A級9位!秋津隊
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面倒見がいいのは、何故なのか?
王子一彰は、冷泉冬樹に単刀直入に尋ねてみることにした。
「冷水くんって、きょうだいいないよね? なんで面倒見いいの?」
「オペレーターやってたら、兄弟がたくさん出来たみたいになったから、面倒見がよくなった……?」
「ああ、因果が逆なのか。面倒見のいいオペレーターじゃなくて、オペレーターをやってたら面倒見がよくなった、と」
「うん。あと、僕は豆腐みたいなとこあるから」
豆腐? あの豆腐? 白くて四角い食べ物の。
「豆腐みたいに、わりと何にでも馴染めるんだ」
確かに、そうだ。見た目は物凄く個性的なのに、気付けば輪の中にいる。冷泉は、そういう男だった。
人恋しさに、水面に顔を出す鯨なのである。
◆◆◆
「よう、冷泉。恭一いるか?」
「ちょっと出てるけど、すぐ戻ると思う」
「じゃあ、中で待たせてもらうか」
「どうぞ」
秋津隊の隊室に、当真を招く。
「お? なんか見てんじゃねーか」
「落語」
リモコンのボタンを押し、一時停止を解除する冷泉。
「水上もだけど、渋いなー」
「現代落語はポップなのもあるよ」
「へぇ、どんな?」
「アメリカ人の落語家がいるんだけど、その人のチャンネルのURL送るよ」
「お、どれどれ」
当真は、動画を再生した。日本には、「ありがとう」の意味の言葉がたくさんあるという枕から入り、最もカジュアルな「ありがとう」は「サンキュー」である、という落ちだった。
「ははっ。確かにな。言うよな、サンキュー」
「落語見てくれて、サンキュー」
恭一を待ちながら、ふたりは笑い合う。
◆◆◆
「ふゆ、目ぇ見せて?」
「嫌だよ」
犬飼澄晴は、何度目かのお願いをする。どうせ断られるのに。もしかしたら、に賭けてみる。
「僕の目を見ると、石になる」
「メデューサ?」
「髪が長いのは、蛇だから」
「石になってもいいって言ったら?」
「犬飼くんが石になったら困る」
「ちぇー」
執拗に隠された瞳を見てみたいけれど、冷泉に嫌われるのは避けたい。でも、溜め込んだ好奇心を発散するために、これからも「目を見せて」と頼むのだろう。
◆◆◆
いつも、どこか寂しそうにしている。それなのに、視線すら合わないから、難儀だと思う。
「カゲくん?」
「ふゆ、おまえ、もっとワガママ言えよ」
「ワガママ?」
「クソサイドエフェクトのせいで、分かんだよ」
顔に出せない。声に出せない。独りで、冬の泉に沈み込むような寂しさ。
「僕のワガママは、子供っぽ過ぎるよ」
口元を緩く上げて笑う様が、もの悲しかった。
◆◆◆
蔵内和紀は、冷泉冬樹が怖かった。まるで、無理矢理水族館に展示された人魚みたいで。見ていて、辛くなる。
「鯨…………」
「ああ、これ?」
冷泉の鞄につけられた鯨のキーホルダーを見た時、気が付いた。
「僕みたいでしょ? この子」
「……そうだな」
ああ、そうか。冷泉は、鯨なんだ。特定の周波数で仲間を探す、寂しい鯨。
その仲間が、秋津隊だったり、親友の水上敏志だったりするのだろう。
◆◆◆
寝ているのか? 冷泉は。
ランニングがてら校舎裏へ行くと、木陰で冷泉冬樹が眠っている。眠っている、ように見える。
「…………」
近付いてみると、もうひとりいた。村上鋼だ。
ふたりで、並んで木にもたれて寝ている。
あまりにも、すやすやと気持ち良さそうだったから、穂刈篤は、ふたりをそっとしておいた。
◆◆◆
「た、助けて。ゾエくん」
「どうしたの? ふゆ」
「かく、隠れないと……」
冷泉冬樹は小声でそう言うと、しゃがんで、北添尋の影に隠れた。
そして、冷泉が走って来た方向から、3人の女子が歩いて来る。
その3人が見えなくなってから、冷泉は、そっと出て来た。
「ごめんね。ありがとう」
「別にいいけど。どうしたの? 本当」
「あの、あの中に元カノがいて……怖くて…………」
「なるほど。オーケーオーケー。ゾエさん、秘密にしとくね」
「うん。ありがとう」
冷泉は、一礼して、去って行く。
苦労してるなぁ、とその姿を見送った。
◆◆◆
ボーダー本部で、たまに催される映画鑑賞会。そこで偶然、荒船哲次の隣に座ってきたのが、冷泉冬樹だった。
今回の映画は、「ガタカ」である。遺伝子操作して障害や病を取り除いた子供を産むのが当たり前になった世界で、そうではない主人公が足掻く物語。
「冷泉、SF好きなのか?」
「嫌いじゃないよ」
「ガタカが好き?」
「うん。水泳シーンが印象的だから」
「目の付け所が面白いな、おまえ」
荒船は、冷泉を興味深く思った。
◆◆◆
「水上」
「お、冷泉。元気か?」
「うん、まあまあ」
「今日は、うそつき村やな」
「珍しいよね」
「せやなぁ」
古典落語の「うそつき村」は、演り手があまりいない。
