その他
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
飛び込み台に腰掛け、プールに釣糸を垂らしている変人が、そこにはいた。晴天の下で、暇そうに欠伸をして「釣れないなぁ」などと宣っている。
彼、ミョウジナマエは変人として校内でそこそこ名の知れた生物部の三年生である。勉強は出来るようだが、興味を持ったもの(大抵は生き物)をどこまでも追いかけてしまい、授業をすっぽかしては教師に怒られているらしい。
放課後、部活動のためにプールへやって来た竜ヶ崎怜は、そんな彼に腹を立てた。
「またですか、ミョウジ先輩。釣れるわけないでしょう、プールなんですから」
竜ヶ崎怜は自身が釣られていることに気付いていない。
「やあ、竜ヶ崎くん。今日もプール日和で釣り日和だね」
「プールで釣りをしないでください!」
「ごめんごめん」
ミョウジは全く悪びれずにヘラヘラしている。
「そんなだから変人って言われるんですよ」
「俺に起こせるのは乱だけだけどね~」
「はい?」
ミョウジは面白いことを言ってやったという顔をしているが、よく分からないセンスだった。
「水泳部の邪魔をするつもりはないんだ。もう行くよ」
「もう来ないでください」
「善処しまーす」
「する気ないでしょう?!」
ミョウジはヘラヘラ笑いながら釣竿を肩にかけて去って行く。
しばらく経ってから、彼の物であろうルアーが落ちているのに気付いた。忘れ物を理由に来られては堪らないので、翌日の昼休みに返しに行くことにした。
「ミョウジなら校舎裏じゃないかな」
「ありがとうございます」
ミョウジのクラスメイトに礼を言い、早足で校舎裏へと向かう。
虫籠を下げ、虫網をブンブン振り回す変人が、そこにはいた。
「何をしているんですか? ミョウジ先輩」
「あ、竜ヶ崎くん。見ての通り、釣りだよ」
「はい?」
「いや、虫取りか。あはは」
虫籠の中は空だ。ミョウジは相変わらずヘラヘラしている。
「大丈夫ですか? ちゃんと水分補給してますか?」
「大丈夫だよ」
「そうだ。忘れ物ですよ、先輩」
「ん? ああ、そう。ありがとう、竜ヶ崎くん」
ミョウジはルアーを受け取ると、無造作に虫籠へ捩じ込んだ。
「虫取りも好きなんですか?」
「虫は水中で息できないよね」
「え? はぁ、そうですね」
「魚は虫を食べるよね。だから、嫌い」
「ミョウジ先輩?」
「でも、針を刺すのは可哀想だから。だから、俺は魚の方を――」
「ミョウジ先輩!」
「あ……何……?」
「中に戻りますよ!」
「え? えっ?」
怜は、夏の日射しにやられているのではないかと疑わしいミョウジの腕を掴み、無理矢理に校舎の中へ連れて行く。
「ねぇ、どうして水泳部に入ったの?」
玄関まで来たところで、ミョウジは怜の手を振りほどくと、彼にあるまじき暗い声で尋ねた。
「え……?」
「蝶にも……鱗があるからって泳げるもんかよ…………」
蝶の翅には鱗粉がある。それは、翅を守るために水をはじく。だが、鱗粉は雨で濡れるのを防ぐものであり、蝶が泳げるはずもない。
「跳んでいる君は美しかったのに……!」
その叫びで、ミョウジナマエが水泳部に来るようになった訳を、竜ヶ崎怜はようやく理解した。
2017/05/31
彼、ミョウジナマエは変人として校内でそこそこ名の知れた生物部の三年生である。勉強は出来るようだが、興味を持ったもの(大抵は生き物)をどこまでも追いかけてしまい、授業をすっぽかしては教師に怒られているらしい。
放課後、部活動のためにプールへやって来た竜ヶ崎怜は、そんな彼に腹を立てた。
「またですか、ミョウジ先輩。釣れるわけないでしょう、プールなんですから」
竜ヶ崎怜は自身が釣られていることに気付いていない。
「やあ、竜ヶ崎くん。今日もプール日和で釣り日和だね」
「プールで釣りをしないでください!」
「ごめんごめん」
ミョウジは全く悪びれずにヘラヘラしている。
「そんなだから変人って言われるんですよ」
「俺に起こせるのは乱だけだけどね~」
「はい?」
ミョウジは面白いことを言ってやったという顔をしているが、よく分からないセンスだった。
「水泳部の邪魔をするつもりはないんだ。もう行くよ」
「もう来ないでください」
「善処しまーす」
「する気ないでしょう?!」
ミョウジはヘラヘラ笑いながら釣竿を肩にかけて去って行く。
しばらく経ってから、彼の物であろうルアーが落ちているのに気付いた。忘れ物を理由に来られては堪らないので、翌日の昼休みに返しに行くことにした。
「ミョウジなら校舎裏じゃないかな」
「ありがとうございます」
ミョウジのクラスメイトに礼を言い、早足で校舎裏へと向かう。
虫籠を下げ、虫網をブンブン振り回す変人が、そこにはいた。
「何をしているんですか? ミョウジ先輩」
「あ、竜ヶ崎くん。見ての通り、釣りだよ」
「はい?」
「いや、虫取りか。あはは」
虫籠の中は空だ。ミョウジは相変わらずヘラヘラしている。
「大丈夫ですか? ちゃんと水分補給してますか?」
「大丈夫だよ」
「そうだ。忘れ物ですよ、先輩」
「ん? ああ、そう。ありがとう、竜ヶ崎くん」
ミョウジはルアーを受け取ると、無造作に虫籠へ捩じ込んだ。
「虫取りも好きなんですか?」
「虫は水中で息できないよね」
「え? はぁ、そうですね」
「魚は虫を食べるよね。だから、嫌い」
「ミョウジ先輩?」
「でも、針を刺すのは可哀想だから。だから、俺は魚の方を――」
「ミョウジ先輩!」
「あ……何……?」
「中に戻りますよ!」
「え? えっ?」
怜は、夏の日射しにやられているのではないかと疑わしいミョウジの腕を掴み、無理矢理に校舎の中へ連れて行く。
「ねぇ、どうして水泳部に入ったの?」
玄関まで来たところで、ミョウジは怜の手を振りほどくと、彼にあるまじき暗い声で尋ねた。
「え……?」
「蝶にも……鱗があるからって泳げるもんかよ…………」
蝶の翅には鱗粉がある。それは、翅を守るために水をはじく。だが、鱗粉は雨で濡れるのを防ぐものであり、蝶が泳げるはずもない。
「跳んでいる君は美しかったのに……!」
その叫びで、ミョウジナマエが水泳部に来るようになった訳を、竜ヶ崎怜はようやく理解した。
2017/05/31
1/73ページ