。魂のこもったロック。人生の肯定。まるで、応援歌のような。
久遠は、歩きながら涙を流した。
「私は、ずっと渉の味方だ!」という親友の声が聴こえた気がする。
その晩は、久し振りの心地好い疲労感とともに眠りについた。
翌朝。スマートフォンに、ミョウジからのメッセージが届いていた。
『渉ん家に行きたい』
『いいよ』と、返信する。
午後。ミョウジがやって来た。
自室に通し、ベッドに並んで座る。
「どうだった? 昨日のライブは」
「ナマエ……よかったのか? あんな…………」
「いいに決まってるだろ! 渉は、私の親友なんだからな!」
ミョウジは、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、ナマエ。ナマエの歌が、心臓に刺さって抜けないよ」
「そりゃあ、よかった。渉の心臓に届けるために歌ったからな。大成功だ」
「でも、大事なライブだったんじゃないのか?」
「大事な親友のためのライブだ。たったひとりにも届かない音楽なんて、意味ないだろ? 渉に届いたなら、あの場にいたみんなに届いたはずだしな」
久遠は、ミョウジの手を握る。
「……好きだ」
そして、ぽつりと言葉をこぼした。
「うん? どうした? 改まって」
ミョウジは、首を傾げる。
「俺と付き合ってほしい」
「もしかして、私に告白してるのか?」
「そうだよ」
「あははっ! いいぞ。地獄まででもついて来てくれよな!」
久遠渉は、ミョウジナマエの言葉にうなずく。
そして、ミョウジを抱き締めて、「愛してる」と囁いた。
だから、男はロックバンドを組むことにする。
「
衣装は、ボロボロの白衣。
バンドのボーカル兼ギターのミョウジナマエは、今日も狐坂高校の軽音部の部室で練習をしている。
彼のバンドには、ギターとベースとドラムがいて。4人のメンバーは、皆プロを目指していた。
玄冬心中研究室は、今は文化祭のステージに向けて練習を重ねている。
空を砕いて 海を割いて お前の脳髄に響かせてやるんだ 俺たちの
ボーカルのミョウジは、特徴的なしゃがれた歌声を響かせた。
それを、密かに聴いている観客が、ひとり。ミョウジの友人、久遠渉である。
久遠は、本気で音楽をやっている彼らが羨ましかった。
練習を終え、撤収することにしたミョウジたち。部室を後にする。
「お? 渉じゃん。球蹴りは終わったのか?」
「球蹴りって言うな」
「はいはい。で? サッカーは?」
「ひとりで練習してたら、虚しくなって。気付いたら、ここにいた」
こことは、軽音部の前の廊下だろう。
「そりゃあ、お疲れさん。お前だけじゃ、サッカーは出来ないもんな」
「…………」
沈んでいる久遠の腕を引き、「一緒に帰ろうぜ」と誘うミョウジ。
ふたりで帰路を歩いていると、急にミョウジが歌を唄い始めた。
それは、サザンオールスターズの曲。声質は全く違うが、力強い歌声である。
「元気出たか?」
歌い終えた後、ミョウジは尋ねた。
「少し……」
「プロになりてぇなぁ」
「ナマエなら、なれるだろ」
「まあな。私は、最強だから」
自信に根拠なんていらない。
それが、ミョウジナマエの信条である。
「渉」
「なに?」
「もし、万が一、ふたりとも上に行けなかったらさ。心中しようぜ」
「心中?」
「そ。私が一緒に死んでやらぁ。角島大橋から海に飛び込む。頼もしいだろ?」
「はは……」と、久遠は力なく笑った。
「ありがとう、ナマエ」
「どーいたしまして」
ミョウジは、豪快に笑う。自由な海賊みたいだな、と久遠は思った。
「あとは、そうだな。お互いにサインでも贈っとくか?」
「いいな、それ」
翌日。ふたりは、サインを書いた色紙を交換した。
「今は、ただの紙だがな。いずれはプレ値になるぜ」
ミョウジナマエは、口角を引き上げる。
久遠渉も、釣られて笑った。
ふたりの男は、まだ人生の序章にいる。
◆◆◆
ブルーロックから帰って来た久遠渉は、絶望していた。
何もする気が起きなくて、ずっと布団の中にいる。
数日そうしていると、スマートフォンにメッセージが届いた。親友のミョウジナマエから。
『渉、海に行こう』
メッセージは、それだけ。
ナマエらしいな。と、久遠は思った。
『行く』
『じゃあ迎えに行く』
『待ってる』
しばらくして、自宅にミョウジが来る。
「よう、久し振りだな」
「ああ、久し振り」
「さっそく行こう」
ミョウジは、久遠の手を引き、バス停を目指した。
バスを乗り継ぎ、ふたりは角島大浜海水浴場へ到着する。
眼前には、美しいコバルトブルーの海と白い砂浜が広がっていた。
潮風が、ふたりの少年を撫でる。
