私という一頁の物語
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嫌な夢を見た。
ブレーキの効かない車を、ずっと運転し続けなくてはならない夢。
私は、運転免許を持っていない。人の命を預かるのが怖いからだ。
ペットを飼うこともないし、子供を産むこともない。
自分の面倒を見るので精一杯だ。
そんな私が、カウンセラーを志した理由。メンタル士心理カウンセラーの資格を取った理由。
最初は、人の気持ちが分からないから、心理学を学び始めたんだ。
そうしてるうちに、分かったことがある。カウンセラーは、他者に寄り添い過ぎない方が適性があるということ。感情移入をし過ぎると、自身が潰れてしまうから。
今日もまた、私は、そう努めた。
「ありがとうございました」
「さよなら。あまり思い詰めないで」
「はい」
カウンセリングをし、部屋から送り出した後、溜め息をつく。
次に、ドアから入って来た少女は、開口一番に言い放った。
「あたしって弱くないよね?」
小南桐絵さんが、私に問う。
その瞳は、わずかに潤んでいて、私は、いつも通り慎重に言葉を選んだ。
「君は、強いよ。ただし、弱さもある。全ての物事に強い人間なんて、いないんだ。みんな、多面体なんだよ。強固な一面もあれば、脆弱な一面もある」
「でも、あたし、弱いのは嫌」
太刀川くんと風間くんに、ポイントを抜かされたことが関係しているんだろうか?
小南さんは、カーディガンの裾を、ぎゅっと握り締めている。
「負けず嫌いなんだね」
「当たり前! 誰だってそうでしょう?」
「個人ランク戦のこと、気にしているの?」
「あんなのは……あんなのは、実質あたしが一位だし…………」
なるほど。そう折り合いをつけたのか。
「君の言う弱いって、どういうもの? 例えば、本人が弱くても、人脈があれば、勝てる場合もあるよね?」
「それは、強いってことよ」
「小南さんは、どういう強さが欲しいの?」
「人を守れる強さが欲しい」
旧ボーダー時代からいる君は、喪われた者を多く知っている。だから、君は、強くなりたいのかな?
「それなら、焦らず努力を積み重ねるしかないんじゃない?」
「今のままでいいの?」
少女は、驚いたような顔をした。
「うん。焦燥感に呑まれないで、一歩ずつ進めばいいと思うよ」
「そ、そうよね! あたし、間違ってないわよね!」
「その通りだよ」
彼女を肯定してから、マグカップの中のカフェオレを飲む。
「クッキー食べる?」
私は、クッキー缶の蓋を開けて、小南さんに差し出した。
「食べる!」
美しく象られたクッキーは、様々な味がして、飽きが来ない。
「人間は閉じたクッキー缶のようなもの、という台詞を思い付いた」
「どういう意味?」
「さてね。意味なんてないかも」
私は、クッキーを口に入れて、笑った。
缶の中身は、人それぞれ。形も色も味も。全てが君の“特別”なんだよ。
生まれつきのもの。君が選んで、作っていくもの。残すもの。その軌跡を、人生と呼ぶんだろう。
ブレーキの効かない車を、ずっと運転し続けなくてはならない夢。
私は、運転免許を持っていない。人の命を預かるのが怖いからだ。
ペットを飼うこともないし、子供を産むこともない。
自分の面倒を見るので精一杯だ。
そんな私が、カウンセラーを志した理由。メンタル士心理カウンセラーの資格を取った理由。
最初は、人の気持ちが分からないから、心理学を学び始めたんだ。
そうしてるうちに、分かったことがある。カウンセラーは、他者に寄り添い過ぎない方が適性があるということ。感情移入をし過ぎると、自身が潰れてしまうから。
今日もまた、私は、そう努めた。
「ありがとうございました」
「さよなら。あまり思い詰めないで」
「はい」
カウンセリングをし、部屋から送り出した後、溜め息をつく。
次に、ドアから入って来た少女は、開口一番に言い放った。
「あたしって弱くないよね?」
小南桐絵さんが、私に問う。
その瞳は、わずかに潤んでいて、私は、いつも通り慎重に言葉を選んだ。
「君は、強いよ。ただし、弱さもある。全ての物事に強い人間なんて、いないんだ。みんな、多面体なんだよ。強固な一面もあれば、脆弱な一面もある」
「でも、あたし、弱いのは嫌」
太刀川くんと風間くんに、ポイントを抜かされたことが関係しているんだろうか?
小南さんは、カーディガンの裾を、ぎゅっと握り締めている。
「負けず嫌いなんだね」
「当たり前! 誰だってそうでしょう?」
「個人ランク戦のこと、気にしているの?」
「あんなのは……あんなのは、実質あたしが一位だし…………」
なるほど。そう折り合いをつけたのか。
「君の言う弱いって、どういうもの? 例えば、本人が弱くても、人脈があれば、勝てる場合もあるよね?」
「それは、強いってことよ」
「小南さんは、どういう強さが欲しいの?」
「人を守れる強さが欲しい」
旧ボーダー時代からいる君は、喪われた者を多く知っている。だから、君は、強くなりたいのかな?
「それなら、焦らず努力を積み重ねるしかないんじゃない?」
「今のままでいいの?」
少女は、驚いたような顔をした。
「うん。焦燥感に呑まれないで、一歩ずつ進めばいいと思うよ」
「そ、そうよね! あたし、間違ってないわよね!」
「その通りだよ」
彼女を肯定してから、マグカップの中のカフェオレを飲む。
「クッキー食べる?」
私は、クッキー缶の蓋を開けて、小南さんに差し出した。
「食べる!」
美しく象られたクッキーは、様々な味がして、飽きが来ない。
「人間は閉じたクッキー缶のようなもの、という台詞を思い付いた」
「どういう意味?」
「さてね。意味なんてないかも」
私は、クッキーを口に入れて、笑った。
缶の中身は、人それぞれ。形も色も味も。全てが君の“特別”なんだよ。
生まれつきのもの。君が選んで、作っていくもの。残すもの。その軌跡を、人生と呼ぶんだろう。