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過去が分からないから、寄る辺がないような気がする。
家族同然の人たちはいるけど、結局俺は独りなのかもしれない。とか、まあ、そういう感じ。
それに、悪夢を見ることがある。
これは、10年前の記憶?
22歳になった俺は、刑事になって、新型アンドロイドと組むことになったけど、正直気乗りしなかった。
よく分からないものは怖い。
あの夢の中の腕は、なんなのだろう?
恐怖だけに塗り潰される思考。動きとは裏腹に、冷えていく心臓。
何度味わっても、拭えないもの。
蟹座の運勢ランキングは最下位だし、怠いね。占いを特別信じてるワケでもないけど。
そうして、出会ったのは、茶色い長髪に緑色の目の彼女。
俺は、そのパートナーロボットに、「クチナシ サク」と名付けた。
道中、梔子が咲いてるのを見たから。
波風立てないよう、無難に挨拶を済ませ、少しふたりで歩くことに。
はいはい。「サクちゃん」って呼ばれたいなら、そうするよ。
それから俺たちは、遭遇したひったくり犯を追った。
VOIDのせいで失業したらしい父親から、窃盗を命じられた被虐待児の少年。
「あのさぁ、君のお父さん、刑事だったりした? たぶん違うよね? じゃあ、サクちゃんに文句言うのは筋違いだよね?」
俺の正論は、子供には響かない。
「サクちゃーん。この子、なんとかしてもらえる?」
俺には向いてないな。
サクちゃんは、自分を殴れと言った。
なんやかんやで、子供には逃げられたけど。
とりあえず、青木さんに連絡。
すると、立てこもり事件が発生したから、現場に向かうことになった。
サクちゃんの提案で、何故か自転車で。
「チャリで来た」
「それがやりたかったの?」
立てこもり犯のVOIDは、様子がおかしい。感情的に見えるし、それの処理が追い付いてないみたいだ。
その場を何とか収めた俺たちは、他の件も含めて捜査することになる。
サクちゃんは、サクちゃんも? すぐ転ぶし、大事な物を壊すし、なんか変なVOIDだった。
事件を起こした「ナナミくん」は、突然感情を与えられたように思える。そうなると、彼は被害者?
分からないことだらけだ。
その後。図書館にて。
メアリーの部屋について読んだ。
「私もメアリーとも言えるかも」と、サクちゃんは言う。
「でも、サクちゃんはVOIDじゃん。チューリング・テストも通ってんだから、ほとんど生物なんじゃない? でも、人間があんな風に育てられたら、それは生物らしいって言えるのかな?」
「それは凄く嫌だね……」
「嫌だねぇ」
そうこうしてるうちに、一日は終わった。
矢代さん、何を隠してるの?
なんで教えてくれないの?
疑問は、ずっと頭の片隅に居座り続けてる。
でも、「ちょっといい肉」を頼んで、豚カツを買って来てくれる人を疑いたくないよねぇ。
正直、ドロ課の人たちは、みんな怪しく見える。
矢代さんのことは信じてる。じゃあ、透也さんは?
分からない。
さすがに疲れたから、すぐに就寝した。
翌日の食堂。
「唐揚げ」
「シュラスコ食べたい」
あるんだ、シュラスコ。
席に向かうと、忘れ物らしい一冊の本が目につく。
“人生は選択の連続である”
シェイクスピアのハムレットか。
「今、嫌なこと思い付いたんだけど、選択してるつもりで誘導されてたら嫌じゃない?」
「嫌~」と、サクちゃん。
一緒に来てもらった黄海さん曰く、オススメの唐揚げじゃなくてシュラスコを食べてる俺は、「引かれたレールに逆らっている」そうだ。
そうかなぁ?
俺には確証がない。
しばらくしてから。
嫌な光景を見た。
アンドロイドに横柄で理不尽な態度の、ホモサピエンスらしい男たち。
「感情のない物だったら、粗雑に扱っていいなんて道理はねぇでしょ!」
あなたの携帯端末、感情ないと思うけど、俺が踏んでもいいワケ?
