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視力が悪くなるにつれて、逆に見えてきたものがある。それは、幽霊や妖怪といった類いのもの。
「こんにちは、水木さん」
「ああ、こんにちは」
会えば、挨拶を交わしたり、世間話をする隣人。ついでに、うちの煙草屋の常連。水木さんは、そういう存在だ。
最近、髪が真っ白になった彼。得体の知れない赤子を抱いていた。
見えるんですよ、あなたの後ろに。兵隊の幽霊が。
病気してたから、戦争には行かず仕舞いでしてね。僕ぁ、幸運でしたよ。なんて、心の中で言った。
「あれ? ミョウジさん、煙草は?」
「禁煙中なんで、代わりの飴です」
棒付き飴を見せる。
「なんでまた?」
「女が嫌がるんですよ。でも、家が煙草屋じゃあね。焼け石に水です」
「なるほど…………」
「んなことより、その子、一体全体どっから来たんです?」
水木さんは、少し躊躇して、「墓からですよ」と苦笑いした。
僕には、なんとなく察しがつく。
「お名前は?」
「鬼太郎です。鬼と書きます」
「鬼太郎くん、ですか」
この子は、おそらく人間じゃない。
「なんかあったら、言ってくださいよ。歳の離れた弟がいたもんで、赤子の扱いには慣れてんです」
「ありがとうございます」
手を軽く振り、水木さんと別れた。
大丈夫かね? あの人。
数日後。煙草屋の軒先に、鬼太郎くんを抱えた水木さんが来た。
「ミョウジさん」
「はい」
「少しの間、鬼太郎を見ていてくれませんか?」
「いいですよ」
「助かります」
水木さんは、ひとつの鞄をこちらに寄越す。面倒を見るための一式が入ってるようだ。
僕は、鬼太郎くんを抱きかかえて、奥にある座布団の上に寝かせる。
「夜には戻ります」
「はい。いってらっしゃい」
「いってきます」
水木さんを見送り、店番をしながら、鬼太郎くんをあやした。
「いい子、いい子。鬼太郎くん、父ちゃんと母ちゃんは、どうしたんだい?」
「あー……」
小さな手が、伸ばした僕の指先を掴む。
「ま、関係ねぇや。水木さんは、常連さんだからなぁ」
「う!」
「ん?」
ふと、振り返ると、ふたつの影が見えた。これを僕は、“思念体”と呼んでいる。
「これはこれは。僕は、ミョウジナマエってもんです」
鬼太郎くんの両親だろう、白髪の男性と綺麗な女性が佇んでいた。
「心配しねぇでもいいですよ。僕ぁ、善良でもねぇけど、悪人じゃあない」
そう言うと、ふたりは微笑み、消える。
向き直ると、鬼太郎くんがグズついていた。
「どれ。高い高ーい」
そんな風に面倒を見ながら、夜を待つ。
西日が店に差し始め、カラスが鳴いた。
鬼太郎くんは、眠っている。あどけない寝姿に、頬が緩む。頭を撫でて、横に寝転んだ。
微睡みの中で、今は亡き弟に会う。
「兄ちゃん」
「よう、どうした?」
「泣かないで」
「バカ言え、泣いてなんか…………」
目覚めると、やっぱり泣いてなんかいなかった。だけど。
「バレてんのか?」
弟は、戦争に行って死んだ。悲しくて、涙も出なかったよ。
「ミョウジさん」
水木さんの声が聴こえた。
「裏ぁ、回ってください。茶淹れますよ」
「ありがとうございます」
彼を家に上げて、緑茶と茶菓子を出す。
「鬼太郎は、どうでした?」
「いい子でしたよ」
「そうですか。鬼太郎の両親は、その…………」
「ああ、詮索する気はないです。僕も、あなたに隠してることがありますから」
「……はい」
ふたりが帰るのを見送り、僕は、一息ついた。
「傷があっても、生きていけるさ」
「こんにちは、水木さん」
「ああ、こんにちは」
会えば、挨拶を交わしたり、世間話をする隣人。ついでに、うちの煙草屋の常連。水木さんは、そういう存在だ。
最近、髪が真っ白になった彼。得体の知れない赤子を抱いていた。
見えるんですよ、あなたの後ろに。兵隊の幽霊が。
病気してたから、戦争には行かず仕舞いでしてね。僕ぁ、幸運でしたよ。なんて、心の中で言った。
「あれ? ミョウジさん、煙草は?」
「禁煙中なんで、代わりの飴です」
棒付き飴を見せる。
「なんでまた?」
「女が嫌がるんですよ。でも、家が煙草屋じゃあね。焼け石に水です」
「なるほど…………」
「んなことより、その子、一体全体どっから来たんです?」
水木さんは、少し躊躇して、「墓からですよ」と苦笑いした。
僕には、なんとなく察しがつく。
「お名前は?」
「鬼太郎です。鬼と書きます」
「鬼太郎くん、ですか」
この子は、おそらく人間じゃない。
「なんかあったら、言ってくださいよ。歳の離れた弟がいたもんで、赤子の扱いには慣れてんです」
「ありがとうございます」
手を軽く振り、水木さんと別れた。
大丈夫かね? あの人。
数日後。煙草屋の軒先に、鬼太郎くんを抱えた水木さんが来た。
「ミョウジさん」
「はい」
「少しの間、鬼太郎を見ていてくれませんか?」
「いいですよ」
「助かります」
水木さんは、ひとつの鞄をこちらに寄越す。面倒を見るための一式が入ってるようだ。
僕は、鬼太郎くんを抱きかかえて、奥にある座布団の上に寝かせる。
「夜には戻ります」
「はい。いってらっしゃい」
「いってきます」
水木さんを見送り、店番をしながら、鬼太郎くんをあやした。
「いい子、いい子。鬼太郎くん、父ちゃんと母ちゃんは、どうしたんだい?」
「あー……」
小さな手が、伸ばした僕の指先を掴む。
「ま、関係ねぇや。水木さんは、常連さんだからなぁ」
「う!」
「ん?」
ふと、振り返ると、ふたつの影が見えた。これを僕は、“思念体”と呼んでいる。
「これはこれは。僕は、ミョウジナマエってもんです」
鬼太郎くんの両親だろう、白髪の男性と綺麗な女性が佇んでいた。
「心配しねぇでもいいですよ。僕ぁ、善良でもねぇけど、悪人じゃあない」
そう言うと、ふたりは微笑み、消える。
向き直ると、鬼太郎くんがグズついていた。
「どれ。高い高ーい」
そんな風に面倒を見ながら、夜を待つ。
西日が店に差し始め、カラスが鳴いた。
鬼太郎くんは、眠っている。あどけない寝姿に、頬が緩む。頭を撫でて、横に寝転んだ。
微睡みの中で、今は亡き弟に会う。
「兄ちゃん」
「よう、どうした?」
「泣かないで」
「バカ言え、泣いてなんか…………」
目覚めると、やっぱり泣いてなんかいなかった。だけど。
「バレてんのか?」
弟は、戦争に行って死んだ。悲しくて、涙も出なかったよ。
「ミョウジさん」
水木さんの声が聴こえた。
「裏ぁ、回ってください。茶淹れますよ」
「ありがとうございます」
彼を家に上げて、緑茶と茶菓子を出す。
「鬼太郎は、どうでした?」
「いい子でしたよ」
「そうですか。鬼太郎の両親は、その…………」
「ああ、詮索する気はないです。僕も、あなたに隠してることがありますから」
「……はい」
ふたりが帰るのを見送り、僕は、一息ついた。
「傷があっても、生きていけるさ」