一頁のおまけ
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その日は、低気圧で、とても体調が悪くて。私は、弱っていた。
「砂子さん?」
「あ……ごめん…………」
「顔色悪いぜ」
「ちょっと、薬飲んで来る」
「ああ」
クライアントの当真勇くんに、心配させてはならないと気を張って歩く。
それでも、足取りはふらついた。
冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、頓服薬を飲む。
「はぁ…………」
これで良くなるといいんだけど。
「お待たせ」
「なぁ、俺、ちゃんと待てて偉いだろ?」
当真くんの台詞に、ぞくりとした。そして、頭がぼんやりしてくる。
「あ、うん。偉いね」
「何か、ご褒美がねーとなぁ?」
ご褒美。そう。そうか。
「当真くんは、いい子だね……」
私は、彼の頬を撫でる。当真くんは、私の右手に手を重ねて、頬をすり寄せた。
「俺は、砂子さんのだから」
「……私の?」
「あんたのSubにしてくれ」
「私……私の…………」
そこで、私の意識は途切れる。
目覚めたら、医務室のベッドの上だった。
「現海さん、気が付きましたか」
「私…………」
「貧血で倒れたんですよ」
「そう、ですか」
「歩けそうですか?」
「はい」
私は、自分の足で帰宅することを選ぶ。
医務室から出ると、壁を背にして、当真くんが立っていた。
「よう、大丈夫か?」
「平気。当真くんが運んでくれたんだって?」
「ああ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
すっと、当真くんが隣に来る。
「家まで送る」
「えっ? いいよ。私、ひとりで帰れるから」
「俺が嫌なんだよ」
有無を言わさぬ台詞。結局、送ってもらうことになった。
道すがら、当真くんは、なんてことない話をしてくる。猫のこととか、ラーメンのこととか。
しばらくして、出し抜けにこう言った。
「それで、返事は?」
「返事?」
「砂子さんのSubにしてくれんのかってやつ」
「あー…………」
あれ、夢じゃなかったんだぁ。困ったな。
「なんで、私がDomだって知ってるの?」
「今日、知った。威圧感あったからな」
Glareかぁ。しくじったなぁ。
「ごめん。私のせいだ…………」
「別に謝らなくていいぜ。俺、砂子さんが、Domだったらいいと思ってたんだ」
「……そうなの?」
「まーな」
どうしよう。相手は、未成年。うーん。
「実は、パートナーがいるとか?」
「いないよ。ちょっと私の倫理観がねぇ」
「じゃあ、迷うことねーだろ」
「その、秘密にしてくれる? 私たちの関係のこと」
「オーケー。よろしくな、砂子さん」
「うん、よろしく」
私たちは、握手をした。
沈む夕日だけが、ふたりを見ている。
◆◆◆
諸々すり合わせるために、当真くんを自宅に呼んだ。
テーブルを挟んで向かい合い、話を始める。
「じゃあ、セーフワードから決めようか?」
「Redでいいだろ」
「君がいいなら、いいけど」
すんなり決まった。
「次、私から。性的なことはしないっていうか、出来ないから」
「俺が未成年だから?」
「それもあるけど、私は、アセクシャルだから。身体接触は、私が許す範囲でしかダメだよ」
「了解。俺は、特にされたくないことはねーよ」
なるほど。まあ、無茶なことはするつもりないが。
「あとは、あれか。他の人とプレイするのを認めるかどうか?」
「認めない」
やけにはっきりと言われた。
「私は、別に……」
「俺は、あんたとしかしない」
「んー。じゃ、お互いしか相手をしないということで」
「ああ」
そういえば、彼は、なんで私に拘るんだろう?
「当真くん、なんで私のこと選んだの?」
「好みだから」
「好み?」
「細かいことはいーだろ」
「うん…………」
君に好感を持たれてるなんて、知りませんでしたけど?
