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家族はみんな、第一次近界民侵攻で喪った。
祖父母も父母も兄も、殺されて。おれは、重傷を負って、病院に運ばれた。
おれだけが助かってしまったんだ。
孤児になったおれは、母がハウスキーパーをしていた唯我の家に拾われた。
唯我家がボーダーのスポンサーになり、唯我尊くんが戦闘員を志願したので、お目付け役としておれも組織に入る。
太刀川隊のお荷物、の世話係。それが、おれ、ミョウジナマエである。
唯我家の役に立てるなら、おれに不満はない。
今日も、出水くんに泣かされている唯我くんをなだめる。
「ナマエ! こんな非道がゆるされると思うか?!」
「思わないよ。可哀想に」
「そうだろう、そうだろう。全く、ナマエしか話の分かる者がいない!」
「大丈夫。おれは、きみの味方だからね」
そう言うと、嬉しそうにする唯我くん。
「ナマエ。ボクの尊敬するところを挙げたまえ」
「自分のことをよく分かってるところ、勉強が出来るところ、感情表現が豊かなところ」
「はぁ、癒される…………」
「それはよかった」
ひとつ下の唯我くんのことを、おれは弟みたいに思っている。
ただひとりの、家族だ。
心ない奴らは、おれのことを「唯我の犬」と呼ぶ。別に、おれはそれでいい。ただし、剥くべき牙を研いでいることは覚えておけよ、と思う。いつでも、その喉笛を噛み千切るぞ。
それよりも心配なのは、唯我くんのことだ。ちゃんと友達いるのかな? ただでさえ浮いているのに、おれとばかり話すもんだから、一線引かれている気がする。
「おい、まーた、飼い犬に慰めてもらってるぞ」
「恥ずかしくねーのかな」
すれ違い様に、小さく悪口を言われた。
「聞き捨てならないな! ナマエは、飼い犬じゃない!」と、唯我くんが声を張り上げると、陰湿な奴らは、そそくさと逃げる。
「待て! 訂正しろ!」
「唯我くん。もういいよ。ありがとう」
拳を振り上げて怒る唯我くんの肩に手を置く。
「ナマエは、ボクの友人だ。それなのに、あんな…………」
「もう慣れたよ」
「慣れなくていい!」
「でも……」
「ナマエは、優し過ぎる。もっと我が儘を言うといい」
「うん…………」
言えない。言えるワケない。
だって、拾われた命なのに。
おれが持ってるのは、兄が遺したピアスと、首元の傷痕を隠すチョーカーくらいだ。
唯我の家のおかげで、衣食住には困らない。
だからね、おれは幸せなんだよ。
充分過ぎるくらいに。
◆◆◆
在籍してる、六頴館高等学校2年C組の教室。休み時間に、自分の席でぼんやり窓の外を眺めていると、辻くんに話しかけられた。
「ミョウジくん」
「なに?」
「体調悪い?」
「雨だから、ちょっとね。古傷が痛むんだ」
辻くんは、おれの首元、チョーカーに目をやる。
「そうか。無理はしないで」
「うん。ありがとう」
優しい人だな、と思う。
おれは、しくじった。読書する振りでもしとけばよかったな。
机の中から、文庫本を取り出す。萩原朔太郎の詩集だ。
正直、おれには難しいんだけど、友情について書かれてるんだと思う。
そのうち、授業が始まり、あくびを噛み殺してペンを走らせる。その繰り返し。
放課後には、辻くんと一緒にボーダーへ向かう。
「今日は、犬飼先輩は?」
「先に行ってるみたい」
「そっか」
犬飼先輩と、おれが辻くんを挟むと、「辻ちゃんも犬になっちゃうねぇ」なんて、先輩は笑っていた。
ボーダー本部に到着し、辻くんと別れて隊室へ行く。
「よう、ミョウジ」
「お疲れ様です、太刀川さん」
