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世界を滅ぼそうとするのは、いつだって科学者だ。
奴ら、すぐ世界滅亡か人類救済を望んでの殺戮を起こすからな。
あの謎の巨大生物の背後に、科学者がいるのは明白だ。ああ、一体何をどうしたのか知りたい。
どうせなら、世界は私が滅ぼしたかった。
私は散々「危険思想」だと言われてきたが、思想に危険もクソもあるか。思想警察か貴様。思想・内心の自由は保障されているだろう。
あの男、なんていったかなぁ。理研で特別研究員してた頃に会った、あの男。
なんか、ややこしい名前だったはず。なんとか彦(本当はもっと難しい漢字)。
とにかく、あの男は私をロマンチストだと評したが、その通り。私はロマンチストなだけなのだ。未知なる世界を理解し尽くし、一番面白い世界の破壊の仕方も知りたい。
そもそも私が生物屋になったのは、子供の頃に、マッドサイエンティストという性質を与えられたキャラクターに憧れたからである訳で。
私なら、もっと明るく景気よく、60億ぐらい殺すね。
Make Room! スペースを空けろ!
そうすると世界人口は、1800年辺りと同じ10億人! 世界は今より広大だ!
ああ、地球で生きるのって素晴らしい。
だが今や、我が居城は倒壊し、体は瓦礫に圧迫され、呼吸も儘ならない。
それに火事か何かのせいか、熱い。「火炎滅菌」という一発ギャグをするなら今!
というか、死ぬのか私は。死ぬのか、この私が。
まだ悪いことしてないんだがな!
むしろ、この入り組んだ建物に誰も残っていないことを確認していたのだから、私は善人だろう。まだ。
慣れないことをするもんじゃない。
倒壊は例の巨大生物、ゴジラによるものではあるだろうが、私には何が起きたのか、さっぱり。眼鏡が吹っ飛んだおかげで、視界は不明瞭で、首を動かしてみても無駄だ。避難誘導をしていた警察・消防・自衛隊も、この惨事に巻き込まれたのなら、救助は当分望めないだろう。
いつぞやにラットを逃がそうとしてくれた、混入した雑菌のような連中。あの過激な動物愛護団体でもいいから、私を助けてくれよ。ヒトも動物だぞ。私を愛護しろよ。
愛玩動物以外は歯牙にもかけないよな! 知ってる知ってる!
動物愛護を騙るロビイスト、私が生還した暁には、貴様らの家の庭にミントとドクダミとワルナスビを植えてやるからな。地獄のクソ緑に震えろ。匂いとか害虫とかトゲとか食えない実とかで苦しめ。
いや本音を言えば、あの圧力団体を全員、オートクレーブ滅菌したい。圧力だけに!
圧力団体は圧力釜へ! これは大笑いが取れるネタを思い付いたな。生還したら発表しよう。
いや! それより研究を発表させてくれ! 他の生物屋は、どうだか知らないが、私は教科書とか科学誌とかに載りたいんだよ!
でも、せっかくだし、このネタを発表……する相手がいない?!
私の同僚たちはユーモアを解さない。両親は何年も前に死んでいるし、親戚連中とは縁が切れている。恋人はいないし、もちろん子供もいない。
友人は…………今、気付いたが、友人もひとりもいないぞ! 人生があまりにも楽しかったから気付かなかった!
私のハートが工業用ダイヤモンドだったばっかりに! 今、とてもテキトーなことを言った。
しかし、孤独で悲しいという気持ちが1ミリリットルも無いのも確かだ。計量するにはマイクロピペッターが要るぞ!
ああ、いよいよ思考が困難になってきた。おのれ、一酸化炭素。
意識を手放すとマズそうだから、益体もないことを考え続けていたのだが。
仕方ない。最後に何かに祈っておこう。
私が死にませんように!
ここでミョウジナマエの人生が終わると困るよ! 私が!
それに、私が丹精を込めて育ててきた庭の植物も困るだろう。私の死は世界の損失どころか、その逆だろうが、そんなこと知るか。
それから、あの男、えーと…………分からん!
あの男が死にませんように! 友人候補だからな。
それから―――――――――― 。
◆◆◆
目覚めると、私は病院の重症者個室にいた。急性一酸化炭素中毒のせいで集中治療室を経由したとか。
看護師が言うには、私が死にかけたのは東京の一部が火の海になったせいらしい。ドゥームズデー・カルトが大はしゃぎだな。被害額は一体、何兆円だ?
そして私が寝ている間に、首相の臨時代理が立てられたりゴジラが凍結したり、色々あったようだ。
「ゴジラの細胞欲しいな」
「今なんて?」
「いや、別に何も」
「そういえば、何日か前に、ご友人から連絡があったそうですよ」
「友人?」
同僚ではなく? それとも、実は私に友人がいたのか?
