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目眩がする。頭がぼんやりしていて。それに、水中にいるような視界。
不意に、クマゼミの声がして気が付く。
あれ? 泣いてる?
駄菓子屋の前。溶けかけのアイスを持ちながら、俺は泣いていた。
隣には、紀里茜がいる。
茜の首には、ぐるりと痣が。俺のスマホは壊れていて。
明らかにおかしい。
駄菓子屋の中から、ひとりの男子が出て来た。
彼は、友近正樹というらしい。
俺と茜の共通の友達みたいだけど、よく思い出せない。
彼から聞いた日付は、7月×日。
俺たち、熱中症とか?
「経口補水液、だっけ? 飲んだ方がいいかな?」
とりあえず、駄菓子屋で水をもらって飲む。
正樹は、病院へ行けと言う。
「来た道を戻ったら、なんか思い出さないかな? 茜はどうしたい?」
「道を戻ってもどうしようもなかったら病院行く?」
「そうだな。そうしよう」
来た道を戻っても何も分からなかったから、正樹に案内されて総合病院へ。
医者曰く、異常なし。
一過性の健忘、ではなさそうだけど。
医者の爺さんが気になることを口にした。
「タマ様?」
神様かな?
俺と茜は、タマ様に思い出を消された?
「タマ様について調べてみる?」
俺は、提案した。
「こういうのが自然現象だった、とかもあるし」
「今日はもう遅いから、明日から調べよう」と、正樹。
住所も朧気だから、正樹に案内してもらう。
風呂にて。特に怪我とかはなし。
それから、自室。自室と言われれば、そんな気がする。
母さんに、「スマホ壊れちゃったから、新しいの買ってほしいなぁって」と言ったら、新しく買ってくれることになった。助かる。
机を見た。
粘土細工はさすがに覚えてるだろう。
よし。出来た。
紙粘土をいじってから、乾かせる場所に置いて寝る。
豪雨の夢を見た。災害時らしい。
恐ろしく感じる。
これは記憶なのか?
翌日。教室へ。
担任の出欠確認が始まる。
「澤志野」
「はーい」
授業が始まった。
記憶転移? あ、ハートレコードのことか。
記憶喪失で授業、ムズ過ぎ。
放課後。
正樹と凪とうた。と、茜と俺は、いつメンらしい。
みんなで、“タマ様”について調べようという話になり、怪異研究会へ。
「高橋、タマ様って知ってる?」
高橋は、資料を貸してくれた。
“魂漂鎮守譚”
いい神様なのかな?
疫病と大飢饉の時に村人を救った土着の神様っぽい。
大量の本から、良さそうなものを探そう。
「お?」
記憶を消して周る無自覚浮遊存在。
タマ様とイコールかもしれない。
「祠って普通、山とか森とかにない?」
祠の場所が分かれば、記憶もなんとかなるかも。
「図書館なら、郷土史あるんじゃないかな」
と思ったけど、今日は休館日らしい。
「明日にするか」
「うん」
この辺で一番有名な山は、天盤山というそうだ。じゃあ、やっぱそこにありそうなもんだけど。
次に、サッカー部に話を聞きに行った。あんまり有力な情報はない。
そして。正樹のせいで、地獄坂48を駆け上がることになった。
「坂登るのなんて、サッカー部とアイドルしかしないよ」
俺と茜、美術部だぞ。
「正樹、せっかくだから、ゴールんとこでスマホで撮影しといてよ」
「おう!」
坂道ダッシュスタート。
「あ、茜が~!」
ぺしゃ、と転ぶ茜。
俺は、なんとか上手く登れた。
ちょっと思い出したことがある。
球技大会の練習の記憶。
「お前ら、普段美術部で運動嫌や言うてるのに」
「いや、普通の授業よりいいかなって」
「うん」
球技大会では、2位だったんだっけ。
その後。家庭科室へ向かう。
田所は、料理してみたら? と言う。
「卵焼きを作ってみよう」と、俺と茜は、やってみることにした。
えー。うん。焦げました。
「正樹、これあげる。アイス奢ってもらうからさ。お礼」
「いらん、いらん」
ちょっと思い出したことがある。
文化祭の準備の記憶。
クレープの生地、砂糖と塩、間違えた!
