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頂きに立たなくてはならない。
それは理屈じゃない。僕が存在しているからだ。
僕は、狂気山脈へ挑む。
登山隊の7人と1匹が揃った。
1匹というのは、僕の愛犬の倉木月である。
北海道犬であり、きちんと訓練を受けた賢い子。
天涯孤独の僕の家族であり、相棒だ。
犬とは、人類の最優の友である。連れて行くのは、僕にとっては至極当然のことだ。
第一次登山隊は、不可解な通信を残して音信不通。
僕のオカルト方面の知識では、狂気山脈は旅客機墜落以前にも発見されていたみたいだが。
その際も、不可解なものを発見したような痕跡があった。
山は、古来より人の領域ではない。
だからこそ、前人未到の山頂を行くのだ。
達成感。満足感。承認欲求。名誉欲。そして何より、人間の可能性の実感。それを得るために、僕は山に登り続けている。
「確認したいことがあります。持病がある方はいませんよね? 日焼け止めクリームは準備しましたか? 靴下はポリエステルかウールのものにしました?」
僕は、念のため隊のメンバーに尋ねた。
「まあ、基本的なことですけど、基本って大事ですから」
みんな、大丈夫だと返事をする。
そして。ついに狂気山脈を自らの足で登ることになった。
「皆さん、高山病予防薬を2錠飲んでください」と、僕は希望者に薬を提供する。
コージーさんは、そんなものいらないと突っぱねた。
「君が高山病になったら、指差して笑うかもしれません」
僕が挑発すると、彼は何やら怒り始める。
どう考えても、この人はお荷物だ。
だが、進まない理由にはならない。
登頂を開始する。
雪山を少し行くと、犬ぞりを引いていた犬たちが怯え始めた。月も含めて。
犬たちは、そりと共に逃げ出してしまった。
そうして、月だけが残る。
「ごめん。もう少し耐えてくれる?」
「クゥーン」
月を撫でて、なんとか少し落ち着かせた。
その後は、大したトラブルもなく、順調に登り進む。
そして。見事なオーロラが、僕たちを喜ばせてくれた。
「岳人さん、オーロラと私を撮ってください! あ、月も一緒にお願いします!」
僕は、記者の岳人さんに頼み、本の表紙候補としての写真を撮ってもらう。
みんなも各々写真を撮ってもらい、最後に集合写真も撮影してもらった。
「これも第一次登山隊が失敗してくれたおかげだな」と、コージーが言う。
「不謹慎ですね」
「だって、そうじゃなきゃ俺たちにこの機会はなかったんだぞ?」
「投票で過半数取ったら、この人追放しましょう」
「人狼?」
ノアさんが、すっと料理中に出来た墨をコージーの口に突っ込んだ。
おかげで溜飲が下がる。
それからも、山頂を目指す日々は続いた。
ある日。コージーがクレヴァスを発見する。
まあ、このくらいはなんとかなるだろう。
僕たちは進み続けた。
記録。ショゴス乗越、踏破。
就寝すると、悪夢を見た。
複数の人間の死体。それをよく見れば、僕たちだった。
冷や汗をかいて目覚める。
月を撫で回し、なんとか平静を保った。
それから、僕たちは猛吹雪に見舞われる。
「さすがに天候が悪過ぎる。留まりましょう。テントの周りは雪で固めてしのぎます」
翌日は快晴無風。進もう。
岳人さんが、コージーに月のジャーキーを食わせた。
「なんか味が薄くねぇか?」
「減塩ジャーキーなんでしょう」
僕は、嘘をつく。
その晩。
「ワン」と、小さく鳴き声が聴こえた。
「月、どうしたの?」
どうやら、コージーがひとりでテントから出て行ったらしい。
何人かで追いかけて行ったところ、ただのトイレだった。
協調性に欠ける男。
コージーが洞窟を見付けた。
洞窟に入ると、気味の悪い死体を発見。
これは、どうにも出来そうにない。
岳人さんに撮影をしてもらうくらいしか。
「死体の回収は、後々プロに任せましょう」
僕たちは、洞窟を後にした。
翌朝。
ブラック・アイスフォールへ。
快晴無風。クライミング開始。
難なく突破。
就寝。
また悪夢を見た。死者に、奈落へ引き摺り込まれる夢。
みんな、同じような夢を見たようだ。
それでも、登り続ける。
ガス発生地帯を発見。
「ガスは、吸うだけで死ぬものがありますから、迂回しましょうか」
ノアさんが、地質学の知識で調べてくれた。
「死にはしないと思うけど、危ないかな」とのこと。
「人間には耐えられても、月が危ないと思うんですよ。迂回を希望します」
みんなで迂回することにする。
後日。
K2が重度の高山病になり、何名かと下山することになった。
熟練の登山家と、医療に秀でた梓さんと、お荷物のコージーと別れる。
僕に、先見隊の失敗を喜ぶ気持ちがなかったと言えば、嘘になるのだろうか?
