一頁のおまけ

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 女がひとり、火刑台に立たされていた。

「殺せ!」
「卑しい女め!」
「火炙りにしろ!」

 集まった民衆は、口々に叫ぶ。
 魔女と断罪された者の名前は、現海砂子。
 村の外れの森に、ひとりで住んでいた彼女は、病を患ったからと訪ねて来た者に薬草を授けたり、化物に取り憑かれたという者を助けたりして、“賢女”と呼ばれていた。
 一方で、教会に属さぬ者である女は、迫害の対象でもある。誰とも結婚をしていない年嵩の女。子を成さぬ女。小賢しい女。
 ある時、村に流行り病が蔓延り、それを治せと彼女は言われた。しかし、それは、女の手には余る代物で。村人たちは、女を罵り、異端審問にかけろと言った。
 教会は、砂子を魔女だと裁定する。
 そして、火刑台に火が放たれた。火は徐々に、女の足元を焼く。

「私は魔女じゃない! クソ! 私を爪弾きにしていたおまえたちを助けてきたのに! こんな仕打ちをするのか!」
「うるせぇ! 俺の娘を治せなかったじゃねぇか!」
「私の夫もよ!」
「この病を流行らせたのは、おまえなんじゃないのか?!」
「なにを、バカな…………」

 砂子の掠れた声は、誰にも届かなかった。

「消えろ! 汚らわしい魔女め!」
「ふ、ふふ。あはははははははははは! いいだろう! それなら、私は、本物の魔女になってやろう! 私を害した者は、全て滅ぶだろう! 呪ってやる……呪ってやるぞ、ゴミども…………!」
「ほら見ろ! あれが本性だ!」
「恐ろしい!」
「殺せ!」

 村人たちから、石を投げる者が出始める。炎は、女の靴を焼き出した。

「あーあ。結局、人生なんて、ろくなもんじゃねぇ」

 砂子は、諦観のこもった台詞を、ぽつりと吐く。
 遠く、自らの棲み処だった小屋の方角を見やった。
 木々の間から、何かが、きらりと光る。

「君かぁ。はは。ありがとう。ごめんね。さよなら」

 次の瞬間。一発の銃声が鳴り響き、砂子の心臓に穴が空いた。
 魔女と呼ばれた砂子は、苦しまずに、あの世へ旅立つ。
 それを、猟銃のスコープから、ひとりの少年が見つめていた。

◆◆◆

 魔女が死んだ、その夜更け。
 少年は、村はずれに埋められた棺を掘り返している。

「よう。来てやったぜ」

 棺の中には、砂子の死体があった。胸元が赤く染まった服を着て。

「じゃ、どっか行くか」

 砂子を両腕で抱きかかえて、彼は、歩き出した。
 美しい月明かりが、ふたりを照らし、夜風が体を撫でる。
 どこか静かなところで、弔ってやるから。俺が、一生傍にいてやるから。
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