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「本命に会わせてあげようか?」
艶事の後、丙江さんはそう囁いた。
「なんのこと?」
俺は、とぼける。
哭倉村に商品を卸している業者の男と、龍賀の女。声をかけてきたのは、丙江さんの方。でも、君に会う前から、龍賀の者とは関わりがあったんだ。
「好きなんでしょ? 孝三のこと」
「…………」
あーあ。女ってのは容赦ないな。
「俺は、別に…………」
「嘘つき」
「イカれちまった男に、何を言えってんだよ」
「言葉なんて必要?」
「そりゃあ、そうだろ」
「意気地なし」と、丙江さんの言葉が俺を刺した。
やっと見付けた運命の人だったのに。
まだ髪が黒色だった頃の孝三さんと話したのは、一度で最後。ただ、少し挨拶を交わしただけの間柄。それなのに、俺は彼に恋をしてしまった。
その後、孝三さんは、心を壊したらしい。禁域の島に行ってしまったから。というのは、村の者が噂していた。
「村で聞いたんだ。孝三さんは、この世の者でない奴に懸想してるって」
「あれが? 懸想? そんな可愛いものじゃないわ。取り憑かれているのよ」
それでも、俺は羨ましい。
羨ましい。妬ましい。恨めしい。
「怖い顔」
「…………ごめん」
「会いたいんでしょう?」
「会いたいよ」
「服を着たら、案内してあげる」と、丙江さん。
俺は、躊躇いがちにのろのろと服を着て、彼女の後をついて行った。
「ここにいるの。ずうっと絵を描いてる」
そこは、蔵である。閉じ込められているのか?
丙江さんが、いつの間にか持ち出したのか、鍵を開ける。
「孝三。あんたに会いたい人を連れて来たよ」
「ひ、のえ……ねえ、さん…………」
数年振りに見る彼は、真っ白な髪に痩せぎすな体で。かつての面影は、ほとんど消え去っている。
「孝三さん」
「ひぃっ……!?」
怯えて、紙束を抱き締める孝三さん。
「覚えてないよな。俺は、ミョウジナマエ。一度、話したことがあるんだけどね」
一歩、彼に近付く。
「君を見た時、知ったんだ。自分の運命を。孝三さんは、俺の運命の人なんだよ」
更に、距離を詰めると、彼は後退った。
「愛してるから、俺を選んでよ」
手を伸ばして、骨張った孝三さんの腕を掴む。彼は逃れようとするが、俺の方が力が強い。
「俺を愛してるって言えっ!」
「う……あっ…………」
彼は、怯えるばかりで、意味のある言葉を返してくれない。
「ごめん。いいんだ、別に。最後に、一度だけ…………」
そっと、壊れ物みたいな孝三さんを抱き締めた。
「さよなら、運命の人」
そう囁き、震える体を放す。
丙江さんの元へ戻ると、「もういいの?」と訊かれた。
「いいよ。ありがとう、丙江さん」
「うん」
その後、丙江さんの自室に帰り、ふたりでお茶をする。
「随分、物分かりがいいんだね」
出し抜けに、彼女が口を開いた。
「そういう振りさ。俺は、馬鹿じゃないんだ」
「拐ってしまえばいいじゃない」
「そんなものが見たかったのか?」
「さあね」
丙江さんは、お茶を啜る。
俺が死ぬ時に思い出すのは、龍賀孝三の見たはずがない、その表情だ。
艶事の後、丙江さんはそう囁いた。
「なんのこと?」
俺は、とぼける。
哭倉村に商品を卸している業者の男と、龍賀の女。声をかけてきたのは、丙江さんの方。でも、君に会う前から、龍賀の者とは関わりがあったんだ。
「好きなんでしょ? 孝三のこと」
「…………」
あーあ。女ってのは容赦ないな。
「俺は、別に…………」
「嘘つき」
「イカれちまった男に、何を言えってんだよ」
「言葉なんて必要?」
「そりゃあ、そうだろ」
「意気地なし」と、丙江さんの言葉が俺を刺した。
やっと見付けた運命の人だったのに。
まだ髪が黒色だった頃の孝三さんと話したのは、一度で最後。ただ、少し挨拶を交わしただけの間柄。それなのに、俺は彼に恋をしてしまった。
その後、孝三さんは、心を壊したらしい。禁域の島に行ってしまったから。というのは、村の者が噂していた。
「村で聞いたんだ。孝三さんは、この世の者でない奴に懸想してるって」
「あれが? 懸想? そんな可愛いものじゃないわ。取り憑かれているのよ」
それでも、俺は羨ましい。
羨ましい。妬ましい。恨めしい。
「怖い顔」
「…………ごめん」
「会いたいんでしょう?」
「会いたいよ」
「服を着たら、案内してあげる」と、丙江さん。
俺は、躊躇いがちにのろのろと服を着て、彼女の後をついて行った。
「ここにいるの。ずうっと絵を描いてる」
そこは、蔵である。閉じ込められているのか?
丙江さんが、いつの間にか持ち出したのか、鍵を開ける。
「孝三。あんたに会いたい人を連れて来たよ」
「ひ、のえ……ねえ、さん…………」
数年振りに見る彼は、真っ白な髪に痩せぎすな体で。かつての面影は、ほとんど消え去っている。
「孝三さん」
「ひぃっ……!?」
怯えて、紙束を抱き締める孝三さん。
「覚えてないよな。俺は、ミョウジナマエ。一度、話したことがあるんだけどね」
一歩、彼に近付く。
「君を見た時、知ったんだ。自分の運命を。孝三さんは、俺の運命の人なんだよ」
更に、距離を詰めると、彼は後退った。
「愛してるから、俺を選んでよ」
手を伸ばして、骨張った孝三さんの腕を掴む。彼は逃れようとするが、俺の方が力が強い。
「俺を愛してるって言えっ!」
「う……あっ…………」
彼は、怯えるばかりで、意味のある言葉を返してくれない。
「ごめん。いいんだ、別に。最後に、一度だけ…………」
そっと、壊れ物みたいな孝三さんを抱き締めた。
「さよなら、運命の人」
そう囁き、震える体を放す。
丙江さんの元へ戻ると、「もういいの?」と訊かれた。
「いいよ。ありがとう、丙江さん」
「うん」
その後、丙江さんの自室に帰り、ふたりでお茶をする。
「随分、物分かりがいいんだね」
出し抜けに、彼女が口を開いた。
「そういう振りさ。俺は、馬鹿じゃないんだ」
「拐ってしまえばいいじゃない」
「そんなものが見たかったのか?」
「さあね」
丙江さんは、お茶を啜る。
俺が死ぬ時に思い出すのは、龍賀孝三の見たはずがない、その表情だ。
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