「俺は、感情がないからって、ゴミ箱蹴ってる奴がいたら引くけどねぇ!」
ぐだぐだうるさいし、俺がコネで入ったとか言うし。馬鹿な人らだな。
カスどもに、サクちゃんがサルミアッキを渡す。
苦しんでる奴もいるけど、主犯が美味そうに食ってて釈然としない。
「サータナン・サータナ」
フィンランド語で、「ああもう、まったく」と罵った。伝わらないだろうけどな。
最終的に、主犯は唾吐いて去って行く。
「行け! 俺の右肩!」
丸めた雑巾を投げる。男の後頭部にヒット。やったね。
投げた後は、知らんぷりする。
黄海さんに、「同じ土俵で争わなくても」みたいなことを言われた。
「その理屈は、ちょっと納得出来ないっすね」
いや俺ら、高見から物投げただけだし。
向こうが勝手に低次元にいるだけじゃん?
感情ないものには何してもいいなんて、チンピラの発想でしょ。文明の利器の恩恵を受けてる癖に、それを物だからって軽んじちゃダメでしょ。
俺は、アンドロイドが怖いよ? でも害していいはずないっしょ。
俺もサクちゃんも、無罪放免。
日々は、忙しなく過ぎていく。
そんなある日。
自宅のドアの鍵が開いていて、嫌な予感がした。
あの匂いだ。鉄錆臭くて、真っ赤な記憶。
取り乱しそうな頭で、サクちゃんの端末にワンコールだけ入れて、家の中へ入る。
矢代さんが刺されて倒れていた。
この家の床に落ちてたパーツのことを、善意で隠してたあなた。
そこに、赤星透也が来た。
俺は、彼に殺人未遂をなすられたんだろう。
冷たい視線が刺さる。嫌な感じだ。
捕まった俺は、コンクリの檻の中。
そこに、サクちゃんも放り込まれてきた。
ああ、怖いな。どうしようもなく、怖い。
アンドロイドと、部屋にふたりきり。この状況はよくない。
俺は、気付けばサクちゃんを破壊しようと手を伸ばしていた。
「晃牙くんは、アンドロイドが怖いんだね」
「……うん、そう。怖いん、だろうね」
俺は、伸ばした手を引っ込める。
そして、悪夢のことを話した。こんな状況だしね。
サクちゃんは、俺をなごませるためか、ロボットダンスをした。
「あ、これロボットだから、逆効果!?」
「はは。俺が知ってるアンドロイドは、そんな動きしないよ」
少し、落ち着いた。
その後。
守生さんと千雪さんたちが、助けに来てくれた。
留置所から脱走したから、前科ついたかな。
敵に囲まれたり、追われたりしたけど、ただ免許があるだけのバイクの運転をなんとかやって逃げ切った。
そうして辿り着いたスパローのアジト。
彼らに協力するしかない。
容疑者のままじゃ、戻れるワケがない。
もう他に行き場はない。
サクちゃんが、長い髪を切った。
俺のせいだろうな。
「可愛い?」と、彼女は訊く。
「可愛いね」と、俺は答える。
その晩。ひとりきりで考えた。
これからのこと。
俺は、自分のことすら疑わなくてはならない。
次の日。
スパローがアジトにしている場所を見て回っていたら、謎の扉が開いた。
俺とサクちゃんに反応した?
あー。俺って、天城なの? やっぱりサクちゃんは有馬だし。
開かずの間や壁の先にある研究施設を調べたら、俺が立てていた仮説がどんどん現実になっていく。
EMCってカスじゃん。
あーあ。もっと前に披露しときたかったかもな。それどころじゃなかったから仕方ないけど。
千雪さんの正体は、まあ想定内だったかな。
俺としては、守生さんのことが一番分からなかったから、ちょっと過去の話をしてもらった。
この人も、長い間辛かったのかな。
ついでだから、サクちゃんに「俺を殴ってみて」と頼んだ。
結果、原則が適用されたらしく出来なかった。つまり、脳味噌が欲しい人間を機械化すれば、言うこと聞かせられるってこともある?
