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産まれた時から、アンドロギュノスだった。
両親は、私を長男として育てたが、自分の体は男ではない。かと言って、女でもない。
私の上半身は男で、下半身は男と女、両方の特徴を持つ。
私は、自分のジェンダーが分からないまま生きていた。そのことが、たまに惨めな気持ちにさせる。
けれど、彼に出会って、私は自分の正体が分かったのだった。
◆◆◆
夜。どこかの森。死体。
死人。私が殺した。
しかし、何故? 理由がない。
私は、物言わぬ彼を知らない。
死体のスマホを見る。ロック画面から、妻子持ちであると分かる。
人殺しになったという自覚が湧かない。
私が殺人犯として捕まれば、実家の葬儀屋に迷惑がかかる。凶器となったナイフを隠したいと考えた、その時。
「見ぃちゃった、見ぃちゃった」と、軽薄な声が聴こえた。
その胡乱な男性は、「共犯者になってあげようか?」と言う。
「あなたに何かメリットがあるんですか?」
「詳しくは言えないけど、ある」
「……そうですか」
自称花屋の男は、スコップを持っているらしい。
死体を埋めるのを手伝ってくれるそうだ。
「俺は、海月ミサキ」
「私は、砂噛寿直といいます」
血に濡れた手でも構わないと言うので、握手をする。
ミサキさんの白いボックスカーまで移動。
ミサキさんが、タオルで返り血を拭ってくれた。
そのことに、安堵している自分がいる。
しかし。ミサキさんを害したいという気持ちが強くなっていった。
彼の声で、我に返る。
私は一体、何を…………?
共犯者は、ブルーシートを広げ、死体を足で転がしている。
「あの。ご遺体をそのように扱うのは、私の職業柄看過出来ないと言いますか……」
そして。せめて、エンバーミング技術で死体を綺麗にしようとしたのだが、あまりにも非日常な出来事が起きたせいか、上手く出来なかった。
ふたりで、死体を車に積む。
ミサキさんが、他愛ない話をした。花のことなど。
「寿直さんにとって、特別って何?」
「……特別とは、特別席に座っていることですかね。両親は、両親の席に。友人は、友人の席に。そして、特別は、特別席に。今のところ、その特別席に座っているのが、あなたです」
私は、淡々と話す。
「ふふ。そっか、なんかいい気分」
ミサキさんは、笑っている。
山に到着し、ふたりで穴を掘り始めた。
スコップが上手く扱えない。
ミサキさんが、私の手に手を重ね、使い方を教えてくれる。
この人は、何を考えているのだろう?
しばらくして。彼が私の手のひらのマメが出来そうなところに、無遠慮触った。
ぴり、と痛みが走る。
「痛い?」
「痛いです」
「ふふ。ごめん」
穴を数メートル掘り、ミサキさんに引き上げてもらった。
手向けとして、辺りに生えていた花を摘み、穴に入れる。
そうして、私たちは死体を埋めた。
ミサキさんが、私の手を引き、歩く。
彼は、何故、私の味方をする?
何故? 私は。
目の前の彼を、私は殺そうと思った。
気付けば、私はミサキさんを殴っていた。
「お前、まだ分かってないんだ。俺の方が強いってこと」
ミサキさんは冷たい目をして、私を殴る。殴る。
痛みが、私の頭を冷やした。
「ああ、ごめんね、寿直さん。痛かったでしょ? 治療しよっか?」
「ああ、はい…………」
ミサキさんの手当ては下手で。特に改善はしなかった。
「ごめんね。でも、先に手を出したのは寿直さんだし、お互い様だよね」
「はい。すいませんでした」
私と彼は、車に戻る。
「疲れたでしょ? 少し寝なよ」
「はい」
「おやすみ、寿直さん」
意識を手放す前に聴こえたのは、彼の鼻唄だった。
「寿直さん、着いたよ」
「あ、はい。おはようございます」
「おはよ」
車を降りて、気付く。ナンバープレートがレンタカーのものだ。
「寿直さん?」
「なんでもないです」
7階のミサキさんの部屋に向かう。
「入って」
「お邪魔します」
「まず、お風呂入ったら?」
「はい、そうですね」
「一緒に入る?」
「え? なんでですか?」
「冗談だよ」
私は、体が大きいから、彼とは入れないだろう。
