煙シリーズ
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一方的に知っている眼鏡の少年が、記者らしき男に絡まれていた。
ミョウジナマエは、助け船を出すことにする。
「初めまして、こんにちは! 後輩に何か?」
「誰だ? 君は……私は彼に用があるんだよ」
「でも、オレもボーダーですから、ほら暗黙の了解的に、後輩を矢面に立たせてはならない的な習わしがあるかもって感じなので、介入する権利があるに違いないでしょ」
「はぁ?」
「彼は未成年ですから、質問にはオレが答えますよ」
少年を自分の背に追いやり、記者と向き合う。
「やれやれ。ボーダーは、拐われた人を捜索しに行くと言いましたが、勝算はあるんですか?」
男は、訝しげにミョウジに尋ねた。
ここは、煙巻き語法の奥義を使うしかない。
「その質問の答えは、アウデンテムですねぇ。すいません、適切な日本語訳が思い付きませんでしたので、魂の故郷の言葉で失礼。やはり、フォルスクゥェ・ウェヌスクゥェと言われると困りますが。ユウァトってことは解決ですね」
「え?」
「では、また今度」
早口で捲し立て、相手が虚をつかれているうちに、とっとと逃げるに限る。
ミョウジは、記者と同じくポカンとしている少年の腕を取り、全速力で走りだした。
そして、完全に記者の姿が見えなくなってから。
「は~怖かった。向こうが、オレより言霊レベルが高かったらヤバいことになってたかもしれねぇ。ザコだったから助かった。顔の横にレベル表示しといてほしいよな」
「言霊レベル……?」
「キミの言霊レベルは結構いい感じだと思うよ。オレが思うに、言霊の真髄は人の好さとか真面目さとかだからなぁ。オレの流派では性格の悪さだけど。あ、でも……戦術は結構性格悪いよな、キミ。欲張りメガネかよ」
ミョウジは、笑いながら言う。
「言霊ランク戦があったら、今頃かなりポイント稼げてるだろ、オレ~」
けらけらと軽薄に笑う男。
「先輩っぽいことしたの人生初だわ。あと、久し振りにデタラメ言った。オレの罪業と善行のバランスどうなってんの、今」
ミョウジに助けられた三雲修が口を挟む余地を与えず、喋り続ける様は、まさにマシンガントーク。
「まあいいか、キミはこれからもボーダーで……えーと、目標に向かって……あー、がんばれ!」
急に歯切れが悪くなった。
「全然、上手いこと思い付かなかった! ごめんな! がんばれ! それじゃ!」
騒がしい男が去った後も、彼が口から出した言葉が中空を漂い、耳から頭に入り込んでノイズのように響いている。
しかし印象がぼやけて、何を言われたのか段々分からなくなってきた。内容を咀嚼しようとすると霧散してしまい、意味が零れ落ちていく。
そんな中で、「がんばれ!」という明確な応援だけが残った。
それもそのはず。初めから、そこ意外に意味なんてないのだ。
「あ…………」
たった今、名前を聞いていないことに、三雲は気付いた。
時すでに遅く、男の姿は影も形もない。
なんとなく名乗るのが恥ずかしく、わざわざ名乗るほどの者ではないと言うのも恥ずかしいと思った男は、上手く逃げおおせた。煙たい逃げ口上だけを残して。
◆◆◆
数日前の、ミョウジナマエと諏訪洸太郎の会話。
「オレが戦うのに向いてないのはそうだけど、それだけじゃねぇ。オレは、ボーダーに向いてねぇんだよ」
ミョウジが向いてるものは、ディベートの際に、悪魔になること。
「誰にも言ったことないし、おまえには言う気ないけど、オレ、ボーダーの悪口いくらでも言えるからな。そこらのアンチには負ける気がしねぇ。それに、多数派の意見に噛み付くのも得意だし」
「そうか」
「だからオレは、メディア対策室に入れてもらおうと思う」
「応援する」
「サンキュー」
