私という一頁の物語

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 近界民の少年の精神鑑定をするよう、城戸さんから指令が下った。

「はじめまして、空閑遊真くん。私は、現海砂子。ボーダーでカウンセラーをしている。よろしくね。呼ぶ時は、砂子でいいよ」
「はじめまして。よろしくお願いします、すなこさん」

 クライアント用の椅子に座っている白い髪の小柄な少年は、カウンセリングルームを見渡し、物珍しそうにしている。

「ところで、かうんせりんぐとは?」
「精神の調子を整えるために対話することだよ」
「なるほど。精神統一?」
「も、含むかな。今回は、城戸さんが強制的に来させたけど、来たくなったら、いつでもおいで」
「どうもどうも、ご親切に」
「では、始めようか」

 私は、すでにこの子を人間だと思っていた。やっぱり、人型近界民って、そうなのか。

「空閑くんは、ずっと戦時下にいたんだって?」
「うん。ずっと戦ってたよ」
「PTSDはある?」
「ぴーてぃー?」
「心的外傷後ストレス障害。繰り返し思い出してしまう辛い記憶とかない?」
「たまに思い出すよ、親父が死んだ時のこと」

 空閑くんは、顔色を変えずに言う。

「そうか。それは、辛かった?」
「辛いとか悲しいとかもなくはないけど、どうして? って思った。おれを庇って死んだから」

 家族が自分を庇って亡くなったと聞いて、私は少し嫌な気持ちになった。なかなか体験することじゃない。彼は、15歳の子供だ。全く傷がない訳ではないだろう。
 何故庇って死んだのか? 君を愛していたからじゃないか?

「生きていれば、いつか分かるかもね」
「うん」

 ずっと戦場にいた子供。日常的に殺し合いをしていた子供。私は、同調を避けるために、無理矢理せんべいを食べた。

「美味しいよ、カレーせんべい」
「ほほう。いただきます」

 空閑くんは、カレーせんべいを食べて、お茶を飲む。
 その後、バウムテストやロールシャッハ・テストをしてもらった。
 結論。空閑くんは、精神に異常はない。
 戦争は異常だが、それが日常だった彼は、立派な戦士だ。その事実に、泣きたくなるけど、それは私には許されていない。

「お疲れ様。カウンセリングは、これで終わりだよ」
「お疲れ様です。すなこさんは、どうしてこの仕事を?」
「向いてるんだ。人に肩入れし過ぎないから」
「なるほど」

 納得してくれたらしい。信用してもらえるといいんだけど。
 誰かが勝ち取った平和を、君が享受出来たらなぁ。
 でも、そうはならない。君は、戦い続けるんだろう。
 それなら、私は私の戦いをするよ。
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