「お前は、いつも……」
「はい。そうですね」

　スパンダム様の小言を聞き流す。
　今なら、“出来る”なぁ。昔からの悪い癖が疼く。

「とにかく、もっとおれを敬え！　いいな、ナマエ」
「善処します」

　ワタクシは、そう返事をした。
　スパンダム様が去った後、ローブの袖の中から、スった財布を取り出す。
　中身を確認し、また袖の中に隠した。
　さて、出かけますか。
　目指すは、高級レストラン。
　こそこそと瞬間移動マジックを使いながら、目的地に到着した。
　何を食べましょうかね。

「一番高いコース料理をお願いします」
「かしこまりました」

　ほどなくして、前菜が運ばれてくる。

「いただきます」

　酸味のある野菜が美味しい。
　ワタクシは、嫌いな食べ物はありませんので。
　好き嫌いを言えるような立場ではなかったから。
　続いて、スープがきた。とろりとした、ポタージュだ。
　そして、ワタクシが好きな魚料理がくる。焼き魚が一番好きだが、特別こだわりはない。煮魚を、美味しくいただく。
　次に、口直しの季節のフルーツの味のシャーベットが届いた。
　昔の自分では、とても食べられないものだ。
　その後は、肉料理。牛肉のステーキ。
　文句なしに美味しい。
　デザートは、生クリームたっぷりのケーキだった。
　幸せって、こういうことかも。
　最後は、コーヒーで締め。
　香りのよい飲み物は好きだ。

「ご馳走さまでした」

　スパンダム様の金で会計を済ませ、レストランを後にする。
　その足で、賭場に向かった。
　狙うのは、カードゲーム。ワタクシ、イカサマが得意でして。
　結果は、大勝ち。スった時より、財布の中身が増えた。
　そろそろ、帰りましょう。

「ナマエ！　おれの財布知らねぇか？！」
「“また”落ちていましたよ」

　しれっと嘘をつき、財布を返す。

「中身抜いてねぇだろうな？」
「増やしておきました」
「は？」

　しばし、沈黙。

「ナマエ、賭博したのか？！」
「勝てる賭けでしたので」
「お前～！」
「では、失礼しますね」

　指先を自分に向け、瞬間移動マジックを使う。
「ナマエ！」と叫ぶ声が遠退いた。
　自室に戻ると、安心する。
　ワタクシの居場所。世界に、たったひとつだけの。
　ゴミ山にいた頃とは違う。ワタクシは、見付けてもらえたから。
　それはそれとして、侮られたら仕返しはする。たとえ、恩人であろうとも。
　他人の金で食べる料理が一番美味しい。
　他人の金を賭けるギャンブルが一番楽しい。
　なあに、勝てばいいのですよ、勝てば。
　やはり、最後に笑うのは、ワタクシでないと。