そして、3月1日がきた。
「今日から、こちらでお世話になります。ミョウジナマエです」
「よろしく」
メディア対策室長の根付栄蔵は、ミョウジの能力を高く買ってくれている。
本日より、ミョウジの仕事は、ボーダーのアンチの監視や印象操作、対策会議でのボーダーのアンチとしての意見を述べることになった。
自分のデスクに向かい、パソコンと向き合う。戦闘員としての仕事とは全く違うが、苦にはならなかった。
ポップスに混ざるノイズミュージックには、利用価値があったんだなぁ。と、しみじみした。
その後、初めて対策会議に出ることになる。
「では、次の広報部隊の活動についてですが、何かありますか?」
「はい。アンチ団体のひとつが、広報イベントに踏み込もうとしてます」
ミョウジは、報告した。
「対策は?」
「ネットで内部に紛れ込み、士気を下げてる最中です」
「よろしい。経過報告を忘れないように」
「はい」
それからは、適宜、アンチとして反論したり、批判を挙げ連ね、対策会議の質を上げることに貢献するミョウジ。水を得た魚のようだった。
休憩時間になり、喫煙室に行くと、諏訪がいる。
「よう。お疲れ」
「お疲れさん。意外とスーツ似合うじゃねーか」
「はは。ありがと」
いつもの煙草を取り出し、ライターで火を着けた。
諏訪の隣に腰かける。
「メディア対策室で、やっていけそうだよ、オレ」
「そうか。よかった」
安心した、と微笑む諏訪。
「なぁ、洸太郎」
「ん?」
「おまえのこと、愛してるよ」
ここまで、本当に長かった。散々遠回りして、道に迷って、辿り着いた答え。
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎を愛している。この想いは、美しくない。けれど、必死に花のような想いを集めて、花束を作った。どうか、この不出来な花束を受け取ってほしい。
「俺も、ナマエを愛してる」
「ありがとう。ほんとに嬉しい」
ミョウジは、はにかんだ。その表情が、あまりにも愛おしく、諏訪は恋人の空いている手を取り、指を絡ませる。
ミョウジも、諏訪の手に指を絡めた。心臓が、ドキドキする。
しばらく、そのまま無言の時が流れた。前のミョウジナマエだったなら、沈黙に耐えられず、ペラペラと喋っていたことだろう。
今は、全く平気だ。家族といる時と変わらない。静寂も苦ではない。
ミョウジは諏訪に対して、深い慈しみと、敬愛と、ドロドロした好意と、強い執着を抱いている。けれど、もう祟らない。呪わない。ただ、真っ直ぐに彼を恋慕い、愛そうと思った。
「おまえに呪いをかけそこなった」
「あ?」
「もういらないんだぁ。そういうの。なくても安心出来てるから」
この先なにがあっても、ミョウジナマエは、諏訪洸太郎を愛すのだろう。
そして自分は、彼に花束を渡し続ける。
「運も愛も大胆に振る舞う者の味方をする。ってな」と、オウィディウスの『恋の技法』からの引用をするミョウジ。
ラテン語では、「アウデンテム・フォルスクゥェ・ウェヌスクゥェ・ユウァト」と言う。魂の故郷の言葉である。
おまえに、全部あげるよ。オレの全て。ちょっと重いかもしれないけど、もらってくれ。
ずっと、おまえの隣に立って、同じ方向を見るよ。同じ道を歩くよ。
居場所を守るために、ミョウジナマエは、あがき続けることを誓う。
かつて、彼にとっては、家の外の世界中が敵だった。
心を開ける友もなく、恋する相手も、尊敬する師もなく、ひとりきり。別に、それでも人生は回る。家族がいれば、それでよかった。
今のミョウジは欲張りだから、家族はもちろん、友人も恋人も仲間も手放したくはない。
オレは、いつも犯人で、おまえは、名探偵だったけど。配役を変えられるなら、オレは、おまえの助手になりたい。
