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好きな娘がいるけれど、どうすべきか分からなかった。
おれは、ミョウジナマエが好き。でも、彼女は、弓場さんのことが好き。
だから、ずっと機を伺っていた。
そうしてるうちに、第二次近界民侵攻が起きる。通信室で死者が出た時は、正直、最悪な気持ちになった。
ミョウジちゃんがいるところだから。彼女が死んでいたかもしれないことが、とても不安にさせた。
「ミョウジちゃんさ、怖くないの?」
いつだったか、おれは彼女に質問したんだ。
「なにが?」
「ボーダーにいること」
「怖いよ。知ってる人が殺されたんだもの」
「やめないの?」
「やめない。わたし、三門が好きだから」
そう答えるミョウジちゃんは、強い意思を持って、真っ直ぐな視線を寄越す。
そういうとこ、嫌いなんだよなぁ。もっと自分を大事にしてほしいよ。
「犬飼くんは?」
「おれ?」
「怖くないの?」
「おれは、平気だよ」
嘘だ。おれは、ミョウジちゃんが死ぬのが怖い。
「それじゃあ、一緒に頑張ろうね」
「うん」
無垢な笑顔を向ける彼女。卑怯だよね。何も言い返せなかった。
2月のとある日、ミョウジちゃんが失恋したことを知る。
待ちに待った機会だと思った。
「ミョウジちゃん、元気?」
「うん。元気だよ」
彼女は、おれから視線を外して答える。
「何かあった?」
「ああ、うん。ちょっとね」
それ以上は、何も言わない。
「おれでよかったら、話聞くから、いつでも連絡してよ」
「ありがとう、犬飼くん」
微笑むミョウジちゃん。別に、無理に笑ってるワケでもなさそうだ。
でも、その笑顔じゃ、もう満足出来ない。“みんな”に向けるのと同じ表情じゃ、嫌だ。
「おれ、ミョウジちゃんのこと好きだよ」
「えっ? それって、どういう————」
「恋愛的に好きってこと」
「そう、なの? わたし、でも…………」
「別に、返事はいらないから。ただ、こういう奴もいるって覚えといて」
「……うん」
彼女は、一瞬目を伏せてから、おれを見つめる。気持ちに応えようとするかのように。
想いが、しっかり届いたことに安心した。
「そろそろ行かなきゃ。じゃあ、またね」
「またね、犬飼くん」
ミョウジちゃんは、小さく手を振る。
あの娘が、純真でいられるのは、きっと確率の魔法の中にいるからだ。そして、彼女は、その大切さに気付いてる。
それがいいんだよな。真綿の中に一本の芯が通ってる。
誰かが困っていたら、ドブ川にでも飛び込みそうなところは、どうかと思うけれど。
ミョウジちゃんがドブ川に飛び込んだら、おれが引っ張り上げてあげるよ。
おれにしとけばいいのに。
◆◆◆
この痛みに、どれだけの人が耐えられるのだろう?
わたしの心は、少しだけ針が刺さったみたいに痛んでいる。
それを取り除いてくれると、犬飼くんは言った。
きっと、あなたは、わたしを助けてくれる。一世一代の初恋の相手に振られたわたしを。
「ミョウジちゃん」
「犬飼くん…………」
「そんなに構えないでよ。おれは、味方なんだからさ」
「うん、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
犬飼くんは、少し困ったように笑う。
「ミョウジちゃん、暇な時に勉強見てくれない? 星輪だし、ミョウジちゃんは勉強出来るでしょ?」
「え? うん、いいけど」
「また連絡するね」
「うん」
わたしは、犬飼くんと別れて通信室へ行く。
本部のオペレーターとしての仕事をこなし、刺さった棘を無視した。
日々は、過ぎていく。止まることのない川の流れのように。
「ミョウジちゃんは、真っ白だよね」
「真っ白?」
「芯があって、何色にも染まらない」
「そうかな?」
「そうだよ」
一緒に勉強をしながら、そんなことを話す。
白色は、わたしの好きな色だ。
でも、わたしのドレスはもう、純白ではないのだと思う。赤い染みが点々とついている気がした。
それでも、あなたはわたしのことを好きですか?
犬飼くんには、そんなことは訊けないけれど。
「犬飼くんは、どうしてわたしを好きなの?」
代わりに、そんな質問をした。
「さあ。気付いたら好きだった」
「そっか…………」
まあ、わたしも弓場さんを好きになったきっかけは、ほんの些細なことだったものね。ただ、あの人が落としたハンカチを拾ってくれただけ。
そういう何かが犬飼くんにもあったのかもしれないし、積み重ねで好意が生まれたのかもしれない。
「犬飼くんのことは、友達だと思ってるの。今は、それでいい?」
「もちろん。嬉しいよ」
「ありがとう」
その言葉に救われる。
あなたは、大切な友達。わたしの心強い味方。
全員が、好きな人の好きな人にはなれない。恋愛って、そういうものだろうけれど、犬飼くんを傷付けたくない。
少なくとも、わたしは彼に悪感情を抱いてはいないから。
犬飼澄晴くんは、いわゆるモテる人だ。引く手あまただと思う。
そんな彼が、わたしを好きだと言う。わたしは、少しだけ心配になった。
誰かに恨まれたら、どうしよう?
