一頁のおまけ
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「それで、探偵さんはどちらなんです?」と、依頼人は訊いた。
「私も彼も探偵ですよ」
「俺が、不可能担当で」
「私が、不可解担当」
私、現海砂子と諏訪洸太郎くんは、ふたりで事務所を構えている探偵である。
白衣の私と、黒いスーツを着崩している諏訪くん。
私は、動機を読み解くのが専門で、諏訪くんは、トリックを解明するのが専門だ。
今回、私たちが引き受けた依頼は、殺人事件である。警察は、自殺と断定し、早々に引き上げたらしい。
「そんなはずありません! 主人が自殺なんて!」とは、奥さんの言だ。
私と諏訪くんは、ひとまず現場へ向かう。
依頼人の家、というか屋敷は、広かった。金持ちなんだなぁ。謝礼が楽しみだ。
「風呂場、ですよね?」
「はい。ご案内します」
諏訪くんに促され、遺体が見付かった浴室へ行く。
浴槽に、剃刀で切った手首を浸けて、死んでいたのだそうだ。まあ、自殺っぽくはある。
「どう思います?」
「いかにもだねぇ」
私たちは、小声で話した。
「遺書などは?」
「ありません」
自殺でないのなら、容疑者は、奥さんと息子さんになってしまうが。でも、奥さんは依頼してきたワケだし、どうかな?
旦那さんは、精神疾患なし。何か悩んでいた様子なし。借金なし。対人トラブルなし。
自殺する理由がない。
剃刀から出た指紋は、旦那さんのものだけ。
死亡推定時刻は、0時過ぎ。この時間に入浴するのは、よくあることだった。
やっぱり、奥さんか息子さんだなぁ、犯人。
「剃刀は、共用のものでしたか?」
「いいえ」
「そうですか」
諏訪くんは、何かを思案している。
建築家の旦那さん。専業主婦の奥さん。画家志望の美大生の息子さん。
「息子さんにも話を聞けますか?」
「では、こちらへおいでください」
「はい」
私たちは、客間に通された。
少しして、奥さんが息子さんを連れて来る。
「息子です」
「画家になること、お父さんに反対されたりしてました?」
「いえ、父は応援してくれていました」
「そうですか」
私の質問は、終わり。
「左利きですか?」と、諏訪くんが尋ねる。
「え、はい」
「旦那さんは?」
「右利きですけれど…………」
「分かりました」
諏訪くんが、私に視線を寄越した。
「少し、ふたりにしていただけます?」
「はい」
奥さんと息子さんは退室する。
「諏訪くん、犯人は息子さんだよ」
「俺も、そう思います。旦那の腕、右手に傷があったってことは、左利きの奴が付けちまったんだと思います。奥さんは、右利きだった」
「なるほど。画家になるのを応援されてたっての、あれ嘘だよ。嘘をついた時にしがちな動作があったから。おそらく、本当は反対されてた」
私たちの、推理は終了。
ふたりを呼び戻して、犯人を挙げる。
「犯人は、息子さん。あなたです」
「画家になることを反対された怨恨、ですね」
「そんな、あなたが……?」
「……うるせぇ」
「え?」
「うるせぇ! オレの人生、揺りかごから墓場まで、親父に決められてた! うんざりなんだよ!」
その後、奥さんが泣きながら警察を呼んで、息子さんは捕まった。
諏訪くんが警察に事情を話してるうちに、私は、泣いている奥さんに話しかける。
「よかったですね、遺産が何もかも手に入って」
「……どういう意味かしら?」
「自殺だと、保険金下りませんからね。息子さんが捕まれば、独り占め出来るし」
「…………」
「あなた、役者を目指してたんですよね? 旦那さんに、無理矢理に家庭入りさせられたんですか?」
奥さんは、一瞬真顔になり、それから薄く笑みを浮かべた。
「そんなことまで調べたのね」
「そういう仕事ですから」
「私は、何か悪いことをしたかしら?」
「法に裁かれることはしてませんね。ただ、息子と旦那の確執を放置していただけ」
息子が犯人だと分かっていて、私と諏訪くんに事件を解決させただけ。
「そうね」
「ま、謝礼は弾んでくださいよ」
「ええ、もちろん。ありがとうございます」
「こういう使われ方、嫌なんですよね。彼が傷付くから」
「あなたの相棒さん?」
「はい。だから、私は何も言いませんけど」
「仲が良いのね。羨ましいわ」
それは、真実の言葉だった。
「砂子さん」
「なんだい?」
「帰りましょう」
「うん。それでは、失礼します」
「ありがとう、探偵さんたち」
こうして、事件は幕を閉じる。
探偵なんて、所詮はシステムだもんな。体よく利用してくれるよ、全く。
事務所に戻り、私たちはお茶の時間にする。
「今回は、不可解よりでしたね」
「そうだね」
緑茶を飲み、みたらし団子を食べた。疲れた脳に効く。
「そういや、なんか金額上乗せされてましたよ」
「ああ。スピード解決手当てだって」
「へぇ。そりゃ、よかった」
諏訪くんは、団子を食べた。
私たちは、探偵というツールにされたワケだけど、君は知らなくていい。
依頼人の動機まで明かしたのは、不可解担当の私が勝手にやったからだもの。
これからも、君は光を担当すればいい。
「私も彼も探偵ですよ」
「俺が、不可能担当で」
「私が、不可解担当」
私、現海砂子と諏訪洸太郎くんは、ふたりで事務所を構えている探偵である。
白衣の私と、黒いスーツを着崩している諏訪くん。
私は、動機を読み解くのが専門で、諏訪くんは、トリックを解明するのが専門だ。
今回、私たちが引き受けた依頼は、殺人事件である。警察は、自殺と断定し、早々に引き上げたらしい。
「そんなはずありません! 主人が自殺なんて!」とは、奥さんの言だ。
私と諏訪くんは、ひとまず現場へ向かう。
依頼人の家、というか屋敷は、広かった。金持ちなんだなぁ。謝礼が楽しみだ。
「風呂場、ですよね?」
「はい。ご案内します」
諏訪くんに促され、遺体が見付かった浴室へ行く。
浴槽に、剃刀で切った手首を浸けて、死んでいたのだそうだ。まあ、自殺っぽくはある。
「どう思います?」
「いかにもだねぇ」
私たちは、小声で話した。
「遺書などは?」
「ありません」
自殺でないのなら、容疑者は、奥さんと息子さんになってしまうが。でも、奥さんは依頼してきたワケだし、どうかな?