有馬が人間のままかは分からないけどね。
あと、俺は人間判定っぽいかなぁ。
一通り探索が終わった後。
これも、まあ予想してたんだけど、赤星と戦うことになった。
「なんで10年前に俺を殺さなかったんですか?」
「黒田の目があったからだ」
「ふぅん」
二刀を構えると、相手も同じように刀を構える。
透也さん、人間ごっこはどうだった? 俺の兄みたいに振る舞うのは楽しかった?
赤星は強い。サクちゃんが庇ってくれなかったら、死んでただろう。
昔も、今も。
俺は死にたくない。
俺は生きたい!
フルスイングするみたいに刀を動かして、それがトドメの一撃になった。
だけど、赤星は俺を始末しようと足掻く。まだ動けるのか。
ぽたり、と。青い雫が俺に落ちた。
「動かない……動作不良か…………?」
「それ、動作不良じゃないと思うよ」
「俺は、お前を殺そうとした。でも、出来なくて。それでも、結局は命令に従うしかない。アンドロイドに、感情なんてない」
「そう? 俺は、アンドロイドに感情が芽生える話たくさん知ってるけど。まあ、フィクションだけどさ」
「フィクションはフィクションだろ」
事実は小説より奇なりとも言う。
「俺は、なんなんだろうな……」
「あー。複雑な事情のお兄さん?」
「お前は、俺をそう言ってくれるのか……」
なりを潜めていたイチハが現れ、その銃撃から透也さんに庇われた。
そして、密かに何かの鍵を渡される。
「晃牙、逃げろ」
「ありがとう! 透也さん!」
さよなら、透也さん。
キョウさんを喪い、みんな辛そうだ。
俺は、どうしようかな。
辛いのは、辛いんだけど。泣いてる暇もないだろうし。
青木さんから受け取った箱、鍵がかかってた。
これ、透也さんがくれた鍵で開くだろうなぁ。
そんなことを考えてると、サクちゃんに話があると言われた。
ふたりきりになったけど、俺はもう、サクちゃんのことは怖くない。
サクちゃんは、ゆっくりと口を開いた。
「私、死ぬのが怖いの。赤星さんと戦った時から」
「うん」
「死ぬのは怖い。けど、晃牙くんが死ぬのはもっと怖い。どうすればいいのかな?」
「うーん。どうしようもないんじゃない。サクちゃんは、もう生きちゃってるんじゃないかなぁ? 生きてるとさぁ、絶対いつか死ぬんだよ。そのゴールから目を逸らして、みんな生きてるワケ。だから、その恐怖はどうにも出来ない。俺も、死ぬのは怖い」
「そっか。私、生きてるんだ」
「うん」
サクちゃんが生きてないなら、俺だって生きてないだろう。
脳のシナプスは電気信号に過ぎず、全ての言動は反射に過ぎず、人間らしさの定義は、時代とともに変わっている。
昔は、“機械的に動けること”が人間らしさだったんだよ。
「私、晃牙くんのことが、好き」
「ありがとう?」
「恋愛としての好き、なのかな」
「そうなの?」
「うん」
サクちゃんの瞳が、俺を見つめてる。
「ちゃんとした返事になってないかもしれないけど、聞いてくれる?」
「聞く」
「俺は、あなたが思ってるより、あなたのことが好きだと思うよ」
誠心誠意、言葉を尽くした。
何を言っても陳腐で、くどい。
これ以上は、何も言えない。
「そっか。ありがとう」
「あのさ、サクちゃんに頼みがあるんだけど」
「なに?」
「この箱開けるの、ちょっと怖いから、一緒にいてくれる?」
「うん。いいよ」
箱の中身は、黒田矢代が書いた懺悔だった。
いよいよ、俺が人間判定なのが怪しくなったな。傷もないワケだよ。
俺も、サクちゃんとたいして変わらないな。
「サクちゃん、手を握ってくれる?」
「うん。もちろん」
手袋を外して、サクちゃんの手を取る。
そのまま、俺は気付いたら眠っていた。
翌朝。外の景色は、一変していた。
例の噴霧器。人々は感情を抑制され、平らかになるらしい。
あまりふざけるなよ。
そんな一定の感情の値しか持たない生物、何か不測の事態がひとつ起きれば全滅だろ。
やることが半端なんだよ。
人類滅ぼすくらいしろ。それより、自害した方が早いだろうけどな。
