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ヨコハマ・ディビジョンの小さな丘の上に、古い教会がある。
その中では信徒たちが熱心に、美しい神父、ミョウジナマエの説教を聞いている。かのようにみえる。
しかし、その実態は大麻窟だ。ミョウジは、教会の地下にある大麻プラントの管理者であり、提供者である。そして、この大麻中毒者たちが、必ず良い方にトリップするように、違法マイクを使って誘導するのも、ミョウジの役目だ。
「自身を愛す自信がなくても。私を愛せ。私に祈れ。戦死した戦士の逝く場所へ導こう。愚かなる者たちの逝く遥かなる偽りのヴァルハラ」
ミョウジの低くて甘い声が室内に響くと、片手に紙巻きのマリファナを持つ中毒者たちは、天にでも昇るかのような気持ちになり、恍惚の表情で神父を見つめる。
ああ、気持ちいい。自分を崇める眼差しは、いくらあっても困らない。
この安定した仕事に就く前は、警察組織と退っ引きならない状況になったり、「ヤクで近付けるのは天国じゃなくて監獄」と、どこかの警察官に煽られたこともあった。
だが、ミョウジはナルシシストで、かつ犯罪に躊躇がない男である。
そして、ミョウジは、悪運が強い。
数多の逮捕の危機を掻い潜り、今日まで生き延びてきた。
そんなある日の、パチスロ店でのこと。
「神に祈れば、スリーセブンが来ます!」
「その神って?」
「私です!」
その神父、ミョウジナマエは、隣の台で打っている有栖川帝統の疑問に朗々と答えた。
結果は、見事にスリーセブンを出して大勝。
「スゲー! ミョウジさんってマジで勝利の神!?」
「その通りです。寄付金はいつでも受付中ですよ」
「俺、金ないんで、無理っす!」
「じゃあ、情報でも貰おうかな。君の知るディヴィジョン・ラップバトルの優勝候補を教えたまえ」
「そんなんでいいのかよ?」
「ああ、ラップバトルに興味がないせいで疎くてね。教えて貰えると助かるよ」
「まずは、イケブクロ・ディビジョンのバスターブロス」
「ラスタブロス?」
「それじゃレゲエだろ。ブクロ最強の三兄弟なんて言われてんな」
「ふむ」
「次は、ヨコハマ・ディビジョンのマットリ」
「麻取? あ、そこは飛ばしていいよ。私もハマの者だからね」
「オーケー。シンジュク・ディビジョンの麻天狼。ここは、摩天楼シンジュクを取り仕切ってる」
「“麻”天狼なのにキメてないのかなぁ」と、ミョウジは、ぽつりと呟く。
「シブヤ・ディビジョンのフリングポッセ。ここは、俺が所属してる。乱数も幻太郎も面白いやつだ」
「なるほど。情報ありがとう。君に、神からの祝福を授けよう!」
「ええっ!?」
「さあ、打ってごらん!」
「お、おう…………」
パチスロ台を打ち出すと、すぐにフィーバーが起こり、あれよあれよという間にスリーセブンが出た。メダルがざくざく手に入る。
「うっそだろ、オイ!」
「これが神の御業さ!」
なんて嘯くミョウジだが。このように、パチスロ台を思うように操る者のことを、ゴト師という。立派な犯罪行為である。それを、ミョウジは得意満面な笑みで宣う。
「きゅうーっ」と帝統の腹の虫が鳴った。
「お腹空いてるのかい? 今日は日曜日だから、教会でクッキーを配るんだ。手伝ってくれたら食べさせてあげるよ」
「やります!」
お腹をならしながら、無邪気にミョウジの後ろを付いてくる帝統。それを、ニコニコしながら見守る神父。ミョウジの美しさも手伝ってある種の宗教画のようにも見える。
小さな丘の上の古びた教会には、老若男女が集まっていた。
「お待たせしました。今から配りますからね! 全員分ありますから、ご安心を!」
ふたりで、神父手作りのクッキーを配る。帝統は知らないが、クッキーにはマリファナが仕込んであるのだ。CBDグミなんてちゃちなものではない。本物のマリファナだ。
神父は、帝統には普通のクッキーを渡した。まだ、ここまで堕ちてくるには早いと判断したからだ。
「うめぇ! こんなうめぇクッキー初めて食ったぜ、ミョウジさん!」
皆で団欒していると、3人の麻薬取締官がやってきた。
ひとりの麻取がミョウジの元へやってくると、睨み付けながら詰問する。
「また何かいかがわしいモノを配っているのか?」
「やだなぁ、オーガニックでクリーンな物を提供してますよ」
有機栽培マリファナは、ケミカルな覚醒剤よりは健康的です、と胸中呟く。
「ちゃあんと、お友達料払いましたよねぇ?」
麻薬取締官のひとりに耳打ちする。
「チッ。ハイエナが」
ミョウジが差し出した普通のクッキーを受け取り、麻取たちは去って行った。
このような捨て台詞は五万と聞いたが、どれも心に残らないものだ。ハイエナから金をもらっているお前らはなんなんだ? ノミ虫か?