「確か、安田さんだったかしら」
誰だ、それは。
スマホのアドレス帳に名前があるかもしれないと考えたのだが、肝心のスマホを紛失していた。
それからは色々と手続きしたり、会社に連絡したり、病室を移したりと忙しくした。
なくしたスマホは同僚が拾っており、手元に戻ってきたので、アドレス帳を見ることにする。
「お?」
アドレス帳を見るまでもなかった。安田という人物からの着信履歴が残っている。11月8日に、一度。
登録名は「安田」。他に情報は入っていない。
こんなことで脳を使いたくない! さっそく電話しよう!
個室だから移動の手間がない。個室最高。
時刻は13時頃。誰か思い出せないが、たぶん昼休みとかあるだろ。
『はい』
すぐに、男が電話に出た。聞き覚えのある声だ。
『……ミョウジさん?』
ふと、脳裏に呆れたような顔の男が浮かんだ。
“ミョウジさんってロマンチストですよね”
「ああ、君が安田くんね!」
ということは、安田なんとかヒコだな。
『相変わらず、人の名前覚えてないんですか』
「ヒコのインパクトが強過ぎて、他の情報が薄れるんだよ! ごめんね! でも、君の名前は結構覚えてる方だよ。あと、脳組織に損傷を受けた後遺症で、ちょっと記憶障害がね~」
『後遺症、あるんですか……?』
「今のところ無いかな!」
真剣な声で訊かれたので、正直に答えてしまった。
ものによっては何十年も後に発症することもあるそうだが。
「それにしても久しぶりだな。元気? あと、今ヒマかい?」
『まあまあ元気で、まあまあヒマですよ』
「で、どんな科学者なんだ? 君なら何か知ってるだろ? アレは悪の科学者の仕業?」
『さあ、どうなんでしょう。暗号化されたゴジラの資料を残していたことから、色々推察できますけど』
「裁判官タイプの悪の科学者か?」
『その悪の科学者っての、言ってて恥ずかしくないですか?』
「いいや、全く」
『そーですか』
言外から、「こういう人だったな」という思いが伝わってくる。
『一般企業にいても、その調子のままで大丈夫なんですか?』
「大丈夫じゃないな。職場なら潰れたよ。物理的に」
私も、まあまあ潰れた。
「という訳で理研で働きたい!」
『どういう訳ですか…………今、研究職は光量子工学の募集しかありません』
「遺伝学・発生学・生物工学・進化系統学は?!」
『だから、ありませんって』
「寄附金出すから!」
『寄附者特典以上のものは得られませんよ』
「ゴジラ研究してるとこに招聘してほしいな~」
『それは所属長に相談してください。というか、何をしたいんです?』
「そりゃあ、もちろん、楽しいことだよ。私の細胞とか、植物の細胞とかと混ぜて、新たに怪物・怪人を造るとかね」
『うわっ……ろくでもない……』
これぐらいでは、工業用ダイヤモンドは傷付かないぞ。
『それ、他の人の前で言ったら、ぶん殴られますよ』
また、真剣みのある声だ。
私に、ごく普通の忠告をする人間は珍しい。珍種。
「言わないよ。それに――」
『それに、あなたは悪いことはしませんよね。結果的には、ですけど。知ってます』
彼は一度、溜め息を吐いてから続ける。
『ミョウジさん、研究の動機はロクでもないですけど、人の役に立つ研究成果を上げますからね。結果的には』
「私は、一番面白い世界の滅ぼし方を探しているからね」
『あなたは、全ての方法を知った上で一番を決めたいんですよね? それって無理なんじゃないですか?』
「ふはは。君は、私がそれを成し遂げられないよう、震えながら祈るがいい」
私は、過去に鏡の前で練習して極めた不敵な笑みで答えた。まあ、彼には見えないのだが。
「今の、悪者っぽかっただろう?」
『ロマンチストっぽいですね』
「ところで、君って私の友人だったのかい?」
『それ、なんていうか、とっさに口から出てしまったので……わざわざ言い直すのも面倒で……』
「あーそう」
そんなことかーい! 別に傷付かないけど、がっかりだよ、がっかり。
『すいません、ちょっと、もう切らなきゃ……』
「分かった。じゃあ、また今度」
『はい。それじゃあ、また』
通話を終えてから、訊き忘れたことがあるのに気付いた。
安田くんは何故、私に連絡をしてきたのか。謎だ。
その謎については、また今度でいいか。
彼のフルネームを思い出したのでアドレス帳に入力し、メモ欄には「リアリスト」と入れておくことにする。
2017/08/31
奴ら、すぐ世界滅亡か人類救済を望んでの殺戮を起こすからな。
あの謎の巨大生物の背後に、科学者がいるのは明白だ。ああ、一体何をどうしたのか知りたい。
どうせなら、世界は私が滅ぼしたかった。
私は散々「危険思想」だと言われてきたが、思想に危険もクソもあるか。思想警察か貴様。思想・内心の自由は保障されているだろう。
あの男、なんていったかなぁ。理研で特別研究員してた頃に会った、あの男。
なんか、ややこしい名前だったはず。なんとか彦(本当はもっと難しい漢字)。
とにかく、あの男は私をロマンチストだと評したが、その通り。私はロマンチストなだけなのだ。未知なる世界を理解し尽くし、一番面白い世界の破壊の仕方も知りたい。
そもそも私が生物屋になったのは、子供の頃に、マッドサイエンティストという性質を与えられたキャラクターに憧れたからである訳で。
私なら、もっと明るく景気よく、60億ぐらい殺すね。
Make Room! スペースを空けろ!