この人には、何度か名前を間違えられたけど、今はちゃんと呼んでもらえてる。
「ミョウジって、勉強出来るっけ?」
「レポートの手伝いは出来ませんよ」
「ちぇー」
テストはいつも、中の上くらいだ。おれは、天才でも秀才でもない。
「ナマエはいるか?!」
「唯我くん、どうしたの?」
入って来るなり、おれを呼んだ彼は、泣きそうな顔をしながら近付いて来た。
「また出水先輩に蹴られたんだ! ナマエ、ボクの仇をとってくれ!」
おれの肩を掴みながら言う。
「唯我! またミョウジを盾にしてんのか!」と、出水くんもやって来た。
「暴力反対!」
唯我くんが叫ぶ。おれに、仇とらせようとしてたのに。
「まあまあ、ふたりとも、落ち着いて」
唯我くんを背にして、ふたりの間に立つおれ。横目で太刀川さんを見る。隊長は、我関せずで餅を食べていた。
「なんだよ、ミョウジ。毎回毎回」
「出水くん、後で腕相撲でもしようか。生身で」
「おい! それじゃ、おまえが勝つだろうが!」
「冗談だよ。まあ、ほら、人には得手不得手があるからさ」
「ったく、お荷物くんを甘やかし過ぎだって」
出水くんは、やる気が削がれたのか、溜め息をついて、おれたちから離れて行く。
「ナマエ~!」
「大丈夫だよ」
抱き付いてくる唯我くんの背中を、ポンポンと優しく叩いた。
「防衛任務の時間だぞー」と、太刀川さん。
その日、ゲートが開いて来た敵を相手にすることになり、おれと唯我くんは、ふたりでアステロイドを撃って一体倒す。
「ナマエは、近界民が憎いかい?」
ぽつりと、呟くように唯我くんが訊いた。
「よく分かんないんだ。でも、生き延びたからには、人の役に立ちたいな」
「そうか…………」
そうしないと、おれの命には価値がないから。
◆◆◆
戦いの最中は、いつも、唯我くんを守るように動いている。
でも、そのことを太刀川さんはよく思ってないらしい。
「庇い過ぎだ」
「すいません…………」
「おまえ、そんなんじゃ、そのうち唯我を助けて死ぬぞ」
「はい…………」
それは、何がダメなんだろう?
おれが彼の命を守れるなら、それでいいと思うんだけど。
「分からないって顔してるな」
「……はい」
太刀川さんは、溜め息をつき、おれの目を真っ直ぐ見て言う。
「他人を守りたいのはいい。ただ、守るものの中には、自分の命も勘定に入れろ。いいな、ミョウジ?」
「努力します」
やれやれといった様子で、隊長は、おれから離れてソファーに座った。
そのタイミングで、国近先輩に呼ばれる。
「ミョウジくん、対戦しよーよ」
「はい」
おれは、携帯ゲーム機を取り出して、オペレータールームへ行った。
国近先輩とは、ちょくちょくシミュレーションゲームで対戦している。
ターン制で、アクションポイントを消費して、自分の軍を駒として動かして戦争をするゲームだ。
「じゃんけん、負けた方が先攻ね」
「了解です」
おれが先攻になった。
リーダーが騎馬兵なので、単身で突撃させ、後ろから魔術師や重装歩兵に追わせる。
国近先輩は、ゲームが得意だから、なかなか手強い。
その日の勝負は、おれの辛勝だった。
「か、勝った!」
「負けた~」
「先輩、途中から手加減してました?」
「いや、駒を死なせないようにしてただけ」
「死なせないように……」
おれの戦い方は、犠牲が出ることが前提のものであることが多い。今回も、何人もの兵士を死なせた。
ああ、そうか。国近先輩も、おれのことを心配してるんだな。
「おれ、そんなに危ういですかね?」
「そうだね。もっと自分を大切にしなよ」
「はい……」
それって、どうしたらいいんだろう?