ふたりで、席に座る。
さぁ、楽しい時間の始まりだ。ふたりでいれば、倍楽しい。
王子一彰は、冷泉冬樹に単刀直入に尋ねてみることにした。
「冷水くんって、きょうだいいないよね? なんで面倒見いいの?」
「オペレーターやってたら、兄弟がたくさん出来たみたいになったから、面倒見がよくなった……?」
「ああ、因果が逆なのか。面倒見のいいオペレーターじゃなくて、オペレーターをやってたら面倒見がよくなった、と」
「うん。あと、僕は豆腐みたいなとこあるから」
豆腐? あの豆腐? 白くて四角い食べ物の。
「豆腐みたいに、わりと何にでも馴染めるんだ」
確かに、そうだ。見た目は物凄く個性的なのに、気付けば輪の中にいる。冷泉は、そういう男だった。
人恋しさに、水面に顔を出す鯨なのである。
◆◆◆
「よう、冷泉。恭一いるか?」
「ちょっと出てるけど、すぐ戻ると思う」
「じゃあ、中で待たせてもらうか」
「どうぞ」
秋津隊の隊室に、当真を招く。
「お? なんか見てんじゃねーか」
「落語」
リモコンのボタンを押し、一時停止を解除する冷泉。
「水上もだけど、渋いなー」
「現代落語はポップなのもあるよ」
「へぇ、どんな?」
「アメリカ人の落語家がいるんだけど、その人のチャンネルのURL送るよ」
「お、どれどれ」
当真は、動画を再生した。日本には、「ありがとう」の意味の言葉がたくさんあるという枕から入り、最もカジュアルな「ありがとう」は「サンキュー」である、という落ちだった。
「ははっ。確かにな。言うよな、サンキュー」
「落語見てくれて、サンキュー」
恭一を待ちながら、ふたりは笑い合う。
◆◆◆
「ふゆ、目ぇ見せて?」
「嫌だよ」
犬飼澄晴は、何度目かのお願いをする。どうせ断られるのに。もしかしたら、に賭けてみる。
「僕の目を見ると、石になる」
「メデューサ?」
「髪が長いのは、蛇だから」
「石になってもいいって言ったら?」
「犬飼くんが石になったら困る」
「ちぇー」
執拗に隠された瞳を見てみたいけれど、冷泉に嫌われるのは避けたい。でも、溜め込んだ好奇心を発散するために、これからも「目を見せて」と頼むのだろう。
◆◆◆
いつも、どこか寂しそうにしている。それなのに、視線すら合わないから、難儀だと思う。
「カゲくん?」
「ふゆ、おまえ、もっとワガママ言えよ」
「ワガママ?」
「クソサイドエフェクトのせいで、分かんだよ」
顔に出せない。声に出せない。独りで、冬の泉に沈み込むような寂しさ。
「僕のワガママは、子供っぽ過ぎるよ」
口元を緩く上げて笑う様が、もの悲しかった。
◆◆◆
蔵内和紀は、冷泉冬樹が怖かった。まるで、無理矢理水族館に展示された人魚みたいで。見ていて、辛くなる。
「鯨…………」
「ああ、これ?」
冷泉の鞄につけられた鯨のキーホルダーを見た時、気が付いた。
「僕みたいでしょ? この子」
「……そうだな」
ああ、そうか。冷泉は、鯨なんだ。特定の周波数で仲間を探す、寂しい鯨。
その仲間が、秋津隊だったり、親友の水上敏志だったりするのだろう。
◆◆◆
寝ているのか? 冷泉は。
ランニングがてら校舎裏へ行くと、木陰で冷泉冬樹が眠っている。眠っている、ように見える。
「…………」
近付いてみると、もうひとりいた。村上鋼だ。
ふたりで、並んで木にもたれて寝ている。
あまりにも、すやすやと気持ち良さそうだったから、穂刈篤は、ふたりをそっとしておいた。
◆◆◆
「た、助けて。ゾエくん」
「どうしたの? ふゆ」
「かく、隠れないと……」
冷泉冬樹は小声でそう言うと、しゃがんで、北添尋の影に隠れた。
そして、冷泉が走って来た方向から、3人の女子が歩いて来る。
その3人が見えなくなってから、冷泉は、そっと出て来た。
「ごめんね。ありがとう」
「別にいいけど。どうしたの? 本当」
「あの、あの中に元カノがいて……怖くて…………」
「なるほど。オーケーオーケー。ゾエさん、秘密にしとくね」
「うん。ありがとう」
冷泉は、一礼して、去って行く。
苦労してるなぁ、とその姿を見送った。
◆◆◆
ボーダー本部で、たまに催される映画鑑賞会。そこで偶然、荒船哲次の隣に座ってきたのが、冷泉冬樹だった。
今回の映画は、「ガタカ」である。遺伝子操作して障害や病を取り除いた子供を産むのが当たり前になった世界で、そうではない主人公が足掻く物語。
「冷泉、SF好きなのか?」
「嫌いじゃないよ」
「ガタカが好き?」
「うん。水泳シーンが印象的だから」
「目の付け所が面白いな、おまえ」
荒船は、冷泉を興味深く思った。
◆◆◆
「水上」
「お、冷泉。元気か?」
「うん、まあまあ」
「今日は、うそつき村やな」
「珍しいよね」
「せやなぁ」
古典落語の「うそつき村」は、演り手があまりいない。
ふたりで、席に座る。
さぁ、楽しい時間の始まりだ。ふたりでいれば、倍楽しい。