そうすると世界人口は、1800年辺りと同じ10億人! 世界は今より広大だ!
ああ、地球で生きるのって素晴らしい。
だが今や、我が居城は倒壊し、体は瓦礫に圧迫され、呼吸も儘ならない。
それに火事か何かのせいか、熱い。「火炎滅菌」という一発ギャグをするなら今!
というか、死ぬのか私は。死ぬのか、この私が。
まだ悪いことしてないんだがな!
むしろ、この入り組んだ建物に誰も残っていないことを確認していたのだから、私は善人だろう。まだ。
慣れないことをするもんじゃない。
倒壊は例の巨大生物、ゴジラによるものではあるだろうが、私には何が起きたのか、さっぱり。眼鏡が吹っ飛んだおかげで、視界は不明瞭で、首を動かしてみても無駄だ。避難誘導をしていた警察・消防・自衛隊も、この惨事に巻き込まれたのなら、救助は当分望めないだろう。
いつぞやにラットを逃がそうとしてくれた、混入した雑菌のような連中。あの過激な動物愛護団体でもいいから、私を助けてくれよ。ヒトも動物だぞ。私を愛護しろよ。
愛玩動物以外は歯牙にもかけないよな! 知ってる知ってる!
動物愛護を騙るロビイスト、私が生還した暁には、貴様らの家の庭にミントとドクダミとワルナスビを植えてやるからな。地獄のクソ緑に震えろ。匂いとか害虫とかトゲとか食えない実とかで苦しめ。
いや本音を言えば、あの圧力団体を全員、オートクレーブ滅菌したい。圧力だけに!
圧力団体は圧力釜へ! これは大笑いが取れるネタを思い付いたな。生還したら発表しよう。
いや! それより研究を発表させてくれ! 他の生物屋は、どうだか知らないが、私は教科書とか科学誌とかに載りたいんだよ!
でも、せっかくだし、このネタを発表……する相手がいない?!
私の同僚たちはユーモアを解さない。両親は何年も前に死んでいるし、親戚連中とは縁が切れている。恋人はいないし、もちろん子供もいない。
友人は…………今、気付いたが、友人もひとりもいないぞ! 人生があまりにも楽しかったから気付かなかった!
私のハートが工業用ダイヤモンドだったばっかりに! 今、とてもテキトーなことを言った。
しかし、孤独で悲しいという気持ちが1ミリリットルも無いのも確かだ。計量するにはマイクロピペッターが要るぞ!
ああ、いよいよ思考が困難になってきた。おのれ、一酸化炭素。
意識を手放すとマズそうだから、益体もないことを考え続けていたのだが。
仕方ない。最後に何かに祈っておこう。
私が死にませんように!
ここでミョウジナマエの人生が終わると困るよ! 私が!
それに、私が丹精を込めて育ててきた庭の植物も困るだろう。私の死は世界の損失どころか、その逆だろうが、そんなこと知るか。
それから、あの男、えーと…………分からん!
あの男が死にませんように! 友人候補だからな。
それから―――――――――― 。
◆◆◆
目覚めると、私は病院の重症者個室にいた。急性一酸化炭素中毒のせいで集中治療室を経由したとか。
看護師が言うには、私が死にかけたのは東京の一部が火の海になったせいらしい。ドゥームズデー・カルトが大はしゃぎだな。被害額は一体、何兆円だ?
そして私が寝ている間に、首相の臨時代理が立てられたりゴジラが凍結したり、色々あったようだ。
「ゴジラの細胞欲しいな」
「今なんて?」
「いや、別に何も」
「そういえば、何日か前に、ご友人から連絡があったそうですよ」
「友人?」
同僚ではなく? それとも、実は私に友人がいたのか?
