煙シリーズおまけ
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小学生の頃、ふたりは名探偵だった。
ミョウジナマエの親友の諏訪洸太郎が、推理小説が好きだから、探偵団を結成し、様々な事件を解決した。と言っても、迷子探しとか逃げた猫探しとか落とし物探しとかばかりだが。
でも、どれもが煌めく思い出である。
そんなふたりは、大人になっても仲良くしていた。同じ大学だし、同じボーダーの仲間だし。
ミョウジと諏訪は、今日もなんだかんだと一緒に過ごしている。
ミョウジの部屋のベランダに並び、ふたりで煙草を燻らせた。
「洸太郎」
「なんだ?」
「覚えてる? 昔した、約束」
「どれだよ」
約束なんて、腐るほどしている。「絶対にオレを置いてかないで」とか「オレのこと見捨てないで」とか。ミョウジがいちいちうるさいから。
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎に依存している。それは、ミョウジの交友関係の広がりと共に、年々薄れてきていると感じた。
人見知りなミョウジナマエは、いつも諏訪洸太郎の背中に隠れている子供だったけれど。今は、そんなことはない。
「覚えてねぇなら、いいよ」
「なんだよ。拗ねんな」
「洸太郎、彼女と結婚すんの?」
「あ? あー。まだ考えてねーな」
「そう」
諏訪は、一月前から、同じ大学の女子と付き合っている。ミョウジは、中学生の頃に一度だけ女子と付き合ったことがあるが、彼曰く「フラれた」らしい。
諏訪は、見た目がヤンキーだから敬遠されがちだが、その人の好さは、折り紙付きである。
「彼女、いい人だよね。しっかりしてるし」
「ああ」
「……オレが女だったらさ」
「ああ?」
ミョウジは俯き、煙を吐いた。
「おまえと付き合ってたかな?」
「……さぁな」
「…………」
どうでもいいことを言ったと、後悔するミョウジ。いや、本当は、どうでもよくなんてない。
たったひとつの願い事。みんなには、くだらないこと。
“おとなになったら、けっこんしてね”
“うん”
“やくそくだよ”
“わかった”
子供の頃の約束。ミョウジの我が儘。いつまで経っても忘れられない記憶。
もう無効なのかな?
ミョウジナマエは、遠くを見つめて、ほんのりバニラの香りのする煙草を吸った。
◆◆◆
「諏訪くん?」
「ん?」
大学の講義の合間に、ベンチに並ぶ恋人たち。
「そのライターさ、いつから持ってるの?」
恋人が、諏訪のライターを指差す。黒い炎が描かれたライター。
「元カノからもらったものだったり?」
「まさか。ナマエだよ」
「ミョウジくんかぁ。ほんとに仲良しだよね」
「まぁな。二十歳の誕生日にもらったんだ」
「妬けるねぇ」と、彼女は笑った。
ミョウジが、彼女を恨んでいることなど、露知らず。精神的に余裕のある者の笑みを浮かべる。
「私も、幼馴染みだったらよかったのにな」
「腐れ縁だよ、アイツとは」
「私とミョウジくんが溺れてたらさ、ミョウジくんを助けてあげなよ」
「はぁ? なんでだよ?」
どっちも助けちゃダメなのかよ?
