私という一頁の物語
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イレギュラー門なんてものが開くようになった。このままでは、いずれ犠牲者が出かねない。
「勘弁してくれ…………」
デスクに突っ伏して、文句を垂れる。
直接の犠牲者だけでは済まない。犠牲が出たことで精神に傷を作る者が、必ずいる。そして、人から人へ伝播し、不安や焦燥感は広がるのだ。
「……仕事が増えるだろ」
実のところ、そんなことはどうでもいい。私が暇なのが一番だが。人を助けられるなら、助けるよ。問題は、私がひとりしかいないこと。
足りてない。間に合わない。でも、どうしようもない。
元々、カウンセラー候補は他にもいた。ただ、みんな、“優し過ぎた”んだ。戦時下である三門に留まったのは、私だけ。他者と同調しないでいられたのは、心が分からない私だけ。
私は、独りでも進んだ。地べたを這いずり、泥にまみれながら。
差し伸べる手だけは、出来るだけ綺麗に取り繕った。
「やめたい?」
人間の振り。あんまり上手くないけどさぁ。
当真くんに、ガラス製の精神を見られちゃったしなぁ。
子供を言い訳に使うな。怠惰なだけだ。
「逃げたいのか?」
戻る道なんてないよ。
ノックの音が、私を呼んだ。
「はい。どうぞ」
「失礼します」
カウンセリングは、つつがなく終わり、昼休憩時間。
カウンセリングルームの外へ出る。
「砂子さん」
待ち伏せしていたかのようなタイミングで、彼が来た。
「……当真くん」
「もっと嫌そうにしろよ」
「別に嫌じゃないし」
「へぇ。意外ですね」
あれは、事故だもの。
「なにか用?」
「あんた、必要じゃねーんだよ、俺には」
「それは何より」
心身ともに健康なのは、いいことだ。
「でも、あんたには、俺が必要だと思うぜ」
当真くんが、壁に片腕を置き、私を見ている。これ、あれだ。なんか不穏な壁ドン。
「どういうこと?」
背の高い彼を見上げて、私は問う。
「弱いじゃねーか、あんた」
「それは、まあ。そういうとこもあるけど」
「他にもいるんですか? 砂子さんの弱み見た人」
「いない、と思う」
「そりゃ、よかった」
当真くんは、楽しそうに笑った。なんでだろう?
「楽しい?」
「すげー楽しい」
「そう」
まあいいか。たぶん、私が珍獣か何かに見えてるんだろう。
「当真くん、一緒に食堂行く?」
「行きます」
私の歩幅に合わせてくれる彼は、終始、本当に楽しそうだった。
「牛丼ください。ご飯大盛で」
それぞれ昼ご飯を注文し、向かい合って席に着く。
「俺、今度、遠征に行くんですよ」
「そうなんだ。気を付けてね」
「なにか貸してくれません?」
「んん? なにか?」
「お守り的なやつ」
「持ってないなぁ」
「別に、なんでもいいんですよ」
なんでも、と言われても。
カウンセリングルームにあるものを思い浮かべる。
「ぬいぐるみ、はかさ張るから。あ、そうだ」
白衣のポケットから、鍵を取り出す。そして、キーホルダーのように使っている小さなレンチを外した。
「はい、レンチ」
「はぁ?」
「嫌?」
「ふ、ははっ! いや、ありがとうございます」
絶対に返すことを約束して、彼はレンチをしまう。
そんなものでいいなら、いつでも貸すよ。
「勘弁してくれ…………」
デスクに突っ伏して、文句を垂れる。
直接の犠牲者だけでは済まない。犠牲が出たことで精神に傷を作る者が、必ずいる。そして、人から人へ伝播し、不安や焦燥感は広がるのだ。
「……仕事が増えるだろ」
実のところ、そんなことはどうでもいい。私が暇なのが一番だが。人を助けられるなら、助けるよ。問題は、私がひとりしかいないこと。
足りてない。間に合わない。でも、どうしようもない。
元々、カウンセラー候補は他にもいた。ただ、みんな、“優し過ぎた”んだ。戦時下である三門に留まったのは、私だけ。他者と同調しないでいられたのは、心が分からない私だけ。
私は、独りでも進んだ。地べたを這いずり、泥にまみれながら。
差し伸べる手だけは、出来るだけ綺麗に取り繕った。
「やめたい?」
人間の振り。あんまり上手くないけどさぁ。
当真くんに、ガラス製の精神を見られちゃったしなぁ。
子供を言い訳に使うな。怠惰なだけだ。
「逃げたいのか?」
戻る道なんてないよ。
ノックの音が、私を呼んだ。
「はい。どうぞ」
「失礼します」
カウンセリングは、つつがなく終わり、昼休憩時間。
カウンセリングルームの外へ出る。
「砂子さん」
待ち伏せしていたかのようなタイミングで、彼が来た。
「……当真くん」
「もっと嫌そうにしろよ」
「別に嫌じゃないし」
「へぇ。意外ですね」
あれは、事故だもの。
「なにか用?」
「あんた、必要じゃねーんだよ、俺には」
「それは何より」
心身ともに健康なのは、いいことだ。
「でも、あんたには、俺が必要だと思うぜ」
当真くんが、壁に片腕を置き、私を見ている。これ、あれだ。なんか不穏な壁ドン。
「どういうこと?」
背の高い彼を見上げて、私は問う。
「弱いじゃねーか、あんた」
「それは、まあ。そういうとこもあるけど」
「他にもいるんですか? 砂子さんの弱み見た人」
「いない、と思う」
「そりゃ、よかった」
当真くんは、楽しそうに笑った。なんでだろう?
「楽しい?」
「すげー楽しい」
「そう」
まあいいか。たぶん、私が珍獣か何かに見えてるんだろう。
「当真くん、一緒に食堂行く?」
「行きます」
私の歩幅に合わせてくれる彼は、終始、本当に楽しそうだった。
「牛丼ください。ご飯大盛で」
それぞれ昼ご飯を注文し、向かい合って席に着く。
「俺、今度、遠征に行くんですよ」
「そうなんだ。気を付けてね」
「なにか貸してくれません?」
「んん? なにか?」
「お守り的なやつ」
「持ってないなぁ」
「別に、なんでもいいんですよ」
なんでも、と言われても。
カウンセリングルームにあるものを思い浮かべる。
「ぬいぐるみ、はかさ張るから。あ、そうだ」
白衣のポケットから、鍵を取り出す。そして、キーホルダーのように使っている小さなレンチを外した。
「はい、レンチ」
「はぁ?」
「嫌?」
「ふ、ははっ! いや、ありがとうございます」
絶対に返すことを約束して、彼はレンチをしまう。
そんなものでいいなら、いつでも貸すよ。