当真くんは、カウンセリングの間は、いつも退屈そうだったし。
「プレイの頻度は?」
「週に一回くらい」
「オーケー」
場所は、毎回私の家で、ということにした。それが一番安心だから。
「とりあえず、練習も兼ねてプレイする?」
「いいぜ」
私は、ソファーの方へ行くように促した。
「当真くん」
ソファーに腰かけ、私は、コマンドを出す。
「Kneel」
当真くんは、私の足元に座った。
「いい子だね」
ソファーから身を乗り出し、当真くんの首元に腕を回す。
「当真くん、抱き締め返していいよ」
そっと、背中に腕を回された。
「砂子さん…………」
「ん?」
「…………」
当真くんは、押し黙る。別に、プレイ内容が嫌とかではなさそうだけど。
少し体を離して、表情を見る。充足感を得ているようだ。
「当真くん、隣に座って」
「ああ」
「よく出来ました」
頬を撫でると、当真くんは、気持ちよさそうに目を閉じる。
「お疲れ様。こんな感じで大丈夫かな?」
「大丈夫だ」
「よかった」
何故か、当真くんは、じっと私の手を見つめていた。
「私の手が、どうかした?」
「いや、小せーなって思って」
「そりゃあ、君よりはね」
日光にあまり当たらないせいで、私の肌は白い。末端冷え性だから、私の指は冷たい。
「嫌?」
「……違う。好きだなって」
「そう」
その後。私たちは、紅茶を飲みながら、世間話をした。
そして、あんまり遅くならないうちに、当真くんを帰す。
「じゃあ、またね、当真くん」
「またな」
さてと。これからも上手くやってかないとね。
◆◆◆
砂子さんの家に呼ばれて、色々話し合った。その後、プレイをした。
低めの落ち着いた声で「いい子だね」と言われて、抱き締められて、もっともっと欲しくなる。
俺は、あんたのSubだ。もっと褒めてくれ。
夢心地になって、どろどろと精神が溶けていくようだ。
砂子さんから、ひまわりの香りがする。
俺の全身を包む多幸感に身を任せると、ふわふわした気持ちになった。
「砂子さん…………」
「ん?」
「…………」
待て。何を言おうとした?
それは、秘密にしなきゃならないことだ。理性を総動員して止める。
「当真くん、隣に座って」
「ああ」
「よく出来ました」
頬を撫でられた。気持ちいい。自然と目を閉じる。
やっぱり、どうしようもない欲が出そうになった。隠さなきゃならない。
もっと触れてほしいとか、キスしてほしいとか。
ダイナミクスによるものだけじゃない。俺が、砂子さんに恋をしてるせい。
今までは、親とか真木ちゃんとかにプレイを頼んでいたけど、こんな風にはならなかった。
「お疲れ様」の言葉を合図に、プレイは終わる。
そして、お茶をしてから、帰された。
帰路。砂子さんの冷たい手の温度を思い出す。もう、あの手が恋しい。
プレイの間、焦げ茶色の瞳が、俺だけを見てたんだ。その事実に、喜びを感じる。
俺のDomは、庇護欲が強い。カウンセラーだからだろうか。
ちゃんとした大人をしようとする意識が強い。本当は、ろくでなしの癖に。
歪なガラス細工みたいな愛しい人。
俺と同じくらいの想いを、砂子さんにも持ってほしい。
じゃないと、ゆるせねーよ。
まあ、パートナーとしては独占出来そうだから、ひとまずはいいか。
砂子さんは、関わる人間が多い。ボーダー唯一のカウンセラーだから。階級を問わず、たくさんの隊員の面倒を見てる。
あの人を手に入れるためなら、俺はなんだってするだろう。
ただのカウンセラーとクライアントからは、一歩前進ってとこか。
パートナーであり、恋人になりたい。
でも、普通に告白しても断られる気がするから、俺からは言わない。
問題は、言わずにいられるのかってこと。今日だって、危なかった。
満たされたはずなのに、どこか渇く。こんな感覚は、初めてだった。
この片想いが、早く実ればいいのに。
砂子さんを救うのは、俺じゃなきゃならない。他の誰も、あんたに助けが必要だとは気付いてないんだろうな。
◆◆◆
砂子さんは、支配的なプレイはしない。だけど、それは真実のあんたなんだろうか?