唯我くんとの帰路でも、おれは、ずっとそのことを考えていた。
「ナマエ、何か悩み事かい?」
「おれって、危なっかしい?」
「ナマエが? 頼りにしているが」
「そっか。きみを守れるなら、おれは死んでもいいや」
「は……?」
唯我くんは、目を見開く。
「いいワケがないだろう!?」
「えっ?」
「ナマエ、約束しろ! 自分を犠牲にしようとなんてしないと!」
彼は、おれの手を強く握った。
「う、うん」
「絶対だぞ!」
「…………分かった」
きみにそんなことを言われたら、おれは約束を守るしかない。
無意識のうちに、おれの片手は、首元のチョーカーに触れていた。
◆◆◆
休日。唯我くんと、テーブル越しに向かい合って話をしている。
「ナマエ、何か困っていることはないか?」
「ないよ。ありがとう」
「そうか…………」
唯我くんは、何か考え事をしてるらしい。
おれは、ティーカップを手にして、紅茶を飲む。紅茶を飲む習慣は、唯我の家に世話になるようになってから出来た。
紅茶のことはよく知らないけど、高い茶葉なんだろうな。凄く美味しいから。
「唯我くん、この紅茶、どこのブランド?」
「マリアージュフレールだよ」
「そうなんだ。美味しいね」
マリアージュフレール、後で調べよう。
「ナマエは、マルコポーロが好きなんだね」
「この紅茶の名前?」
「ああ」
「これ好きだよ」
「いいシュミだ」
唯我くんは笑ってる。おれも、釣られて笑った。
ふたりきりのお茶の時間を終えて、自室へ行く。元の家よりも広い部屋。
スマホで、マリアージュフレールのマルコポーロを検索すると、100gで3564円だった。
「高っ」
思わず、小さく声が漏れる。
おれが、たまに飲んでた紙パックの紅茶なんて、160円くらいだったのに。
びっくりしたぁ。
おれの着てる服も高いのかな? ちょっと怖い。
たぶん、使わせてもらってる日用品も高いんだろうな。シャンプーとか、タオルとか。
がんばって役に立たないと。
そんな決意をしていると、ドアがノックされた。
「ナマエ」と、唯我くんの声。
「入っていいよ」
「お邪魔するよ」
「うん」
唯我くんは、ベッドに座るおれの隣に腰かけた。
「ナマエは、将来の夢はあるかい?」
「そうだなぁ。あんまり考えてないかも。今のことだけで精一杯で」
「そうか。まあ、ボクたちは家族だからね。何かしたいことが出来たら、遠慮せず言いたまえ」
「うん。ありがとう」
優しい唯我くん。
「あ……」
「どうした?」
「したいこと、ある」
「ほんとか?!」
「唯我くんと、バーガークイーンに行きたい」
そう言うと、唯我くんは、心底嬉しそうな顔をする。
「いいとも! ぜひ行こうじゃないか!」
そんなこんなで。次の休みの日に、ふたりでバーガークイーンに行くことになった。
約束の日。当日。
「なに食べようかなぁ」
「メニューが多いな」
「決めた。おれは、チーズバーガーとコーラとポテトにする」
「ボクも、それで」
「じゃあ、買って来るから、席取っといてくれる?」
「分かった」
おれは、店員さんに注文して、しばらく待つ。
「チーズバーガーふたつ、コーラふたつ、ポテトのMがふたつ。以上でよろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
ハンバーガーを受け取り、唯我くんのところまで歩いた。
「お待たせ」
「ありがとう、ナマエ」
「うん。冷めないうちに食べよう。いただきます」
「いただきます」
これはこれで、美味しいんだよな。庶民の味。
「唯我くん、どう?」
「食べるのが……難しい…………!」
