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ミョウジナマエは、おっとりした性格の人間である。そして、記憶力がよかった。
10年前のことを、昨日のことのように思い出せる。
「おおきくなったら、けっこんしてね」
「いいよ」
ナマエが10歳の頃に、4歳の子供とした約束。
あの時もらったチープなおもちゃの指輪を、今でも大切に持っている。
「…………」
君は、もう忘れちゃったかな?
ひとり、頭の中のアルバムをめくりながら、時の流れの早さを思った。
◆◆◆
「にいちゃん!」
「こんにちは、ユースケちゃん」
実家の駄菓子屋の店番をしていると、近所の中学生男子、南波遊助がやって来た。
「勝負しよう! 勝負!」
「いいよ。何にする?」
「ベーゴマ!」
「分かった」
店先に出て、ふたりはコマを構える。
「準備はいい?」
「うん」
「せーの!」
ナマエの掛け声で、同時に土俵にコマを投下した。
くるくると調子よく回る、ふたりのコマ。たまに、ぶつかり、離れては近付いた。
「あーっ!?」
「ふふ。僕の勝ちだね」
「やっぱ、にいちゃんは強いなぁ」
遊助のコマの回転が止まり、勝者はナマエになる。
「昔のおもちゃでは、負けないよ」
「駄菓子屋の息子だもんなぁ」
「今日は、何か買う?」
「オススメは?」
しばし考えるナマエ。
「瓶の水飴かな」
「じゃ、それ買う」
「まいどあり」
小瓶に入った透明な水飴を、付属の小さな匙で掬いながら、遊助は言った。
「にいちゃんは、ずっと変わらないな」
「そうかな?」
「うん。昔から、おれと遊んでくれるし、優しいし」
「あはは。僕は、君が生まれた頃から知ってるからねぇ。弟みたいに思ってるよ」
「そっか」
にっこりと笑う少年を見て、ナマエは微笑む。
「あれ? 南波?」
「あ、コタローちゃん!」
来店した少年を見て、嬉しそうにする遊助。
「え? 南波がナンパしてる?!」
ナマエと遊助は、「ナンパ?」と、声を合わせた。
「僕、ユースケちゃんの友達のミョウジナマエだよ」
「あっ? え? 失礼しました! オレは、河合井コタローです」
「コタローちゃんは、おれの友達だよ」
「よろしくね、コタローちゃん。敬語じゃなくていいよ」
「はい!」
コタローの勢いに、くすくす笑うナマエ。
「コタローちゃん、水飴がオススメだって」
「そうなのか? でも、オレはその……」
「何か目当てのものがあるの?」
ナマエが尋ねると、コタローはゴニョゴニョと口を動かした。
「あの、キュティちゃんのおまけが付いてるやつ…………」
「ああ、新発売のだね。そこにあるよ」
レジの横に並ぶ箱を指す。
「ぜ、全部ください……!」
「まいどあり」
入っているおまけはランダムなので、コタローは張り切って買ったのだった。
「じゃあな、南波」
「またね、コタローちゃん」
コタローを見送り、ナマエは遊助に話しかける。
「ユースケちゃん、今度、モンスーラで勝負しようよ」
「ほんとに?!」
「うん。僕も、地道にカスタムしてるからね」
「やったー! にいちゃん、大好き!」
ベーゴマと比べたら、ナマエのモンスーラの腕は良くない。それでも、年下の友人が喜ぶなら、いくらでも付き合おうと思う。
大学に友達がいないナマエは、遊助のことを、何よりも大切に想っていた。
◆◆◆
これは、10年前の話。
小さな神社の夏祭りでの出来事。
「にいちゃん」
「なあに? ユースケちゃん」
10歳の少年、ミョウジナマエは、はぐれないように手を繋いでいる小さな子供を見た。
4歳の子供、南波遊助は、出店を指差して言う。
「あそこ、いきたい」
「うん」
一緒にそこへ向かった。その出店には、色とりどりのおもちゃのジュエリーが並んでいる。