そもそもシャワーしか用意されていなかったが。
次は、ミサキさんがシャワーん浴びるらしい。
私は、その隙に室内を物色することにした。
早速、入るなと言われた彼の部屋に入る。
そこには。壁や天井一面に、無数の私の盗撮写真が貼られていた。
それに。どうやら、私が捨てた空のペットボトルを収集してもいるらしい。
彼の日記らしきものを読む。
そこには、私への狂愛じみたものが綴られていた。
彼の部屋を出て、待つ。
「探偵ごっこは楽しかった?」
「いや、楽しくないです」
開口一番。彼には、やはり私のしたことはバレているようだ。
「あなた、どうして私のことを知っているんですか?」
「道端で見かけたんだよね。で、一目惚れ」
「あなた、男性ですよね?」
「そうだよ」
「あなた、私の性別を知ってるんですか?」
「俺は、寿直さんが綺麗だから好きなんだよ」
「はあ、そうですか。それならいいですけど」
知っているのだろうか? 私の秘密を。
「俺を君の特別にして」
「具体性がないですね。あるじゃないですか、親友になりたいとか、恋人になりたいとか」
「そういうんじゃない。俺を、特別にして」
「それって、現状では駄目なんですか? あなたは既に、私の中の特別席に座っていますが」
「そっか。もう、特別だったんだ。じゃあ、俺を受け入れてくれる?」
「少し、考えさせてください」
私が気になることは、海月ミサキのイニシアチブを握られるかどうか、である。
「あなたの出自は?」
「俺は、まあ、言っちゃえばヤクザなんだけど。ヤクザの組長の息子なんだよね。だから、普通に話しかけられないというか」
「そうなんですか。あなたは、好きな人に暴力を振るう人ですか?」
「好きな人を守るためなら。寿直さんのアレは、虫に寄生されてるせいだから、取り除けば大丈夫だよ」
「虫、ですか」
それが、私の暴力衝動の原因なのだろう。
「ミサキさん、ちょっと、あなたに触れてもいいですか?」
「いいよ」
私は、彼をソファーに押し倒した。
「特別席に座ったあなたに、私がこういうことを要求したら、どうしますか?」
「受け入れるよ」
「そうですか。ああ、失礼しました」
そう言って、彼の上から退く。
「寿直さんって、結構えっち?」
「さあ? 自分では分かりません」
さて。そろそろ結論を出そう。
「では、そうですね。私としては、あなたのことを受け入れますが、正直、虫を取り除いてほしいというのが一番の理由ですね」
「うん。そっか」
ミサキさんは、満足そうに笑うと、私の指先にキスをした。
「ありがとう、寿直さん。好きだよ」
彼に、ソファーに押し倒される。
ミサキさんが馬乗りになり、私の首を絞めた。
私は、抵抗するつもりはない。きっと、必要なことだから。
あなたは、どうして笑っているんですか?
ああ。気味の悪い虫が見える。
ミサキさんが、虫を潰した。
そして、私は意識を失う。
翌朝。
「あ、起きた?」
「おはようございます」
「気分はどう?」
「良くないですね」
「苦しかったよね。ごめんね」
「はい。とても」
他人の描いた絵図に嵌まるのは、無性に腹が立つ。
「でも、これで、普通に俺と生きていけるよ」
「はい」
「俺は、ずっと寿直さんの味方だよ」と、手を取られてから告げられた。
私は、海月ミサキに弱みを握られたまま生きていくしかないのだろうか?
そして、ふと思い付く。
彼に、キスをしてみた。
すると、キスを返される。
「ふふ。ありがと。これから、一緒に生きていこう」
「はあ……」
私が欲しいのは、そういう反応ではない。
「そういえば、あなた、色々と嘘をついていましたね。どうして花屋だなんて言ったんですか?」
「実際に、お花作ってるからかな」
「芥子の花ですか?」
「うん、そう」
あなたの、その余裕ぶった顔を崩してやりたい。
仕方ない。舌を入れてキスしてやろう。
ミサキさんは、驚いたようだ。
そういう表情だと、彼のことが可愛く見える。
「寿直さん、ちょっと、いきなり! いきなりはダメでしょ」
「あなたの慌てた顔が見たくて」
まあ、とりあえず今はこれでいい。
いずれ、絶対に服従させてやろう。
だって、あなた、私が死んだら嫌でしょう?