そんな意識はないが、深層心理なんて分からない。
だけど、やはり進まない理由にはならないのだ。
バーンさんが、K2のピッケルを彼の代わりに預かることになる。
大黒壁前。
第一次登山隊のひとりの遺体を発見。
ノアさんが世話になった人だった。
不出来だが、紙で花を折って供える。
手記には、不可解なことが綴られていた。
だが、僕は知っている。山は人の領域ではないと。
グレート・ブラック・ウォールへ。
天候が悪い。僕たちは、数日間留まり、機を待つ。
そして、降雪の日。フリークライミングを決行することにした。
自分たちの技術を駆使して、なんとか登り切る。
ついに、山頂へ。
「やりましたね!」
「ワン!」
この景色のことは、生涯忘れないだろう。
「岳人さん、本の表紙用に写真お願いします! 月と一緒に!」
「はーい」
それから、ノアさんがミートパイを作ってくれた。
美味しい!
バーンさんは、K2のピッケルを突き立て、それと撮影していた。
無線では、別れた3人から祝福の声が届く。
「酒でも飲みますか?」
「そうですね、少し飲みます」
「じゃあ、倉木さんに乾杯してもらって」
「では、乾杯の音頭を取らせていただきます」
精一杯の喜びを込めて、僕は声を響かせることにした。
「お疲れ様です! カンパーイ!」
「乾杯!」
「ワン!」
しばし、和やかな時が流れていたのだが。
突然、地面が揺れる。無線にノイズが走る。
「うわっ。なんですか?」
お祝い気分が台無しだ。
来た道のりが、断崖に変わっている。
気持ち悪い化物がゾロゾロと出て来るのを目撃してしまい、僕は取り乱した。
「ぼ、僕の伝説の幕開けなのに、なんだよこれ! あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!」
ヒステリックに叫ぶ。
バーンさんのおかげで落ち着きを取り戻し、「僕は、生きて帰らないと!」と決意した。
岳人さんが遺跡を発見。
「よし、伝説を増やしに行きましょう!」
なんらかの信仰の跡に見えるが、僕の知識では分からない。
岳人さんが、壁画などの写真を撮る。
遺跡を出て、ウロへ。
ここは、普通の場所ではない。
墜落した旅客機が腐食している。
「あ、皆さん、無事そうな荷物がありますよ!」
それは、パラシュートだった。
「頂上から飛ぶのはリスキーですよね。高度が下がると信じて、ここを進みましょうか」
迷宮のような化物の体内を駆ける。
化物じみた声が聴こえるらしいので、逃げることにした。
走ることに手間取り、僕は化物を見てしまう。
山の化物か。でも、負けられない。
こんなところで死んでたまるか!