ニトくんからガスマスクを借りて、リボット社を目指して走る。
辿り着いた部屋には。
「天城晃牙。やはり、お前は危険因子だった」
有馬真二が、サクちゃんの姉、夏央さんとともにいた。
出たな、ラスボス気取り。
「お前は、サリエリだよ! 俺の父親がモーツァルト! 言ってること分かる?」
「おちょくりに来たのか?」
「そうだよ」
お前じゃ、俺たちには勝てない。
負けるはずがない。
お前は、同じ夢を見ていた父さんを殺した。
ただの秀才に、天才が負けてたまるか。
有馬たちは、サクちゃんに仲間になってほしいらしい。
胸糞悪いな、ほんと。
「私、お父さんが創ろうとしてる世界、嫌い」
それは、毅然とした訣別だった。
さすが、サクちゃん。
そして。機械仕掛けの化け物が出てきた。
全く攻撃が通っていない。
でも、それは予想通りだし、諦める理由にはならないし、何よりこんな奴が頂点にいていいはずがないし。
俺も、サクちゃんも、守生さんも、千雪さんも。立ち向かうことを選んだ。
そう決意すると、青木さんの声が響く。
地下にあった機械が届けられ、俺たちは、それを動かせるって。
みんなで各々の武器をもって、化け物にダメージを与え続けた。
こんなところで終われない。
俺の人生、やっと始まったんだから。
「トドメだ」
電子刀での二撃。まるでフルスイング。
崩れる機械の塊。
だから言ったじゃん。お前は、サリエリだって。
「私は、間違っていたのか……?」
有馬は、半ば茫然としている。
「いや、間違ってないよ? いや、間違ってるけどね、手段は」
人間には、インターネットもアンドロイドも言語すらも過ぎたものだし、技術に倫理がまるで追い付いてないし。
でも、失敗するなんて当たり前のことなんだよ。みんな懸命に生きてるんだから。
失敗することを奪ったって、世界は良くならないよ。停滞するだけだ。
「選挙に行ってください! あと、VOID人権団体を支援してください!」
俺は、当たり前のことしか言えないよ。
夏央さんは、もう持たないみたいだった。
それに、守生さんの探してた人、心さんも。
俺とサクちゃんは、警察に。
守生さんと千雪さんは、スパローに。
道なんていくらでも作ればいいし、どうせ、すぐにまた交わるでしょ。
「こっそり協力しよ」と、軽口を叩いてから、俺たちは別れた。
一件落着してから、俺は黒田矢代の病室を訪れる。
「天城、いや、巣内晃牙さんですね?」
EMCか。来ると思ったよ。
「で、リスク及びデメリットは?」
「話が早いですね」
一通り説明を聞いてから、俺は質問した。
「プライバシーの侵害しない? 盗聴とか、そういうの」
「しませんよ」
「ふーん。そう。じゃあ、精神転移手術、お願いします」
「はい。では、こちらの書類にサインを」
黒田矢代には、生きてもらう。
だって、怒りたいから。
後日。傷のないあなたが家に来た。
「矢代さん、俺って、そんなに頼りないかなぁ?」
意識を取り戻した彼に話しかける。
「あと、手紙に“すまない”ってあったけど、ゆるされたいの? ゆるされると思ってるの? 一生ゆるさないけどね。ずっと側にいてよね、父さん」
日々は、移り変わっていく。
「曇りって、いい天気かなぁ?」
「人によると思うよ」
サクちゃんは、言うに事欠いて、天気の話を振ってきた。
俺の幼馴染みは、口下手らしい。
そこから、どんな流れでそんな話になったのか。
「私は、いつまでも晃牙くんのパートナーです!」
「はは。ありがとう。ま、俺もサクちゃんのパートナーだからね」
「うん」
さて、仕事だ。
いつも通り、俺は、ヘラヘラしながら進んでいく。
もう、軸足はしっかりしていた。
結局のところ、俺は巣内晃牙である。
「おっ」
バイクに乗っていると、見知った顔とすれ違い、お互いにサムズアップとウィンクを交わした。
家族同然の人たちはいるけど、結局俺は独りなのかもしれない。とか、まあ、そういう感じ。
それに、悪夢を見ることがある。
これは、10年前の記憶?