いつの日か、真実に辿り着くであろう諏訪洸太郎を、自分が支えよう。
これは、エゴかもしれないが、おまえを助けるのは、オレがいいんだ。
だから、いつまでも隣に。
ミョウジナマエは、助け船を出すことにする。
「初めまして、こんにちは! 後輩に何か?」
「誰だ? 君は……私は彼に用があるんだよ」
「でも、オレもボーダーですから、ほら暗黙の了解的に、後輩を矢面に立たせてはならない的な習わしがあるかもって感じなので、介入する権利があるに違いないでしょ」
「はぁ?」
「彼は未成年ですから、質問にはオレが答えますよ」
少年を自分の背に追いやり、記者と向き合う。
「やれやれ。ボーダーは、拐われた人を捜索しに行くと言いましたが、勝算はあるんですか?」
男は、訝しげにミョウジに尋ねた。
ここは、煙巻き語法の奥義を使うしかない。
「その質問の答えは、アウデンテムですねぇ。すいません、適切な日本語訳が思い付きませんでしたので、魂の故郷の言葉で失礼。やはり、フォルスクゥェ・ウェヌスクゥェと言われると困りますが。ユウァトってことは解決ですね」
「え?」
「では、また今度」
早口で捲し立て、相手が虚をつかれているうちに、とっとと逃げるに限る。
ミョウジは、記者と同じくポカンとしている少年の腕を取り、全速力で走りだした。
そして、完全に記者の姿が見えなくなってから。
「は~怖かった。向こうが、オレより言霊レベルが高かったらヤバいことになってたかもしれねぇ。ザコだったから助かった。顔の横にレベル表示しといてほしいよな」
「言霊レベル……?」
「キミの言霊レベルは結構いい感じだと思うよ。オレが思うに、言霊の真髄は人の好さとか真面目さとかだからなぁ。オレの流派では性格の悪さだけど。あ、でも……戦術は結構性格悪いよな、キミ。欲張りメガネかよ」
ミョウジは、笑いながら言う。
「言霊ランク戦があったら、今頃かなりポイント稼げてるだろ、オレ~」
けらけらと軽薄に笑う男。
「先輩っぽいことしたの人生初だわ。あと、久し振りにデタラメ言った。オレの罪業と善行のバランスどうなってんの、今」
ミョウジに助けられた三雲修が口を挟む余地を与えず、喋り続ける様は、まさにマシンガントーク。
「まあいいか、キミはこれからもボーダーで……えーと、目標に向かって……あー、がんばれ!」
急に歯切れが悪くなった。
「全然、上手いこと思い付かなかった! ごめんな! がんばれ! それじゃ!」
騒がしい男が去った後も、彼が口から出した言葉が中空を漂い、耳から頭に入り込んでノイズのように響いている。
しかし印象がぼやけて、何を言われたのか段々分からなくなってきた。内容を咀嚼しようとすると霧散してしまい、意味が零れ落ちていく。
そんな中で、「がんばれ!」という明確な応援だけが残った。
それもそのはず。初めから、そこ意外に意味なんてないのだ。
「あ…………」
たった今、名前を聞いていないことに、三雲は気付いた。
時すでに遅く、男の姿は影も形もない。
なんとなく名乗るのが恥ずかしく、わざわざ名乗るほどの者ではないと言うのも恥ずかしいと思った男は、上手く逃げおおせた。煙たい逃げ口上だけを残して。
◆◆◆
数日前の、ミョウジナマエと諏訪洸太郎の会話。
「オレが戦うのに向いてないのはそうだけど、それだけじゃねぇ。オレは、ボーダーに向いてねぇんだよ」
ミョウジが向いてるものは、ディベートの際に、悪魔になること。
「誰にも言ったことないし、おまえには言う気ないけど、オレ、ボーダーの悪口いくらでも言えるからな。そこらのアンチには負ける気がしねぇ。それに、多数派の意見に噛み付くのも得意だし」
「そうか」
「だからオレは、メディア対策室に入れてもらおうと思う」
「応援する」
「サンキュー」
そして、3月1日がきた。
「今日から、こちらでお世話になります。ミョウジナマエです」