「砂子さん」
「なに?」
「……いや、なんでもねぇ」
「そう」
愛してくれという渇望。もっと縛ってくれという欲望。ぐちゃぐちゃになる頭の中。
「当真くん。今日は、いつもと違うご褒美をあげる」
「え?」
「お楽しみに」
人の悪そうな笑みを浮かべる砂子さん。
「じゃあ、始めようか」
「ああ」
「当真くん、お姫様抱っこして」
「分かった」
初めてのコマンドに戸惑いそうになったが、砂子さんの体を持ち上げる。
両腕に、彼女の愛しい重さを感じた。
「よく出来ました。ソファーに降ろしてくれる?」
「了解」
そっと、砂子さんをソファーに座らせる。
「ありがとう。私のSubは優秀だね。隣に座って?」
「ああ」
砂子さんに寄り添うように座った。
「偉いね。ご褒美に、Glareをあげる」
レンズの奥の焦げ茶色の目が、俺を見つめる。
「あ…………」
とろりと、思考が溶けた。気持ちいい。
「いい子だね。当真くん」
Glareを浴びせられながら、褒められると、天にも昇る気持ちになった。頬を撫でる冷たい手も、好きだ。
「砂子さんに触れたい…………」
気付けば、そんな言葉を口にしていた。
「手なら、いいよ」
俺を撫でる手に、手を重ねる。白魚のような手。大好きな手。
心地がいい。この人は、俺のDomなんだ。その事実に、嬉しくなる。
「お疲れ様。今日は終わりだよ」
「お疲れさん」
プレイ終了を告げる一声。少し、残念に思う。
「砂子さん」
「ん?」
「その、プレイの時だけでいいんだけどよ。名前で呼んでくれねーか?」
「いいよ。次回から、そうするね」
意外と、あっさり受け入れられた。
特別な関係が、さらに強まった気がする。
「砂子さんは、要望ねーの?」
「んー。ないかな」
「そうか」
あんたの頼みなら、なんでも叶えてやるのに。
「あ、ひとつあった。私のこと、あんまり特別に思わないでね」
「はぁ?」
「私は、替えの利く存在でいたいんだ。じゃないと、潰れちゃう」
「…………」
もう手遅れだよ。あんたは、世界で一番特別なんだから。
「そいつは、無理かもな」
幸い、砂子さんの頼みは、コマンドじゃない。
「どうして?」
「俺は、砂子さんだけのSubでいたいから」
「なんで?」
「そういう性格なんだよ」
「……そう」
あまり納得してなさそうだ。手を顎にやり、首を傾げてる。
「独占欲が強いの?」
「ああ、そうだ」
「そっか」
それなら仕方ないね、と砂子さんが言った。
困らせたいワケじゃないけど、俺は、あんたを手放す気はない。
「砂子さん?」
「あ……ごめん…………」
「顔色悪いぜ」
「ちょっと、薬飲んで来る」
「ああ」
クライアントの当真勇くんに、心配させてはならないと気を張って歩く。
それでも、足取りはふらついた。
冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出し、頓服薬を飲む。
「はぁ…………」
これで良くなるといいんだけど。
「お待たせ」
「なぁ、俺、ちゃんと待てて偉いだろ?」
当真くんの台詞に、ぞくりとした。そして、頭がぼんやりしてくる。
「あ、うん。偉いね」
「何か、ご褒美がねーとなぁ?」
ご褒美。そう。そうか。
「当真くんは、いい子だね……」
私は、彼の頬を撫でる。当真くんは、私の右手に手を重ねて、頬をすり寄せた。
「俺は、砂子さんのだから」
「……私の?」
「あんたのSubにしてくれ」
「私……私の…………」
そこで、私の意識は途切れる。
目覚めたら、医務室のベッドの上だった。
「現海さん、気が付きましたか」
「私…………」
「貧血で倒れたんですよ」
「そう、ですか」
「歩けそうですか?」
「はい」
私は、自分の足で帰宅することを選ぶ。
医務室から出ると、壁を背にして、当真くんが立っていた。
「よう、大丈夫か?」
「平気。当真くんが運んでくれたんだって?」
「ああ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
すっと、当真くんが隣に来る。
「家まで送る」
「えっ? いいよ。私、ひとりで帰れるから」
「俺が嫌なんだよ」
有無を言わさぬ台詞。結局、送ってもらうことになった。
