私という一頁の物語
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今日の私は、モササウルスである。
泳ぐの得意だし、よく食べるし?
辻󠄀新之助くんは、私から微妙に視線を外し、デスクの上のぬいぐるみを見ている様子。
ディンブラミルクティーとシュークリームを出すと、「あ、ありがとうございます……」と赤くなりながら言った。
「モササウルスだから! 水生有鱗目のモササウルス科だから!」
「はい…………」
ずっと目が合わない。女性と会話するのが苦手なんだそうだ。
「うーん。仕方ない。君に、私の秘密を教えよう」
「え?」
「俺は、女じゃないよ。男でもあり、女でもあるタイプのXジェンダーだからね」
女体持ちの不定性。それが私。
「女性じゃ……ないんですか……?」
「うん」
辻󠄀くんは、目をぱちくりさせている。
「そうですよね。男女だけじゃないですよね」
「そうそう」
「砂子さんのことは、平気になれそう、です」
「よかった」
私は、デスクから、モササウルスのぬいぐるみを手に取った。
「私は、モササウルスっぽいから平気、ということにしといて」
「はい」
「私から慣れていけばいいよ」
さて、では、何故女性が苦手なのか解体していこうか。
私は、辻󠄀くんと対話をする。少しずつ、彼を読み解くように。
暴露療法と認知行動療法の合わせ技が必要そうだった。
「まず、大半の女性は、君を害そうとはしないと思う。そして、女性と話すのが苦手なことは、下手に隠さない方がいい。そうすれば、君は"よく分からない人"ではなくなるから」
「はい」
「あと、これも大事なことなんだけど。辻くんは、このことを克服出来ると自分に言い聞かせるべきだと、私は思う。そうすることで、苦手意識を軽減するんだ」
「分かりました」
「自分の努力が報われると信じて、少しずつ進んでみよう」
「はい」と、辻󠄀くんは素直にうなずく。
その後は、彼の考える"最悪"と、それに対処する方法を、ひとつひとつ考えていった。
カウンセリングの終わりには、私の目を見て、お礼を言ってくれる辻󠄀くん。
「それじゃあ、また何かあったら、遠慮なく来てね。お疲れ様」
「ありがとうございました。失礼します」
一礼して、彼は去って行く。
マグカップと皿を片付けながら、私は考える。私は、正しかったのか?
私は、無謬ではない。ただの人間。それなのに、他人の人生に深く介入している。そのことを、たまに恐ろしく感じた。
初心を思い出せ。
「私は、一介のカウンセラーに過ぎない。神様でも救世主でも英雄でもない」
人に親身になり、共感するのはいい。同調してはいけない。それが、私の仕事。
自分も、他者も、磨り潰させない。
泳ぐの得意だし、よく食べるし?
辻󠄀新之助くんは、私から微妙に視線を外し、デスクの上のぬいぐるみを見ている様子。
ディンブラミルクティーとシュークリームを出すと、「あ、ありがとうございます……」と赤くなりながら言った。
「モササウルスだから! 水生有鱗目のモササウルス科だから!」
「はい…………」
ずっと目が合わない。女性と会話するのが苦手なんだそうだ。
「うーん。仕方ない。君に、私の秘密を教えよう」
「え?」
「俺は、女じゃないよ。男でもあり、女でもあるタイプのXジェンダーだからね」
女体持ちの不定性。それが私。
「女性じゃ……ないんですか……?」
「うん」
辻󠄀くんは、目をぱちくりさせている。
「そうですよね。男女だけじゃないですよね」
「そうそう」
「砂子さんのことは、平気になれそう、です」
「よかった」
私は、デスクから、モササウルスのぬいぐるみを手に取った。
「私は、モササウルスっぽいから平気、ということにしといて」
「はい」
「私から慣れていけばいいよ」
さて、では、何故女性が苦手なのか解体していこうか。
私は、辻󠄀くんと対話をする。少しずつ、彼を読み解くように。
暴露療法と認知行動療法の合わせ技が必要そうだった。
「まず、大半の女性は、君を害そうとはしないと思う。そして、女性と話すのが苦手なことは、下手に隠さない方がいい。そうすれば、君は"よく分からない人"ではなくなるから」
「はい」
「あと、これも大事なことなんだけど。辻くんは、このことを克服出来ると自分に言い聞かせるべきだと、私は思う。そうすることで、苦手意識を軽減するんだ」
「分かりました」
「自分の努力が報われると信じて、少しずつ進んでみよう」
「はい」と、辻󠄀くんは素直にうなずく。
その後は、彼の考える"最悪"と、それに対処する方法を、ひとつひとつ考えていった。
カウンセリングの終わりには、私の目を見て、お礼を言ってくれる辻󠄀くん。
「それじゃあ、また何かあったら、遠慮なく来てね。お疲れ様」
「ありがとうございました。失礼します」
一礼して、彼は去って行く。
マグカップと皿を片付けながら、私は考える。私は、正しかったのか?
私は、無謬ではない。ただの人間。それなのに、他人の人生に深く介入している。そのことを、たまに恐ろしく感じた。
初心を思い出せ。
「私は、一介のカウンセラーに過ぎない。神様でも救世主でも英雄でもない」
人に親身になり、共感するのはいい。同調してはいけない。それが、私の仕事。
自分も、他者も、磨り潰させない。