諏訪は、反論しようとした。
「私はね、ひとりで立ってられる人間なの。でも、ミョウジくんは違うと思う」
「…………」
「ミョウジくんって、鳴かぬ蛍が身を焦がすって感じ? 諏訪くんも気付いてるでしょ?」
「ナマエは、ただ依存気味なだけだろ……」
「違うよ。ミョウジくんの想いは、それだけじゃないよ。きっと、今も自分の炎に焼かれてる」
ミョウジは、「助けて」を言わない。歳を重ねるに連れて、言えなくなっている。
「だから、お別れ。ちゃんと、ふたりで話し合いなよ?」
手を振り、彼女は去って行く。
諏訪は、スマートフォンを取り出し、ミョウジにメッセージを送る。
『フラれた』
『マジ?』
『マジ』
『今どこ?』
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎の元に飛んで来た。
「大丈夫か?」
「おう」
「なんでフラれた?」
「俺が、おまえを好きだから」
「はい?」
ミョウジは、呆気にとられている。それは、そうだろう。
「ナマエ、約束覚えてるか?」
「ど、どの?」
「大人になったら、結婚するってやつ」
「それ、は……覚えて、る…………」
諏訪は、「結婚しよう」と、ミョウジの手を握って言った。
「オレ、ずっと……覚えてた…………」
ミョウジは、はらはらと涙をこぼす。
「オレだけ覚えてると思ってた。おまえは月明かりみたいに優しい奴だから、たくさんの人に好かれてるから。オレなんて選ばないって、思って……」
「おまえも、俺にとっては明かりなんだよ。ナマエは、炎みたいな奴だ」
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎の手を、両手で掴んだ。
「大人になったから、結婚してね」
「ああ」
左手で、ミョウジの頭を撫でながら、諏訪は笑う。
「ムカつく」
「なんでだよ」
「なんで、オレだけ泣いてんだよぉ!」
「うるせー、泣き虫」
「ムカつく~!」
かつて、泣き虫だった子供は、大きくなってからも、心の中では泣いていた。
こんな人間、置いてけ。置いてかないで。
こんな人間、捨てろ。見捨てないで。
相反する心。継ぎ接ぎの精神。ガラス細工の世界。
おまえがいなきゃ、見付けられない色がある。
「ナマエ、愛してるから、心配すんな」
「愛してるけど、心配はする……」
「バカ」
「バカでもなんでもいい。世界で一番にしてくれなきゃ、嫌だ」
「とっくの昔に約束したろ、それ」
それは、数ある約束のうちの、ひとつ。
“せかいでいちばん、とくべつにして!”
“せかいでいちばん、とくべつだ”
ミョウジナマエの親友の諏訪洸太郎が、推理小説が好きだから、探偵団を結成し、様々な事件を解決した。と言っても、迷子探しとか逃げた猫探しとか落とし物探しとかばかりだが。
でも、どれもが煌めく思い出である。
そんなふたりは、大人になっても仲良くしていた。同じ大学だし、同じボーダーの仲間だし。
ミョウジと諏訪は、今日もなんだかんだと一緒に過ごしている。
ミョウジの部屋のベランダに並び、ふたりで煙草を燻らせた。
「洸太郎」
「なんだ?」
「覚えてる? 昔した、約束」
「どれだよ」
約束なんて、腐るほどしている。「絶対にオレを置いてかないで」とか「オレのこと見捨てないで」とか。ミョウジがいちいちうるさいから。
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎に依存している。それは、ミョウジの交友関係の広がりと共に、年々薄れてきていると感じた。
人見知りなミョウジナマエは、いつも諏訪洸太郎の背中に隠れている子供だったけれど。今は、そんなことはない。
「覚えてねぇなら、いいよ」
「なんだよ。拗ねんな」
「洸太郎、彼女と結婚すんの?」
「あ? あー。まだ考えてねーな」
「そう」
諏訪は、一月前から、同じ大学の女子と付き合っている。ミョウジは、中学生の頃に一度だけ女子と付き合ったことがあるが、彼曰く「フラれた」らしい。
諏訪は、見た目がヤンキーだから敬遠されがちだが、その人の好さは、折り紙付きである。
「彼女、いい人だよね。しっかりしてるし」
「ああ」
「……オレが女だったらさ」
「ああ?」
ミョウジは俯き、煙を吐いた。
「おまえと付き合ってたかな?」
「……さぁな」
「…………」
どうでもいいことを言ったと、後悔するミョウジ。いや、本当は、どうでもよくなんてない。
たったひとつの願い事。みんなには、くだらないこと。
“おとなになったら、けっこんしてね”
“うん”
“やくそくだよ”
“わかった”
子供の頃の約束。ミョウジの我が儘。いつまで経っても忘れられない記憶。
もう無効なのかな?