道すがら、当真くんは、なんてことない話をしてくる。猫のこととか、ラーメンのこととか。
しばらくして、出し抜けにこう言った。
「それで、返事は?」
「返事?」
「砂子さんのSubにしてくれんのかってやつ」
「あー…………」
あれ、夢じゃなかったんだぁ。困ったな。
「なんで、私がDomだって知ってるの?」
「今日、知った。威圧感あったからな」
Glareかぁ。しくじったなぁ。
「ごめん。私のせいだ…………」
「別に謝らなくていいぜ。俺、砂子さんが、Domだったらいいと思ってたんだ」
「……そうなの?」
「まーな」
どうしよう。相手は、未成年。うーん。
「実は、パートナーがいるとか?」
「いないよ。ちょっと私の倫理観がねぇ」
「じゃあ、迷うことねーだろ」
「その、秘密にしてくれる? 私たちの関係のこと」
「オーケー。よろしくな、砂子さん」
「うん、よろしく」
私たちは、握手をした。
沈む夕日だけが、ふたりを見ている。
◆◆◆
諸々すり合わせるために、当真くんを自宅に呼んだ。
テーブルを挟んで向かい合い、話を始める。
「じゃあ、セーフワードから決めようか?」
「Redでいいだろ」
「君がいいなら、いいけど」
すんなり決まった。
「次、私から。性的なことはしないっていうか、出来ないから」
「俺が未成年だから?」
「それもあるけど、私は、アセクシャルだから。身体接触は、私が許す範囲でしかダメだよ」
「了解。俺は、特にされたくないことはねーよ」
なるほど。まあ、無茶なことはするつもりないが。
「あとは、あれか。他の人とプレイするのを認めるかどうか?」
「認めない」
やけにはっきりと言われた。
「私は、別に……」
「俺は、あんたとしかしない」
「んー。じゃ、お互いしか相手をしないということで」
「ああ」
そういえば、彼は、なんで私に拘るんだろう?
「当真くん、なんで私のこと選んだの?」
「好みだから」
「好み?」
「細かいことはいーだろ」
「うん…………」
君に好感を持たれてるなんて、知りませんでしたけど?
当真くんは、カウンセリングの間は、いつも退屈そうだったし。
「プレイの頻度は?」
「週に一回くらい」
「オーケー」
場所は、毎回私の家で、ということにした。それが一番安心だから。
「とりあえず、練習も兼ねてプレイする?」
「いいぜ」
私は、ソファーの方へ行くように促した。
「当真くん」
ソファーに腰かけ、私は、コマンドを出す。
「Kneel」
当真くんは、私の足元に座った。
「いい子だね」
ソファーから身を乗り出し、当真くんの首元に腕を回す。
「当真くん、抱き締め返していいよ」
そっと、背中に腕を回された。
「砂子さん…………」
「ん?」
「…………」
当真くんは、押し黙る。別に、プレイ内容が嫌とかではなさそうだけど。
少し体を離して、表情を見る。充足感を得ているようだ。
「当真くん、隣に座って」
「ああ」
「よく出来ました」
頬を撫でると、当真くんは、気持ちよさそうに目を閉じる。
「お疲れ様。こんな感じで大丈夫かな?」
「大丈夫だ」
「よかった」
何故か、当真くんは、じっと私の手を見つめていた。
「私の手が、どうかした?」
「いや、小せーなって思って」
「そりゃあ、君よりはね」
日光にあまり当たらないせいで、私の肌は白い。末端冷え性だから、私の指は冷たい。
「嫌?」
「……違う。好きだなって」
「そう」
その後。私たちは、紅茶を飲みながら、世間話をした。
そして、あんまり遅くならないうちに、当真くんを帰す。
「じゃあ、またね、当真くん」
「またな」
さてと。これからも上手くやってかないとね。
◆◆◆
砂子さんの家に呼ばれて、色々話し合った。その後、プレイをした。
低めの落ち着いた声で「いい子だね」と言われて、抱き締められて、もっともっと欲しくなる。
俺は、あんたのSubだ。もっと褒めてくれ。
夢心地になって、どろどろと精神が溶けていくようだ。
砂子さんから、ひまわりの香りがする。
俺の全身を包む多幸感に身を任せると、ふわふわした気持ちになった。
「砂子さん…………」
「ん?」
「…………」
待て。何を言おうとした?