「めずらしいね、ユースケちゃんが、こういうのが見たいの」
「うん。ちょっとね。にいちゃん、あっちみてて」
「うん?」
「おねがい」
「分かった」
遊助から目を逸らすナマエ。手は繋いだままだが。
「にいちゃん、もういいよ」
「うん」
その後、ふたりで高台に行った。祭りの灯りを見下ろし、綺麗だねと笑い合う。
「にいちゃん、ひだりてだして」
「こう?」
ナマエの手を、小さな手が掴んだ。
そして、薬指に、おもちゃの指輪をはめる。
「おおきくなったら、けっこんしてね」
一瞬驚いたが、ナマエは笑顔で返事をした。
「いいよ」
「やくそく!」
「うん」
ふたりは、仲良く帰路につく。
遊助と繋いだナマエの左手には、おもちゃの指輪が光っていた。
朝。目を覚ます。
昔の夢を見ていた。
ナマエは、しばし、ぼーっとする。
「…………夢」
また、あの日の夢だ。
未練がましくて、おかしくなってしまう。
ナマエの遊助への気持ちは、ずっと曖昧にしている。今の関係性が壊れてしまうのが怖いから。
僕は、ずるい大人になってしまった。
ナマエは、自嘲する。
ベッドから、のそりと起き上がった。身支度をし、朝食にパンを齧り、大学へと向かう。
人文学部のナマエは、読書が好きだ。講義まで、不思議の国のアリスを読み進める。子供の頃から、大好きな物語だ。
アリスモチーフのシールは、ついつい買ってしまう。
「ミョウジ」
「はい」
名前を呼ばれて、本から顔を上げる。
「お前、年下の男と付き合ってるってマジ?」
「……そういう話なら、しない」
「あっそ」
同じ学部の男は、つまらなそうに去って行った。
ホモフォビックなことを言われたら嫌だし、自分の恋愛の話は苦手である。
幼い頃から、同い年の男には「女男」とからかわれ、女には「仲間になりたいの?」と気持ち悪がられた。
君が、僕のいる世界に生まれて来てくれてよかったよ。
ナマエは、遊助のことを、かけがえのない友達だと思っている。
愛しい君よ、健やかに。
10年前のことを、昨日のことのように思い出せる。
「おおきくなったら、けっこんしてね」
「いいよ」
ナマエが10歳の頃に、4歳の子供とした約束。
あの時もらったチープなおもちゃの指輪を、今でも大切に持っている。
「…………」
君は、もう忘れちゃったかな?
ひとり、頭の中のアルバムをめくりながら、時の流れの早さを思った。
◆◆◆
「にいちゃん!」
「こんにちは、ユースケちゃん」
実家の駄菓子屋の店番をしていると、近所の中学生男子、南波遊助がやって来た。
「勝負しよう! 勝負!」
「いいよ。何にする?」
「ベーゴマ!」
「分かった」
店先に出て、ふたりはコマを構える。
「準備はいい?」
「うん」
「せーの!」
ナマエの掛け声で、同時に土俵にコマを投下した。
くるくると調子よく回る、ふたりのコマ。たまに、ぶつかり、離れては近付いた。
「あーっ!?」
「ふふ。僕の勝ちだね」
「やっぱ、にいちゃんは強いなぁ」
遊助のコマの回転が止まり、勝者はナマエになる。
「昔のおもちゃでは、負けないよ」
「駄菓子屋の息子だもんなぁ」
「今日は、何か買う?」
「オススメは?」
しばし考えるナマエ。
「瓶の水飴かな」
「じゃ、それ買う」
「まいどあり」
小瓶に入った透明な水飴を、付属の小さな匙で掬いながら、遊助は言った。
「にいちゃんは、ずっと変わらないな」
「そうかな?」
「うん。昔から、おれと遊んでくれるし、優しいし」
「あはは。僕は、君が生まれた頃から知ってるからねぇ。弟みたいに思ってるよ」
「そっか」
にっこりと笑う少年を見て、ナマエは微笑む。
「あれ? 南波?」
「あ、コタローちゃん!」
来店した少年を見て、嬉しそうにする遊助。
「え? 南波がナンパしてる?!」