どちらが上か、分からせてあげますよ。
私が“王”で、あなたは“特別な僕”だ。
両親は、私を長男として育てたが、自分の体は男ではない。かと言って、女でもない。
私の上半身は男で、下半身は男と女、両方の特徴を持つ。
私は、自分のジェンダーが分からないまま生きていた。そのことが、たまに惨めな気持ちにさせる。
けれど、彼に出会って、私は自分の正体が分かったのだった。
◆◆◆
夜。どこかの森。死体。
死人。私が殺した。
しかし、何故? 理由がない。
私は、物言わぬ彼を知らない。
死体のスマホを見る。ロック画面から、妻子持ちであると分かる。
人殺しになったという自覚が湧かない。
私が殺人犯として捕まれば、実家の葬儀屋に迷惑がかかる。凶器となったナイフを隠したいと考えた、その時。
「見ぃちゃった、見ぃちゃった」と、軽薄な声が聴こえた。
その胡乱な男性は、「共犯者になってあげようか?」と言う。
「あなたに何かメリットがあるんですか?」
「詳しくは言えないけど、ある」
「……そうですか」
自称花屋の男は、スコップを持っているらしい。
死体を埋めるのを手伝ってくれるそうだ。
「俺は、海月ミサキ」
「私は、砂噛寿直といいます」
血に濡れた手でも構わないと言うので、握手をする。
ミサキさんの白いボックスカーまで移動。
ミサキさんが、タオルで返り血を拭ってくれた。
そのことに、安堵している自分がいる。
しかし。ミサキさんを害したいという気持ちが強くなっていった。
彼の声で、我に返る。
私は一体、何を…………?
共犯者は、ブルーシートを広げ、死体を足で転がしている。
「あの。ご遺体をそのように扱うのは、私の職業柄看過出来ないと言いますか……」
そして。せめて、エンバーミング技術で死体を綺麗にしようとしたのだが、あまりにも非日常な出来事が起きたせいか、上手く出来なかった。
ふたりで、死体を車に積む。
ミサキさんが、他愛ない話をした。花のことなど。
「寿直さんにとって、特別って何?」
「……特別とは、特別席に座っていることですかね。両親は、両親の席に。友人は、友人の席に。そして、特別は、特別席に。今のところ、その特別席に座っているのが、あなたです」
私は、淡々と話す。
「ふふ。そっか、なんかいい気分」
ミサキさんは、笑っている。
山に到着し、ふたりで穴を掘り始めた。
スコップが上手く扱えない。
ミサキさんが、私の手に手を重ね、使い方を教えてくれる。
この人は、何を考えているのだろう?
しばらくして。彼が私の手のひらのマメが出来そうなところに、無遠慮触った。
ぴり、と痛みが走る。
「痛い?」
「痛いです」
「ふふ。ごめん」
穴を数メートル掘り、ミサキさんに引き上げてもらった。
手向けとして、辺りに生えていた花を摘み、穴に入れる。
そうして、私たちは死体を埋めた。
ミサキさんが、私の手を引き、歩く。
彼は、何故、私の味方をする?
何故? 私は。
目の前の彼を、私は殺そうと思った。
気付けば、私はミサキさんを殴っていた。
「お前、まだ分かってないんだ。俺の方が強いってこと」
ミサキさんは冷たい目をして、私を殴る。殴る。
痛みが、私の頭を冷やした。
「ああ、ごめんね、寿直さん。痛かったでしょ? 治療しよっか?」
「ああ、はい…………」
ミサキさんの手当ては下手で。特に改善はしなかった。
「ごめんね。でも、先に手を出したのは寿直さんだし、お互い様だよね」
「はい。すいませんでした」
私と彼は、車に戻る。
「疲れたでしょ? 少し寝なよ」
「はい」
「おやすみ、寿直さん」
意識を手放す前に聴こえたのは、彼の鼻唄だった。
「寿直さん、着いたよ」
「あ、はい。おはようございます」
「おはよ」
車を降りて、気付く。ナンバープレートがレンタカーのものだ。
「寿直さん?」
「なんでもないです」
7階のミサキさんの部屋に向かう。
「入って」
「お邪魔します」
「まず、お風呂入ったら?」
「はい、そうですね」
「一緒に入る?」
「え? なんでですか?」
「冗談だよ」
私は、体が大きいから、彼とは入れないだろう。
そもそもシャワーしか用意されていなかったが。
次は、ミサキさんがシャワーん浴びるらしい。