ミョウジナマエは、遠くを見つめて、ほんのりバニラの香りのする煙草を吸った。
◆◆◆
「諏訪くん?」
「ん?」
大学の講義の合間に、ベンチに並ぶ恋人たち。
「そのライターさ、いつから持ってるの?」
恋人が、諏訪のライターを指差す。黒い炎が描かれたライター。
「元カノからもらったものだったり?」
「まさか。ナマエだよ」
「ミョウジくんかぁ。ほんとに仲良しだよね」
「まぁな。二十歳の誕生日にもらったんだ」
「妬けるねぇ」と、彼女は笑った。
ミョウジが、彼女を恨んでいることなど、露知らず。精神的に余裕のある者の笑みを浮かべる。
「私も、幼馴染みだったらよかったのにな」
「腐れ縁だよ、アイツとは」
「私とミョウジくんが溺れてたらさ、ミョウジくんを助けてあげなよ」
「はぁ? なんでだよ?」
どっちも助けちゃダメなのかよ?
諏訪は、反論しようとした。
「私はね、ひとりで立ってられる人間なの。でも、ミョウジくんは違うと思う」
「…………」
「ミョウジくんって、鳴かぬ蛍が身を焦がすって感じ? 諏訪くんも気付いてるでしょ?」
「ナマエは、ただ依存気味なだけだろ……」
「違うよ。ミョウジくんの想いは、それだけじゃないよ。きっと、今も自分の炎に焼かれてる」
ミョウジは、「助けて」を言わない。歳を重ねるに連れて、言えなくなっている。
「だから、お別れ。ちゃんと、ふたりで話し合いなよ?」
手を振り、彼女は去って行く。
諏訪は、スマートフォンを取り出し、ミョウジにメッセージを送る。
『フラれた』
『マジ?』
『マジ』
『今どこ?』
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎の元に飛んで来た。
「大丈夫か?」
「おう」
「なんでフラれた?」
「俺が、おまえを好きだから」
「はい?」
ミョウジは、呆気にとられている。それは、そうだろう。
「ナマエ、約束覚えてるか?」
「ど、どの?」
「大人になったら、結婚するってやつ」
「それ、は……覚えて、る…………」
諏訪は、「結婚しよう」と、ミョウジの手を握って言った。
「オレ、ずっと……覚えてた…………」
ミョウジは、はらはらと涙をこぼす。
「オレだけ覚えてると思ってた。おまえは月明かりみたいに優しい奴だから、たくさんの人に好かれてるから。オレなんて選ばないって、思って……」
「おまえも、俺にとっては明かりなんだよ。ナマエは、炎みたいな奴だ」
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎の手を、両手で掴んだ。
「大人になったから、結婚してね」
「ああ」
左手で、ミョウジの頭を撫でながら、諏訪は笑う。
「ムカつく」
「なんでだよ」
「なんで、オレだけ泣いてんだよぉ!」
「うるせー、泣き虫」
「ムカつく~!」
かつて、泣き虫だった子供は、大きくなってからも、心の中では泣いていた。
こんな人間、置いてけ。置いてかないで。
こんな人間、捨てろ。見捨てないで。
相反する心。継ぎ接ぎの精神。ガラス細工の世界。
おまえがいなきゃ、見付けられない色がある。
「ナマエ、愛してるから、心配すんな」
「愛してるけど、心配はする……」
「バカ」
「バカでもなんでもいい。世界で一番にしてくれなきゃ、嫌だ」
「とっくの昔に約束したろ、それ」
それは、数ある約束のうちの、ひとつ。
“せかいでいちばん、とくべつにして!”
“せかいでいちばん、とくべつだ”