こんなことを考えているわたしは、全然いい人じゃない。
わたしは、純粋な人間とは言えなかった。
おれは、ミョウジナマエが好き。でも、彼女は、弓場さんのことが好き。
だから、ずっと機を伺っていた。
そうしてるうちに、第二次近界民侵攻が起きる。通信室で死者が出た時は、正直、最悪な気持ちになった。
ミョウジちゃんがいるところだから。彼女が死んでいたかもしれないことが、とても不安にさせた。
「ミョウジちゃんさ、怖くないの?」
いつだったか、おれは彼女に質問したんだ。
「なにが?」
「ボーダーにいること」
「怖いよ。知ってる人が殺されたんだもの」
「やめないの?」
「やめない。わたし、三門が好きだから」
そう答えるミョウジちゃんは、強い意思を持って、真っ直ぐな視線を寄越す。
そういうとこ、嫌いなんだよなぁ。もっと自分を大事にしてほしいよ。
「犬飼くんは?」
「おれ?」
「怖くないの?」
「おれは、平気だよ」
嘘だ。おれは、ミョウジちゃんが死ぬのが怖い。
「それじゃあ、一緒に頑張ろうね」
「うん」
無垢な笑顔を向ける彼女。卑怯だよね。何も言い返せなかった。
2月のとある日、ミョウジちゃんが失恋したことを知る。
待ちに待った機会だと思った。
「ミョウジちゃん、元気?」
「うん。元気だよ」
彼女は、おれから視線を外して答える。
「何かあった?」
「ああ、うん。ちょっとね」
それ以上は、何も言わない。
「おれでよかったら、話聞くから、いつでも連絡してよ」
「ありがとう、犬飼くん」
微笑むミョウジちゃん。別に、無理に笑ってるワケでもなさそうだ。
でも、その笑顔じゃ、もう満足出来ない。“みんな”に向けるのと同じ表情じゃ、嫌だ。
「おれ、ミョウジちゃんのこと好きだよ」
「えっ? それって、どういう————」
「恋愛的に好きってこと」
「そう、なの? わたし、でも…………」
「別に、返事はいらないから。ただ、こういう奴もいるって覚えといて」
「……うん」
彼女は、一瞬目を伏せてから、おれを見つめる。気持ちに応えようとするかのように。
想いが、しっかり届いたことに安心した。
「そろそろ行かなきゃ。じゃあ、またね」
「またね、犬飼くん」
ミョウジちゃんは、小さく手を振る。
あの娘が、純真でいられるのは、きっと確率の魔法の中にいるからだ。そして、彼女は、その大切さに気付いてる。
それがいいんだよな。真綿の中に一本の芯が通ってる。
誰かが困っていたら、ドブ川にでも飛び込みそうなところは、どうかと思うけれど。
ミョウジちゃんがドブ川に飛び込んだら、おれが引っ張り上げてあげるよ。
おれにしとけばいいのに。
◆◆◆
この痛みに、どれだけの人が耐えられるのだろう?
わたしの心は、少しだけ針が刺さったみたいに痛んでいる。
それを取り除いてくれると、犬飼くんは言った。
きっと、あなたは、わたしを助けてくれる。一世一代の初恋の相手に振られたわたしを。
「ミョウジちゃん」
「犬飼くん…………」
「そんなに構えないでよ。おれは、味方なんだからさ」
「うん、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ」
犬飼くんは、少し困ったように笑う。
「ミョウジちゃん、暇な時に勉強見てくれない? 星輪だし、ミョウジちゃんは勉強出来るでしょ?」
「え? うん、いいけど」
「また連絡するね」
「うん」
わたしは、犬飼くんと別れて通信室へ行く。
本部のオペレーターとしての仕事をこなし、刺さった棘を無視した。
日々は、過ぎていく。止まることのない川の流れのように。
「ミョウジちゃんは、真っ白だよね」
「真っ白?」
「芯があって、何色にも染まらない」
「そうかな?」
「そうだよ」
一緒に勉強をしながら、そんなことを話す。
白色は、わたしの好きな色だ。
でも、わたしのドレスはもう、純白ではないのだと思う。赤い染みが点々とついている気がした。
それでも、あなたはわたしのことを好きですか?
犬飼くんには、そんなことは訊けないけれど。
「犬飼くんは、どうしてわたしを好きなの?」
代わりに、そんな質問をした。
「さあ。気付いたら好きだった」
「そっか…………」
まあ、わたしも弓場さんを好きになったきっかけは、ほんの些細なことだったものね。ただ、あの人が落としたハンカチを拾ってくれただけ。
そういう何かが犬飼くんにもあったのかもしれないし、積み重ねで好意が生まれたのかもしれない。
「犬飼くんのことは、友達だと思ってるの。今は、それでいい?」
「もちろん。嬉しいよ」
「ありがとう」
その言葉に救われる。
あなたは、大切な友達。わたしの心強い味方。
全員が、好きな人の好きな人にはなれない。恋愛って、そういうものだろうけれど、犬飼くんを傷付けたくない。
少なくとも、わたしは彼に悪感情を抱いてはいないから。
犬飼澄晴くんは、いわゆるモテる人だ。引く手あまただと思う。
そんな彼が、わたしを好きだと言う。わたしは、少しだけ心配になった。
誰かに恨まれたら、どうしよう?
こんなことを考えているわたしは、全然いい人じゃない。
わたしは、純粋な人間とは言えなかった。