22歳になった俺は、刑事になって、新型アンドロイドと組むことになったけど、正直気乗りしなかった。
よく分からないものは怖い。
あの夢の中の腕は、なんなのだろう?
恐怖だけに塗り潰される思考。動きとは裏腹に、冷えていく心臓。
何度味わっても、拭えないもの。
蟹座の運勢ランキングは最下位だし、怠いね。占いを特別信じてるワケでもないけど。
そうして、出会ったのは、茶色い長髪に緑色の目の彼女。
俺は、そのパートナーロボットに、「クチナシ サク」と名付けた。
道中、梔子が咲いてるのを見たから。
波風立てないよう、無難に挨拶を済ませ、少しふたりで歩くことに。
はいはい。「サクちゃん」って呼ばれたいなら、そうするよ。
それから俺たちは、遭遇したひったくり犯を追った。
VOIDのせいで失業したらしい父親から、窃盗を命じられた被虐待児の少年。
「あのさぁ、君のお父さん、刑事だったりした? たぶん違うよね? じゃあ、サクちゃんに文句言うのは筋違いだよね?」
俺の正論は、子供には響かない。
「サクちゃーん。この子、なんとかしてもらえる?」
俺には向いてないな。
サクちゃんは、自分を殴れと言った。
なんやかんやで、子供には逃げられたけど。
とりあえず、青木さんに連絡。
すると、立てこもり事件が発生したから、現場に向かうことになった。
サクちゃんの提案で、何故か自転車で。
「チャリで来た」
「それがやりたかったの?」
立てこもり犯のVOIDは、様子がおかしい。感情的に見えるし、それの処理が追い付いてないみたいだ。
その場を何とか収めた俺たちは、他の件も含めて捜査することになる。
サクちゃんは、サクちゃんも? すぐ転ぶし、大事な物を壊すし、なんか変なVOIDだった。
事件を起こした「ナナミくん」は、突然感情を与えられたように思える。そうなると、彼は被害者?
分からないことだらけだ。
その後。図書館にて。
メアリーの部屋について読んだ。
「私もメアリーとも言えるかも」と、サクちゃんは言う。
「でも、サクちゃんはVOIDじゃん。チューリング・テストも通ってんだから、ほとんど生物なんじゃない? でも、人間があんな風に育てられたら、それは生物らしいって言えるのかな?」
「それは凄く嫌だね……」
「嫌だねぇ」
そうこうしてるうちに、一日は終わった。
矢代さん、何を隠してるの?
なんで教えてくれないの?
疑問は、ずっと頭の片隅に居座り続けてる。
でも、「ちょっといい肉」を頼んで、豚カツを買って来てくれる人を疑いたくないよねぇ。
正直、ドロ課の人たちは、みんな怪しく見える。
矢代さんのことは信じてる。じゃあ、透也さんは?
分からない。
さすがに疲れたから、すぐに就寝した。
翌日の食堂。
「唐揚げ」
「シュラスコ食べたい」
あるんだ、シュラスコ。
席に向かうと、忘れ物らしい一冊の本が目につく。
“人生は選択の連続である”
シェイクスピアのハムレットか。
「今、嫌なこと思い付いたんだけど、選択してるつもりで誘導されてたら嫌じゃない?」
「嫌~」と、サクちゃん。
一緒に来てもらった黄海さん曰く、オススメの唐揚げじゃなくてシュラスコを食べてる俺は、「引かれたレールに逆らっている」そうだ。
そうかなぁ?
俺には確証がない。
しばらくしてから。
嫌な光景を見た。
アンドロイドに横柄で理不尽な態度の、ホモサピエンスらしい男たち。
「感情のない物だったら、粗雑に扱っていいなんて道理はねぇでしょ!」
あなたの携帯端末、感情ないと思うけど、俺が踏んでもいいワケ?
