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自分が死んだことを知っている。
だって、私の世界には暗闇しかないのだから。
青空も爽やかな風も小鳥の鳴き声も咲き誇る花も地面もない。かつては、それらが私の周りには確かにあったのに。
夏の空が好きだった。木漏れ日が好きだった。ソーダ味のアイスが好きだった。
「誰かいないの?」と問いかけても、返事はない。
どこまで歩いても、どこにも着かない。
時間の経過も分からない。
独りきりの暗闇の中。気が狂いそうなほどに退屈。
そんな時間を過ごしている。
ある時、不意に声が聴こえた。
耳をすます。それは、綺麗な歌声だった。
「誰かいるの……?」
「え? 誰?」
少年っぽい声がする。
「私は、ミョウジナマエ」
「……松田爽汰」
声のする方へ進んで行くと、涼しげな髪色の気怠げな男子がいた。
「松田くん、ここがどこか分かる?」
「さあ…………」
「そっかぁ。でも、よかった。他に人がいて」
「ミョウジは何してるの?」
「最近は、自分の髪の毛を数えてた」
「はぁ?」
変人を見る目をしている。
「やることないんだもん! しょうがないじゃん!」
「カワイソ」
「笑うな!」
くすくす笑う松田くんを怒った。
「じゃあ、これからどうする?」
「私とずっと一緒にいてください」
「プロポーズ……?」
「違う! 正確な時間は分からないんだけど、人と会うの久し振りだからさぁ。もう独りになりたくないというか」
「ふーん。ま、いいけど」
「ありがとう!」と言って、彼の手を握る。
私の世界に他人がいることが、本当に嬉しい。
あれ? でも、私が考えてるように、ここが死後の世界なら。松田くんも死んだのかな?
あんまり考えたくない。一旦置いておこう。
「松田くん」
「なに?」
「もっと歌ってよ。君の歌声好きだから」
「すげーストレートに言うじゃん」
松田くんは、照れてるのか照れてないのかよく分からない表情をしている。
人と長いこと接してなかったせいです。
「まあ、別にいーけど」
溜め息混じりにそう言ってから、彼は歌い出した。
どこか物憂げで、透き通った声が響く。
「……いいなぁ」と、私は呟いた。
「ミョウジも歌えば?」
「そうだね。久々に歌おうかな」
暇過ぎて、ひとりで歌いまくっていた時以来だな。
「一緒に歌おうよ」
「なにを?」
「うーん。夕焼け小焼けは?」
「いーよ」
松田くんと私は、ふたりで童謡を歌う。
「楽しい! ね? 松田くん」
歌い終えて隣を見ると、彼はいなくなっていた。
「松田くん?」
しばらく、呼びかけたり、その辺を歩いたりしたけど、誰もいない。
そんな。
神様がいるとしたら、残酷な奴なんだと思う。一瞬希望を持たせてから取り上げるんだもん。
私は、神様を憎む。
でも、また松田くんはやって来た。突然、目の前に現れたのである。
「松田くん!」
「うわ」
私は、思わず彼を抱き締めてしまう。
「ごめん。いきなり消えて」
「ううん。戻って来てくれて嬉しい!」
「そっか」
松田くんは、私の背中を優しく叩いた。
「少し、分かったことがある。この世界は、オレが見てる夢みたいな感じなのかも」
「え!? じゃあ、私は何?!」
「夢の中の人物じゃねーの?」
「いや、そんなワケ……だって、生前の記憶あるし!」
「生前?」
口を滑らせる。しまった。
「ここは、私の死後の世界なのかもって思ってて……」
「ふーん。じゃあ、オレは何?」
「幽霊仲間?」
「死んでネーヨ」
松田くんは、呆れたように言う。
「ミョウジ、死んでんの?」
「記憶が、道を歩いてたとこで途切れてるんだよ」
事故か何かで死んだんじゃないかなぁ?
「つまり、夢の中だとしても死後の世界だとしてもおかしいってワケ?」と、松田くんがまとめた。
「そうなるかな…………」
ふたりでアレコレ話してるうちに、松田くんがピタリと止まる。
「アラームの音がする。もう————」
「松田くん?!」
彼は、まばたきの間に消えてしまった。
松田くんの言う通りなら、目覚ましに起こされたってことだよね。向こうが夜になったら、また会えるんだろうか? 向こうってどこ?
