その他
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小さな頃から、本の虫だった。
両親に買い与えられた絵本たち。アンデルセンにグリム童話に日本昔話。
ミョウジナマエの世界は、それらによって広げられていった。
そして、彼は高校生になり、図書館でバイトをするように。図書委員の仕事がない日は、真面目に働いた。
「ミョウジくん、配架お願い」
「はい」
ミョウジが、本を棚に並べていると、ひとりの高校生男子が近付いて来て、尋ねる。
「バイト?」
「はい」
「オレ、石平紀一。ここでバイトしてる」
「君が、あの石平くん。僕は、ミョウジナマエ。会うのは初めてだね」
ミョウジは、笑顔で自己紹介をした。
「あ、仕事あるから。またね、石平くん」
「おう」
その日は、それだけ話して終わる。
別の日、ふたりは、図書館の利用者同士として再会した。
「よ、ミョウジ」
「こんにちは、石平くん」
「なにか探してんの?」
「うん。ピンときた本を借りようと思って」
「へぇ」
ミョウジは、海外小説の棚を隅から隅まで見ている。
「あ」
彼が手にしたのは、一冊のSF小説。
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?ってさ、パロディは読んだことあるのに、元ネタの原作は読んだことないんだ」
「あー。散々擦られてるやつね」
「これにするよ」
ミョウジは、貸し出しカウンターへ向かう。
借りた本を鞄に入れ、図書館の外に出ると、遅れて石平も来た。
「なあ、少し話さね?」
「いいよ」
外のベンチに並び、ふたりは話始める。
「ミョウジは、なんで図書館でバイトしてんの?」
「本が好きだから」
「みんな、そうなんだなぁ」
「石平くんもだろ?」
「まぁな」
ミョウジと石平は、読んだ小説の話をした。恩讐の彼方にとか、テスカトリポカとか。
話しているうちに分かったのだが、ミョウジは、SFとホラーとミステリが好きらしい。
「オススメのSFって何?」
「天の光はすべて星。名作だよ。読後感が爽やかで好きなんだ」
「なるほどね」
ミョウジの眼鏡の奥の瞳は、キラキラと輝いていた。
「オススメのホラーは?」
「正確には、怪奇小説だけど、江戸川乱歩のパノラマ島奇譚かな」
「ふーん」
メモアプリに、さっきのタイトルと今聞いたタイトルを打ち込む石平。
「じゃあ、最後。ミステリのオススメ!」
「やっぱり、シャーロック・ホームズがいいと思うよ」
「ほー」
石平は、満足げに笑う。
「ありがとな、ミョウジ」
「どういたしまして。オススメを訊かれるのは好きだから、嬉しいよ」
その後は、ミョウジが石平からオススメの本を教えてもらった。
読書家の男子高校生たちの談話は、続く。
◆◆◆
白井里雪は、陽キャが苦手である。
「白井さん、ブッカーかけの手伝いに来ました」
「ああ、ありがとう。ミョウジくん」
キラキラした笑顔で、ミョウジナマエはバイトに勤しむ。
「…………」
ふたりは、静かに、テキパキと蔵書に保護シートを貼った。
そして、休憩時間になり、白井が恐れていた事態が起きる。
「白井さん、最近、面白い本ありました?」
「うん…………」
助かった。本の話だ。
ほっとする白井。
ミョウジは、明朗快活な少年である。話題によっては、少し話が合わない。
例えば、「放課後にクラスメイトとカラオケに行った」とか「男女混合の友達と勉強会をした」とか「女子に告白された」とか。眩しい青春を送っているのが、ありありと分かって、コンプレックスを刺激される。
「そういえば、この前、先生に個人的に小説を貸してもらったんですよ」
「へ、へぇ~」
「火車と青の炎と朗読者」
「宮部みゆき、貴志祐介、ベルンハルト・シュリンクかぁ」
「はい。全部面白かったです」
確か、ミョウジの言う「先生」とは、担任の若い女性教師だったはず。なんのてらいもなく、交流していると話すことに感心した。
「それで、今度は僕が先生に貸そうと思うんですけど、何がいいですかね?」
「事前に、苦手なものを訊いた方がいいんじゃない?」
「なるほど、そうですね。ホラーが平気だといいんですけど」
それなりに平和に休憩を終えて、ふたりは仕事を再開する。
図書館という接点がなければ、絶対に話さないタイプの少年だと、白井は常々思っていた。
◆◆◆
「石平くん、お疲れ様」
「お疲れ、ミョウジ」
「途中まで一緒に行こうよ」
「おう」
バイト終わりに、ミョウジと石平は、並んで歩き出す。
「ちょっと、石平くんに相談があるんだけど」
「相談? オレに?」
「うん。白井さんって、恋人とか好きな人とかいるのかな?」
「えっ!? サァ……」
ミョウジって、白井サンのこと好きなの?