「砂糖は、黒糖にするとかしてくんないと」
「両方白いと分からないよな」
「俺たち、料理しないもんなぁ」
俺も茜も、盛り付けとか配膳とかくらいしかしないから。
「粘土みたいに出来たらいいんだけど」
「クッキーとかのがよかったかもなぁ」
「盛り付けを芸術的にすればいいんじゃない?」と、田所。
「やってみるか!」
「やってみよう」
俺と茜は、いい感じにクレープをデコレーションした。
「映えクレープ出来た!」
思わず笑顔になる。
「SNSで、ぜひ宣伝してくださいって言おう! 当日」
ああ、そんなこともあったな。
「大バズりクレープのこと思い出したわ」
打ち上げで焼き肉行ったんだよなぁ。
「おお、あれ凄かったよな」
「今度は、大バズりクッキーとかね」
アイシングクッキーなら、茜が上手く出来るだろう。
次は、校外の惣菜屋へ。
「記憶戻したいんで、奢ってください」
「奢れー」
「メンチカツ奢ってやるわ、ふたりに」と、正樹。
美味しい。あっという間に食べ終わった。
「お? 真っ白い猫だ。撫でちゃお」
ゴロゴロ言ってて可愛い~。
ちょっと思い出したことがある。
「メンチカツってやっぱ、最強だから」
なんか、この猫、食ってる?
「メンチカツ食ったらヤバくない?」
俺は、逃げる猫を捕まえた。
「食べちゃダメだよ。ペッてしな」
「どうしたん?」
店のおばちゃんが出て来る。
「猫がメンチカツ食べてたから止めた」
「それ、猫用のメンチなんよ」
「なんだ! びっくりしちゃった」
名前はまだない猫に、名前を付ける流れになった。
「メンチ食ってるなら、メンチじゃない?」
「貫禄あるから、兄貴って感じ」と、茜。
「これを合わせると、メンチ兄貴になる」
「メンチ兄貴に名前がついた記念として、写真撮らない?」と、凪。
「おー」
俺の机の写真が撮られた経緯が、これ。
「メンチ兄貴って名付けたの、俺と茜じゃん!」
「やっぱ、メンチカツは記憶を思い出させるほど美味いんやなぁ」
正樹は、なんか自分の手柄みたいに笑ってる。
「この後、どうする?」
「じゃあ、いつものとこ行こか」
「いつものとこ?」
レストランあめりか。というのが、いつものとこらしい。
「何食べる?」
「ハンバーガーがいいな」と、茜。
「俺も! アメリカって言ったらハンバーガーだよなぁ」
茜とは、やっぱり気が合う。
「ポテトには何つける?」
「こういうとこには、グレイビーソースなるものがあるんじゃない?」
少しして。注文したハンバーガーとフライドポテトを食べた。
「美味いなぁ」
食べ終わった後。
「広と茜、家帰れるか?」
「まあ、迷ったら連絡するわ」
「俺、連絡手段ないわ。狼煙上げるわ」
「花火でもいいんじゃない?」
茜が言う。そうして、俺たちは別れた。
帰宅して。就寝。
夢を見ている。
自室にある木箱から短刀を取り出す夢。
朝。アラームに起こされる。
夢に出てきた木箱があった。中には、短刀もある。
母さんのスマホを借りて、写真を撮り、Dropboxにアップして、元データは消す。
登校したら、教室には正樹の姿はなく。
「え?」
正樹の存在が消えている。
誰も正樹を覚えてない。写真や音声記録は、凪にすり代わっていた。
茜に、高橋に連絡してもらう。
希望ヶ山で人が消えたという書き込みを教えてもらった。
「正樹なんで消えたんだよ? 祠でも壊した?」
「あーかもね」
短刀については、よく分からなかった。
放課後。
郷土史関係の閉架図書を読む。
魂漂様ってのは、生け贄を欲しがるのか。
光暮一閃ってのは、あの短刀のことだろう。
「おかえりなさい」
「え?」
気味の悪い顔だ。顔。顔。顔。それが言葉を発している。
逃げないといけないのに、足が動かない。
死を感じたけど、俺も茜も無事だった。
凪とうたと合流して、あめりかで情報共有する。
その後。俺と茜しか覚えてない正樹の痕跡を探しに、友近家へ行った。
インターホンを押す。
「俺たち、高校で郷土史研究をしてるんですけど。間取りって見せてもらえます? 別に写真撮るとかはしないんで」
『まあ、それならいいですよ』
結果。正樹の痕跡はなし。始めから、友近夫妻しかいなかったみたいに。
帰り道。
「悪夢見るんだろ? 短刀、枕元に置いといた方がいいんじゃない?」
「いいの?」
光暮一閃を枕元に置けば、茜の悪夢を止められるかも。
「あー。広の家に泊めてもらうってのは?」
「それだ!」
茜を家に泊めよう!