「あはは。中身こぼれそうになるよね」
ふたりで、楽しくハンバーガーを食べた。
唯我くんと、もっと遊びたいな。
祖父母も父母も兄も、殺されて。おれは、重傷を負って、病院に運ばれた。
おれだけが助かってしまったんだ。
孤児になったおれは、母がハウスキーパーをしていた唯我の家に拾われた。
唯我家がボーダーのスポンサーになり、唯我尊くんが戦闘員を志願したので、お目付け役としておれも組織に入る。
太刀川隊のお荷物、の世話係。それが、おれ、ミョウジナマエである。
唯我家の役に立てるなら、おれに不満はない。
今日も、出水くんに泣かされている唯我くんをなだめる。
「ナマエ! こんな非道がゆるされると思うか?!」
「思わないよ。可哀想に」
「そうだろう、そうだろう。全く、ナマエしか話の分かる者がいない!」
「大丈夫。おれは、きみの味方だからね」
そう言うと、嬉しそうにする唯我くん。
「ナマエ。ボクの尊敬するところを挙げたまえ」
「自分のことをよく分かってるところ、勉強が出来るところ、感情表現が豊かなところ」
「はぁ、癒される…………」
「それはよかった」
ひとつ下の唯我くんのことを、おれは弟みたいに思っている。
ただひとりの、家族だ。
心ない奴らは、おれのことを「唯我の犬」と呼ぶ。別に、おれはそれでいい。ただし、剥くべき牙を研いでいることは覚えておけよ、と思う。いつでも、その喉笛を噛み千切るぞ。
それよりも心配なのは、唯我くんのことだ。ちゃんと友達いるのかな? ただでさえ浮いているのに、おれとばかり話すもんだから、一線引かれている気がする。
「おい、まーた、飼い犬に慰めてもらってるぞ」
「恥ずかしくねーのかな」
すれ違い様に、小さく悪口を言われた。
「聞き捨てならないな! ナマエは、飼い犬じゃない!」と、唯我くんが声を張り上げると、陰湿な奴らは、そそくさと逃げる。
「待て! 訂正しろ!」
「唯我くん。もういいよ。ありがとう」
拳を振り上げて怒る唯我くんの肩に手を置く。
「ナマエは、ボクの友人だ。それなのに、あんな…………」
「もう慣れたよ」
「慣れなくていい!」
「でも……」
「ナマエは、優し過ぎる。もっと我が儘を言うといい」
「うん…………」
言えない。言えるワケない。
だって、拾われた命なのに。
おれが持ってるのは、兄が遺したピアスと、首元の傷痕を隠すチョーカーくらいだ。
唯我の家のおかげで、衣食住には困らない。
だからね、おれは幸せなんだよ。
充分過ぎるくらいに。
◆◆◆
在籍してる、六頴館高等学校2年C組の教室。休み時間に、自分の席でぼんやり窓の外を眺めていると、辻くんに話しかけられた。
「ミョウジくん」
「なに?」
「体調悪い?」
「雨だから、ちょっとね。古傷が痛むんだ」
辻くんは、おれの首元、チョーカーに目をやる。
「そうか。無理はしないで」
「うん。ありがとう」
優しい人だな、と思う。
おれは、しくじった。読書する振りでもしとけばよかったな。
机の中から、文庫本を取り出す。萩原朔太郎の詩集だ。
正直、おれには難しいんだけど、友情について書かれてるんだと思う。
そのうち、授業が始まり、あくびを噛み殺してペンを走らせる。その繰り返し。
放課後には、辻くんと一緒にボーダーへ向かう。
「今日は、犬飼先輩は?」
「先に行ってるみたい」
「そっか」
犬飼先輩と、おれが辻くんを挟むと、「辻ちゃんも犬になっちゃうねぇ」なんて、先輩は笑っていた。
ボーダー本部に到着し、辻くんと別れて隊室へ行く。
「よう、ミョウジ」
「お疲れ様です、太刀川さん」