K2さんたちとも合流し、みんなで無事に下山し、病院へ。
その後。
僕は登頂記録を出版し、月のグッズを販売し、月とYouTubeチャンネルを開設した。
まあ、じわじわ売れてくれたらいいかな。
狂気山脈を登り切ったという実績は揺らがないのだから。
チャンネルの生配信に、登山隊メンバーを呼んで楽しく過ごした。
バーンさんは、登山中なのでビデオ通話で。
なんと、コージーも登山を真面目にやるようになったらしい。
ここは褒めてやるか。
僕は人付き合いが得意ではないけれど、みんなのことは戦友のように思っている。
倉木夜半は、これからも山に挑み続けるつもりだ。
それは理屈じゃない。僕が存在しているからだ。
僕は、狂気山脈へ挑む。
登山隊の7人と1匹が揃った。
1匹というのは、僕の愛犬の倉木月である。
北海道犬であり、きちんと訓練を受けた賢い子。
天涯孤独の僕の家族であり、相棒だ。
犬とは、人類の最優の友である。連れて行くのは、僕にとっては至極当然のことだ。
第一次登山隊は、不可解な通信を残して音信不通。
僕のオカルト方面の知識では、狂気山脈は旅客機墜落以前にも発見されていたみたいだが。
その際も、不可解なものを発見したような痕跡があった。
山は、古来より人の領域ではない。
だからこそ、前人未到の山頂を行くのだ。
達成感。満足感。承認欲求。名誉欲。そして何より、人間の可能性の実感。それを得るために、僕は山に登り続けている。
「確認したいことがあります。持病がある方はいませんよね? 日焼け止めクリームは準備しましたか? 靴下はポリエステルかウールのものにしました?」
僕は、念のため隊のメンバーに尋ねた。
「まあ、基本的なことですけど、基本って大事ですから」
みんな、大丈夫だと返事をする。
そして。ついに狂気山脈を自らの足で登ることになった。
「皆さん、高山病予防薬を2錠飲んでください」と、僕は希望者に薬を提供する。
コージーさんは、そんなものいらないと突っぱねた。
「君が高山病になったら、指差して笑うかもしれません」
僕が挑発すると、彼は何やら怒り始める。
どう考えても、この人はお荷物だ。
だが、進まない理由にはならない。
登頂を開始する。
雪山を少し行くと、犬ぞりを引いていた犬たちが怯え始めた。月も含めて。
犬たちは、そりと共に逃げ出してしまった。
そうして、月だけが残る。
「ごめん。もう少し耐えてくれる?」
「クゥーン」
月を撫でて、なんとか少し落ち着かせた。
その後は、大したトラブルもなく、順調に登り進む。
そして。見事なオーロラが、僕たちを喜ばせてくれた。
「岳人さん、オーロラと私を撮ってください! あ、月も一緒にお願いします!」
僕は、記者の岳人さんに頼み、本の表紙候補としての写真を撮ってもらう。
みんなも各々写真を撮ってもらい、最後に集合写真も撮影してもらった。
「これも第一次登山隊が失敗してくれたおかげだな」と、コージーが言う。
「不謹慎ですね」
「だって、そうじゃなきゃ俺たちにこの機会はなかったんだぞ?」
「投票で過半数取ったら、この人追放しましょう」
「人狼?」
ノアさんが、すっと料理中に出来た墨をコージーの口に突っ込んだ。
おかげで溜飲が下がる。
それからも、山頂を目指す日々は続いた。
ある日。コージーがクレヴァスを発見する。
まあ、このくらいはなんとかなるだろう。
僕たちは進み続けた。
記録。ショゴス乗越、踏破。
就寝すると、悪夢を見た。
複数の人間の死体。それをよく見れば、僕たちだった。
冷や汗をかいて目覚める。
月を撫で回し、なんとか平静を保った。
それから、僕たちは猛吹雪に見舞われる。
「さすがに天候が悪過ぎる。留まりましょう。テントの周りは雪で固めてしのぎます」
翌日は快晴無風。進もう。
岳人さんが、コージーに月のジャーキーを食わせた。
「なんか味が薄くねぇか?」
「減塩ジャーキーなんでしょう」
僕は、嘘をつく。
その晩。
「ワン」と、小さく鳴き声が聴こえた。
「月、どうしたの?」
どうやら、コージーがひとりでテントから出て行ったらしい。
何人かで追いかけて行ったところ、ただのトイレだった。
協調性に欠ける男。
コージーが洞窟を見付けた。
洞窟に入ると、気味の悪い死体を発見。
これは、どうにも出来そうにない。
岳人さんに撮影をしてもらうくらいしか。
「死体の回収は、後々プロに任せましょう」
僕たちは、洞窟を後にした。
翌朝。
ブラック・アイスフォールへ。
快晴無風。クライミング開始。
難なく突破。
就寝。
また悪夢を見た。死者に、奈落へ引き摺り込まれる夢。
みんな、同じような夢を見たようだ。
それでも、登り続ける。
ガス発生地帯を発見。
「ガスは、吸うだけで死ぬものがありますから、迂回しましょうか」
ノアさんが、地質学の知識で調べてくれた。
「死にはしないと思うけど、危ないかな」とのこと。
「人間には耐えられても、月が危ないと思うんですよ。迂回を希望します」
みんなで迂回することにする。
後日。
K2が重度の高山病になり、何名かと下山することになった。
熟練の登山家と、医療に秀でた梓さんと、お荷物のコージーと別れる。
僕に、先見隊の失敗を喜ぶ気持ちがなかったと言えば、嘘になるのだろうか?
