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美しく咲き誇る花も、やがては枯れ、塵になる。それは、悲しいことだ。ならば、始めから種など植えなくていい。
男、ナマエ・ミョウジは、古びた屋敷の書斎で、ひとり考える。
ナマエは、20歳の吸血種だ。そして、反出生主義者である。
生は苦しみばかりだから、命など産むべきではない。というのが、彼の主張であり、根幹である。
反出生主義を広めるべく、筆を取り、書を出版して暮らしていた。
また、彼は庭のハーブ園を大切に育て、採集した香草を紙で巻いて吸うのが趣味である。もちろん、合法的なものだ。
生は苦しみ。誕生は悲劇。だから、それを誤魔化すために、アロマを吸う。
しかし、誤魔化せるのは、ほんの一瞬だけ。あとは、ずっと苦痛が続く。
「はぁ…………」と、溜め息ひとつ。
生まれてしまった命の幸福を願うのもまた、男の本心であるが故に、辛酸を舐める日々があった。
その日の晩は、嵐がやってきて、古い屋敷の三ヵ所から雨漏りが。水桶を入れ替え、雨水を捨てる作業を繰り返す。そうしていると、窓の外に人影が見えた気がした。
そして。扉を叩く音がする。
「………」
キィキィ鳴る扉を開くと、ひとりの男がいた。
「こんな夜に、どうしたんだ? とりあえず入れよ」
「ああ。ありがとう」
どこか浮き世離れした男は、ぼそぼそと喋り、ナマエの家に入る。
男は、クラウスと名乗った。旅の途中らしい。
「災難だったな。さあ、暖炉の側へ」
ナマエは、クラウスを案内した。
「俺は、ナマエ。よろしく、クラウス」
「……よろしくお願いします」
ナマエは、清潔な布を渡す。クラウスは、のそのそと体を拭いた。
「なあ、煙たいのは平気か? アロマを吸いたいんだが」
「平気です」
「そうか」
家主の男は、ポケットから紙巻きを取り出し、蝋燭で火を着ける。
「ふぅ。やってられないな、全く」
「何がですか……?」
「生きることさ」
「あなたは、生きるのが嫌なんですか?」
「まあな。両親が勝手に番って俺を産んだんだ。いい迷惑だよ」
そこで、クラウスは気が付いた。ここが書斎であり、書棚には、ナマエ・ミョウジの著書が並んでいることに。どの本も、新たに命を生むべきではないと綴られている。
「厭世家なんですね」
「そうだな。生まれちまったからには、幸せになりたいもんだが」
「……少し、あなたに興味があります」
「ん? なんて?」
クラウスは、懐からナイフを取り出し、手のひらを切った。
「なにしてんだ!? クラウス!」
「…………」
ナマエは驚き、彼の手を取る。すると、みるみる傷が治っていく。
「もし、TRUMPがいたとしたら、あなたはどうしますか?」
「TRUMP? まさか、クラウスが?」
「お伽噺。例え話。もしも話ですよ」
「俺は…………」
ナマエは、クラウスの手を離し、考えた。
「どうして不死を奪った? 花が散らない世界を奪った? 答えてくれ、クラウス…………」
「不死を求める人間との間で争いが起きたからです」
「でも! 花が枯れないなら、俺たちの苦しみの大半は癒えるんだ! それを、どうして……?」
「…………」
「それに、世界にたった独りのあなたを誰が救ってくれるんだ!?」
あまりに残酷じゃないか。
続く台詞は、クラウスには意外なものであった。ナマエは、優しい男だ。
優し過ぎて、吸血種の滅びを願っている彼。しかし、そこにクラウスは入っていなかった。ついさっきまでは。
「クラウス。俺は、あなたの安らかな死を願おう」
いつか、滅びの時を迎える日には、共に逝こう。
叶うはずのない願い。
届かぬものでも、手を伸ばさずにはいられなかった。
男、ナマエ・ミョウジは、古びた屋敷の書斎で、ひとり考える。
ナマエは、20歳の吸血種だ。そして、反出生主義者である。
生は苦しみばかりだから、命など産むべきではない。というのが、彼の主張であり、根幹である。
反出生主義を広めるべく、筆を取り、書を出版して暮らしていた。
また、彼は庭のハーブ園を大切に育て、採集した香草を紙で巻いて吸うのが趣味である。もちろん、合法的なものだ。
生は苦しみ。誕生は悲劇。だから、それを誤魔化すために、アロマを吸う。
しかし、誤魔化せるのは、ほんの一瞬だけ。あとは、ずっと苦痛が続く。
「はぁ…………」と、溜め息ひとつ。
生まれてしまった命の幸福を願うのもまた、男の本心であるが故に、辛酸を舐める日々があった。
その日の晩は、嵐がやってきて、古い屋敷の三ヵ所から雨漏りが。水桶を入れ替え、雨水を捨てる作業を繰り返す。そうしていると、窓の外に人影が見えた気がした。
そして。扉を叩く音がする。
「………」
キィキィ鳴る扉を開くと、ひとりの男がいた。
「こんな夜に、どうしたんだ? とりあえず入れよ」
「ああ。ありがとう」
どこか浮き世離れした男は、ぼそぼそと喋り、ナマエの家に入る。
男は、クラウスと名乗った。旅の途中らしい。
「災難だったな。さあ、暖炉の側へ」
ナマエは、クラウスを案内した。
「俺は、ナマエ。よろしく、クラウス」
「……よろしくお願いします」
ナマエは、清潔な布を渡す。クラウスは、のそのそと体を拭いた。
「なあ、煙たいのは平気か? アロマを吸いたいんだが」
「平気です」
「そうか」
家主の男は、ポケットから紙巻きを取り出し、蝋燭で火を着ける。
「ふぅ。やってられないな、全く」
「何がですか……?」
「生きることさ」
「あなたは、生きるのが嫌なんですか?」
「まあな。両親が勝手に番って俺を産んだんだ。いい迷惑だよ」
そこで、クラウスは気が付いた。ここが書斎であり、書棚には、ナマエ・ミョウジの著書が並んでいることに。どの本も、新たに命を生むべきではないと綴られている。
「厭世家なんですね」
「そうだな。生まれちまったからには、幸せになりたいもんだが」
「……少し、あなたに興味があります」
「ん? なんて?」
クラウスは、懐からナイフを取り出し、手のひらを切った。
「なにしてんだ!? クラウス!」
「…………」
ナマエは驚き、彼の手を取る。すると、みるみる傷が治っていく。
「もし、TRUMPがいたとしたら、あなたはどうしますか?」
「TRUMP? まさか、クラウスが?」
「お伽噺。例え話。もしも話ですよ」
「俺は…………」
ナマエは、クラウスの手を離し、考えた。
「どうして不死を奪った? 花が散らない世界を奪った? 答えてくれ、クラウス…………」
「不死を求める人間との間で争いが起きたからです」
「でも! 花が枯れないなら、俺たちの苦しみの大半は癒えるんだ! それを、どうして……?」
「…………」
「それに、世界にたった独りのあなたを誰が救ってくれるんだ!?」
あまりに残酷じゃないか。
続く台詞は、クラウスには意外なものであった。ナマエは、優しい男だ。
優し過ぎて、吸血種の滅びを願っている彼。しかし、そこにクラウスは入っていなかった。ついさっきまでは。
「クラウス。俺は、あなたの安らかな死を願おう」
いつか、滅びの時を迎える日には、共に逝こう。
叶うはずのない願い。
届かぬものでも、手を伸ばさずにはいられなかった。