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大学の喫煙室に、明るい髪色に丸眼鏡のチャラそうな男がいた。マルボロを吸っている。
「あー。すんません、火、いいすか? ライター忘れてきて……」
「ん? おお」
マルボロさんは、俺の煙草に火を着けてくれた。ありがてぇ。
「あざーっす」
「メビウス?」
「そっす」
俺の愛煙してるのは、メビウス・ワン・100’s・スリム・ボックス。スタンダードで、クセがない煙草だ。名前にスリムと付く通り、箱が薄くて持ち運びやすい。
「学部は?」
「人文学部っす。うだつが上がらなさそうでしょ? たぶん、ポスドク行きっすわ」
「もう墓見てんの? 何年? 俺、4年。教育学部」
「堅実そう~。自分は3年っすよ」
「ウケるな」
「ウケないでくださいよ」
マルボロさんは、笑ってる。
就職のこと、考えたくねぇなぁ。マジでポスドク行きかもしんねぇ。
「あ、草太!」
喫煙室の前を、長髪のイケメンが通った。ソウタさんを追いかけ、マルボロさんは足早に去って行く。
「あー、名前、聞きそびれた…………」
また会えるかな?
◆◆◆
「こんちゃーっす、マルボロさん」
「よう、メビウス」
ノリがいいな。
マルボロさんと喫煙室で会うのは、2日振りだ。
「名前、教えてくださいよ」
「芹澤朋也」
「ミョウジナマエっす。よろしくっす」
「はいはい、よろしく」
テキトー。なんか、悲しい。
マルボロさん、改め、セリザワさんは、ふんふんとハミングを始めた。
「夏色のナンシーっすか」
「お? 分かる? いいよな、懐メロ」
「いや、自分が好きなのは、アイドルソングっすねぇ」
「ドルオタ?」
「そこまでじゃないっすよ」
「へぇ」
なんだそのニヤニヤ笑いは。俺は、本当にそこまでじゃない。アイドルソングを、広く浅く好きなだけだ。オタクと名乗れるほどじゃない。
「好きな松田聖子は?」
「渚のバルコニー」
「好きなピンク・レディーは?」
「サウスポー」
「やるじゃん」
何が? セリザワさんは、楽しそうにしている。
「ナマエはさ、友達ってなんだと思う?」
「えぇ? 自分、哲学取ってないっすよ」
っていうか、名前呼び!
「いいから、答えろよ」
「友達ってのは、楽しさや苦しさを分かち合える人? っすかねぇ」
「…………なるほどな」
「なんすか?」
「ナマエ、今日から俺と友達な」
「えー」
「嫌なのかよ?」
「嫌じゃないっすけど」
その後、連絡先を交換した。
芹澤朋也さんが、何を思ったのか知らないけど、頻繁に俺にメッセージを飛ばしてくる。
そんな日々を、俺は好きになっていく。
『クソ』
『草太が消えた』
『さがしにいく』
ある日、こんなメッセージがきて。それから、プツリと連絡がなくなった。
勘弁してくださいよ。
それじゃあ、俺は、どうしたらいいんだよ? あんたのことを、捜しに行ったらいいのか?
ねぇ、芹澤さん。俺、あんたのこと好きみたいなんだけど。どうしたらいい?
◆◆◆
『あのバカ見付けた』
『これから帰る』
芹澤さんから、メッセージがきた。よかった。
『よかったっす』
『気を付けて』
返信する。
「はぁ…………」
芹澤さん。あんた、酷い人だよ。草太さんのためなら、どこまでも行ってしまう。友達だから。
俺だったら、どうなんすか? どこへ行っても、迎えに来てくれますか?
“よう、ナマエ。迎えに来てやったぞ”
こんな風に、俺にも手を差し伸べてくれますか?
もう、ダメなんだよ。あんたじゃなきゃ。
ひとり、喫煙室で、煙草をふかす。
「クソ…………」
バカ。勝手に期待すんな。片想いなんてすんな。もしも、感情が制御出来たなら、こんな気持ち捨てるのに。
次に、彼と会った時に、どんな顔をすればいいのか分からない。
しばらく振りに、芹澤さんと喫煙室で会った。
「あ、ども。久し振りっすね」
「よう、ナマエ。元気か?」
「まあ、それなりっす」
「なら、いい。今度さ、ドライブ行かね?」
「へ?」
なんでまた、俺と?