「綺麗だな、海」
「うん」
ミョウジナマエは、久遠渉の手を握り、波打ち際に進んだ。
そして、そのままザブザブと海の中へ入って行く。
「おい、ナマエ?」
「ん?」
「何をするつもりなんだ?」
「心中」
「……ナマエは、まだ終わってないだろ」
久遠は、下を向いて言った。
夢破れたことが辛い。
「お前は終わったのか?」
「終わったよ、もう…………」
「ほんとにそうか?」
ミョウジは、強く久遠の手を引いて進む。
そのまま、膝下が海水に浸かるまで行った。
「……ナマエ」
「どうした?」
「もうやめよう。あとは、俺ひとりで行くから」
「……そうか」
ミョウジは、手を離す。
久遠は、宣言通りにひとりで進んだ。
親友は、そんな彼を見つめている。
そして。とぷんと、久遠の全身が海に呑まれた。
「渉…………」
ミョウジナマエは、走る。水が足を重たくしたが、出来る限り早く久遠渉の元へ向かった。
「渉……!」
「っはァ……!」
ミョウジが海中から久遠を引き上げ、そのまま正面から抱き締める。久遠は、荒く呼吸をした。
死ぬつもりだったのに、久遠の体は生きようとしている。
「死なないでくれ、渉」
「ナマエ……」
ミョウジは、わずかに声を震わせていた。
「
「でも俺は…………」
「私の終わりを見届けてくれ。ロックンロールの果てを見ていてくれ。それまで死ぬんじゃない」
久遠は、ミョウジを抱き締め返す。自分より背が低い親友。筋力も弱い。でも、いつも王様みたいに笑っている男。そのミョウジが、泣きそうな顔をしている。
「分かったよ。俺は、ナマエの終わりを見届ける。だから、泣くなよ」
「泣いてない!」
「……ありがとう、ナマエ」
久遠渉は、親友のために生きることにした。
ロックンロールが死ぬまで。
◆◆◆
歌っている。叫ぶように。
ミョウジナマエは、ロックンロールを奏でていた。
喉を鳴らす。エレキギターを弾く。
幻冬心中研究室は、ライブハウスで思い切りロックンロールをしていた。
ミョウジの親友、久遠渉はそれを観ている。
久遠は、気付いていた。ミョウジが、たったひとりのために歌っていることに。
ミョウジナマエは、久遠渉の心臓にロックを届かせるために、特徴的なしゃがれた声で歌っていた。
爆心地が お前であるように 俺は歌う ロックンロールにゃ果てはない
ミョウジの歌は、生命力に満ちあふれていて、人を“生きる”ことに駆り立てる。
「ナマエ…………」
親友には届かないだろう呟き。
こんな大事な機会に。大切な時期に。俺のために歌っていいのか?
久遠の気持ちをよそに、ミョウジは歌を唄い続け、ギターをかき鳴らしている。
観客たちは、歓声を上げた。
「愛してるぜ!」
ミョウジが、間奏中に叫ぶ。
性別は関係なく、悲鳴のような声が聴こえた。
しかし、その台詞さえ、久遠に向けたものである。
華やかなライブが終わり、ミョウジは打ち上げへ。
久遠は、自宅へと歩いて行く。
道すがら、親友から渡されたものを噛み締める。
無形の芸術。魂のこもったロック。人生の肯定。まるで、応援歌のような。
久遠は、歩きながら涙を流した。
「私は、ずっと渉の味方だ!」という親友の声が聴こえた気がする。
その晩は、久し振りの心地好い疲労感とともに眠りについた。
翌朝。スマートフォンに、ミョウジからのメッセージが届いていた。
『渉ん家に行きたい』
『いいよ』と、返信する。
午後。ミョウジがやって来た。
自室に通し、ベッドに並んで座る。
「どうだった? 昨日のライブは」
「ナマエ……よかったのか? あんな…………」
「いいに決まってるだろ! 渉は、私の親友なんだからな!」
ミョウジは、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、ナマエ。ナマエの歌が、心臓に刺さって抜けないよ」
「そりゃあ、よかった。渉の心臓に届けるために歌ったからな。大成功だ」
「でも、大事なライブだったんじゃないのか?」
「大事な親友のためのライブだ。たったひとりにも届かない音楽なんて、意味ないだろ? 渉に届いたなら、あの場にいたみんなに届いたはずだしな」
久遠は、ミョウジの手を握る。
「……好きだ」
そして、ぽつりと言葉をこぼした。
「うん? どうした? 改まって」
ミョウジは、首を傾げる。
「俺と付き合ってほしい」
「もしかして、私に告白してるのか?」
「そうだよ」
「あははっ! いいぞ。地獄まででもついて来てくれよな!」
久遠渉は、ミョウジナマエの言葉にうなずく。
そして、ミョウジを抱き締めて、「愛してる」と囁いた。
