煙シリーズ
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あ、付き合い始めたんだな、と思った。
太刀川慶は、ボーダー本部にいるミョウジナマエと諏訪洸太郎を観察する。ふたりの距離感が縮まっていて。ふたりの間に流れる空気が甘くなっていて。ふたりの男は、幸せそうに見えた。
きっと自分だけでなく、色々な人が気付いているんだろうな、とも思う。
例えば、諏訪隊の隊員とか、麻雀仲間とか。ミョウジの片想いにも気付いていたであろう人々。
ミョウジは片想いを特に隠してはいなかったし、訊かれたら普通に答えていたようだから、結構な人数が彼の片想いを見守っていたのかもしれない。
太刀川が、ミョウジをどう見ていたかというと、ただ、ずっと面白い人だなと思っていた。
ミョウジナマエは見ていて飽きない男だった。
彼は、真剣であればあるほど、やることが面白くなる。ミョウジは、単純なバカであるが故に、自身を複雑怪奇にしてしまう男であった。
ほんの少し前までは。
最近の素直なミョウジは、それはそれで太刀川には好ましく映った。
太刀川慶はミョウジナマエをよく見ていて、彼の真摯な想いをよく見てきて、それが段々欲しくなってしまったのだ。
ところで、ミョウジは友達が少ない。諏訪と太刀川くらいしか、特に親しいと言える人間はいないようだった。
何故、彼は自分ではなく諏訪を好きになったのだろう。どうして、あの想いを向けられるのが自分ではないのだろう。
身勝手な疑問が次々と浮かぶ。
「諏訪さんが、ミョウジさんの想いに応えてくれないままで辛くないの?」
ある日、そのひとつをミョウジに直接ぶつけてしまった。隊室に遊びに来ていたミョウジは、太刀川の質問に驚いた表情になり、その後に「ああ?」とあからさまに不機嫌そうな声を出して睨んでくる。ガラが悪い。
「いや、いいもんだよ。片想い」
「どうして?」
「両想いだと、喜びよりも、いずれ別れるかもしれない不安の方が大きそうじゃん?」
「暗っ!」
「誰が、根暗お喋り野郎だコラァ!」
「そこまで言ってない!」
太刀川は、ミョウジを「好き」ではない。ミョウジの片想いを「好き」だったのだ。
この、妙な想いに決着をつけたいと太刀川は考えている。じっと見ていたミョウジと諏訪が別れたタイミングで、話しかけることにした。
「ミョウジさん」
「よう、太刀川」
「好きです」
「は…………?」
ミョウジは、ぽかんとする。
「うーん。やっぱり違うな。ミョウジさんのことは友達だと思ってるよ」
「いや、待て。さっきのなんだよ?」
なんで、自分が太刀川に告白してフラれたみたいな台詞を吐かれているのか? 当然、ミョウジには分からない。
「ミョウジさんの片想いのファンだったんですよ、俺」
「片想いのファン…………?」
「ミョウジさん、諏訪さんと付き合い始めたでしょ? それはそれで、祝福してますよ」
「え……? ありがとう……?」
「まあ、俺が言いたいのは、おめでとうってことです」
「おう…………」
なんだかよく分からないが、太刀川は両想いを祝ってくれているらしい。
「ありがとな」と礼を言っておく。
「いえいえ」
太刀川は、ニコニコとしている。
「あ、そうだ。これやるよ、太刀川」
「え?」
ミョウジは上着のポケットから、個包装された餅を取り出し、太刀川に渡した。
「なんでポケットから餅が?」
「ここに来る前、バタバタしてて、いつの間にか紛れ込んでたんだよ、ソレ」
実はミョウジの家は、一年中、餅とアイスクリームを食べる習慣があり、それらが常備されているのだ。
「ミョウジさんって、やっぱり面白いなー」
太刀川は、しみじみと呟いた。
◆◆◆
一方その頃、作戦室へ向かった諏訪は。
「諏訪さん」
「すわさん」
「ミョウジさんと付き合ってるんですか?」
堤と小佐野と笹森に、質問されていた。
「……そうだよ、わりーかよ」
「いいに決まってるでしょ」
「そうですよ、最近のミョウジさん、明らかに諏訪さんのことが好きでしたし」
