煙シリーズおまけ
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夏の終わり。ミョウジナマエが死んだ。
睡眠薬を大量に酒で飲み、死んでしまった。
意気消沈しているアイツの祖父母に代わり、叔母が諸々手続きをしたらしい。
葬式はせずに、直葬された。俺は、恋人の死に顔を見られず、唖然とする。
ナマエの家に行くと、件の叔母が、遺影と骨箱を置いてある部屋に通してくれた。
「あなた、ナマエくんの友達なの?」
「はい」
友達であり、仲間であり、恋人だったんだ。
「ナマエくんに、友達なんていたのねぇ。ほら、ずーっと、ほとんど引きこもりだったでしょう? それで、最期は自殺だなんて、親不孝者よね。兄さんたちが帰ってきたら、なんて言えばいいのかしら?」
「ナマエは、そんな…………」
親不孝者? あんなに家族を大切に想ってた奴が? 頑張って“外”で生きていたナマエが?
「ナマエくん、友達も恋人もいないだろうから、直葬してもらったのよ。ごめんなさいね」
「……せぇ」
「え?」
「るっせーんだよっ! コイツのこと何にも知らねー癖に!」
「きゃっ!?」
「アンタなんかに弔われたって、ナマエが喜ぶワケねーだろっ!」
気付けば、ナマエの遺骨を抱えて、走り出していた。
夕暮れ時を駆ける。残暑厳しい中、汗だくになって帰宅した。
「はぁっ……はぁっ…………」
諏訪洸太郎と名乗ってしまったから、警察に突き出されているかもしれない。
「ナマエ、どうして…………」
どうして、俺を置いていった?
いや、感傷に浸っている場合ではない。
行かないと。
「どこ行きゃいいんだよ? ナマエ……」
“遠くの海に行きたいな”
ミョウジナマエが、いつか言っていた台詞。
「……海か。海だな」
出かける準備をする。財布とスマートフォン。あとは、ミョウジナマエの燃えカスである遺骨。それらを、旅行用の大きなバッグに詰めて、俺は、すぐに家を出た。
外は、夜が迫っている。
遺骨を抱え、駅に向かう道すがら、枯れた向日葵が目に付いた。
◆◆◆
夜行バスに揺られながら、スマホを触る。
『ナマエ』
メッセージを送ったところで、当然既読はつかない。
本当に死んじまったんだな。と、今更思う。
“洸太郎。おまえに好きな人が出来たら、オレは死ぬから”
今、思い出すことか?
ああ、でも、そうだ。めんどくせー奴だったよ、おまえは。
おまえしか好きじゃなかったよ。おまえしか、いなかったよ。
“オレ、異常者なんだって。精神疾患持ちや同性愛者はおかしいって、前に叔母さんが言ってた”
ナマエ。おまえは、めんどくせー奴で、普通過ぎるくらいまともな奴で、世界に磨り潰されてしまった奴だよ。
今度こそ、俺が助けてやる。
「消灯しまーす」
バスの中が暗くなった。今は、眠ろう。
遺骨を抱えて寝たら、夢を見た。ガキの頃の夢。
小学生の頃、ミョウジナマエは、クラスで浮いていた。ほとんど登校して来ないから。
そんなおまえの手を引く夢。
過去は変えられない。第一次近界民侵攻が起きた後でないと、俺はおまえとは深く関わらない。
目覚めると、体がバキバキだった。痛てぇ。
荷物を取り、降車する。
朝飯は、そこらの牛丼チェーン店で済ませることにした。
牛丼をふたつ頼み、ひとつはナマエに供える。
「いただきます」
割り箸で、飯をかっ込んだ。正直、味がよく分からない。
丼をふたつ空け、店を後にする。
漁師町を歩き、煙草屋を見付けた。ナマエが愛煙していたものを買う。安いライターも買った。
煙草に火を着け、海を目指す。
ほんのりとバニラの香りがした。ナマエの匂いだ。
色んな奴から、連絡が来ていたけど、全部無視した。俺は今、休暇中なんだ。
“オレ、どうしたら真人間になれんの? ぶっ壊れたとこ、直んの?”