「よろしく」
メディア対策室長の根付栄蔵は、ミョウジの能力を高く買ってくれている。
本日より、ミョウジの仕事は、ボーダーのアンチの監視や印象操作、対策会議でのボーダーのアンチとしての意見を述べることになった。
自分のデスクに向かい、パソコンと向き合う。戦闘員としての仕事とは全く違うが、苦にはならなかった。
ポップスに混ざるノイズミュージックには、利用価値があったんだなぁ。と、しみじみした。
その後、初めて対策会議に出ることになる。
「では、次の広報部隊の活動についてですが、何かありますか?」
「はい。アンチ団体のひとつが、広報イベントに踏み込もうとしてます」
ミョウジは、報告した。
「対策は?」
「ネットで内部に紛れ込み、士気を下げてる最中です」
「よろしい。経過報告を忘れないように」
「はい」
それからは、適宜、アンチとして反論したり、批判を挙げ連ね、対策会議の質を上げることに貢献するミョウジ。水を得た魚のようだった。
休憩時間になり、喫煙室に行くと、諏訪がいる。
「よう。お疲れ」
「お疲れさん。意外とスーツ似合うじゃねーか」
「はは。ありがと」
いつもの煙草を取り出し、ライターで火を着けた。
諏訪の隣に腰かける。
「メディア対策室で、やっていけそうだよ、オレ」
「そうか。よかった」
安心した、と微笑む諏訪。
「なぁ、洸太郎」
「ん?」
「おまえのこと、愛してるよ」
ここまで、本当に長かった。散々遠回りして、道に迷って、辿り着いた答え。
ミョウジナマエは、諏訪洸太郎を愛している。この想いは、美しくない。けれど、必死に花のような想いを集めて、花束を作った。どうか、この不出来な花束を受け取ってほしい。
「俺も、ナマエを愛してる」
「ありがとう。ほんとに嬉しい」
ミョウジは、はにかんだ。その表情が、あまりにも愛おしく、諏訪は恋人の空いている手を取り、指を絡ませる。
ミョウジも、諏訪の手に指を絡めた。心臓が、ドキドキする。
しばらく、そのまま無言の時が流れた。前のミョウジナマエだったなら、沈黙に耐えられず、ペラペラと喋っていたことだろう。
今は、全く平気だ。家族といる時と変わらない。静寂も苦ではない。
ミョウジは諏訪に対して、深い慈しみと、敬愛と、ドロドロした好意と、強い執着を抱いている。けれど、もう祟らない。呪わない。ただ、真っ直ぐに彼を恋慕い、愛そうと思った。
「おまえに呪いをかけそこなった」
「あ?」
「もういらないんだぁ。そういうの。なくても安心出来てるから」
この先なにがあっても、ミョウジナマエは、諏訪洸太郎を愛すのだろう。
そして自分は、彼に花束を渡し続ける。
「運も愛も大胆に振る舞う者の味方をする。ってな」と、オウィディウスの『恋の技法』からの引用をするミョウジ。
ラテン語では、「アウデンテム・フォルスクゥェ・ウェヌスクゥェ・ユウァト」と言う。魂の故郷の言葉である。
おまえに、全部あげるよ。オレの全て。ちょっと重いかもしれないけど、もらってくれ。
ずっと、おまえの隣に立って、同じ方向を見るよ。同じ道を歩くよ。
居場所を守るために、ミョウジナマエは、あがき続けることを誓う。
かつて、彼にとっては、家の外の世界中が敵だった。
心を開ける友もなく、恋する相手も、尊敬する師もなく、ひとりきり。別に、それでも人生は回る。家族がいれば、それでよかった。
今のミョウジは欲張りだから、家族はもちろん、友人も恋人も仲間も手放したくはない。
オレは、いつも犯人で、おまえは、名探偵だったけど。配役を変えられるなら、オレは、おまえの助手になりたい。
いつの日か、真実に辿り着くであろう諏訪洸太郎を、自分が支えよう。
これは、エゴかもしれないが、おまえを助けるのは、オレがいいんだ。
だから、いつまでも隣に。