この人には、何度か名前を間違えられたけど、今はちゃんと呼んでもらえてる。
「ミョウジって、勉強出来るっけ?」
「レポートの手伝いは出来ませんよ」
「ちぇー」
テストはいつも、中の上くらいだ。おれは、天才でも秀才でもない。
「ナマエはいるか?!」
「唯我くん、どうしたの?」
入って来るなり、おれを呼んだ彼は、泣きそうな顔をしながら近付いて来た。
「また出水先輩に蹴られたんだ! ナマエ、ボクの仇をとってくれ!」
おれの肩を掴みながら言う。
「唯我! またミョウジを盾にしてんのか!」と、出水くんもやって来た。
「暴力反対!」
唯我くんが叫ぶ。おれに、仇とらせようとしてたのに。
「まあまあ、ふたりとも、落ち着いて」
唯我くんを背にして、ふたりの間に立つおれ。横目で太刀川さんを見る。隊長は、我関せずで餅を食べていた。
「なんだよ、ミョウジ。毎回毎回」
「出水くん、後で腕相撲でもしようか。生身で」
「おい! それじゃ、おまえが勝つだろうが!」
「冗談だよ。まあ、ほら、人には得手不得手があるからさ」
「ったく、お荷物くんを甘やかし過ぎだって」
出水くんは、やる気が削がれたのか、溜め息をついて、おれたちから離れて行く。
「ナマエ~!」
「大丈夫だよ」
抱き付いてくる唯我くんの背中を、ポンポンと優しく叩いた。
「防衛任務の時間だぞー」と、太刀川さん。
その日、ゲートが開いて来た敵を相手にすることになり、おれと唯我くんは、ふたりでアステロイドを撃って一体倒す。
「ナマエは、近界民が憎いかい?」
ぽつりと、呟くように唯我くんが訊いた。
「よく分かんないんだ。でも、生き延びたからには、人の役に立ちたいな」
「そうか…………」
そうしないと、おれの命には価値がないから。
◆◆◆
戦いの最中は、いつも、唯我くんを守るように動いている。
でも、そのことを太刀川さんはよく思ってないらしい。
「庇い過ぎだ」
「すいません…………」
「おまえ、そんなんじゃ、そのうち唯我を助けて死ぬぞ」
「はい…………」
それは、何がダメなんだろう?
おれが彼の命を守れるなら、それでいいと思うんだけど。
「分からないって顔してるな」
「……はい」
太刀川さんは、溜め息をつき、おれの目を真っ直ぐ見て言う。
「他人を守りたいのはいい。ただ、守るものの中には、自分の命も勘定に入れろ。いいな、ミョウジ?」
「努力します」
やれやれといった様子で、隊長は、おれから離れてソファーに座った。
そのタイミングで、国近先輩に呼ばれる。
「ミョウジくん、対戦しよーよ」
「はい」
おれは、携帯ゲーム機を取り出して、オペレータールームへ行った。
国近先輩とは、ちょくちょくシミュレーションゲームで対戦している。
ターン制で、アクションポイントを消費して、自分の軍を駒として動かして戦争をするゲームだ。
「じゃんけん、負けた方が先攻ね」
「了解です」
おれが先攻になった。
リーダーが騎馬兵なので、単身で突撃させ、後ろから魔術師や重装歩兵に追わせる。
国近先輩は、ゲームが得意だから、なかなか手強い。
その日の勝負は、おれの辛勝だった。
「か、勝った!」
「負けた~」
「先輩、途中から手加減してました?」
「いや、駒を死なせないようにしてただけ」
「死なせないように……」
おれの戦い方は、犠牲が出ることが前提のものであることが多い。今回も、何人もの兵士を死なせた。
ああ、そうか。国近先輩も、おれのことを心配してるんだな。
「おれ、そんなに危ういですかね?」
「そうだね。もっと自分を大切にしなよ」
「はい……」
それって、どうしたらいいんだろう?
