煙シリーズ

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「海に行きたいな」と、ミョウジナマエがぽつりと言った。
 それを聞いた諏訪洸太郎は、すっとスマートフォンを取り出し、同い年のグループチャットにメッセージを送る。
ナマエが海行きてぇとよ』
『海か、いいな』
『行こう』
『このメンツで休めるのか?』
『ソッコーでバラすな、洸太郎』
 目の前にいるミョウジは、諏訪を睨んだ。
 ボーダーのA級の隊長ふたりとB級の隊長とチーフエンジニアとメディア対策室勤め。全員で休むのは骨が折れたが、結局は叶った。
 そして、当日。諏訪の運転で、浮かれたアロハシャツの5人組は海へ向かう。
 海が見えるや否や、助手席のミョウジが窓を開け、「海だ!」と騒いだ。

「潮風だな」
「しょっぱいな」
「テンション上がってきた!」
ミョウジって、火属性の癖に海が好きなんだ」
「オレは、水属性も兼ねてんの!」

 木崎は木属性だの、風間は風属性だの、寺島は雷属性だの、諏訪は水属性だの、やんややんやと話し合う男たち。

「おい、着いたぞ、おめーら」

 諏訪の合図に、皆が静まり、車の外に出た。
 晴天の下。波の音がする。

「よーい、ドン!」

 ミョウジがそう言い、走り出した。

「ずりーぞ!」
「負けるか!」
「すぐ追い付く」
「負けでいいや」

 それぞれのペースで海へ向かう。
 一番乗りは、風間だった。ビーチサンダルのまま海に浸かり、敗者たちを待ち受ける。
 次に、木崎。その後に、諏訪。そして、ミョウジと寺島。

「メディア対策室勤務とエンジニアが勝てるワケねぇんだよな!」
「寺島、棄権しました」
「ノリが悪いよ、寺島くん」

 全員で足だけ海に入った頃には、久し振りに目にする大自然に、少し感慨深くなった。
 その後、浜辺にレジャーシートを敷き、荷物を置き、泳ぎに行く。

「洸太郎~。ブイまで競争な。泳ぎなら負けねぇ」
「いいぜ。負けたら、飯奢りな」
「オーケー」

 ミョウジと諏訪は、本気の水泳を始めた。
 木崎と風間は、マイペースに泳ぎ、寺島は浮き輪に乗って漂っている。

「元気だな、あのカップル」
「そういえば、そうだったな、あのふたり」
「カップルって、ああいうもの?」
「さあ」

 3人は、遠くなっていくミョウジと諏訪を眺めながら話した。
 ふたりの勝負は、引き分け。帰りは、仲良く泳いで来た。

「なんで、んな体力あんだよ?」
「おまえこそ、なんなんだよ。ヤニカスがよ」
「てめーもだろうが!」

 ぎゃーぎゃー言いながら、戻るふたり。

「おーい、飯の時間だぞ」
ミョウジ、了解」
「おう」

 皆で海の家に向かい、各々メニューを選んだ。

「カレーもラーメンも、なんでこんなに美味そうに見えるんだろうな?」
「海の家マジック」

「いただきます」を言い、5人は昼食を摂り始める。
 休憩を挟み、着替えてから、車で旅館に移動した。
 窓際の謎のスペースを見てから、諏訪が言う。

「温泉行こうぜ」
「行こう行こう」

 ミョウジ、他3名も同意し、露天風呂へ行く。
 潮をさっぱり洗い流して、全員で湯に浸かった。

「最高~」
「酒飲みてーな」
「オレは飲めねぇ」
「おまえは、ハブだハブ」
「ひっでぇ!」

 けらけら笑い合うミョウジと諏訪。

「でも、真面目にミョウジは酒抜きだからね」
「そうだぞ」
「甘やかすなよ、諏訪」
「シバくぞ。誰が甘やかすか」

 そんなこんなで、風呂上がりに浴衣を着て、部屋に帰った。

「あとは、何もしないでも飯出てくんだろ? 最高~」
「主婦か」
「風間、コイツ、袋ラーメンそのまま食うんだぜ」
ミョウジ、最低限の調理くらいしろ」
「うるせー! アレは、バリバリ食うのがいいの!」
ミョウジの食生活が心配になってきたな」
「ほらな? 完璧食生活のゴリラもそう言ってる」
「寺島くん!」

 ミョウジは、助けを求めてみたが、寺島は無視して、お茶菓子をもぐもぐ食べている。

「孤立無援!」

 ミョウジは叫んだ。
 時間まで、思い思いに過ごし、夕食が運ばれてくる。
 海鮮丼と天ぷらと味噌汁。食べ終わったら、かき氷を持ってきてくれると言う。

「いただきます」

 皆、席に着き、料理を食べ始めた。ミョウジ以外は、ビールも飲む。

「うめー!」
「美味いな」
「美味い」
「美味しい」
「はいはい、よかったね」
「不貞腐れんな」

 仲間外れのミョウジは、ウーロン茶を飲んだ。
 食後は、様々な果物が盛られたかき氷が届く。

「甘いもの最高!」
「甘党は相変わらずか」
「コイツが淹れたココア、全員飲め」
「なんだそれ?」
ミョウジナマエスペシャルに文句あんのか? 洸太郎」

 賑やかに時は過ぎていった。
 そして、早々に酔い潰れた風間を布団に寝かせ、4人は他愛ない話をして過ごす。
 木崎が、「そろそろ寝るか」と言ったのを合図に、皆で寝支度を始める。
 全員が眠った夜夜中。ミョウジは悪夢に魘された。
 そして、冷や汗を流して飛び起きる。

「はぁっ……はぁっ…………」

 口元を押さえて、音を立てないようにした。

ナマエ

 それでも、おまえは見付けてしまう。
 ミョウジは、隣の諏訪に申し訳なくなった。

「少し話そうぜ」
「うん…………」

 ふたりで窓際の椅子に座り、煙草に火を着ける。

「落ち着いたか?」
「ああ。悪い……オレ…………」

 何も、こんな時にまで魘されなくてもいいのに。
 ミョウジは、自分を情けなく思った。

「悪くない奴が謝んな」
「そう、だな……」
「愛してるぜ、ナマエ
「はは。ありがとう。オレも、おまえを愛してる」

 ミョウジは、ようやく、いつものように笑う。
 それを見て、諏訪は安心した。
 しばらく、ふたりきりで無言の時を過ごし、寝直すことにする。

「おやすみ、ナマエ
「おやすみ」

 軽くキスをしてから、布団に戻った。今度は、朝まで目覚めないで済んだ。

「はよー」
「おはよう」

 それぞれ身支度をして、朝食を摂り、三門市へと帰るために車に乗る。

「よかったな、海」
「そうだな」
「来年も、また来ようぜ」
「おう」

 来年も、この5人で海に行こう。
 先のことは分からないけれど、そんな希望持って帰った。
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