おまえが悪りぃんじゃねーよ。
「クソッ…………!」
バカ野郎。
いつも、そうだ。自罰的で、内省ばかりして。自分は誰も愛せないんだって、悲しそうにしてた。
潮の香りが近付いてくる。少し、足を早めた。
「助けて…………!」
悲鳴が聴こえる。前方で、女子高生がフルフェイスヘルメットの男に追いかけられていた。
“助けて…………”
「ざっけんな、てめーっ!」
俺は、鞄を投げ捨てて走り、抱えていた骨箱で男を殴りつける。
そして、そのままバランスを崩し、崖から落ちた。
「あっ…………」
落下して、海の中へ入る。
あ、死んだ。まあ、いいか。ナマエに会えるなら。
目覚めた時、そこは海岸だった。抱えていたはずのナマエの遺骨がない。
“海に散骨してほしいんだよねぇ”
そんなことを言ってたっけか。
俺は、発見した鞄を持ち、帰ることにした。服と煙草はびしょ濡れ。スマホは、充電切れ。財布は、無事。腹が減った。
駅で買った弁当は、とても美味くて、おまえに食べさせてやれないのが悔しい。
三門に戻ると、色んな奴に怒られた。
でも、警察沙汰は避けられたらしい。
数日後、俺の家に、ミョウジナマエの祖父母が訪ねて来た。
「諏訪くん。君にこれを渡そうと思ってね」
「あの子の遺品整理をしてたら、出てきたの」
「えっ……?」
それは、ボイスレコーダー。
ナマエの祖父母が帰った後、俺は、それの再生ボタンを押した。
愛しいアイツの声が流れ出す。
「ナマエ……そうだな…………」
俺は、涙をこぼしながら、バニラの香りがする煙草に火を着けた。
睡眠薬を大量に酒で飲み、死んでしまった。
意気消沈しているアイツの祖父母に代わり、叔母が諸々手続きをしたらしい。
葬式はせずに、直葬された。俺は、恋人の死に顔を見られず、唖然とする。
ナマエの家に行くと、件の叔母が、遺影と骨箱を置いてある部屋に通してくれた。
「あなた、ナマエくんの友達なの?」
「はい」
友達であり、仲間であり、恋人だったんだ。
「ナマエくんに、友達なんていたのねぇ。ほら、ずーっと、ほとんど引きこもりだったでしょう? それで、最期は自殺だなんて、親不孝者よね。兄さんたちが帰ってきたら、なんて言えばいいのかしら?」
「ナマエは、そんな…………」
親不孝者? あんなに家族を大切に想ってた奴が? 頑張って“外”で生きていたナマエが?
「ナマエくん、友達も恋人もいないだろうから、直葬してもらったのよ。ごめんなさいね」
「……せぇ」
「え?」
「るっせーんだよっ! コイツのこと何にも知らねー癖に!」
「きゃっ!?」
「アンタなんかに弔われたって、ナマエが喜ぶワケねーだろっ!」
気付けば、ナマエの遺骨を抱えて、走り出していた。
夕暮れ時を駆ける。残暑厳しい中、汗だくになって帰宅した。
「はぁっ……はぁっ…………」
諏訪洸太郎と名乗ってしまったから、警察に突き出されているかもしれない。
「ナマエ、どうして…………」
どうして、俺を置いていった?