今日は、良い日だ。有栖川帝統という駒が手に入ったから。
しかし、その駒にこの先並々ならぬ執着をすることになることを、ミョウジは知らない。
実は、既に人生の大博打に負けていることを知らない。
有り体に言って、ミョウジは帝統を好きになってしまうのである。
これは、ゲームだ。惚れたら負けという、実に簡単なゲームなのだ。彼らのゲームは、まだ始まったばかりである。
◆◆◆
教会の客室で迎える朝は、心地好いものだった。有栖川帝統は、あくびをしながら、伸びをする。時刻は、朝の8時。礼拝かつミョウジのステージはとっくに終わっている。
朝食は、ミョウジの作ったクロックムッシュであった。
クロックムッシュは、パンにハムとチーズを挟み、バターを塗ったフライパンで軽く焼いたものにベシャメルソースを塗ったものである。
「うめぇ~!」
「おかわりもありますよ」
「くれ!」
「はいはい、慌てずにどうぞ」
和やかな食卓。ひとりきりではない食卓。それは、ふたり共に意味のあるもので。掛け替えのないものである。
始めに、相手に心乱されることに気付いたのは、ミョウジの方だ。ちりちりと、ヘロインを乗せたスプーンをライターで炙るような感覚。心臓部に、そんなものを感じた。
ああ、マズいな。冷静な自分が後ろからミョウジを見ている。
堕ちたのは、自分の方ではないか。
「帝統くん、好きなだけここにいてくれてもいいよ?」
「マジ!? ミョウジさん、料理上手いし、ここのベッドふかふかだし、いつまでもいてぇよ」
そんな会話をしたのが、もう一週間以上も前のことだ。やはり、気ままな野良猫を好きには出来ないらしい。しかし、ミョウジはその方法を知っている。信徒たちと同じようにしてしまえばいいのだ。
紙巻きのマリファナを与え、ミョウジの声によって昇天させる。これで堕ちない者はない。
しかし。
「よっす。ミョウジさん、久し振り!」
「お久し振りです、帝統さん!」
彼が、ひょこっと舞い戻ってきた。それだけで、ミョウジの心中は暖かくなる。ずいぶん汚れている帝統のために風呂を沸かし、髪を洗うことまでしてしまう自分が、新鮮だった。
「髪、洗い終わりましたよ、帝統くん」
「ふわぁっ。わり、完全に寝てたわ」
「いえ、それだけリラックスしていただけたのなら、私も嬉しいですよ」
君に、どこまで関わることを許してくれるのだろう?