それは、秘密にしなきゃならないことだ。理性を総動員して止める。
「当真くん、隣に座って」
「ああ」
「よく出来ました」
頬を撫でられた。気持ちいい。自然と目を閉じる。
やっぱり、どうしようもない欲が出そうになった。隠さなきゃならない。
もっと触れてほしいとか、キスしてほしいとか。
ダイナミクスによるものだけじゃない。俺が、砂子さんに恋をしてるせい。
今までは、親とか真木ちゃんとかにプレイを頼んでいたけど、こんな風にはならなかった。
「お疲れ様」の言葉を合図に、プレイは終わる。
そして、お茶をしてから、帰された。
帰路。砂子さんの冷たい手の温度を思い出す。もう、あの手が恋しい。
プレイの間、焦げ茶色の瞳が、俺だけを見てたんだ。その事実に、喜びを感じる。
俺のDomは、庇護欲が強い。カウンセラーだからだろうか。
ちゃんとした大人をしようとする意識が強い。本当は、ろくでなしの癖に。
歪なガラス細工みたいな愛しい人。
俺と同じくらいの想いを、砂子さんにも持ってほしい。
じゃないと、ゆるせねーよ。
まあ、パートナーとしては独占出来そうだから、ひとまずはいいか。
砂子さんは、関わる人間が多い。ボーダー唯一のカウンセラーだから。階級を問わず、たくさんの隊員の面倒を見てる。
あの人を手に入れるためなら、俺はなんだってするだろう。
ただのカウンセラーとクライアントからは、一歩前進ってとこか。
パートナーであり、恋人になりたい。
でも、普通に告白しても断られる気がするから、俺からは言わない。
問題は、言わずにいられるのかってこと。今日だって、危なかった。
満たされたはずなのに、どこか渇く。こんな感覚は、初めてだった。
この片想いが、早く実ればいいのに。
砂子さんを救うのは、俺じゃなきゃならない。他の誰も、あんたに助けが必要だとは気付いてないんだろうな。
◆◆◆
砂子さんは、支配的なプレイはしない。だけど、それは真実のあんたなんだろうか?
「砂子さん」
「なに?」
「……いや、なんでもねぇ」
「そう」
愛してくれという渇望。もっと縛ってくれという欲望。ぐちゃぐちゃになる頭の中。
「当真くん。今日は、いつもと違うご褒美をあげる」
「え?」
「お楽しみに」
人の悪そうな笑みを浮かべる砂子さん。
「じゃあ、始めようか」
「ああ」
「当真くん、お姫様抱っこして」
「分かった」
初めてのコマンドに戸惑いそうになったが、砂子さんの体を持ち上げる。
両腕に、彼女の愛しい重さを感じた。
「よく出来ました。ソファーに降ろしてくれる?」
「了解」
そっと、砂子さんをソファーに座らせる。
「ありがとう。私のSubは優秀だね。隣に座って?」
「ああ」
砂子さんに寄り添うように座った。
「偉いね。ご褒美に、Glareをあげる」
レンズの奥の焦げ茶色の目が、俺を見つめる。
「あ…………」
とろりと、思考が溶けた。気持ちいい。
「いい子だね。当真くん」
Glareを浴びせられながら、褒められると、天にも昇る気持ちになった。頬を撫でる冷たい手も、好きだ。
「砂子さんに触れたい…………」
気付けば、そんな言葉を口にしていた。
「手なら、いいよ」
俺を撫でる手に、手を重ねる。白魚のような手。大好きな手。
心地がいい。この人は、俺のDomなんだ。その事実に、嬉しくなる。
「お疲れ様。今日は終わりだよ」
「お疲れさん」
プレイ終了を告げる一声。少し、残念に思う。
「砂子さん」
「ん?」
「その、プレイの時だけでいいんだけどよ。名前で呼んでくれねーか?」
「いいよ。次回から、そうするね」
意外と、あっさり受け入れられた。
特別な関係が、さらに強まった気がする。
「砂子さんは、要望ねーの?」
「んー。ないかな」
「そうか」
あんたの頼みなら、なんでも叶えてやるのに。
「あ、ひとつあった。私のこと、あんまり特別に思わないでね」
「はぁ?」
「私は、替えの利く存在でいたいんだ。じゃないと、潰れちゃう」
「…………」
もう手遅れだよ。あんたは、世界で一番特別なんだから。
「そいつは、無理かもな」
幸い、砂子さんの頼みは、コマンドじゃない。
「どうして?」
「俺は、砂子さんだけのSubでいたいから」
「なんで?」
「そういう性格なんだよ」
「……そう」
あまり納得してなさそうだ。手を顎にやり、首を傾げてる。
「独占欲が強いの?」
「ああ、そうだ」
「そっか」
それなら仕方ないね、と砂子さんが言った。
困らせたいワケじゃないけど、俺は、あんたを手放す気はない。