「3人で陰ながら応援してたんですよ」
「おまえら、面白がってんな?」
好奇の入り交じる隊員たちの瞳を見て、諏訪は言う。
「もう、1ヶ月くらい、ミョウジさんの片想いを見てたんですよ? オレたち」と、笹森。
「そーそー」
「そうですよ、だから、少しくらい話を聞かせてほしいんですよ」
3人とも、諏訪とミョウジの馴れ初めやら何やらに興味があるようだ。
「なにがそんなに気になるってんだよ?」
諏訪が言い返すと。
「まず、ミョウジさんって、2月から急に諏訪さんのこと好きになったんじゃないですよね?」
「ふたりの時ってどんな会話してるの~?」
「諏訪さんは、いつからミョウジさんを好きになったんですか?」
「っだー! うるせーうるせー! 黙秘だ黙秘!」
そう吠えると、諏訪は作戦室から足早に出て行ってしまった。
「逃げた~」
「逃げたな」
「逃げられましたね」
隊員たちから逃げた諏訪は、ひとりで考える。ミョウジはいつから自分のことを好きなのか? 具体的な時期は知らない。しかし、去年のバレンタインデーには既に好きだったのだろう。
ふたりの時の会話……? 至って普通だ。恋人らしい会話というものは、特にしていない気がする。
自分が、いつからミョウジを好きか? いつからだろう。友情に愛情が混ざるようになったのは。
「知るか、そんなこと……」
諏訪は独り言ちた。
◆◆◆
ミョウジと諏訪、ふたりきりの諏訪隊作戦室にて。ミョウジは、いつもとは違う妙な空気を感じていた。肌にピリピリと、何かが当たっているような気さえする。いつも通りに、諏訪は推理小説を読んでおり、自分は哲学書を広げている。それなのに、何かがいつもと違う。
そうか。ふと、気付く。以前、ふたりが喧嘩をして口を利かなくなった時の空気と、今の空気が酷似していることに。
しかし、近頃は諏訪と喧嘩をした覚えはない。
どうやら、珍しく自分ではなくて諏訪が何か悩んでいるみたいだと、ミョウジは推測した。ならば、最初に口を開くのは、自分の役目だろう。
「諏訪。喧嘩しようぜ、喧嘩」
出し抜けに、そう切り出すミョウジ。喧嘩とは、口喧嘩のことである。
「泥試合になんだろーが……」
唐突に何を言い出すのか。かつての喧嘩の様子を思い出し、諏訪は辟易とした。
「なにを悩んでるんだよ? 諏訪」
「あー……別に大したことじゃねーよ……」
「もしかして、哲学の出番じゃないか?」
ミョウジは、努めて明るく振る舞う。
「あー……そうだな……」
諏訪は本を閉じて、重い口を開いた。
「俺たちの関係って、なんか、よく分かんねーことになってんな……って…………」
「なるほど」と頷き、ミョウジは哲学書を閉じる。
今の自分たちは、友人であり、恋人である。確かに、少し複雑かもしれない。
「実益が友情を生むんじゃなくて、友情が実益を生むもんだと思うんだけど。それじゃあ、愛情は何を生むんだろうね?」
ミョウジは問う。
「…………」
「オレが思うに、愛は何も生まない。何も生まなくても、相手に与えてしまいたくなるものだと思う。それは押し付けって意味じゃなくて、愛は見返りを求めないっていう一般論と同じ意味な」
一方、ミョウジの恋は押し付けである。恋は祟るが、愛は祟らない。それは、今は置いておくが。
「オレたちの関係は、友人であり恋人であるとしか言えないよな。友人から恋人に繰り上がったとか、そういうことじゃないからさ」
「あー、それだ。友情より愛情が上みたいに言われると違和感があるな」
そんなことを誰かに言われたワケではないが、諏訪は自分の中のモヤつきを言語化出来た気がした。
きっと、これは元々自分の中にあった疑問。友情<愛情という図式が散見される、世の中への疑問。そのような疑問を持っていたことにさえ気付いていなかった自分だが、ミョウジの哲学を聞いて、はっきりした。
「……俺たちが気にすることじゃねーな」
「だな。オレたちは、友人であり恋人で、更に言うなら同じボーダーという仲間だからな。複雑なものは複雑なまま受け入れとこうぜ」
「そうだよな」
諏訪は、口角を引き上げる。
