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 ひとりの女が、告解室にいた。

「罪を告白なさい」
「はい、神父様」

 女の声は、どこか冷たく、無機質である。

「私は、罪を犯しました。恐ろしいことに、自殺をしたのです」
「した?」
「そして、私の死体を見付けたのは、悪魔でした」
「ま、待ってください。悪魔?」

 女は、神父の制止を無視して、言葉を続けた。

「私は、悪魔に体を取られたのです。私は、ナマエ。透明な存在です」

 言いたいことだけを言い、女は去って行く。
 1987年。ある雷雨の日のことだった。

◆◆◆

「こんにちは、アモルト神父」
「あなたは?」
「うーん。それは良くない質問だわ。とりあえず、ナマエとでも名乗りましょうか」

 女、ナマエは、明朗に話す。

ナマエ、何か困り事でも?」
「そうね。困っているのよ。悪魔を退治して回るのでしょう?」
「何故、そんなことを知っている?」
「私が、悪魔だからかしらね」

 ナマエは、口端を吊り上げて笑った。
 アモルト神父は、すぐさま十字架を女に向ける。

「それをしまいなさい、神父。私は、穏健な悪魔なのだから」
「何が目的だ?」
「あなたの悪魔退治の完遂。それが、私の目的。上級悪魔に使われるのには、うんざりなのよ」
「悪魔の力など借りない」
「あと199体もいる悪魔を退治するのは、骨が折れるわよ。いずれ、私の力が役立つ時が来る。まあ、今日のところは帰るとするわ」

 ナマエと名乗った悪魔は、教会から出て行った。
 少しして、残された神父の元に、別の神父が来る。

「アモルト神父」
「トマース神父、悪魔が来たぞ」
「まさか、そんな……」
ナマエと名乗る悪魔だ。おそらく、人間の死体を着ている」
「おお、主よ…………」

 トマースは、十字を切った。
 ナマエを払ったとしても、肉体は死んでいるから、戻らない。
 故人を悼み、ふたりの神父は祈った。

◆◆◆

 これは、ナマエが自殺する前のこと。
 彼女は、精神病棟の一室にいた。ベッドに座り、鉄格子が嵌められた窓の外を見ている。

「こんにちは、ナマエ
「あ、ああ…………」
「いい加減、慣れなさいよ」
「また、幻覚だわ…………」
「幻でも夢でもないわよ。私、あなたが死なないように見張ってるの」

 ナマエは、黒い靄が発する声に怯えた。

「私たち、友達でしょう? あなたが子供の頃から」
「違う! あなたは、イマジナリーフレンドよ!」
「違う。私は、あなたの親友。天涯孤独なあなたの味方」
「…………」

 ナマエは、唇を噛み締める。

「何よ、あなたにも私は救えないじゃない…………」
ナマエ。あなたは、救われないわ。きっと、あなたは、私がいない時に死んでしまう」
「じゃあ、ほっといてよ!」
「出来ないわ。少しでもあなたの生命を守りたいのよ」

 悪魔は、悲しそうに言った。
 その後。やはり、ナマエは自殺してしまった。
 悪魔は、彼女の親友は、ナマエが天に昇れるようにしたい。
 だから、彼女の死体を使って、善を成そうとしている。
 そのためなら、神父と手を組んだって構わなかった。
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