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幼い頃、オーストリアに引っ越して行った友人が、杜王町に帰って来た。
岸辺露伴は、うずうずしている。友人、ミョウジナマエに会えるからだ。彼とは、ずっと文通していたが、やはり実際に“見て”、“話して”、“確かめたい”のである。
彼は、オーストリアでピアニストになった。ピアニストとして歩む人生。その、生の“体験”を知りたい。
待ち合わせ時刻丁度、ナマエの家の前に着く。インターホンを押すと、ショパンの「雨だれ」が流れた。
『はい』
「岸辺露伴だ」
『露伴くん、いらっしゃい。今、開けるよ』
足音が近付き、ドアが開く。
「久し振りだね、露伴くん」
「ああ、そうだな。ナマエくん」
ふたりは、お互いの姿を本当に久し振りに見たし、肉声を聴いた。文字でのみ繋がる関係を、ふたりは好んでいたからである。
「さあ、入って。リビングで話そう」
「邪魔するよ」
ナマエの家の中は、シンプルで、ミニマルだ。ただ、リビングにある白色のグランドピアノだけが、異彩を放っている。
なるほど。“そういう”大人になったんだな、君は。
露伴は、ナマエと、内装を観察する。
黒色の髪。柔和な笑み。決して派手ではない、落ち着いた服装。左足を、ほんの少し引きずって歩いている。
寒色で揃えられた家具。本棚には、楽譜本がたくさん。子供向けの教本から、高難易度な曲のものまで。ピアノには、譜面が置かれている。おそらく、先ほどまで弾いていた。
「いい茶葉があるんだ。紅茶は飲めるよね?」
「ああ」
「ソファーにかけて待っていてくれ」
キッチンへ向かうナマエ。やはり、左足を少し引きずっている。
窓の外には、庭がある。綺麗に剪定され、整えられた木薔薇の色は、白色。彼は、たぶん、白色が好き。
数分後、ナマエは、トレイにティーポットとティーカップを乗せて、戻って来た。
「お待たせ。ドイツのロンネフェルトのアイリッシュモルトだよ。私は、これでロイヤルミルクティーを作るのが好きでね。今は、あいにく、ミルクがないけど。どうぞ」
「いただくよ」
甘い香り。一口飲む。ウイスキーとカカオと、なんらかの香料。
ティーセットは、オーストリアのアウガルテンのもの。白磁に、ピンク色の花が描かれている。
「どうかな? 露伴くん」
「美味しいね。ロイヤルミルクティーは、また今度の楽しみにしとくよ」
「よかった。ああ、そうしてほしい」
「ところで、ナマエくん」
「なんだい?」
「左足、どうかしたのかい? 引きずっているようだけど。手紙には、足のことは何も書いていなかったじゃあないか」
「ああ、これか。いや、こんな場で話すようなことじゃあないんだ。いずれ、機会があったら話すよ」
「そうかい」
一呼吸置いて。
「ヘブンズ・ドアー」
露伴にスタンド能力を行使され、ぱたりと、ナマエはソファーに倒れた。
「その機会っての、永遠に来ないんじゃあないか? ナマエくん」
立ち上がり、本のように開かれた男に近付く。顔の部分のページを手に取ると、中は楽譜になっていた。五線譜の上に、小さく歌詞のように、ミョウジナマエの体験が書かれている。だいたいは、手紙の内容と、観察の答え合わせだった。
しかし、ページをめくっていくと。
「なんだ? このページは?」
そのページに文字はなく、楽譜のみがある。白い紙の上に、血のように赤い五線譜と音楽記号が踊っていた。
「君は、やはり面白いッ! なんだこれはッ!」
露伴は、確信する。これこそが、彼の秘密。先ほど濁された、左足を引きずる理由。
「簡単な曲だ。ぼくにも弾けそうだぞ。ピアノ、少し借りるよ」
グランドピアノの前に座る。そして、あのメロディーを奏でた。
「なんと言うか、普通の曲だ。別に、恐怖を煽られたり、特別感激もしない。漫画で言うところの、余白みたいな……」
そう考えた次の瞬間、声がする。男とも女ともつかない、声。
『残りを払う気になったか? ナマエ』
「だ、誰だッ?!」
『忘れた振りとは、稚拙だな。定命の者よ』
「なんだ、お前はッ?! どこにいるッ?!」
『つべこべ言わずに対価を払え、ナマエ』
「対価とはなんだッ?!」
『さあ、左足の次は、右足か? 手は最後にしてくれと言っていたなぁ? こちらとしては、両腕でも構わないが』
「なんの話をしているッ?!」
『ははは。そうか、そうか。そういう態度なら、そうだな。右手にしよう』
「なにぃッ!?」
露伴の右手が、麻痺した。動かそうとしても、指先が、わずかに痙攣するだけ。
「こいつ! こいつは、ヤバいッ!」
何か。何かあるはずだ。こいつを帰らせる方法が!