母さんには、勉強会って言えば大丈夫だろうし。
自室にて。
あの貸出し中の本、家にあったのかよ!
読んでから、「祠の場所、分かったな」と俺は呟くように言った。
行くしかないのか?
その晩。
枕の下に刀を置いて、茜と一緒にベッドで寝た。
茜は寝相悪くないらしいし。
翌朝。
「刀効かねぇじゃん……」
俺も茜も、妙な夢を見た。
仮説。
俺たちは、世界を改変し合っている?
それで、エラーが起きた?
自室で茜と話し合ったけど、まだ分からないことだらけだ。
母さんから、新しいスマホを受け取り、朝ごはんを食べる。
そして、いつもの教室へ。
今日は、誰も減ってない。よかった。
タマ様をぶった斬るなら、相応の覚悟をしなきゃならない。曲がりなりにも、神様だ。何が起きるか分からない。
光暮一閃。ロープ。簡易的な身代わり人形。
準備をして、祠へ向かう。
茜と荒れた道を進むと、少し開けた場所に出た。
壊れかけの祠と、墓碑がある。
「ここまで来たら一蓮托生だろ、たぶん」
「そうだな」
短刀を抜く。祠は、容易く壊れた。
でも、何も起きない。
足元で、パキ、と音が鳴る。
「骨……!?」
これは、茜の骨だ。
全部思い出した。紀里茜は、死んだんだ。
今の茜は、茜じゃない。茜に成り代わったモノだ。
ふたりの間に緊張が走る。
そこに、白い布を着けた首の長い化物が現れた。
「話は後! 逃げるぞ!」
「分かった」
追って来る化物3体から逃げる。
逃げ切って、俺たちはあめりかに入った。
茜が言うには、自分がタマで、うたはタマの分裂体らしい。
「なんで人を食べるの?」と、うたに訊いたら、人が食事をするのと同じだと言われた。
「俺には、出来ることが3つはある。ひとつは、記憶の消去。それと、世界の記憶の消去。3つ目は、やりたくないかな……」
茜は、きっと俺を殺せる。でも、それを選ばないなら。
「正直、俺は茜を……便宜上、茜って呼ぶけど、お前のことを殺すのはしたくない」
「うん。俺は……広を傷付けたくない……」
茜は、俺の親友だった。その茜の意識とか記憶とかを引き継いだお前は、茜じゃない。
でも、それでも、茜にそっくりなお前を斬るなんて、俺には出来ない。
茜を殺したのも、悪意があったワケじゃないだろうし。
俺は、茜とうたを希望ヶ山に縛り付けている鎖を切ることにした。
これで、死んだ人の魂を取り込みに行けば、能動的に人を殺さなくて済むだろう。
「俺は、茜とここを出る」
茜が独りになるのは、寂しいだろうから。
「広は、ここにいた方が……それに、俺のことは始めからいなかったことに出来るし……」
「茜として生きて、せめて両親を悲しませないようにしろよ」
「そうか。責任から逃げようとしてたわ」
うたをなんとか説得して、ふたりで旅に出ることにする。
「凪、突然だけど、俺と茜は旅に出る!」
「ほんとに突然やね!?」
「月イチくらいで帰るから」
よし! 家で旅支度するぞ!
えーと。スマホと財布と粘土と木ベラと衣類。あと、ちょっと非常食をパクろう。
「母さん、俺、茜と旅に出るから!」
「ええ? 高校2年生の夏に?」
「この夏が一番早いだろ、人生で」
俺は、母さんを言いくるめた。
その後。茜も自宅へ行き、母親を言いくるめた。
「どこ行く?」
「とりあえず駅かな。なるべく都会がいい」
俺と茜は、並んで歩き出す。
「海行くのもいいかも。だって夏だろ?」
「そっか。そうだね。目指せ、海」
「おー!」
今の茜のことも、俺は見捨てたりしない。
そりゃあ、憎くないって言ったら嘘になるけど。
そもそも、人間が勝手に土地に縛り付けて、神様として利用してたのが悪いんだし。
だから、まあ。人間代表として、茜と色んなところに行こうと思った。
不意に、クマゼミの声がして気が付く。
あれ? 泣いてる?