「哲学が役に立って、なによりだよ」
諏訪につられて、ミョウジも笑った。
太刀川慶は、ボーダー本部にいるミョウジナマエと諏訪洸太郎を観察する。ふたりの距離感が縮まっていて。ふたりの間に流れる空気が甘くなっていて。ふたりの男は、幸せそうに見えた。
きっと自分だけでなく、色々な人が気付いているんだろうな、とも思う。
例えば、諏訪隊の隊員とか、麻雀仲間とか。ミョウジの片想いにも気付いていたであろう人々。
ミョウジは片想いを特に隠してはいなかったし、訊かれたら普通に答えていたようだから、結構な人数が彼の片想いを見守っていたのかもしれない。
太刀川が、ミョウジをどう見ていたかというと、ただ、ずっと面白い人だなと思っていた。
ミョウジナマエは見ていて飽きない男だった。
彼は、真剣であればあるほど、やることが面白くなる。ミョウジは、単純なバカであるが故に、自身を複雑怪奇にしてしまう男であった。
ほんの少し前までは。
最近の素直なミョウジは、それはそれで太刀川には好ましく映った。
太刀川慶はミョウジナマエをよく見ていて、彼の真摯な想いをよく見てきて、それが段々欲しくなってしまったのだ。
ところで、ミョウジは友達が少ない。諏訪と太刀川くらいしか、特に親しいと言える人間はいないようだった。
何故、彼は自分ではなく諏訪を好きになったのだろう。どうして、あの想いを向けられるのが自分ではないのだろう。
身勝手な疑問が次々と浮かぶ。
「諏訪さんが、ミョウジさんの想いに応えてくれないままで辛くないの?」
ある日、そのひとつをミョウジに直接ぶつけてしまった。隊室に遊びに来ていたミョウジは、太刀川の質問に驚いた表情になり、その後に「ああ?」とあからさまに不機嫌そうな声を出して睨んでくる。ガラが悪い。
「いや、いいもんだよ。片想い」
「どうして?」
「両想いだと、喜びよりも、いずれ別れるかもしれない不安の方が大きそうじゃん?」
「暗っ!」
「誰が、根暗お喋り野郎だコラァ!」
「そこまで言ってない!」
太刀川は、ミョウジを「好き」ではない。ミョウジの片想いを「好き」だったのだ。
この、妙な想いに決着をつけたいと太刀川は考えている。じっと見ていたミョウジと諏訪が別れたタイミングで、話しかけることにした。
「ミョウジさん」
「よう、太刀川」
「好きです」
「は…………?」
ミョウジは、ぽかんとする。
「うーん。やっぱり違うな。ミョウジさんのことは友達だと思ってるよ」
「いや、待て。さっきのなんだよ?」
なんで、自分が太刀川に告白してフラれたみたいな台詞を吐かれているのか? 当然、ミョウジには分からない。
「ミョウジさんの片想いのファンだったんですよ、俺」
「片想いのファン…………?」
「ミョウジさん、諏訪さんと付き合い始めたでしょ? それはそれで、祝福してますよ」
「え……? ありがとう……?」
「まあ、俺が言いたいのは、おめでとうってことです」
「おう…………」
なんだかよく分からないが、太刀川は両想いを祝ってくれているらしい。
「ありがとな」と礼を言っておく。
「いえいえ」
太刀川は、ニコニコとしている。
「あ、そうだ。これやるよ、太刀川」
「え?」
ミョウジは上着のポケットから、個包装された餅を取り出し、太刀川に渡した。
「なんでポケットから餅が?」
「ここに来る前、バタバタしてて、いつの間にか紛れ込んでたんだよ、ソレ」
実はミョウジの家は、一年中、餅とアイスクリームを食べる習慣があり、それらが常備されているのだ。
「ミョウジさんって、やっぱり面白いなー」
太刀川は、しみじみと呟いた。
◆◆◆
一方その頃、作戦室へ向かった諏訪は。
「諏訪さん」
「すわさん」
「ミョウジさんと付き合ってるんですか?」
堤と小佐野と笹森に、質問されていた。
「……そうだよ、わりーかよ」
「いいに決まってるでしょ」
「そうですよ、最近のミョウジさん、明らかに諏訪さんのことが好きでしたし」
「3人で陰ながら応援してたんですよ」
「おまえら、面白がってんな?」