食事、睡眠、風呂。その他なんでも、世話してあげたいという気持ちが沸き上がる。
これが、恋というバグか。と冷静な自分が嘲笑っていた。
「帝統くん、好きですよ」
「おう! 俺もミョウジさんのこと好きだぜ!」
満面の笑み。
その好きの隔たり、そのうちに無くしてみせよう。と、ミョウジは神である自身に誓った。
「この私が、君を好きであるという幸せをもっと教え込んで差し上げますからね! 帝統くん!」
神父は右手を胸に、左手を天にかざし、大仰に告白を重ねた。
一方、帝統は、神父に手を出したらツキが落ちるのかなぁ、などと気にしているのであった。
その中では信徒たちが熱心に、美しい神父、ミョウジナマエの説教を聞いている。かのようにみえる。
しかし、その実態は大麻窟だ。ミョウジは、教会の地下にある大麻プラントの管理者であり、提供者である。そして、この大麻中毒者たちが、必ず良い方にトリップするように、違法マイクを使って誘導するのも、ミョウジの役目だ。
「自身を愛す自信がなくても。私を愛せ。私に祈れ。戦死した戦士の逝く場所へ導こう。愚かなる者たちの逝く遥かなる偽りのヴァルハラ」
ミョウジの低くて甘い声が室内に響くと、片手に紙巻きのマリファナを持つ中毒者たちは、天にでも昇るかのような気持ちになり、恍惚の表情で神父を見つめる。
ああ、気持ちいい。自分を崇める眼差しは、いくらあっても困らない。
この安定した仕事に就く前は、警察組織と退っ引きならない状況になったり、「ヤクで近付けるのは天国じゃなくて監獄」と、どこかの警察官に煽られたこともあった。
だが、ミョウジはナルシシストで、かつ犯罪に躊躇がない男である。
そして、ミョウジは、悪運が強い。
数多の逮捕の危機を掻い潜り、今日まで生き延びてきた。
そんなある日の、パチスロ店でのこと。
「神に祈れば、スリーセブンが来ます!」
「その神って?」
「私です!」
その神父、ミョウジナマエは、隣の台で打っている有栖川帝統の疑問に朗々と答えた。
結果は、見事にスリーセブンを出して大勝。
「スゲー! ミョウジさんってマジで勝利の神!?」
「その通りです。寄付金はいつでも受付中ですよ」
「俺、金ないんで、無理っす!」
「じゃあ、情報でも貰おうかな。君の知るディヴィジョン・ラップバトルの優勝候補を教えたまえ」
「そんなんでいいのかよ?」
「ああ、ラップバトルに興味がないせいで疎くてね。教えて貰えると助かるよ」
「まずは、イケブクロ・ディビジョンのバスターブロス」
「ラスタブロス?」
「それじゃレゲエだろ。ブクロ最強の三兄弟なんて言われてんな」
「ふむ」
「次は、ヨコハマ・ディビジョンのマットリ」
「麻取? あ、そこは飛ばしていいよ。私もハマの者だからね」
「オーケー。シンジュク・ディビジョンの麻天狼。ここは、摩天楼シンジュクを取り仕切ってる」
「“麻”天狼なのにキメてないのかなぁ」と、ミョウジは、ぽつりと呟く。
「シブヤ・ディビジョンのフリングポッセ。ここは、俺が所属してる。乱数も幻太郎も面白いやつだ」
「なるほど。情報ありがとう。君に、神からの祝福を授けよう!」
「ええっ!?」
「さあ、打ってごらん!」
「お、おう…………」
パチスロ台を打ち出すと、すぐにフィーバーが起こり、あれよあれよという間にスリーセブンが出た。メダルがざくざく手に入る。
「うっそだろ、オイ!」
「これが神の御業さ!」
なんて嘯くミョウジだが。このように、パチスロ台を思うように操る者のことを、ゴト師という。立派な犯罪行為である。それを、ミョウジは得意満面な笑みで宣う。
「きゅうーっ」と帝統の腹の虫が鳴った。
「お腹空いてるのかい? 今日は日曜日だから、教会でクッキーを配るんだ。手伝ってくれたら食べさせてあげるよ」
「やります!」
お腹をならしながら、無邪気にミョウジの後ろを付いてくる帝統。それを、ニコニコしながら見守る神父。ミョウジの美しさも手伝ってある種の宗教画のようにも見える。
小さな丘の上の古びた教会には、老若男女が集まっていた。
「お待たせしました。今から配りますからね! 全員分ありますから、ご安心を!」
ふたりで、神父手作りのクッキーを配る。帝統は知らないが、クッキーにはマリファナが仕込んであるのだ。CBDグミなんてちゃちなものではない。本物のマリファナだ。
神父は、帝統には普通のクッキーを渡した。まだ、ここまで堕ちてくるには早いと判断したからだ。
「うめぇ! こんなうめぇクッキー初めて食ったぜ、ミョウジさん!」
皆で団欒していると、3人の麻薬取締官がやってきた。
ひとりの麻取がミョウジの元へやってくると、睨み付けながら詰問する。
「また何かいかがわしいモノを配っているのか?」
「やだなぁ、オーガニックでクリーンな物を提供してますよ」
有機栽培マリファナは、ケミカルな覚醒剤よりは健康的です、と胸中呟く。
「ちゃあんと、お友達料払いましたよねぇ?」
麻薬取締官のひとりに耳打ちする。
「チッ。ハイエナが」
ミョウジが差し出した普通のクッキーを受け取り、麻取たちは去って行った。
このような捨て台詞は五万と聞いたが、どれも心に残らないものだ。ハイエナから金をもらっているお前らはなんなんだ? ノミ虫か?