私は、その隙に室内を物色することにした。
早速、入るなと言われた彼の部屋に入る。
そこには。壁や天井一面に、無数の私の盗撮写真が貼られていた。
それに。どうやら、私が捨てた空のペットボトルを収集してもいるらしい。
彼の日記らしきものを読む。
そこには、私への狂愛じみたものが綴られていた。
彼の部屋を出て、待つ。
「探偵ごっこは楽しかった?」
「いや、楽しくないです」
開口一番。彼には、やはり私のしたことはバレているようだ。
「あなた、どうして私のことを知っているんですか?」
「道端で見かけたんだよね。で、一目惚れ」
「あなた、男性ですよね?」
「そうだよ」
「あなた、私の性別を知ってるんですか?」
「俺は、寿直さんが綺麗だから好きなんだよ」
「はあ、そうですか。それならいいですけど」
知っているのだろうか? 私の秘密を。
「俺を君の特別にして」
「具体性がないですね。あるじゃないですか、親友になりたいとか、恋人になりたいとか」
「そういうんじゃない。俺を、特別にして」
「それって、現状では駄目なんですか? あなたは既に、私の中の特別席に座っていますが」
「そっか。もう、特別だったんだ。じゃあ、俺を受け入れてくれる?」
「少し、考えさせてください」
私が気になることは、海月ミサキのイニシアチブを握られるかどうか、である。
「あなたの出自は?」
「俺は、まあ、言っちゃえばヤクザなんだけど。ヤクザの組長の息子なんだよね。だから、普通に話しかけられないというか」
「そうなんですか。あなたは、好きな人に暴力を振るう人ですか?」
「好きな人を守るためなら。寿直さんのアレは、虫に寄生されてるせいだから、取り除けば大丈夫だよ」
「虫、ですか」
それが、私の暴力衝動の原因なのだろう。
「ミサキさん、ちょっと、あなたに触れてもいいですか?」
「いいよ」
私は、彼をソファーに押し倒した。
「特別席に座ったあなたに、私がこういうことを要求したら、どうしますか?」
「受け入れるよ」
「そうですか。ああ、失礼しました」
そう言って、彼の上から退く。
「寿直さんって、結構えっち?」
「さあ? 自分では分かりません」
さて。そろそろ結論を出そう。
「では、そうですね。私としては、あなたのことを受け入れますが、正直、虫を取り除いてほしいというのが一番の理由ですね」
「うん。そっか」
ミサキさんは、満足そうに笑うと、私の指先にキスをした。
「ありがとう、寿直さん。好きだよ」
彼に、ソファーに押し倒される。
ミサキさんが馬乗りになり、私の首を絞めた。
私は、抵抗するつもりはない。きっと、必要なことだから。
あなたは、どうして笑っているんですか?
ああ。気味の悪い虫が見える。
ミサキさんが、虫を潰した。
そして、私は意識を失う。
翌朝。
「あ、起きた?」
「おはようございます」
「気分はどう?」
「良くないですね」
「苦しかったよね。ごめんね」
「はい。とても」
他人の描いた絵図に嵌まるのは、無性に腹が立つ。
「でも、これで、普通に俺と生きていけるよ」
「はい」
「俺は、ずっと寿直さんの味方だよ」と、手を取られてから告げられた。
私は、海月ミサキに弱みを握られたまま生きていくしかないのだろうか?
そして、ふと思い付く。
彼に、キスをしてみた。
すると、キスを返される。
「ふふ。ありがと。これから、一緒に生きていこう」
「はあ……」
私が欲しいのは、そういう反応ではない。
「そういえば、あなた、色々と嘘をついていましたね。どうして花屋だなんて言ったんですか?」
「実際に、お花作ってるからかな」
「芥子の花ですか?」
「うん、そう」
あなたの、その余裕ぶった顔を崩してやりたい。
仕方ない。舌を入れてキスしてやろう。
ミサキさんは、驚いたようだ。
そういう表情だと、彼のことが可愛く見える。
「寿直さん、ちょっと、いきなり! いきなりはダメでしょ」
「あなたの慌てた顔が見たくて」
まあ、とりあえず今はこれでいい。
いずれ、絶対に服従させてやろう。
だって、あなた、私が死んだら嫌でしょう?
どちらが上か、分からせてあげますよ。
私が“王”で、あなたは“特別な僕”だ。