「俺は、感情がないからって、ゴミ箱蹴ってる奴がいたら引くけどねぇ!」
ぐだぐだうるさいし、俺がコネで入ったとか言うし。馬鹿な人らだな。
カスどもに、サクちゃんがサルミアッキを渡す。
苦しんでる奴もいるけど、主犯が美味そうに食ってて釈然としない。
「サータナン・サータナ」
フィンランド語で、「ああもう、まったく」と罵った。伝わらないだろうけどな。
最終的に、主犯は唾吐いて去って行く。
「行け! 俺の右肩!」
丸めた雑巾を投げる。男の後頭部にヒット。やったね。
投げた後は、知らんぷりする。
黄海さんに、「同じ土俵で争わなくても」みたいなことを言われた。
「その理屈は、ちょっと納得出来ないっすね」
いや俺ら、高見から物投げただけだし。
向こうが勝手に低次元にいるだけじゃん?
感情ないものには何してもいいなんて、チンピラの発想でしょ。文明の利器の恩恵を受けてる癖に、それを物だからって軽んじちゃダメでしょ。
俺は、アンドロイドが怖いよ? でも害していいはずないっしょ。
俺もサクちゃんも、無罪放免。
日々は、忙しなく過ぎていく。
そんなある日。
自宅のドアの鍵が開いていて、嫌な予感がした。
あの匂いだ。鉄錆臭くて、真っ赤な記憶。
取り乱しそうな頭で、サクちゃんの端末にワンコールだけ入れて、家の中へ入る。
矢代さんが刺されて倒れていた。
この家の床に落ちてたパーツのことを、善意で隠してたあなた。
そこに、赤星透也が来た。
俺は、彼に殺人未遂をなすられたんだろう。
冷たい視線が刺さる。嫌な感じだ。
捕まった俺は、コンクリの檻の中。
そこに、サクちゃんも放り込まれてきた。
ああ、怖いな。どうしようもなく、怖い。
アンドロイドと、部屋にふたりきり。この状況はよくない。
俺は、気付けばサクちゃんを破壊しようと手を伸ばしていた。
「晃牙くんは、アンドロイドが怖いんだね」
「……うん、そう。怖いん、だろうね」
俺は、伸ばした手を引っ込める。
そして、悪夢のことを話した。こんな状況だしね。
サクちゃんは、俺をなごませるためか、ロボットダンスをした。
「あ、これロボットだから、逆効果!?」
「はは。俺が知ってるアンドロイドは、そんな動きしないよ」
少し、落ち着いた。
その後。
守生さんと千雪さんたちが、助けに来てくれた。
留置所から脱走したから、前科ついたかな。
敵に囲まれたり、追われたりしたけど、ただ免許があるだけのバイクの運転をなんとかやって逃げ切った。
そうして辿り着いたスパローのアジト。
彼らに協力するしかない。
容疑者のままじゃ、戻れるワケがない。
もう他に行き場はない。
サクちゃんが、長い髪を切った。
俺のせいだろうな。
「可愛い?」と、彼女は訊く。
「可愛いね」と、俺は答える。
その晩。ひとりきりで考えた。
これからのこと。
俺は、自分のことすら疑わなくてはならない。
次の日。
スパローがアジトにしている場所を見て回っていたら、謎の扉が開いた。
俺とサクちゃんに反応した?
あー。俺って、天城なの? やっぱりサクちゃんは有馬だし。
開かずの間や壁の先にある研究施設を調べたら、俺が立てていた仮説がどんどん現実になっていく。
EMCってカスじゃん。
あーあ。もっと前に披露しときたかったかもな。それどころじゃなかったから仕方ないけど。
千雪さんの正体は、まあ想定内だったかな。
俺としては、守生さんのことが一番分からなかったから、ちょっと過去の話をしてもらった。
この人も、長い間辛かったのかな。
ついでだから、サクちゃんに「俺を殴ってみて」と頼んだ。
結果、原則が適用されたらしく出来なかった。つまり、脳味噌が欲しい人間を機械化すれば、言うこと聞かせられるってこともある?