「知ってんだろ? 俺の愛車」
「赤いオープンカーっすよね?」
「屋根がさ、直ったんだよ。これで、雨でも問題なし」
「……行きます。ドライブ」
「んじゃあ、日にち決めようぜ」
俺と芹澤さんは、次の休日にドライブをすることにした。
デートみたいと思ってんのは、俺だけなんだろうな。
そして、当日。めちゃくちゃ悩んだけど、いつも通りのラフな格好で、俺は待ち合わせ場所へ向かう。
「はよーっす。芹澤さん」
「はよ。ナマエ。乗れよ」
「はいっす」
助手席に乗ると、芹澤さんが車を走らせた。風が心地好い。
心臓が、ドキドキしてきた。
芹澤さんは、BGMに、村下孝蔵の踊り子を流す。俺でも知ってる、有名な曲。爪先立ちの恋。
俺たちは、あまり喋らなかった。なんとなく。
何故か、BGMは、ずっと恋の歌。無意識なのか、違うのか。
「芹澤さん」
「ん?」
「好きです」
「んん?」
芹澤さんは、怪訝な顔をする。
「俺、朋也さんのことが好きなんで。あんたがどう思おうが、諦めないんで……!」
赤信号。
「ナマエ……」
「朋也さん?」
その、赤信号に負けず劣らず、朋也さんは、真っ赤になっていた。
「俺、その、ナマエのことが好きで。それで、今日、誘ったんだけど……」
「え?」
それって、つまり。
「両想い?!」
「……ハイ」
「これからも、よろしくお願いするっす」
「……よろしくな」
「俺、ポスドク回避するんで、見守っててくださいね!」
「おお、頑張れよ」
あれ? じゃあ、これって、デートじゃん。
俺は、顔が赤く染まるのを感じた。
「デートなら、デートって言ってくださいよ……」
「言えるか、バカ」
朋也さんは、片手で俺の頭を小突く。照れ隠しなんだろうなぁ。
やっぱり、この人のこと好きだなぁ。
「あー。すんません、火、いいすか? ライター忘れてきて……」
「ん? おお」
マルボロさんは、俺の煙草に火を着けてくれた。ありがてぇ。
「あざーっす」
「メビウス?」
「そっす」
俺の愛煙してるのは、メビウス・ワン・100’s・スリム・ボックス。スタンダードで、クセがない煙草だ。名前にスリムと付く通り、箱が薄くて持ち運びやすい。
「学部は?」
「人文学部っす。うだつが上がらなさそうでしょ? たぶん、ポスドク行きっすわ」
「もう墓見てんの? 何年? 俺、4年。教育学部」
「堅実そう~。自分は3年っすよ」
「ウケるな」
「ウケないでくださいよ」
マルボロさんは、笑ってる。
就職のこと、考えたくねぇなぁ。マジでポスドク行きかもしんねぇ。
「あ、草太!」
喫煙室の前を、長髪のイケメンが通った。ソウタさんを追いかけ、マルボロさんは足早に去って行く。
「あー、名前、聞きそびれた…………」
また会えるかな?
◆◆◆
「こんちゃーっす、マルボロさん」
「よう、メビウス」
ノリがいいな。
マルボロさんと喫煙室で会うのは、2日振りだ。
「名前、教えてくださいよ」
「芹澤朋也」
「ミョウジナマエっす。よろしくっす」
「はいはい、よろしく」
テキトー。なんか、悲しい。
マルボロさん、改め、セリザワさんは、ふんふんとハミングを始めた。
「夏色のナンシーっすか」
「お? 分かる? いいよな、懐メロ」
「いや、自分が好きなのは、アイドルソングっすねぇ」
「ドルオタ?」
「そこまでじゃないっすよ」
「へぇ」
なんだそのニヤニヤ笑いは。俺は、本当にそこまでじゃない。アイドルソングを、広く浅く好きなだけだ。オタクと名乗れるほどじゃない。
「好きな松田聖子は?」
「渚のバルコニー」
「好きなピンク・レディーは?」
「サウスポー」
「やるじゃん」
何が? セリザワさんは、楽しそうにしている。
「ナマエはさ、友達ってなんだと思う?」
「えぇ? 自分、哲学取ってないっすよ」
っていうか、名前呼び!