今日は、良い日だ。有栖川帝統という駒が手に入ったから。
しかし、その駒にこの先並々ならぬ執着をすることになることを、ミョウジは知らない。
実は、既に人生の大博打に負けていることを知らない。
有り体に言って、ミョウジは帝統を好きになってしまうのである。
これは、ゲームだ。惚れたら負けという、実に簡単なゲームなのだ。彼らのゲームは、まだ始まったばかりである。
◆◆◆
教会の客室で迎える朝は、心地好いものだった。有栖川帝統は、あくびをしながら、伸びをする。時刻は、朝の8時。礼拝かつミョウジのステージはとっくに終わっている。
朝食は、ミョウジの作ったクロックムッシュであった。
クロックムッシュは、パンにハムとチーズを挟み、バターを塗ったフライパンで軽く焼いたものにベシャメルソースを塗ったものである。
「うめぇ~!」
「おかわりもありますよ」
「くれ!」
「はいはい、慌てずにどうぞ」
和やかな食卓。ひとりきりではない食卓。それは、ふたり共に意味のあるもので。掛け替えのないものである。
始めに、相手に心乱されることに気付いたのは、ミョウジの方だ。ちりちりと、ヘロインを乗せたスプーンをライターで炙るような感覚。心臓部に、そんなものを感じた。
ああ、マズいな。冷静な自分が後ろからミョウジを見ている。
堕ちたのは、自分の方ではないか。
「帝統くん、好きなだけここにいてくれてもいいよ?」
「マジ!? ミョウジさん、料理上手いし、ここのベッドふかふかだし、いつまでもいてぇよ」
そんな会話をしたのが、もう一週間以上も前のことだ。やはり、気ままな野良猫を好きには出来ないらしい。しかし、ミョウジはその方法を知っている。信徒たちと同じようにしてしまえばいいのだ。
紙巻きのマリファナを与え、ミョウジの声によって昇天させる。これで堕ちない者はない。
しかし。
「よっす。ミョウジさん、久し振り!」
「お久し振りです、帝統さん!」
彼が、ひょこっと舞い戻ってきた。それだけで、ミョウジの心中は暖かくなる。ずいぶん汚れている帝統のために風呂を沸かし、髪を洗うことまでしてしまう自分が、新鮮だった。
「髪、洗い終わりましたよ、帝統くん」
「ふわぁっ。わり、完全に寝てたわ」
「いえ、それだけリラックスしていただけたのなら、私も嬉しいですよ」
君に、どこまで関わることを許してくれるのだろう?
食事、睡眠、風呂。その他なんでも、世話してあげたいという気持ちが沸き上がる。
これが、恋というバグか。と冷静な自分が嘲笑っていた。
「帝統くん、好きですよ」
「おう! 俺もミョウジさんのこと好きだぜ!」
満面の笑み。
その好きの隔たり、そのうちに無くしてみせよう。と、ミョウジは神である自身に誓った。
「この私が、君を好きであるという幸せをもっと教え込んで差し上げますからね! 帝統くん!」
神父は右手を胸に、左手を天にかざし、大仰に告白を重ねた。
一方、帝統は、神父に手を出したらツキが落ちるのかなぁ、などと気にしているのであった。