煙シリーズおまけ
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『口なし』
「オレは部隊オペレーターになる気満々だったんだが、通信室に人手が欲しいらしくてな。そこで働くよ」
戦闘員を諦め、オペレーターに転向した友人の近況報告。
それを聞いた時は、「そうか」と思っただけだった。
友人、ミョウジナマエは通信室で近界民に殺された。
ミョウジが引っ越していたら、オペレーターにならなかったら、通信室にさえいなければ……考えても仕方ないことが脳裏を埋め尽くす。
ついぞ、彼の本当の気持ちを知ることはなかったように思う。
「ナマエ」
墓石に向かって、名前を呼んだ。
彼の墓は、遺族の希望で三門市の霊園にある。
霊園は静寂に包まれており、静けさとは無縁そうな友の喪失を強く感じてしまう。
「ナマエ……おまえがいないと寂しい…………」
諏訪は煙草に火を着け、墓に供えた。
銘柄は、生前に彼が愛煙していたもの。
そして、この先自分が意味なく持ち歩くであろうもの。
「どうして、おまえは…………」
もっと頼ってほしかった。
落ち込む彼の助けになりたかった。
ずっと、支えていたかった。
それなのに、ミョウジ自身が許さなかったことが、それを半ば受け入れてしまっていたことが、後悔として諏訪の胸に巣食っている。
涙が一筋流れると、「雨は嫌いなんだ」と、頭の中でミョウジナマエが困り顔をした。
過去、どこかで聞いた台詞である。
急いで涙を袖で拭い、もう二度と雨など見せないと誓う。
だから、どうか安らかな眠りを彼に。
『貝のように』
「ナマエ」
「もう名前で呼ばないでほしいって言ったろ、洸」
何度目かの注意。
両親がいなくなってから、ミョウジナマエは全く素直ではなくなってしまった。
だから、スナオと呼ばれると、責められているような気持ちになる。
そのせいで、友人である諏訪洸太郎に名前で呼ぶなと言うしかなかった。
迷惑をかけている。甘えている。
「悪い」
「いや、悪いのはオレだろ。でも本当に、名前で呼ばれるの辛くて……」
「おまえも、俺のこと名字で呼べよ。そしたら、ミョウジって呼ぶこと思い出せるしよ」
「……諏訪」
「おう」
「変な感じ」
「お互い様だ」
詳しい理由も訊かず、名前を呼ぶのをやめてくれる友人を「良い奴だな」と思った。
だから余計に、これ以上は甘えたくない。
「諏訪、ありがとう」
「どーいたしまして」
今にして思えば、このことが諏訪に友情ではない何かを抱くきっかけだったのかもしれなかった。
年月を重ねると、彼への愛のようなものも募るので困った。
うっかり想いを口走らないよう、唇を固く引き結ぶ日々。
しかし、ミョウジはよく喋る。
喋らないのは、その想いだけ。
秘めた感情は貝の中へ。
今日も、煙たい喋りを繰り返す。
「オレは部隊オペレーターになる気満々だったんだが、通信室に人手が欲しいらしくてな。そこで働くよ」
戦闘員を諦め、オペレーターに転向した友人の近況報告。
それを聞いた時は、「そうか」と思っただけだった。
友人、ミョウジナマエは通信室で近界民に殺された。
ミョウジが引っ越していたら、オペレーターにならなかったら、通信室にさえいなければ……考えても仕方ないことが脳裏を埋め尽くす。
ついぞ、彼の本当の気持ちを知ることはなかったように思う。
「ナマエ」
墓石に向かって、名前を呼んだ。
彼の墓は、遺族の希望で三門市の霊園にある。
霊園は静寂に包まれており、静けさとは無縁そうな友の喪失を強く感じてしまう。
「ナマエ……おまえがいないと寂しい…………」
諏訪は煙草に火を着け、墓に供えた。
銘柄は、生前に彼が愛煙していたもの。
そして、この先自分が意味なく持ち歩くであろうもの。
「どうして、おまえは…………」
もっと頼ってほしかった。
落ち込む彼の助けになりたかった。
ずっと、支えていたかった。
それなのに、ミョウジ自身が許さなかったことが、それを半ば受け入れてしまっていたことが、後悔として諏訪の胸に巣食っている。
涙が一筋流れると、「雨は嫌いなんだ」と、頭の中でミョウジナマエが困り顔をした。
過去、どこかで聞いた台詞である。
急いで涙を袖で拭い、もう二度と雨など見せないと誓う。
だから、どうか安らかな眠りを彼に。
『貝のように』
「ナマエ」
「もう名前で呼ばないでほしいって言ったろ、洸」
何度目かの注意。
両親がいなくなってから、ミョウジナマエは全く素直ではなくなってしまった。
だから、スナオと呼ばれると、責められているような気持ちになる。
そのせいで、友人である諏訪洸太郎に名前で呼ぶなと言うしかなかった。
迷惑をかけている。甘えている。
「悪い」
「いや、悪いのはオレだろ。でも本当に、名前で呼ばれるの辛くて……」
「おまえも、俺のこと名字で呼べよ。そしたら、ミョウジって呼ぶこと思い出せるしよ」
「……諏訪」
「おう」
「変な感じ」
「お互い様だ」
詳しい理由も訊かず、名前を呼ぶのをやめてくれる友人を「良い奴だな」と思った。
だから余計に、これ以上は甘えたくない。
「諏訪、ありがとう」
「どーいたしまして」
今にして思えば、このことが諏訪に友情ではない何かを抱くきっかけだったのかもしれなかった。
年月を重ねると、彼への愛のようなものも募るので困った。
うっかり想いを口走らないよう、唇を固く引き結ぶ日々。
しかし、ミョウジはよく喋る。
喋らないのは、その想いだけ。
秘めた感情は貝の中へ。
今日も、煙たい喋りを繰り返す。