いや、感傷に浸っている場合ではない。
行かないと。
「どこ行きゃいいんだよ? ナマエ……」
“遠くの海に行きたいな”
ミョウジナマエが、いつか言っていた台詞。
「……海か。海だな」
出かける準備をする。財布とスマートフォン。あとは、ミョウジナマエの燃えカスである遺骨。それらを、旅行用の大きなバッグに詰めて、俺は、すぐに家を出た。
外は、夜が迫っている。
遺骨を抱え、駅に向かう道すがら、枯れた向日葵が目に付いた。
◆◆◆
夜行バスに揺られながら、スマホを触る。
『ナマエ』
メッセージを送ったところで、当然既読はつかない。
本当に死んじまったんだな。と、今更思う。
“洸太郎。おまえに好きな人が出来たら、オレは死ぬから”
今、思い出すことか?
ああ、でも、そうだ。めんどくせー奴だったよ、おまえは。
おまえしか好きじゃなかったよ。おまえしか、いなかったよ。
“オレ、異常者なんだって。精神疾患持ちや同性愛者はおかしいって、前に叔母さんが言ってた”
ナマエ。おまえは、めんどくせー奴で、普通過ぎるくらいまともな奴で、世界に磨り潰されてしまった奴だよ。
今度こそ、俺が助けてやる。
「消灯しまーす」
バスの中が暗くなった。今は、眠ろう。
遺骨を抱えて寝たら、夢を見た。ガキの頃の夢。
小学生の頃、ミョウジナマエは、クラスで浮いていた。ほとんど登校して来ないから。
そんなおまえの手を引く夢。
過去は変えられない。第一次近界民侵攻が起きた後でないと、俺はおまえとは深く関わらない。
目覚めると、体がバキバキだった。痛てぇ。
荷物を取り、降車する。
朝飯は、そこらの牛丼チェーン店で済ませることにした。
牛丼をふたつ頼み、ひとつはナマエに供える。
「いただきます」
割り箸で、飯をかっ込んだ。正直、味がよく分からない。
丼をふたつ空け、店を後にする。
漁師町を歩き、煙草屋を見付けた。ナマエが愛煙していたものを買う。安いライターも買った。
煙草に火を着け、海を目指す。
ほんのりとバニラの香りがした。ナマエの匂いだ。
色んな奴から、連絡が来ていたけど、全部無視した。俺は今、休暇中なんだ。
“オレ、どうしたら真人間になれんの? ぶっ壊れたとこ、直んの?”
おまえが悪りぃんじゃねーよ。
「クソッ…………!」
バカ野郎。
いつも、そうだ。自罰的で、内省ばかりして。自分は誰も愛せないんだって、悲しそうにしてた。
潮の香りが近付いてくる。少し、足を早めた。
「助けて…………!」
悲鳴が聴こえる。前方で、女子高生がフルフェイスヘルメットの男に追いかけられていた。
“助けて…………”
「ざっけんな、てめーっ!」
俺は、鞄を投げ捨てて走り、抱えていた骨箱で男を殴りつける。
そして、そのままバランスを崩し、崖から落ちた。
「あっ…………」
落下して、海の中へ入る。
あ、死んだ。まあ、いいか。ナマエに会えるなら。
目覚めた時、そこは海岸だった。抱えていたはずのナマエの遺骨がない。
“海に散骨してほしいんだよねぇ”
そんなことを言ってたっけか。
俺は、発見した鞄を持ち、帰ることにした。服と煙草はびしょ濡れ。スマホは、充電切れ。財布は、無事。腹が減った。
駅で買った弁当は、とても美味くて、おまえに食べさせてやれないのが悔しい。
三門に戻ると、色んな奴に怒られた。
でも、警察沙汰は避けられたらしい。
数日後、俺の家に、ミョウジナマエの祖父母が訪ねて来た。
「諏訪くん。君にこれを渡そうと思ってね」
「あの子の遺品整理をしてたら、出てきたの」
「えっ……?」
それは、ボイスレコーダー。
ナマエの祖父母が帰った後、俺は、それの再生ボタンを押した。
愛しいアイツの声が流れ出す。
「ナマエ……そうだな…………」
俺は、涙をこぼしながら、バニラの香りがする煙草に火を着けた。