駄菓子屋の前。溶けかけのアイスを持ちながら、俺は泣いていた。
隣には、紀里茜がいる。
茜の首には、ぐるりと痣が。俺のスマホは壊れていて。
明らかにおかしい。
駄菓子屋の中から、ひとりの男子が出て来た。
彼は、友近正樹というらしい。
俺と茜の共通の友達みたいだけど、よく思い出せない。
彼から聞いた日付は、7月×日。
俺たち、熱中症とか?
「経口補水液、だっけ? 飲んだ方がいいかな?」
とりあえず、駄菓子屋で水をもらって飲む。
正樹は、病院へ行けと言う。
「来た道を戻ったら、なんか思い出さないかな? 茜はどうしたい?」
「道を戻ってもどうしようもなかったら病院行く?」
「そうだな。そうしよう」
来た道を戻っても何も分からなかったから、正樹に案内されて総合病院へ。
医者曰く、異常なし。
一過性の健忘、ではなさそうだけど。
医者の爺さんが気になることを口にした。
「タマ様?」
神様かな?
俺と茜は、タマ様に思い出を消された?
「タマ様について調べてみる?」
俺は、提案した。
「こういうのが自然現象だった、とかもあるし」
「今日はもう遅いから、明日から調べよう」と、正樹。
住所も朧気だから、正樹に案内してもらう。
風呂にて。特に怪我とかはなし。
それから、自室。自室と言われれば、そんな気がする。
母さんに、「スマホ壊れちゃったから、新しいの買ってほしいなぁって」と言ったら、新しく買ってくれることになった。助かる。
机を見た。
粘土細工はさすがに覚えてるだろう。
よし。出来た。
紙粘土をいじってから、乾かせる場所に置いて寝る。
豪雨の夢を見た。災害時らしい。
恐ろしく感じる。
これは記憶なのか?
翌日。教室へ。
担任の出欠確認が始まる。
「澤志野」
「はーい」
授業が始まった。
記憶転移? あ、ハートレコードのことか。
記憶喪失で授業、ムズ過ぎ。
放課後。
正樹と凪とうた。と、茜と俺は、いつメンらしい。
みんなで、“タマ様”について調べようという話になり、怪異研究会へ。
「高橋、タマ様って知ってる?」
高橋は、資料を貸してくれた。
“魂漂鎮守譚”
いい神様なのかな?
疫病と大飢饉の時に村人を救った土着の神様っぽい。
大量の本から、良さそうなものを探そう。
「お?」
記憶を消して周る無自覚浮遊存在。
タマ様とイコールかもしれない。
「祠って普通、山とか森とかにない?」
祠の場所が分かれば、記憶もなんとかなるかも。
「図書館なら、郷土史あるんじゃないかな」
と思ったけど、今日は休館日らしい。
「明日にするか」
「うん」
この辺で一番有名な山は、天盤山というそうだ。じゃあ、やっぱそこにありそうなもんだけど。
次に、サッカー部に話を聞きに行った。あんまり有力な情報はない。
そして。正樹のせいで、地獄坂48を駆け上がることになった。
「坂登るのなんて、サッカー部とアイドルしかしないよ」
俺と茜、美術部だぞ。
「正樹、せっかくだから、ゴールんとこでスマホで撮影しといてよ」
「おう!」
坂道ダッシュスタート。
「あ、茜が~!」
ぺしゃ、と転ぶ茜。
俺は、なんとか上手く登れた。
ちょっと思い出したことがある。
球技大会の練習の記憶。
「お前ら、普段美術部で運動嫌や言うてるのに」
「いや、普通の授業よりいいかなって」
「うん」
球技大会では、2位だったんだっけ。
その後。家庭科室へ向かう。
田所は、料理してみたら? と言う。
「卵焼きを作ってみよう」と、俺と茜は、やってみることにした。
えー。うん。焦げました。
「正樹、これあげる。アイス奢ってもらうからさ。お礼」
「いらん、いらん」
ちょっと思い出したことがある。
文化祭の準備の記憶。
クレープの生地、砂糖と塩、間違えた!
