私という一頁の物語
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「鳩原未来について知っていることを教えていただきたい」と、二宮匡貴くんに言われた。
予約表を見た時から、そんな気はしていたが、やはりそうか。
「それを訊くために、寄り付いたことがない場所にわざわざ来たのかな?」
「あの馬鹿は、ここによく来ていたでしょう?」
私は、その言葉を聞いて、「イエス」だと判断した。
「鳩原さんのことなら、上層部にも訊かれたけど、失踪に関して、私は何も知らない」
「何か、あったのでは? 様子がおかしかったとか」
「ないよ。彼女は、ただ、私と話をしていただけだからね」
「話とは?」と、二宮くんは食い下がる。
「カウンセラーには、守秘義務がある。悪いけど、君に言えることはないんだ」
「……そうですか」
「紅茶、冷めるよ」
「…………」
無言のまま、彼は紅茶を一口飲んだ。
“砂子先生、あたしってダメなんです”
彼女は、たまにそう漏らしていたな。
先生なんて呼ばなくていいといっても、鳩原さんは、私をそう呼び続けた。私を、先生と呼ぶのは、君くらいのものだったよ。
最後に会った時も、彼女に特段変わったところはなかったように思う。
あんなに言葉を交わしたのに。君のことが、私には分からない。
私がもっと、鳩原さんのことを理解出来ていたら、除隊処分にはならなかったのだろうか?
二宮くんは、私が彼女を止められなかったことを、罵りたいのだろうか?
「二宮くん、私を恨んでる?」
「いいえ。ただ、俺はあの馬鹿を唆した奴を知りたいだけです」
「そうか。鳩原さんを言いくるめた人がいる、と」
そういう敵を想定しておくのは、いいことだ。怒りの矛先を間違えないためにも。
しかし、真実は、二宮くんが考えている通りなんだろうか?
君や私が知っている鳩原未来さんとは、一面に過ぎないかもしれないのである。
鳩原さんの行動が、今後どのように影響してくるのか。万人が褒めるような結果にはならないかもしれないが、私は彼女の選択を記憶し、無事に帰って来ることを祈ろう。
私に出来ることは、そんなことだけだ。
「鳩原さんのために、梨のパイを用意していたんだけどね。次にここに来るのがいつか、分からなくなってしまったな」
デスクの上に箱を置き、個包装された小さなパイをひとつ取り出す。
「君にあげる。日持ちしないんだ、これ」
「……どうも」
二宮くんは、無表情のままパイの包みを破り、中身を食べた。そして、紅茶も飲み干す。
「ごちそうさま。では、もう行きます」
「ああ。また、いつでもおいで」
「もう来ません」
「そう」
それもいいだろう。
人生は選択の連続で出来ている。中には、取り返しのつかないものもあるだろう。
私の選択。君の選択。彼女の選択。それはきっと、平行線上のものではない。
予約表を見た時から、そんな気はしていたが、やはりそうか。
「それを訊くために、寄り付いたことがない場所にわざわざ来たのかな?」
「あの馬鹿は、ここによく来ていたでしょう?」
私は、その言葉を聞いて、「イエス」だと判断した。
「鳩原さんのことなら、上層部にも訊かれたけど、失踪に関して、私は何も知らない」
「何か、あったのでは? 様子がおかしかったとか」
「ないよ。彼女は、ただ、私と話をしていただけだからね」
「話とは?」と、二宮くんは食い下がる。
「カウンセラーには、守秘義務がある。悪いけど、君に言えることはないんだ」
「……そうですか」
「紅茶、冷めるよ」
「…………」
無言のまま、彼は紅茶を一口飲んだ。
“砂子先生、あたしってダメなんです”
彼女は、たまにそう漏らしていたな。
先生なんて呼ばなくていいといっても、鳩原さんは、私をそう呼び続けた。私を、先生と呼ぶのは、君くらいのものだったよ。
最後に会った時も、彼女に特段変わったところはなかったように思う。
あんなに言葉を交わしたのに。君のことが、私には分からない。
私がもっと、鳩原さんのことを理解出来ていたら、除隊処分にはならなかったのだろうか?
二宮くんは、私が彼女を止められなかったことを、罵りたいのだろうか?
「二宮くん、私を恨んでる?」
「いいえ。ただ、俺はあの馬鹿を唆した奴を知りたいだけです」
「そうか。鳩原さんを言いくるめた人がいる、と」
そういう敵を想定しておくのは、いいことだ。怒りの矛先を間違えないためにも。
しかし、真実は、二宮くんが考えている通りなんだろうか?
君や私が知っている鳩原未来さんとは、一面に過ぎないかもしれないのである。
鳩原さんの行動が、今後どのように影響してくるのか。万人が褒めるような結果にはならないかもしれないが、私は彼女の選択を記憶し、無事に帰って来ることを祈ろう。
私に出来ることは、そんなことだけだ。
「鳩原さんのために、梨のパイを用意していたんだけどね。次にここに来るのがいつか、分からなくなってしまったな」
デスクの上に箱を置き、個包装された小さなパイをひとつ取り出す。
「君にあげる。日持ちしないんだ、これ」
「……どうも」
二宮くんは、無表情のままパイの包みを破り、中身を食べた。そして、紅茶も飲み干す。
「ごちそうさま。では、もう行きます」
「ああ。また、いつでもおいで」
「もう来ません」
「そう」
それもいいだろう。
人生は選択の連続で出来ている。中には、取り返しのつかないものもあるだろう。
私の選択。君の選択。彼女の選択。それはきっと、平行線上のものではない。