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ああ、儚いこの想いよ。記憶よ。思い出よ。
出来ることなら、全てを永遠の中に閉じ込めておきたい。
それらを標本のように、頭の中の棚に並べられたなら、私は幸福になれるだろう。
◆◆◆
家には、悪夢を絡め取ってくれる、クモの巣型の魔除けはない。
そのことを、度々思い知る。
少し前に、知己である男、ビーヴァーが死んだ。詳しいことは分からない。
それだけではない。彼と仲が良かった、ピートとダディッツも死んだらしい。
たった何十年かばかりの短い人生。されど、何十年もある長い人生。まさか、こんなに早く彼らと別れることになるとは思っていなかった。
そのような出来事があったからだろうか、私は彼らが見たこともない化物に襲われて死ぬ悪夢を頻繁に夢に見るようになったのである。
私は、すっかり不眠症になってしまった。
眠れない夜夜中には、ベッドの中で少年時代を思い出す。
彼、ビーヴァーとは、いつもふたりきりで話をしていた。いつもの仲良しグループのメンバーではない私にだからこそ言えることを相談されたり、くだらないジョークを言い合ったり。そんな、友人関係だった。
ある日、彼が「好きな人がいる」と言い出した。
「へぇ、誰なんだ?」
当時の私は、遠慮なしに尋ねる。
ビーヴァーの答えは「言えない」だった。
「なんだよ、それ」
私は少し怒ったように言い返す。
なんでも、それはそれは複雑な事情があるらしい。その事情のことも、好きな相手が誰なのかも、私には分からず終いだ。しかし、恋をしている彼の姿は私には羨ましく映り、印象深いこととして記憶に新しい。
思い出は、うつくしい。そして、残酷だ。
私は今さら、彼に恋をしていたことに気が付いたのである。もう、あの頃には戻れないというのに。
恋は、気付いた時には過去のものとなり、その命を散らした。
ビーヴァーが私に、うつくしき青い入江の歌を唄ってくれたことがある。
ブルー・バイユー。郷愁を唄う曲。
恋い焦がれている人に聴かせたら、彼を好きになるのではないかと思うくらいに綺麗で透き通る歌声だった。
この素晴らしい思い出も、今の私の思いも、いずれは霧がかる景色のように薄れてしまうのだろうか?
やるせなさが募る。どうしようもないことに腹が立つ。普通の人間である以上、仕方のないことだが。
ふいに寒気を感じて、私はぶるりと震えた。
いつの間にか、外は雨になっている。冬の夜の雨は、私の暗い気持ちに優しく寄り添ってくれている。
その音に耳を傾けているうちに、私は穏やかな眠りへと落ちていった。
翌朝、窓の外のクモの巣が、雨の雫でうつくしく飾られていて。空は青く澄んでいて。私は、気持ちの良い朝を迎えられた。
今日は、悪夢を見なかった。
出来ることなら、全てを永遠の中に閉じ込めておきたい。
それらを標本のように、頭の中の棚に並べられたなら、私は幸福になれるだろう。
◆◆◆
家には、悪夢を絡め取ってくれる、クモの巣型の魔除けはない。
そのことを、度々思い知る。
少し前に、知己である男、ビーヴァーが死んだ。詳しいことは分からない。
それだけではない。彼と仲が良かった、ピートとダディッツも死んだらしい。
たった何十年かばかりの短い人生。されど、何十年もある長い人生。まさか、こんなに早く彼らと別れることになるとは思っていなかった。
そのような出来事があったからだろうか、私は彼らが見たこともない化物に襲われて死ぬ悪夢を頻繁に夢に見るようになったのである。
私は、すっかり不眠症になってしまった。
眠れない夜夜中には、ベッドの中で少年時代を思い出す。
彼、ビーヴァーとは、いつもふたりきりで話をしていた。いつもの仲良しグループのメンバーではない私にだからこそ言えることを相談されたり、くだらないジョークを言い合ったり。そんな、友人関係だった。
ある日、彼が「好きな人がいる」と言い出した。
「へぇ、誰なんだ?」
当時の私は、遠慮なしに尋ねる。
ビーヴァーの答えは「言えない」だった。
「なんだよ、それ」
私は少し怒ったように言い返す。
なんでも、それはそれは複雑な事情があるらしい。その事情のことも、好きな相手が誰なのかも、私には分からず終いだ。しかし、恋をしている彼の姿は私には羨ましく映り、印象深いこととして記憶に新しい。
思い出は、うつくしい。そして、残酷だ。
私は今さら、彼に恋をしていたことに気が付いたのである。もう、あの頃には戻れないというのに。
恋は、気付いた時には過去のものとなり、その命を散らした。
ビーヴァーが私に、うつくしき青い入江の歌を唄ってくれたことがある。
ブルー・バイユー。郷愁を唄う曲。
恋い焦がれている人に聴かせたら、彼を好きになるのではないかと思うくらいに綺麗で透き通る歌声だった。
この素晴らしい思い出も、今の私の思いも、いずれは霧がかる景色のように薄れてしまうのだろうか?
やるせなさが募る。どうしようもないことに腹が立つ。普通の人間である以上、仕方のないことだが。
ふいに寒気を感じて、私はぶるりと震えた。
いつの間にか、外は雨になっている。冬の夜の雨は、私の暗い気持ちに優しく寄り添ってくれている。
その音に耳を傾けているうちに、私は穏やかな眠りへと落ちていった。
翌朝、窓の外のクモの巣が、雨の雫でうつくしく飾られていて。空は青く澄んでいて。私は、気持ちの良い朝を迎えられた。
今日は、悪夢を見なかった。