「いいから、答えろよ」
「友達ってのは、楽しさや苦しさを分かち合える人? っすかねぇ」
「…………なるほどな」
「なんすか?」
「ナマエ、今日から俺と友達な」
「えー」
「嫌なのかよ?」
「嫌じゃないっすけど」
その後、連絡先を交換した。
芹澤朋也さんが、何を思ったのか知らないけど、頻繁に俺にメッセージを飛ばしてくる。
そんな日々を、俺は好きになっていく。
『クソ』
『草太が消えた』
『さがしにいく』
ある日、こんなメッセージがきて。それから、プツリと連絡がなくなった。
勘弁してくださいよ。
それじゃあ、俺は、どうしたらいいんだよ? あんたのことを、捜しに行ったらいいのか?
ねぇ、芹澤さん。俺、あんたのこと好きみたいなんだけど。どうしたらいい?
◆◆◆
『あのバカ見付けた』
『これから帰る』
芹澤さんから、メッセージがきた。よかった。
『よかったっす』
『気を付けて』
返信する。
「はぁ…………」
芹澤さん。あんた、酷い人だよ。草太さんのためなら、どこまでも行ってしまう。友達だから。
俺だったら、どうなんすか? どこへ行っても、迎えに来てくれますか?
“よう、ナマエ。迎えに来てやったぞ”
こんな風に、俺にも手を差し伸べてくれますか?
もう、ダメなんだよ。あんたじゃなきゃ。
ひとり、喫煙室で、煙草をふかす。
「クソ…………」
バカ。勝手に期待すんな。片想いなんてすんな。もしも、感情が制御出来たなら、こんな気持ち捨てるのに。
次に、彼と会った時に、どんな顔をすればいいのか分からない。
しばらく振りに、芹澤さんと喫煙室で会った。
「あ、ども。久し振りっすね」
「よう、ナマエ。元気か?」
「まあ、それなりっす」
「なら、いい。今度さ、ドライブ行かね?」
「へ?」
なんでまた、俺と?
「知ってんだろ? 俺の愛車」
「赤いオープンカーっすよね?」
「屋根がさ、直ったんだよ。これで、雨でも問題なし」
「……行きます。ドライブ」
「んじゃあ、日にち決めようぜ」
俺と芹澤さんは、次の休日にドライブをすることにした。
デートみたいと思ってんのは、俺だけなんだろうな。
そして、当日。めちゃくちゃ悩んだけど、いつも通りのラフな格好で、俺は待ち合わせ場所へ向かう。
「はよーっす。芹澤さん」
「はよ。ナマエ。乗れよ」
「はいっす」
助手席に乗ると、芹澤さんが車を走らせた。風が心地好い。
心臓が、ドキドキしてきた。
芹澤さんは、BGMに、村下孝蔵の踊り子を流す。俺でも知ってる、有名な曲。爪先立ちの恋。
俺たちは、あまり喋らなかった。なんとなく。
何故か、BGMは、ずっと恋の歌。無意識なのか、違うのか。
「芹澤さん」
「ん?」
「好きです」
「んん?」
芹澤さんは、怪訝な顔をする。
「俺、朋也さんのことが好きなんで。あんたがどう思おうが、諦めないんで……!」
赤信号。
「ナマエ……」
「朋也さん?」
その、赤信号に負けず劣らず、朋也さんは、真っ赤になっていた。
「俺、その、ナマエのことが好きで。それで、今日、誘ったんだけど……」
「え?」
それって、つまり。
「両想い?!」
「……ハイ」
「これからも、よろしくお願いするっす」
「……よろしくな」
「俺、ポスドク回避するんで、見守っててくださいね!」
「おお、頑張れよ」
あれ? じゃあ、これって、デートじゃん。
俺は、顔が赤く染まるのを感じた。
「デートなら、デートって言ってくださいよ……」
「言えるか、バカ」
朋也さんは、片手で俺の頭を小突く。照れ隠しなんだろうなぁ。
やっぱり、この人のこと好きだなぁ。