ナマエと遊助は、「ナンパ?」と、声を合わせた。
「僕、ユースケちゃんの友達のミョウジナマエだよ」
「あっ? え? 失礼しました! オレは、河合井コタローです」
「コタローちゃんは、おれの友達だよ」
「よろしくね、コタローちゃん。敬語じゃなくていいよ」
「はい!」
コタローの勢いに、くすくす笑うナマエ。
「コタローちゃん、水飴がオススメだって」
「そうなのか? でも、オレはその……」
「何か目当てのものがあるの?」
ナマエが尋ねると、コタローはゴニョゴニョと口を動かした。
「あの、キュティちゃんのおまけが付いてるやつ…………」
「ああ、新発売のだね。そこにあるよ」
レジの横に並ぶ箱を指す。
「ぜ、全部ください……!」
「まいどあり」
入っているおまけはランダムなので、コタローは張り切って買ったのだった。
「じゃあな、南波」
「またね、コタローちゃん」
コタローを見送り、ナマエは遊助に話しかける。
「ユースケちゃん、今度、モンスーラで勝負しようよ」
「ほんとに?!」
「うん。僕も、地道にカスタムしてるからね」
「やったー! にいちゃん、大好き!」
ベーゴマと比べたら、ナマエのモンスーラの腕は良くない。それでも、年下の友人が喜ぶなら、いくらでも付き合おうと思う。
大学に友達がいないナマエは、遊助のことを、何よりも大切に想っていた。
◆◆◆
これは、10年前の話。
小さな神社の夏祭りでの出来事。
「にいちゃん」
「なあに? ユースケちゃん」
10歳の少年、ミョウジナマエは、はぐれないように手を繋いでいる小さな子供を見た。
4歳の子供、南波遊助は、出店を指差して言う。
「あそこ、いきたい」
「うん」
一緒にそこへ向かった。その出店には、色とりどりのおもちゃのジュエリーが並んでいる。
「めずらしいね、ユースケちゃんが、こういうのが見たいの」
「うん。ちょっとね。にいちゃん、あっちみてて」
「うん?」
「おねがい」
「分かった」
遊助から目を逸らすナマエ。手は繋いだままだが。
「にいちゃん、もういいよ」
「うん」
その後、ふたりで高台に行った。祭りの灯りを見下ろし、綺麗だねと笑い合う。
「にいちゃん、ひだりてだして」
「こう?」
ナマエの手を、小さな手が掴んだ。
そして、薬指に、おもちゃの指輪をはめる。
「おおきくなったら、けっこんしてね」
一瞬驚いたが、ナマエは笑顔で返事をした。
「いいよ」
「やくそく!」
「うん」
ふたりは、仲良く帰路につく。
遊助と繋いだナマエの左手には、おもちゃの指輪が光っていた。
朝。目を覚ます。
昔の夢を見ていた。
ナマエは、しばし、ぼーっとする。
「…………夢」
また、あの日の夢だ。
未練がましくて、おかしくなってしまう。
ナマエの遊助への気持ちは、ずっと曖昧にしている。今の関係性が壊れてしまうのが怖いから。
僕は、ずるい大人になってしまった。
ナマエは、自嘲する。
ベッドから、のそりと起き上がった。身支度をし、朝食にパンを齧り、大学へと向かう。
人文学部のナマエは、読書が好きだ。講義まで、不思議の国のアリスを読み進める。子供の頃から、大好きな物語だ。
アリスモチーフのシールは、ついつい買ってしまう。
「ミョウジ」
「はい」
名前を呼ばれて、本から顔を上げる。
「お前、年下の男と付き合ってるってマジ?」
「……そういう話なら、しない」
「あっそ」
同じ学部の男は、つまらなそうに去って行った。
ホモフォビックなことを言われたら嫌だし、自分の恋愛の話は苦手である。
幼い頃から、同い年の男には「女男」とからかわれ、女には「仲間になりたいの?」と気持ち悪がられた。
君が、僕のいる世界に生まれて来てくれてよかったよ。
ナマエは、遊助のことを、かけがえのない友達だと思っている。
愛しい君よ、健やかに。