唯我くんとの帰路でも、おれは、ずっとそのことを考えていた。
「ナマエ、何か悩み事かい?」
「おれって、危なっかしい?」
「ナマエが? 頼りにしているが」
「そっか。きみを守れるなら、おれは死んでもいいや」
「は……?」
唯我くんは、目を見開く。
「いいワケがないだろう!?」
「えっ?」
「ナマエ、約束しろ! 自分を犠牲にしようとなんてしないと!」
彼は、おれの手を強く握った。
「う、うん」
「絶対だぞ!」
「…………分かった」
きみにそんなことを言われたら、おれは約束を守るしかない。
無意識のうちに、おれの片手は、首元のチョーカーに触れていた。
◆◆◆
休日。唯我くんと、テーブル越しに向かい合って話をしている。
「ナマエ、何か困っていることはないか?」
「ないよ。ありがとう」
「そうか…………」
唯我くんは、何か考え事をしてるらしい。
おれは、ティーカップを手にして、紅茶を飲む。紅茶を飲む習慣は、唯我の家に世話になるようになってから出来た。
紅茶のことはよく知らないけど、高い茶葉なんだろうな。凄く美味しいから。
「唯我くん、この紅茶、どこのブランド?」
「マリアージュフレールだよ」
「そうなんだ。美味しいね」
マリアージュフレール、後で調べよう。
「ナマエは、マルコポーロが好きなんだね」
「この紅茶の名前?」
「ああ」
「これ好きだよ」
「いいシュミだ」
唯我くんは笑ってる。おれも、釣られて笑った。
ふたりきりのお茶の時間を終えて、自室へ行く。元の家よりも広い部屋。
スマホで、マリアージュフレールのマルコポーロを検索すると、100gで3564円だった。
「高っ」
思わず、小さく声が漏れる。
おれが、たまに飲んでた紙パックの紅茶なんて、160円くらいだったのに。
びっくりしたぁ。
おれの着てる服も高いのかな? ちょっと怖い。
たぶん、使わせてもらってる日用品も高いんだろうな。シャンプーとか、タオルとか。
がんばって役に立たないと。
そんな決意をしていると、ドアがノックされた。
「ナマエ」と、唯我くんの声。
「入っていいよ」
「お邪魔するよ」
「うん」
唯我くんは、ベッドに座るおれの隣に腰かけた。
「ナマエは、将来の夢はあるかい?」
「そうだなぁ。あんまり考えてないかも。今のことだけで精一杯で」
「そうか。まあ、ボクたちは家族だからね。何かしたいことが出来たら、遠慮せず言いたまえ」
「うん。ありがとう」
優しい唯我くん。
「あ……」
「どうした?」
「したいこと、ある」
「ほんとか?!」
「唯我くんと、バーガークイーンに行きたい」
そう言うと、唯我くんは、心底嬉しそうな顔をする。
「いいとも! ぜひ行こうじゃないか!」
そんなこんなで。次の休みの日に、ふたりでバーガークイーンに行くことになった。
約束の日。当日。
「なに食べようかなぁ」
「メニューが多いな」
「決めた。おれは、チーズバーガーとコーラとポテトにする」
「ボクも、それで」
「じゃあ、買って来るから、席取っといてくれる?」
「分かった」
おれは、店員さんに注文して、しばらく待つ。
「チーズバーガーふたつ、コーラふたつ、ポテトのMがふたつ。以上でよろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
ハンバーガーを受け取り、唯我くんのところまで歩いた。
「お待たせ」
「ありがとう、ナマエ」
「うん。冷めないうちに食べよう。いただきます」
「いただきます」
これはこれで、美味しいんだよな。庶民の味。
「唯我くん、どう?」
「食べるのが……難しい…………!」
「あはは。中身こぼれそうになるよね」
ふたりで、楽しくハンバーガーを食べた。
唯我くんと、もっと遊びたいな。
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