有馬が人間のままかは分からないけどね。
あと、俺は人間判定っぽいかなぁ。
一通り探索が終わった後。
これも、まあ予想してたんだけど、赤星と戦うことになった。
「なんで10年前に俺を殺さなかったんですか?」
「黒田の目があったからだ」
「ふぅん」
二刀を構えると、相手も同じように刀を構える。
透也さん、人間ごっこはどうだった? 俺の兄みたいに振る舞うのは楽しかった?
赤星は強い。サクちゃんが庇ってくれなかったら、死んでただろう。
昔も、今も。
俺は死にたくない。
俺は生きたい!
フルスイングするみたいに刀を動かして、それがトドメの一撃になった。
だけど、赤星は俺を始末しようと足掻く。まだ動けるのか。
ぽたり、と。青い雫が俺に落ちた。
「動かない……動作不良か…………?」
「それ、動作不良じゃないと思うよ」
「俺は、お前を殺そうとした。でも、出来なくて。それでも、結局は命令に従うしかない。アンドロイドに、感情なんてない」
「そう? 俺は、アンドロイドに感情が芽生える話たくさん知ってるけど。まあ、フィクションだけどさ」
「フィクションはフィクションだろ」
事実は小説より奇なりとも言う。
「俺は、なんなんだろうな……」
「あー。複雑な事情のお兄さん?」
「お前は、俺をそう言ってくれるのか……」
なりを潜めていたイチハが現れ、その銃撃から透也さんに庇われた。
そして、密かに何かの鍵を渡される。
「晃牙、逃げろ」
「ありがとう! 透也さん!」
さよなら、透也さん。
キョウさんを喪い、みんな辛そうだ。
俺は、どうしようかな。
辛いのは、辛いんだけど。泣いてる暇もないだろうし。
青木さんから受け取った箱、鍵がかかってた。
これ、透也さんがくれた鍵で開くだろうなぁ。
そんなことを考えてると、サクちゃんに話があると言われた。
ふたりきりになったけど、俺はもう、サクちゃんのことは怖くない。
サクちゃんは、ゆっくりと口を開いた。
「私、死ぬのが怖いの。赤星さんと戦った時から」
「うん」
「死ぬのは怖い。けど、晃牙くんが死ぬのはもっと怖い。どうすればいいのかな?」
「うーん。どうしようもないんじゃない。サクちゃんは、もう生きちゃってるんじゃないかなぁ? 生きてるとさぁ、絶対いつか死ぬんだよ。そのゴールから目を逸らして、みんな生きてるワケ。だから、その恐怖はどうにも出来ない。俺も、死ぬのは怖い」
「そっか。私、生きてるんだ」
「うん」
サクちゃんが生きてないなら、俺だって生きてないだろう。
脳のシナプスは電気信号に過ぎず、全ての言動は反射に過ぎず、人間らしさの定義は、時代とともに変わっている。
昔は、“機械的に動けること”が人間らしさだったんだよ。
「私、晃牙くんのことが、好き」
「ありがとう?」
「恋愛としての好き、なのかな」
「そうなの?」
「うん」
サクちゃんの瞳が、俺を見つめてる。
「ちゃんとした返事になってないかもしれないけど、聞いてくれる?」
「聞く」
「俺は、あなたが思ってるより、あなたのことが好きだと思うよ」
誠心誠意、言葉を尽くした。
何を言っても陳腐で、くどい。
これ以上は、何も言えない。
「そっか。ありがとう」
「あのさ、サクちゃんに頼みがあるんだけど」
「なに?」
「この箱開けるの、ちょっと怖いから、一緒にいてくれる?」
「うん。いいよ」
箱の中身は、黒田矢代が書いた懺悔だった。
いよいよ、俺が人間判定なのが怪しくなったな。傷もないワケだよ。
俺も、サクちゃんとたいして変わらないな。
「サクちゃん、手を握ってくれる?」
「うん。もちろん」
手袋を外して、サクちゃんの手を取る。
そのまま、俺は気付いたら眠っていた。
翌朝。外の景色は、一変していた。
例の噴霧器。人々は感情を抑制され、平らかになるらしい。
あまりふざけるなよ。
そんな一定の感情の値しか持たない生物、何か不測の事態がひとつ起きれば全滅だろ。