そう疑問が浮かんだ直後に、ミョウジが答えを口にした。
「僕、白井さんのことが好きなんだ」
「へぇ~」
言うんだ。
石平は、素直なミョウジの言葉の続きを待つ。
「だから、付き合いたい」
「おー。スゲーな、ミョウジ」
堂々としたミョウジの台詞を、好ましく思った。
「知ってる? 白井さんって、僕のことが苦手なんだ」
「へっ?」
「なのに、ちゃんと話してくれるから、それが可愛くてさぁ」
眼鏡のレンズの奥の目を細め、頬を赤く染めて、ミョウジは言う。
「お前、結構悪いヤツだな」
「内緒だよ」
人差し指を唇に当てて、ミョウジナマエは微笑んだ。
両親に買い与えられた絵本たち。アンデルセンにグリム童話に日本昔話。
ミョウジナマエの世界は、それらによって広げられていった。
そして、彼は高校生になり、図書館でバイトをするように。図書委員の仕事がない日は、真面目に働いた。
「ミョウジくん、配架お願い」
「はい」
ミョウジが、本を棚に並べていると、ひとりの高校生男子が近付いて来て、尋ねる。
「バイト?」
「はい」
「オレ、石平紀一。ここでバイトしてる」
「君が、あの石平くん。僕は、ミョウジナマエ。会うのは初めてだね」
ミョウジは、笑顔で自己紹介をした。
「あ、仕事あるから。またね、石平くん」
「おう」
その日は、それだけ話して終わる。
別の日、ふたりは、図書館の利用者同士として再会した。
「よ、ミョウジ」
「こんにちは、石平くん」
「なにか探してんの?」
「うん。ピンときた本を借りようと思って」
「へぇ」
ミョウジは、海外小説の棚を隅から隅まで見ている。
「あ」
彼が手にしたのは、一冊のSF小説。
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?ってさ、パロディは読んだことあるのに、元ネタの原作は読んだことないんだ」
「あー。散々擦られてるやつね」
「これにするよ」
ミョウジは、貸し出しカウンターへ向かう。
借りた本を鞄に入れ、図書館の外に出ると、遅れて石平も来た。
「なあ、少し話さね?」
「いいよ」
外のベンチに並び、ふたりは話始める。
「ミョウジは、なんで図書館でバイトしてんの?」
「本が好きだから」
「みんな、そうなんだなぁ」
「石平くんもだろ?」
「まぁな」
ミョウジと石平は、読んだ小説の話をした。恩讐の彼方にとか、テスカトリポカとか。
話しているうちに分かったのだが、ミョウジは、SFとホラーとミステリが好きらしい。
「オススメのSFって何?」
「天の光はすべて星。名作だよ。読後感が爽やかで好きなんだ」
「なるほどね」
ミョウジの眼鏡の奥の瞳は、キラキラと輝いていた。
「オススメのホラーは?」
「正確には、怪奇小説だけど、江戸川乱歩のパノラマ島奇譚かな」
「ふーん」
メモアプリに、さっきのタイトルと今聞いたタイトルを打ち込む石平。
「じゃあ、最後。ミステリのオススメ!」
「やっぱり、シャーロック・ホームズがいいと思うよ」
「ほー」
石平は、満足げに笑う。
「ありがとな、ミョウジ」
「どういたしまして。オススメを訊かれるのは好きだから、嬉しいよ」
その後は、ミョウジが石平からオススメの本を教えてもらった。
読書家の男子高校生たちの談話は、続く。
◆◆◆
白井里雪は、陽キャが苦手である。
「白井さん、ブッカーかけの手伝いに来ました」
「ああ、ありがとう。ミョウジくん」
キラキラした笑顔で、ミョウジナマエはバイトに勤しむ。
「…………」
ふたりは、静かに、テキパキと蔵書に保護シートを貼った。
そして、休憩時間になり、白井が恐れていた事態が起きる。
「白井さん、最近、面白い本ありました?」
「うん…………」
助かった。本の話だ。
ほっとする白井。
ミョウジは、明朗快活な少年である。話題によっては、少し話が合わない。
例えば、「放課後にクラスメイトとカラオケに行った」とか「男女混合の友達と勉強会をした」とか「女子に告白された」とか。眩しい青春を送っているのが、ありありと分かって、コンプレックスを刺激される。
「そういえば、この前、先生に個人的に小説を貸してもらったんですよ」
「へ、へぇ~」
「火車と青の炎と朗読者」
「宮部みゆき、貴志祐介、ベルンハルト・シュリンクかぁ」
「はい。全部面白かったです」
確か、ミョウジの言う「先生」とは、担任の若い女性教師だったはず。なんのてらいもなく、交流していると話すことに感心した。
「それで、今度は僕が先生に貸そうと思うんですけど、何がいいですかね?」
「事前に、苦手なものを訊いた方がいいんじゃない?」
「なるほど、そうですね。ホラーが平気だといいんですけど」
それなりに平和に休憩を終えて、ふたりは仕事を再開する。
図書館という接点がなければ、絶対に話さないタイプの少年だと、白井は常々思っていた。
◆◆◆
「石平くん、お疲れ様」
「お疲れ、ミョウジ」
「途中まで一緒に行こうよ」
「おう」
バイト終わりに、ミョウジと石平は、並んで歩き出す。
「ちょっと、石平くんに相談があるんだけど」
「相談? オレに?」
「うん。白井さんって、恋人とか好きな人とかいるのかな?」
「えっ!? サァ……」
ミョウジって、白井サンのこと好きなの?
そう疑問が浮かんだ直後に、ミョウジが答えを口にした。
「僕、白井さんのことが好きなんだ」
「へぇ~」
言うんだ。
石平は、素直なミョウジの言葉の続きを待つ。
「だから、付き合いたい」
「おー。スゲーな、ミョウジ」
堂々としたミョウジの台詞を、好ましく思った。
「知ってる? 白井さんって、僕のことが苦手なんだ」
「へっ?」
「なのに、ちゃんと話してくれるから、それが可愛くてさぁ」
眼鏡のレンズの奥の目を細め、頬を赤く染めて、ミョウジは言う。
「お前、結構悪いヤツだな」
「内緒だよ」
人差し指を唇に当てて、ミョウジナマエは微笑んだ。