好奇の入り交じる隊員たちの瞳を見て、諏訪は言う。
「もう、1ヶ月くらい、ミョウジさんの片想いを見てたんですよ? オレたち」と、笹森。
「そーそー」
「そうですよ、だから、少しくらい話を聞かせてほしいんですよ」
3人とも、諏訪とミョウジの馴れ初めやら何やらに興味があるようだ。
「なにがそんなに気になるってんだよ?」
諏訪が言い返すと。
「まず、ミョウジさんって、2月から急に諏訪さんのこと好きになったんじゃないですよね?」
「ふたりの時ってどんな会話してるの~?」
「諏訪さんは、いつからミョウジさんを好きになったんですか?」
「っだー! うるせーうるせー! 黙秘だ黙秘!」
そう吠えると、諏訪は作戦室から足早に出て行ってしまった。
「逃げた~」
「逃げたな」
「逃げられましたね」
隊員たちから逃げた諏訪は、ひとりで考える。ミョウジはいつから自分のことを好きなのか? 具体的な時期は知らない。しかし、去年のバレンタインデーには既に好きだったのだろう。
ふたりの時の会話……? 至って普通だ。恋人らしい会話というものは、特にしていない気がする。
自分が、いつからミョウジを好きか? いつからだろう。友情に愛情が混ざるようになったのは。
「知るか、そんなこと……」
諏訪は独り言ちた。
◆◆◆
ミョウジと諏訪、ふたりきりの諏訪隊作戦室にて。ミョウジは、いつもとは違う妙な空気を感じていた。肌にピリピリと、何かが当たっているような気さえする。いつも通りに、諏訪は推理小説を読んでおり、自分は哲学書を広げている。それなのに、何かがいつもと違う。
そうか。ふと、気付く。以前、ふたりが喧嘩をして口を利かなくなった時の空気と、今の空気が酷似していることに。
しかし、近頃は諏訪と喧嘩をした覚えはない。
どうやら、珍しく自分ではなくて諏訪が何か悩んでいるみたいだと、ミョウジは推測した。ならば、最初に口を開くのは、自分の役目だろう。
「諏訪。喧嘩しようぜ、喧嘩」
出し抜けに、そう切り出すミョウジ。喧嘩とは、口喧嘩のことである。
「泥試合になんだろーが……」
唐突に何を言い出すのか。かつての喧嘩の様子を思い出し、諏訪は辟易とした。
「なにを悩んでるんだよ? 諏訪」
「あー……別に大したことじゃねーよ……」
「もしかして、哲学の出番じゃないか?」
ミョウジは、努めて明るく振る舞う。
「あー……そうだな……」
諏訪は本を閉じて、重い口を開いた。
「俺たちの関係って、なんか、よく分かんねーことになってんな……って…………」
「なるほど」と頷き、ミョウジは哲学書を閉じる。
今の自分たちは、友人であり、恋人である。確かに、少し複雑かもしれない。
「実益が友情を生むんじゃなくて、友情が実益を生むもんだと思うんだけど。それじゃあ、愛情は何を生むんだろうね?」
ミョウジは問う。
「…………」
「オレが思うに、愛は何も生まない。何も生まなくても、相手に与えてしまいたくなるものだと思う。それは押し付けって意味じゃなくて、愛は見返りを求めないっていう一般論と同じ意味な」
一方、ミョウジの恋は押し付けである。恋は祟るが、愛は祟らない。それは、今は置いておくが。
「オレたちの関係は、友人であり恋人であるとしか言えないよな。友人から恋人に繰り上がったとか、そういうことじゃないからさ」
「あー、それだ。友情より愛情が上みたいに言われると違和感があるな」
そんなことを誰かに言われたワケではないが、諏訪は自分の中のモヤつきを言語化出来た気がした。
きっと、これは元々自分の中にあった疑問。友情<愛情という図式が散見される、世の中への疑問。そのような疑問を持っていたことにさえ気付いていなかった自分だが、ミョウジの哲学を聞いて、はっきりした。
「……俺たちが気にすることじゃねーな」
「だな。オレたちは、友人であり恋人で、更に言うなら同じボーダーという仲間だからな。複雑なものは複雑なまま受け入れとこうぜ」
「そうだよな」
諏訪は、口角を引き上げる。
「哲学が役に立って、なによりだよ」
諏訪につられて、ミョウジも笑った。