「砂糖は、黒糖にするとかしてくんないと」
「両方白いと分からないよな」
「俺たち、料理しないもんなぁ」
俺も茜も、盛り付けとか配膳とかくらいしかしないから。
「粘土みたいに出来たらいいんだけど」
「クッキーとかのがよかったかもなぁ」
「盛り付けを芸術的にすればいいんじゃない?」と、田所。
「やってみるか!」
「やってみよう」
俺と茜は、いい感じにクレープをデコレーションした。
「映えクレープ出来た!」
思わず笑顔になる。
「SNSで、ぜひ宣伝してくださいって言おう! 当日」
ああ、そんなこともあったな。
「大バズりクレープのこと思い出したわ」
打ち上げで焼き肉行ったんだよなぁ。
「おお、あれ凄かったよな」
「今度は、大バズりクッキーとかね」
アイシングクッキーなら、茜が上手く出来るだろう。
次は、校外の惣菜屋へ。
「記憶戻したいんで、奢ってください」
「奢れー」
「メンチカツ奢ってやるわ、ふたりに」と、正樹。
美味しい。あっという間に食べ終わった。
「お? 真っ白い猫だ。撫でちゃお」
ゴロゴロ言ってて可愛い~。
ちょっと思い出したことがある。
「メンチカツってやっぱ、最強だから」
なんか、この猫、食ってる?
「メンチカツ食ったらヤバくない?」
俺は、逃げる猫を捕まえた。
「食べちゃダメだよ。ペッてしな」
「どうしたん?」
店のおばちゃんが出て来る。
「猫がメンチカツ食べてたから止めた」
「それ、猫用のメンチなんよ」
「なんだ! びっくりしちゃった」
名前はまだない猫に、名前を付ける流れになった。
「メンチ食ってるなら、メンチじゃない?」
「貫禄あるから、兄貴って感じ」と、茜。
「これを合わせると、メンチ兄貴になる」
「メンチ兄貴に名前がついた記念として、写真撮らない?」と、凪。
「おー」
俺の机の写真が撮られた経緯が、これ。
「メンチ兄貴って名付けたの、俺と茜じゃん!」
「やっぱ、メンチカツは記憶を思い出させるほど美味いんやなぁ」
正樹は、なんか自分の手柄みたいに笑ってる。
「この後、どうする?」
「じゃあ、いつものとこ行こか」
「いつものとこ?」
レストランあめりか。というのが、いつものとこらしい。
「何食べる?」
「ハンバーガーがいいな」と、茜。
「俺も! アメリカって言ったらハンバーガーだよなぁ」
茜とは、やっぱり気が合う。
「ポテトには何つける?」
「こういうとこには、グレイビーソースなるものがあるんじゃない?」
少しして。注文したハンバーガーとフライドポテトを食べた。
「美味いなぁ」
食べ終わった後。
「広と茜、家帰れるか?」
「まあ、迷ったら連絡するわ」
「俺、連絡手段ないわ。狼煙上げるわ」
「花火でもいいんじゃない?」
茜が言う。そうして、俺たちは別れた。
帰宅して。就寝。
夢を見ている。
自室にある木箱から短刀を取り出す夢。
朝。アラームに起こされる。
夢に出てきた木箱があった。中には、短刀もある。
母さんのスマホを借りて、写真を撮り、Dropboxにアップして、元データは消す。
登校したら、教室には正樹の姿はなく。
「え?」
正樹の存在が消えている。
誰も正樹を覚えてない。写真や音声記録は、凪にすり代わっていた。
茜に、高橋に連絡してもらう。
希望ヶ山で人が消えたという書き込みを教えてもらった。
「正樹なんで消えたんだよ? 祠でも壊した?」
「あーかもね」
短刀については、よく分からなかった。
放課後。
郷土史関係の閉架図書を読む。
魂漂様ってのは、生け贄を欲しがるのか。
光暮一閃ってのは、あの短刀のことだろう。
「おかえりなさい」
「え?」
気味の悪い顔だ。顔。顔。顔。それが言葉を発している。
逃げないといけないのに、足が動かない。
死を感じたけど、俺も茜も無事だった。
凪とうたと合流して、あめりかで情報共有する。
その後。俺と茜しか覚えてない正樹の痕跡を探しに、友近家へ行った。
インターホンを押す。
「俺たち、高校で郷土史研究をしてるんですけど。間取りって見せてもらえます? 別に写真撮るとかはしないんで」
『まあ、それならいいですよ』
結果。正樹の痕跡はなし。始めから、友近夫妻しかいなかったみたいに。
帰り道。
「悪夢見るんだろ? 短刀、枕元に置いといた方がいいんじゃない?」
「いいの?」
光暮一閃を枕元に置けば、茜の悪夢を止められるかも。
「あー。広の家に泊めてもらうってのは?」
「それだ!」
茜を家に泊めよう!