旦那さんは、精神疾患なし。何か悩んでいた様子なし。借金なし。対人トラブルなし。
自殺する理由がない。
剃刀から出た指紋は、旦那さんのものだけ。
死亡推定時刻は、0時過ぎ。この時間に入浴するのは、よくあることだった。
やっぱり、奥さんか息子さんだなぁ、犯人。
「剃刀は、共用のものでしたか?」
「いいえ」
「そうですか」
諏訪くんは、何かを思案している。
建築家の旦那さん。専業主婦の奥さん。画家志望の美大生の息子さん。
「息子さんにも話を聞けますか?」
「では、こちらへおいでください」
「はい」
私たちは、客間に通された。
少しして、奥さんが息子さんを連れて来る。
「息子です」
「画家になること、お父さんに反対されたりしてました?」
「いえ、父は応援してくれていました」
「そうですか」
私の質問は、終わり。
「左利きですか?」と、諏訪くんが尋ねる。
「え、はい」
「旦那さんは?」
「右利きですけれど…………」
「分かりました」
諏訪くんが、私に視線を寄越した。
「少し、ふたりにしていただけます?」
「はい」
奥さんと息子さんは退室する。
「諏訪くん、犯人は息子さんだよ」
「俺も、そう思います。旦那の腕、右手に傷があったってことは、左利きの奴が付けちまったんだと思います。奥さんは、右利きだった」
「なるほど。画家になるのを応援されてたっての、あれ嘘だよ。嘘をついた時にしがちな動作があったから。おそらく、本当は反対されてた」
私たちの、推理は終了。
ふたりを呼び戻して、犯人を挙げる。
「犯人は、息子さん。あなたです」
「画家になることを反対された怨恨、ですね」
「そんな、あなたが……?」
「……うるせぇ」
「え?」
「うるせぇ! オレの人生、揺りかごから墓場まで、親父に決められてた! うんざりなんだよ!」
その後、奥さんが泣きながら警察を呼んで、息子さんは捕まった。
諏訪くんが警察に事情を話してるうちに、私は、泣いている奥さんに話しかける。
「よかったですね、遺産が何もかも手に入って」
「……どういう意味かしら?」
「自殺だと、保険金下りませんからね。息子さんが捕まれば、独り占め出来るし」
「…………」
「あなた、役者を目指してたんですよね? 旦那さんに、無理矢理に家庭入りさせられたんですか?」
奥さんは、一瞬真顔になり、それから薄く笑みを浮かべた。
「そんなことまで調べたのね」
「そういう仕事ですから」
「私は、何か悪いことをしたかしら?」
「法に裁かれることはしてませんね。ただ、息子と旦那の確執を放置していただけ」
息子が犯人だと分かっていて、私と諏訪くんに事件を解決させただけ。
「そうね」
「ま、謝礼は弾んでくださいよ」
「ええ、もちろん。ありがとうございます」
「こういう使われ方、嫌なんですよね。彼が傷付くから」
「あなたの相棒さん?」
「はい。だから、私は何も言いませんけど」
「仲が良いのね。羨ましいわ」
それは、真実の言葉だった。
「砂子さん」
「なんだい?」
「帰りましょう」
「うん。それでは、失礼します」
「ありがとう、探偵さんたち」
こうして、事件は幕を閉じる。
探偵なんて、所詮はシステムだもんな。体よく利用してくれるよ、全く。
事務所に戻り、私たちはお茶の時間にする。
「今回は、不可解よりでしたね」
「そうだね」
緑茶を飲み、みたらし団子を食べた。疲れた脳に効く。
「そういや、なんか金額上乗せされてましたよ」
「ああ。スピード解決手当てだって」
「へぇ。そりゃ、よかった」
諏訪くんは、団子を食べた。
私たちは、探偵というツールにされたワケだけど、君は知らなくていい。
依頼人の動機まで明かしたのは、不可解担当の私が勝手にやったからだもの。
これからも、君は光を担当すればいい。