やることが半端なんだよ。
人類滅ぼすくらいしろ。それより、自害した方が早いだろうけどな。
ニトくんからガスマスクを借りて、リボット社を目指して走る。
辿り着いた部屋には。
「天城晃牙。やはり、お前は危険因子だった」
有馬真二が、サクちゃんの姉、夏央さんとともにいた。
出たな、ラスボス気取り。
「お前は、サリエリだよ! 俺の父親がモーツァルト! 言ってること分かる?」
「おちょくりに来たのか?」
「そうだよ」
お前じゃ、俺たちには勝てない。
負けるはずがない。
お前は、同じ夢を見ていた父さんを殺した。
ただの秀才に、天才が負けてたまるか。
有馬たちは、サクちゃんに仲間になってほしいらしい。
胸糞悪いな、ほんと。
「私、お父さんが創ろうとしてる世界、嫌い」
それは、毅然とした訣別だった。
さすが、サクちゃん。
そして。機械仕掛けの化け物が出てきた。
全く攻撃が通っていない。
でも、それは予想通りだし、諦める理由にはならないし、何よりこんな奴が頂点にいていいはずがないし。
俺も、サクちゃんも、守生さんも、千雪さんも。立ち向かうことを選んだ。
そう決意すると、青木さんの声が響く。
地下にあった機械が届けられ、俺たちは、それを動かせるって。
みんなで各々の武器をもって、化け物にダメージを与え続けた。
こんなところで終われない。
俺の人生、やっと始まったんだから。
「トドメだ」
電子刀での二撃。まるでフルスイング。
崩れる機械の塊。
だから言ったじゃん。お前は、サリエリだって。
「私は、間違っていたのか……?」
有馬は、半ば茫然としている。
「いや、間違ってないよ? いや、間違ってるけどね、手段は」
人間には、インターネットもアンドロイドも言語すらも過ぎたものだし、技術に倫理がまるで追い付いてないし。
でも、失敗するなんて当たり前のことなんだよ。みんな懸命に生きてるんだから。
失敗することを奪ったって、世界は良くならないよ。停滞するだけだ。
「選挙に行ってください! あと、VOID人権団体を支援してください!」
俺は、当たり前のことしか言えないよ。
夏央さんは、もう持たないみたいだった。
それに、守生さんの探してた人、心さんも。
俺とサクちゃんは、警察に。
守生さんと千雪さんは、スパローに。
道なんていくらでも作ればいいし、どうせ、すぐにまた交わるでしょ。
「こっそり協力しよ」と、軽口を叩いてから、俺たちは別れた。
一件落着してから、俺は黒田矢代の病室を訪れる。
「天城、いや、巣内晃牙さんですね?」
EMCか。来ると思ったよ。
「で、リスク及びデメリットは?」
「話が早いですね」
一通り説明を聞いてから、俺は質問した。
「プライバシーの侵害しない? 盗聴とか、そういうの」
「しませんよ」
「ふーん。そう。じゃあ、精神転移手術、お願いします」
「はい。では、こちらの書類にサインを」
黒田矢代には、生きてもらう。
だって、怒りたいから。
後日。傷のないあなたが家に来た。
「矢代さん、俺って、そんなに頼りないかなぁ?」
意識を取り戻した彼に話しかける。
「あと、手紙に“すまない”ってあったけど、ゆるされたいの? ゆるされると思ってるの? 一生ゆるさないけどね。ずっと側にいてよね、父さん」
日々は、移り変わっていく。
「曇りって、いい天気かなぁ?」
「人によると思うよ」
サクちゃんは、言うに事欠いて、天気の話を振ってきた。
俺の幼馴染みは、口下手らしい。
そこから、どんな流れでそんな話になったのか。
「私は、いつまでも晃牙くんのパートナーです!」
「はは。ありがとう。ま、俺もサクちゃんのパートナーだからね」
「うん」
さて、仕事だ。
いつも通り、俺は、ヘラヘラしながら進んでいく。
もう、軸足はしっかりしていた。
結局のところ、俺は巣内晃牙である。
「おっ」
バイクに乗っていると、見知った顔とすれ違い、お互いにサムズアップとウィンクを交わした。
