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一橋綾人は、生真面目であり、めちゃくちゃおもしれー男である。
精神科医の彼は、ミョウジナマエの同僚で友人だ。
あと、ふたりとも読書家で、意外とシュミが合う。
「ドラえもんのどこでもドアってあるじゃないですか」
休憩時間に、俺が話しかける。
「はい」
「どこでもドアが空間転移だとして、のび太が分子レベルで分解されてから任意の場所に再構成されるとします」
「ふむふむ」
「その時、のび太の連続性は途切れていて」
「おっと、不穏になりましたね」
一橋先生は、顎に手をやった。
「実は、のび太は死んでるんですよ。どこでもドアを使う度に死んで、再構成された新しいのび太が“のび太”をやっている一方で、死んだ無数ののび太が、それを恨めしく見ているとしたら、どうしますか?」
「ミョウジ先生らしい疑問ですね。あなたの好きなSFであり、ホラーであり、哲学的です。面白い」
「ははは、どうも」
俺は、軽く頭を下げる。
それから、手の中の紙コップから緑茶を飲んだ。小さな水面が揺れている。
「つまり、元々ののび太は死んでおり、我々が“のび太”だと思っているのはそっくりさんみたいなものということですよね?」
「はい。怖い話ですよ、これは。最新ののび太は気付けないんですからね、そのことに」
「ふむ。スワンプマン的な話ですね。人間の定義とは? 個の連続性とは? ミョウジ先生の論で言うと、それはつまり……」
俺は、口端を吊り上げた。
「気付きました? 人は眠る度に、意識の連続性が途切れているんですよね」
「はい。眠る前の自分と、起きた後の自分の同一性にも疑いが出ます」
「眠りは“死”のメタファーとも言いますね。不思議の国のアリスしかり」
アリスは、俺の大好きな物語である。幼い頃から親しんできた。
「私の前にいるミョウジ先生は、昨日と同じミョウジ先生なのか? 正直、分かりませんね。少なくとも、記憶は連続しているように見えます」
「なるほど」
「ですから、あなたが今日、私とラーメン屋に行くことになっているのは真実なんですよ。覚えてますよね?」
「そりゃあ、まあ……」
「その約束を真実としていただけるなら、私は、目の前にいるミョウジ先生のことを友人のミョウジナマエだと認識します」
一橋先生は、かすかに笑う。
「のび太の話から脱線してしまいましたね。すいません」
「いや、いいんですよ。ただの暇潰しですから。ラーメン屋、楽しみにしてます」
「ふふ。あなたは、いつも塩バターラーメンを頼むミョウジ先生ですか?」
「はい。そのミョウジナマエでございます」
ふたりの白衣の男は、顔を見合わせて声を上げて笑った。
日々は過ぎていく。それは、連続しているように感じる。まあ、それでいいんだろう。
今の俺は、そう思った。
精神科医の彼は、ミョウジナマエの同僚で友人だ。
あと、ふたりとも読書家で、意外とシュミが合う。
「ドラえもんのどこでもドアってあるじゃないですか」
休憩時間に、俺が話しかける。
「はい」
「どこでもドアが空間転移だとして、のび太が分子レベルで分解されてから任意の場所に再構成されるとします」
「ふむふむ」
「その時、のび太の連続性は途切れていて」
「おっと、不穏になりましたね」
一橋先生は、顎に手をやった。
「実は、のび太は死んでるんですよ。どこでもドアを使う度に死んで、再構成された新しいのび太が“のび太”をやっている一方で、死んだ無数ののび太が、それを恨めしく見ているとしたら、どうしますか?」
「ミョウジ先生らしい疑問ですね。あなたの好きなSFであり、ホラーであり、哲学的です。面白い」
「ははは、どうも」
俺は、軽く頭を下げる。
それから、手の中の紙コップから緑茶を飲んだ。小さな水面が揺れている。
「つまり、元々ののび太は死んでおり、我々が“のび太”だと思っているのはそっくりさんみたいなものということですよね?」
「はい。怖い話ですよ、これは。最新ののび太は気付けないんですからね、そのことに」
「ふむ。スワンプマン的な話ですね。人間の定義とは? 個の連続性とは? ミョウジ先生の論で言うと、それはつまり……」
俺は、口端を吊り上げた。
「気付きました? 人は眠る度に、意識の連続性が途切れているんですよね」
「はい。眠る前の自分と、起きた後の自分の同一性にも疑いが出ます」
「眠りは“死”のメタファーとも言いますね。不思議の国のアリスしかり」
アリスは、俺の大好きな物語である。幼い頃から親しんできた。
「私の前にいるミョウジ先生は、昨日と同じミョウジ先生なのか? 正直、分かりませんね。少なくとも、記憶は連続しているように見えます」
「なるほど」
「ですから、あなたが今日、私とラーメン屋に行くことになっているのは真実なんですよ。覚えてますよね?」
「そりゃあ、まあ……」
「その約束を真実としていただけるなら、私は、目の前にいるミョウジ先生のことを友人のミョウジナマエだと認識します」
一橋先生は、かすかに笑う。
「のび太の話から脱線してしまいましたね。すいません」
「いや、いいんですよ。ただの暇潰しですから。ラーメン屋、楽しみにしてます」
「ふふ。あなたは、いつも塩バターラーメンを頼むミョウジ先生ですか?」
「はい。そのミョウジナマエでございます」
ふたりの白衣の男は、顔を見合わせて声を上げて笑った。
日々は過ぎていく。それは、連続しているように感じる。まあ、それでいいんだろう。
今の俺は、そう思った。