そんな意識はないが、深層心理なんて分からない。
だけど、やはり進まない理由にはならないのだ。
バーンさんが、K2のピッケルを彼の代わりに預かることになる。
大黒壁前。
第一次登山隊のひとりの遺体を発見。
ノアさんが世話になった人だった。
不出来だが、紙で花を折って供える。
手記には、不可解なことが綴られていた。
だが、僕は知っている。山は人の領域ではないと。
グレート・ブラック・ウォールへ。
天候が悪い。僕たちは、数日間留まり、機を待つ。
そして、降雪の日。フリークライミングを決行することにした。
自分たちの技術を駆使して、なんとか登り切る。
ついに、山頂へ。
「やりましたね!」
「ワン!」
この景色のことは、生涯忘れないだろう。
「岳人さん、本の表紙用に写真お願いします! 月と一緒に!」
「はーい」
それから、ノアさんがミートパイを作ってくれた。
美味しい!
バーンさんは、K2のピッケルを突き立て、それと撮影していた。
無線では、別れた3人から祝福の声が届く。
「酒でも飲みますか?」
「そうですね、少し飲みます」
「じゃあ、倉木さんに乾杯してもらって」
「では、乾杯の音頭を取らせていただきます」
精一杯の喜びを込めて、僕は声を響かせることにした。
「お疲れ様です! カンパーイ!」
「乾杯!」
「ワン!」
しばし、和やかな時が流れていたのだが。
突然、地面が揺れる。無線にノイズが走る。
「うわっ。なんですか?」
お祝い気分が台無しだ。
来た道のりが、断崖に変わっている。
気持ち悪い化物がゾロゾロと出て来るのを目撃してしまい、僕は取り乱した。
「ぼ、僕の伝説の幕開けなのに、なんだよこれ! あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!」
ヒステリックに叫ぶ。
バーンさんのおかげで落ち着きを取り戻し、「僕は、生きて帰らないと!」と決意した。
岳人さんが遺跡を発見。
「よし、伝説を増やしに行きましょう!」
なんらかの信仰の跡に見えるが、僕の知識では分からない。
岳人さんが、壁画などの写真を撮る。
遺跡を出て、ウロへ。
ここは、普通の場所ではない。
墜落した旅客機が腐食している。
「あ、皆さん、無事そうな荷物がありますよ!」
それは、パラシュートだった。
「頂上から飛ぶのはリスキーですよね。高度が下がると信じて、ここを進みましょうか」
迷宮のような化物の体内を駆ける。
化物じみた声が聴こえるらしいので、逃げることにした。
走ることに手間取り、僕は化物を見てしまう。
山の化物か。でも、負けられない。
こんなところで死んでたまるか!
K2さんたちとも合流し、みんなで無事に下山し、病院へ。
その後。
僕は登頂記録を出版し、月のグッズを販売し、月とYouTubeチャンネルを開設した。
まあ、じわじわ売れてくれたらいいかな。
狂気山脈を登り切ったという実績は揺らがないのだから。
チャンネルの生配信に、登山隊メンバーを呼んで楽しく過ごした。
バーンさんは、登山中なのでビデオ通話で。
なんと、コージーも登山を真面目にやるようになったらしい。
ここは褒めてやるか。
僕は人付き合いが得意ではないけれど、みんなのことは戦友のように思っている。
倉木夜半は、これからも山に挑み続けるつもりだ。