「確か、安田さんだったかしら」
誰だ、それは。
スマホのアドレス帳に名前があるかもしれないと考えたのだが、肝心のスマホを紛失していた。
それからは色々と手続きしたり、会社に連絡したり、病室を移したりと忙しくした。
なくしたスマホは同僚が拾っており、手元に戻ってきたので、アドレス帳を見ることにする。
「お?」
アドレス帳を見るまでもなかった。安田という人物からの着信履歴が残っている。11月8日に、一度。
登録名は「安田」。他に情報は入っていない。
こんなことで脳を使いたくない! さっそく電話しよう!
個室だから移動の手間がない。個室最高。
時刻は13時頃。誰か思い出せないが、たぶん昼休みとかあるだろ。
『はい』
すぐに、男が電話に出た。聞き覚えのある声だ。
『……ミョウジさん?』
ふと、脳裏に呆れたような顔の男が浮かんだ。
“ミョウジさんってロマンチストですよね”
「ああ、君が安田くんね!」
ということは、安田なんとかヒコだな。
『相変わらず、人の名前覚えてないんですか』
「ヒコのインパクトが強過ぎて、他の情報が薄れるんだよ! ごめんね! でも、君の名前は結構覚えてる方だよ。あと、脳組織に損傷を受けた後遺症で、ちょっと記憶障害がね~」
『後遺症、あるんですか……?』
「今のところ無いかな!」
真剣な声で訊かれたので、正直に答えてしまった。
ものによっては何十年も後に発症することもあるそうだが。
「それにしても久しぶりだな。元気? あと、今ヒマかい?」
『まあまあ元気で、まあまあヒマですよ』
「で、どんな科学者なんだ? 君なら何か知ってるだろ? アレは悪の科学者の仕業?」
『さあ、どうなんでしょう。暗号化されたゴジラの資料を残していたことから、色々推察できますけど』
「裁判官タイプの悪の科学者か?」
『その悪の科学者っての、言ってて恥ずかしくないですか?』
「いいや、全く」
『そーですか』
言外から、「こういう人だったな」という思いが伝わってくる。
『一般企業にいても、その調子のままで大丈夫なんですか?』
「大丈夫じゃないな。職場なら潰れたよ。物理的に」
私も、まあまあ潰れた。
「という訳で理研で働きたい!」
『どういう訳ですか…………今、研究職は光量子工学の募集しかありません』
「遺伝学・発生学・生物工学・進化系統学は?!」
『だから、ありませんって』
「寄附金出すから!」
『寄附者特典以上のものは得られませんよ』
「ゴジラ研究してるとこに招聘してほしいな~」
『それは所属長に相談してください。というか、何をしたいんです?』
「そりゃあ、もちろん、楽しいことだよ。私の細胞とか、植物の細胞とかと混ぜて、新たに怪物・怪人を造るとかね」
『うわっ……ろくでもない……』
これぐらいでは、工業用ダイヤモンドは傷付かないぞ。
『それ、他の人の前で言ったら、ぶん殴られますよ』
また、真剣みのある声だ。
私に、ごく普通の忠告をする人間は珍しい。珍種。
「言わないよ。それに――」
『それに、あなたは悪いことはしませんよね。結果的には、ですけど。知ってます』
彼は一度、溜め息を吐いてから続ける。
『ミョウジさん、研究の動機はロクでもないですけど、人の役に立つ研究成果を上げますからね。結果的には』
「私は、一番面白い世界の滅ぼし方を探しているからね」
『あなたは、全ての方法を知った上で一番を決めたいんですよね? それって無理なんじゃないですか?』
「ふはは。君は、私がそれを成し遂げられないよう、震えながら祈るがいい」
私は、過去に鏡の前で練習して極めた不敵な笑みで答えた。まあ、彼には見えないのだが。
「今の、悪者っぽかっただろう?」
『ロマンチストっぽいですね』
「ところで、君って私の友人だったのかい?」
『それ、なんていうか、とっさに口から出てしまったので……わざわざ言い直すのも面倒で……』
「あーそう」
そんなことかーい! 別に傷付かないけど、がっかりだよ、がっかり。
『すいません、ちょっと、もう切らなきゃ……』
「分かった。じゃあ、また今度」
『はい。それじゃあ、また』
通話を終えてから、訊き忘れたことがあるのに気付いた。
安田くんは何故、私に連絡をしてきたのか。謎だ。
その謎については、また今度でいいか。
彼のフルネームを思い出したのでアドレス帳に入力し、メモ欄には「リアリスト」と入れておくことにする。
2017/08/31