私は、彼が来るまで待つしかない。
そして。
「松田くん!」
「よう」
抱き付こうとする私をひょいと避け、彼は片手を上げて挨拶した。
「よかった。会えたぁ」
「よかったな」
「ちょっと泣きそう」
「泣くなよ……」
面倒そうに言う松田くん。
「うん。なにか歌ってよ」
「やる気なし」
「なんで?!」
「オレ、そういう性格だから」
「じゃあ、私ひとりで歌う」
リカちゃんのポケットを歌い出す私。
「へー。なんか合ってるじゃん、ミョウジに」
歌ってから、「ありがとうございました」と一礼した。パチパチと松田くんが拍手してくれる。
「松田くんは、歌うの好きなの?」
「好きってか、それしかないから」
「そうなの?」
「そーなの」
それから私は、松田くんが来た時を「夜」として過ごすようになった。
ふたりで話したり、たまに歌ったりする日々は楽しくて。私は、それがずっと続けばいいのにと思う。
だけど、そうはならなかった。
「あれ?」
「どした?」
「なんか、聴こえる……」
「ミョウジ……!」
松田くんが伸ばした腕は、私には届かない。
◆◆◆
「ナマエ?」
「母さん……?」
「ナマエ!」
ここは?
白い部屋の白いベッドに寝かされているらしい。
「病院?」
「あなた、交通事故に遭って、ずっと意識不明だったんだよ」
「そう。そうか。あ、松田くんは?」
「誰?」
視界には母さんと看護師さんしかいない。
やがて、医師が来て、私の状態を詳しく話してくれた。
けど、あんまり実感がない。
その後。怪我が治って。リハビリをして。退院するまで時間がかかった。
眠っても、彼とは会えないのが寂しい。
「いってきます」
家族に言ってから、家を出た。
今日から、日常生活が戻って来る。
「ミョウジ」
夏空の下を歩いていると、不意に声をかけられた。
「はい?」
振り返ると、ソーダ色に抱き締められる。
「やっと見付けた……!」
「松田くん!?」
「そーだよ」
私と目を合わせて、彼が少し怒ったように言った。
「探した。ずっと」
「ありがとう。見付けてくれて」
「夢の中でも探したし」
「私も」
松田くんは、私の手を取って、耳元で囁く。
「好きだよ」
だって、私の世界には暗闇しかないのだから。
青空も爽やかな風も小鳥の鳴き声も咲き誇る花も地面もない。かつては、それらが私の周りには確かにあったのに。
夏の空が好きだった。木漏れ日が好きだった。ソーダ味のアイスが好きだった。
「誰かいないの?」と問いかけても、返事はない。
どこまで歩いても、どこにも着かない。
時間の経過も分からない。
独りきりの暗闇の中。気が狂いそうなほどに退屈。
そんな時間を過ごしている。
ある時、不意に声が聴こえた。
耳をすます。それは、綺麗な歌声だった。
「誰かいるの……?」
「え? 誰?」
少年っぽい声がする。
「私は、ミョウジナマエ」
「……松田爽汰」
声のする方へ進んで行くと、涼しげな髪色の気怠げな男子がいた。
「松田くん、ここがどこか分かる?」
「さあ…………」
「そっかぁ。でも、よかった。他に人がいて」
「ミョウジは何してるの?」
「最近は、自分の髪の毛を数えてた」
「はぁ?」
変人を見る目をしている。
「やることないんだもん! しょうがないじゃん!」
「カワイソ」
「笑うな!」
くすくす笑う松田くんを怒った。
「じゃあ、これからどうする?」
「私とずっと一緒にいてください」
「プロポーズ……?」
「違う! 正確な時間は分からないんだけど、人と会うの久し振りだからさぁ。もう独りになりたくないというか」
「ふーん。ま、いいけど」
「ありがとう!」と言って、彼の手を握る。
私の世界に他人がいることが、本当に嬉しい。
あれ? でも、私が考えてるように、ここが死後の世界なら。松田くんも死んだのかな?