露伴は、ナマエの元へ行き、左手でページをめくる。
【私は、音楽のためなら、悪魔に魂を売ったっていい】
【至上の音楽を、その旋律を奏でるためなら、なんでもする】
【だから、私は、◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️と契約した】
「悪魔、だと?」
こいつは、悪魔なのか? ナマエくんは、悪魔と契約して、何かを差し出した?
【冗談じゃない。両腕は、ダメだ。それだけはいけない。私は、とりあえず左足分だけにしてくれと言った】
【笑い声がする。ああ、急性虫垂炎になっていなければ、あるいは……】
そうか! そういうことか!
「分かった。謝ろう。だから、右手は返してほしい。そして、代わりに、盲腸を差し出すッ!」
『ははっ。いいだろう、右手は返す。その、盲腸とやら、もらっていくぞ』
しん、と静まり返った部屋。
「悪魔……だったのか……?」
◆◆◆
「それにしても、露伴くんは凄いね。漫画、ずっと面白いよ」
「ありがとう。ぼくは、君の演奏を聴かせてほしい」
「ああ、いいとも。お互い、手の怪我には気を付けなくてはね」
「そうだな。手は、大事だ」
ミョウジナマエの奏でるピアノの旋律は、どこまでも美しく、心を揺さぶられるものだった。
岸辺露伴は、うずうずしている。友人、ミョウジナマエに会えるからだ。彼とは、ずっと文通していたが、やはり実際に“見て”、“話して”、“確かめたい”のである。
彼は、オーストリアでピアニストになった。ピアニストとして歩む人生。その、生の“体験”を知りたい。
待ち合わせ時刻丁度、ナマエの家の前に着く。インターホンを押すと、ショパンの「雨だれ」が流れた。
『はい』
「岸辺露伴だ」
『露伴くん、いらっしゃい。今、開けるよ』
足音が近付き、ドアが開く。
「久し振りだね、露伴くん」
「ああ、そうだな。ナマエくん」
ふたりは、お互いの姿を本当に久し振りに見たし、肉声を聴いた。文字でのみ繋がる関係を、ふたりは好んでいたからである。
「さあ、入って。リビングで話そう」
「邪魔するよ」
ナマエの家の中は、シンプルで、ミニマルだ。ただ、リビングにある白色のグランドピアノだけが、異彩を放っている。
なるほど。“そういう”大人になったんだな、君は。
露伴は、ナマエと、内装を観察する。
黒色の髪。柔和な笑み。決して派手ではない、落ち着いた服装。左足を、ほんの少し引きずって歩いている。
寒色で揃えられた家具。本棚には、楽譜本がたくさん。子供向けの教本から、高難易度な曲のものまで。ピアノには、譜面が置かれている。おそらく、先ほどまで弾いていた。
「いい茶葉があるんだ。紅茶は飲めるよね?」
「ああ」
「ソファーにかけて待っていてくれ」
キッチンへ向かうナマエ。やはり、左足を少し引きずっている。
窓の外には、庭がある。綺麗に剪定され、整えられた木薔薇の色は、白色。彼は、たぶん、白色が好き。
数分後、ナマエは、トレイにティーポットとティーカップを乗せて、戻って来た。
「お待たせ。ドイツのロンネフェルトのアイリッシュモルトだよ。私は、これでロイヤルミルクティーを作るのが好きでね。今は、あいにく、ミルクがないけど。どうぞ」
「いただくよ」
甘い香り。一口飲む。ウイスキーとカカオと、なんらかの香料。
ティーセットは、オーストリアのアウガルテンのもの。白磁に、ピンク色の花が描かれている。
「どうかな? 露伴くん」
「美味しいね。ロイヤルミルクティーは、また今度の楽しみにしとくよ」