母さんには、勉強会って言えば大丈夫だろうし。
自室にて。
あの貸出し中の本、家にあったのかよ!
読んでから、「祠の場所、分かったな」と俺は呟くように言った。
行くしかないのか?
その晩。
枕の下に刀を置いて、茜と一緒にベッドで寝た。
茜は寝相悪くないらしいし。
翌朝。
「刀効かねぇじゃん……」
俺も茜も、妙な夢を見た。
仮説。
俺たちは、世界を改変し合っている?
それで、エラーが起きた?
自室で茜と話し合ったけど、まだ分からないことだらけだ。
母さんから、新しいスマホを受け取り、朝ごはんを食べる。
そして、いつもの教室へ。
今日は、誰も減ってない。よかった。
タマ様をぶった斬るなら、相応の覚悟をしなきゃならない。曲がりなりにも、神様だ。何が起きるか分からない。
光暮一閃。ロープ。簡易的な身代わり人形。
準備をして、祠へ向かう。
茜と荒れた道を進むと、少し開けた場所に出た。
壊れかけの祠と、墓碑がある。
「ここまで来たら一蓮托生だろ、たぶん」
「そうだな」
短刀を抜く。祠は、容易く壊れた。
でも、何も起きない。
足元で、パキ、と音が鳴る。
「骨……!?」
これは、茜の骨だ。
全部思い出した。紀里茜は、死んだんだ。
今の茜は、茜じゃない。茜に成り代わったモノだ。
ふたりの間に緊張が走る。
そこに、白い布を着けた首の長い化物が現れた。
「話は後! 逃げるぞ!」
「分かった」
追って来る化物3体から逃げる。
逃げ切って、俺たちはあめりかに入った。
茜が言うには、自分がタマで、うたはタマの分裂体らしい。
「なんで人を食べるの?」と、うたに訊いたら、人が食事をするのと同じだと言われた。
「俺には、出来ることが3つはある。ひとつは、記憶の消去。それと、世界の記憶の消去。3つ目は、やりたくないかな……」
茜は、きっと俺を殺せる。でも、それを選ばないなら。
「正直、俺は茜を……便宜上、茜って呼ぶけど、お前のことを殺すのはしたくない」
「うん。俺は……広を傷付けたくない……」
茜は、俺の親友だった。その茜の意識とか記憶とかを引き継いだお前は、茜じゃない。
でも、それでも、茜にそっくりなお前を斬るなんて、俺には出来ない。
茜を殺したのも、悪意があったワケじゃないだろうし。
俺は、茜とうたを希望ヶ山に縛り付けている鎖を切ることにした。
これで、死んだ人の魂を取り込みに行けば、能動的に人を殺さなくて済むだろう。
「俺は、茜とここを出る」
茜が独りになるのは、寂しいだろうから。
「広は、ここにいた方が……それに、俺のことは始めからいなかったことに出来るし……」
「茜として生きて、せめて両親を悲しませないようにしろよ」
「そうか。責任から逃げようとしてたわ」
うたをなんとか説得して、ふたりで旅に出ることにする。
「凪、突然だけど、俺と茜は旅に出る!」
「ほんとに突然やね!?」
「月イチくらいで帰るから」
よし! 家で旅支度するぞ!
えーと。スマホと財布と粘土と木ベラと衣類。あと、ちょっと非常食をパクろう。
「母さん、俺、茜と旅に出るから!」
「ええ? 高校2年生の夏に?」
「この夏が一番早いだろ、人生で」
俺は、母さんを言いくるめた。
その後。茜も自宅へ行き、母親を言いくるめた。
「どこ行く?」
「とりあえず駅かな。なるべく都会がいい」
俺と茜は、並んで歩き出す。
「海行くのもいいかも。だって夏だろ?」
「そっか。そうだね。目指せ、海」
「おー!」
今の茜のことも、俺は見捨てたりしない。
そりゃあ、憎くないって言ったら嘘になるけど。
そもそも、人間が勝手に土地に縛り付けて、神様として利用してたのが悪いんだし。
だから、まあ。人間代表として、茜と色んなところに行こうと思った。