あんまり考えたくない。一旦置いておこう。
「松田くん」
「なに?」
「もっと歌ってよ。君の歌声好きだから」
「すげーストレートに言うじゃん」
松田くんは、照れてるのか照れてないのかよく分からない表情をしている。
人と長いこと接してなかったせいです。
「まあ、別にいーけど」
溜め息混じりにそう言ってから、彼は歌い出した。
どこか物憂げで、透き通った声が響く。
「……いいなぁ」と、私は呟いた。
「ミョウジも歌えば?」
「そうだね。久々に歌おうかな」
暇過ぎて、ひとりで歌いまくっていた時以来だな。
「一緒に歌おうよ」
「なにを?」
「うーん。夕焼け小焼けは?」
「いーよ」
松田くんと私は、ふたりで童謡を歌う。
「楽しい! ね? 松田くん」
歌い終えて隣を見ると、彼はいなくなっていた。
「松田くん?」
しばらく、呼びかけたり、その辺を歩いたりしたけど、誰もいない。
そんな。
神様がいるとしたら、残酷な奴なんだと思う。一瞬希望を持たせてから取り上げるんだもん。
私は、神様を憎む。
でも、また松田くんはやって来た。突然、目の前に現れたのである。
「松田くん!」
「うわ」
私は、思わず彼を抱き締めてしまう。
「ごめん。いきなり消えて」
「ううん。戻って来てくれて嬉しい!」
「そっか」
松田くんは、私の背中を優しく叩いた。
「少し、分かったことがある。この世界は、オレが見てる夢みたいな感じなのかも」
「え!? じゃあ、私は何?!」
「夢の中の人物じゃねーの?」
「いや、そんなワケ……だって、生前の記憶あるし!」
「生前?」
口を滑らせる。しまった。
「ここは、私の死後の世界なのかもって思ってて……」
「ふーん。じゃあ、オレは何?」
「幽霊仲間?」
「死んでネーヨ」
松田くんは、呆れたように言う。
「ミョウジ、死んでんの?」
「記憶が、道を歩いてたとこで途切れてるんだよ」
事故か何かで死んだんじゃないかなぁ?
「つまり、夢の中だとしても死後の世界だとしてもおかしいってワケ?」と、松田くんがまとめた。
「そうなるかな…………」
ふたりでアレコレ話してるうちに、松田くんがピタリと止まる。
「アラームの音がする。もう————」
「松田くん?!」
彼は、まばたきの間に消えてしまった。
松田くんの言う通りなら、目覚ましに起こされたってことだよね。向こうが夜になったら、また会えるんだろうか? 向こうってどこ?
私は、彼が来るまで待つしかない。
そして。
「松田くん!」
「よう」
抱き付こうとする私をひょいと避け、彼は片手を上げて挨拶した。
「よかった。会えたぁ」
「よかったな」
「ちょっと泣きそう」
「泣くなよ……」
面倒そうに言う松田くん。
「うん。なにか歌ってよ」
「やる気なし」
「なんで?!」
「オレ、そういう性格だから」
「じゃあ、私ひとりで歌う」
リカちゃんのポケットを歌い出す私。
「へー。なんか合ってるじゃん、ミョウジに」
歌ってから、「ありがとうございました」と一礼した。パチパチと松田くんが拍手してくれる。
「松田くんは、歌うの好きなの?」
「好きってか、それしかないから」
「そうなの?」
「そーなの」
それから私は、松田くんが来た時を「夜」として過ごすようになった。
ふたりで話したり、たまに歌ったりする日々は楽しくて。私は、それがずっと続けばいいのにと思う。
だけど、そうはならなかった。
「あれ?」
「どした?」
「なんか、聴こえる……」
「ミョウジ……!」
松田くんが伸ばした腕は、私には届かない。
◆◆◆
「ナマエ?」
「母さん……?」
「ナマエ!」
ここは?
白い部屋の白いベッドに寝かされているらしい。
「病院?」
「あなた、交通事故に遭って、ずっと意識不明だったんだよ」
「そう。そうか。あ、松田くんは?」
「誰?」
視界には母さんと看護師さんしかいない。
やがて、医師が来て、私の状態を詳しく話してくれた。
けど、あんまり実感がない。
その後。怪我が治って。リハビリをして。退院するまで時間がかかった。
眠っても、彼とは会えないのが寂しい。
「いってきます」
家族に言ってから、家を出た。
今日から、日常生活が戻って来る。
「ミョウジ」
夏空の下を歩いていると、不意に声をかけられた。
「はい?」
振り返ると、ソーダ色に抱き締められる。
「やっと見付けた……!」
「松田くん!?」
「そーだよ」
私と目を合わせて、彼が少し怒ったように言った。
「探した。ずっと」
「ありがとう。見付けてくれて」
「夢の中でも探したし」
「私も」
松田くんは、私の手を取って、耳元で囁く。
「好きだよ」