「よかった。ああ、そうしてほしい」
「ところで、ナマエくん」
「なんだい?」
「左足、どうかしたのかい? 引きずっているようだけど。手紙には、足のことは何も書いていなかったじゃあないか」
「ああ、これか。いや、こんな場で話すようなことじゃあないんだ。いずれ、機会があったら話すよ」
「そうかい」
一呼吸置いて。
「ヘブンズ・ドアー」
露伴にスタンド能力を行使され、ぱたりと、ナマエはソファーに倒れた。
「その機会っての、永遠に来ないんじゃあないか? ナマエくん」
立ち上がり、本のように開かれた男に近付く。顔の部分のページを手に取ると、中は楽譜になっていた。五線譜の上に、小さく歌詞のように、ミョウジナマエの体験が書かれている。だいたいは、手紙の内容と、観察の答え合わせだった。
しかし、ページをめくっていくと。
「なんだ? このページは?」
そのページに文字はなく、楽譜のみがある。白い紙の上に、血のように赤い五線譜と音楽記号が踊っていた。
「君は、やはり面白いッ! なんだこれはッ!」
露伴は、確信する。これこそが、彼の秘密。先ほど濁された、左足を引きずる理由。
「簡単な曲だ。ぼくにも弾けそうだぞ。ピアノ、少し借りるよ」
グランドピアノの前に座る。そして、あのメロディーを奏でた。
「なんと言うか、普通の曲だ。別に、恐怖を煽られたり、特別感激もしない。漫画で言うところの、余白みたいな……」
そう考えた次の瞬間、声がする。男とも女ともつかない、声。
『残りを払う気になったか? ナマエ』
「だ、誰だッ?!」
『忘れた振りとは、稚拙だな。定命の者よ』
「なんだ、お前はッ?! どこにいるッ?!」
『つべこべ言わずに対価を払え、ナマエ』
「対価とはなんだッ?!」
『さあ、左足の次は、右足か? 手は最後にしてくれと言っていたなぁ? こちらとしては、両腕でも構わないが』
「なんの話をしているッ?!」
『ははは。そうか、そうか。そういう態度なら、そうだな。右手にしよう』
「なにぃッ!?」
露伴の右手が、麻痺した。動かそうとしても、指先が、わずかに痙攣するだけ。
「こいつ! こいつは、ヤバいッ!」
何か。何かあるはずだ。こいつを帰らせる方法が!
露伴は、ナマエの元へ行き、左手でページをめくる。
【私は、音楽のためなら、悪魔に魂を売ったっていい】
【至上の音楽を、その旋律を奏でるためなら、なんでもする】
【だから、私は、◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️と契約した】
「悪魔、だと?」
こいつは、悪魔なのか? ナマエくんは、悪魔と契約して、何かを差し出した?
【冗談じゃない。両腕は、ダメだ。それだけはいけない。私は、とりあえず左足分だけにしてくれと言った】
【笑い声がする。ああ、急性虫垂炎になっていなければ、あるいは……】
そうか! そういうことか!
「分かった。謝ろう。だから、右手は返してほしい。そして、代わりに、盲腸を差し出すッ!」
『ははっ。いいだろう、右手は返す。その、盲腸とやら、もらっていくぞ』
しん、と静まり返った部屋。
「悪魔……だったのか……?」
◆◆◆
「それにしても、露伴くんは凄いね。漫画、ずっと面白いよ」
「ありがとう。ぼくは、君の演奏を聴かせてほしい」
「ああ、いいとも。お互い、手の怪我には気を付けなくてはね」
「そうだな。手は、大事だ」
ミョウジナマエの奏でるピアノの旋律は、どこまでも美しく、心を揺さぶられるものだった。