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雨。こんな日には、古傷が痛む。
オレには、狐ヶ崎夜には、左目を潰された過去がある。
白い眼帯の下。視力のない左目。
「…………」
世界から隠れるには頼りないビニール傘を差して、ひとり街中を歩いている。
すると、不意に手を引かれた。
陶器のような、手。
「あの、誰? ですか?」
「誘拐犯。自己紹介は、着いてからするな」
「そう、ですか」
ズキズキと片目が痛んだ。
「オレのこと、知ってるんですか?」
「いや?」
「そう…………」
されるがままに、タクシーに乗る。
到着したのは、山の麓。
道中、奇形のカエルを見た。
ちょっとオレみたいだね。
オレと自称誘拐犯の男は、大きな日本家屋に着いた。
「タオル取って来るな」
「……うん」
タオルを受け取り、お風呂まで用意してもらう。
遠慮なく、借りることにした。
そうしたら。体の隅々まで、気持ち悪い感覚に包まれる。
なに?
借りたバスタオルで体を拭いて、借りた衣服を着た。
男は、オレを居間に通して緑茶と茶菓子を出す。
「俺は、鮫嶋凪生」
「オレは、狐ヶ崎夜。苗字長いから、夜でいいよ」
「そうか! 夜って呼ぶな!」
「うん。オレは、凪生って呼んでいい?」
「おう!」
凪生は、ギザギザの歯を見せてニコニコしている。
「なんか、楽しそうだね」
「久々に人が来たのが嬉しくて、つい」
「そっか」
こんな山奥で、こんな広い家で、ひとりなの?
「寂しいとかは、ないの?」
「ない。でも、話し相手ほしくなっちゃった」
「それが誘拐した理由ってこと?」
「うん。あと、手伝ってほしいこともある」
「なに?」
「夜が、ここに慣れてから話す」
「そう」
出された豆大福を食べ、お茶を飲む。
「夜は、仕事なにしてんの?」
「ロックバンド。ボーカル担当」
「カッコいい!」
「カッコいいといいんだけど……」
「なんで? カッコいいじゃん」
「ありがとう……」
そりゃあ、カッコよくありたいよ。
でも、オレはいつまでも“いらない子”のままのような気がしている。
「凪生は?」
「俺は、怪奇小説書いてる」
「そうなんだ」
作詞はするけど、小説は書いたことないな。
「……オレは、この仕事いつまで続けられるか不安だよ」
「ふーん?」
「事故とか病気とかで声出せなくなったらどうしようとか、さ。考えちゃって」
「それは、みんなそうだと思うけどな。小説家だって、書けなくなったら終わりだ」
「そう、だね……」
俺は、なんでこんな話をしてるんだろう?
話題を変えよう。
「凪生は、雨ってどう思う?」
「全部綺麗に洗い流してくれるみたいで好き!」
「そっか」
オレは、ちょっと苦手。
その後。家の中は好きに見ていいと言われたから、そうした。
「夜~?」
「はい!」
「夕飯」
「あ、うん」
居間へ向かい、食卓に着く。
「これ、凪生の手作り?」
「うん。ちょっと失敗した!」
「いただきます」
玉子焼きは、少し焦げた味がした。
「凪生っていつも自炊してんの?」
「うん」
「偉いね」
そう言うと、凪生は、オレの食生活がボロボロなことに感付いたらしい。
「ベースブレッドとかじゃダメかな?」
「ダメ! 料理出来るようにしようぜ」
「……じゃあ、頑張ってみるよ」
明日、一緒に料理をすることになった。
「凪生って、なにか好きなモチーフある?」
「名前に入ってる鮫!」
「そっか」
「夜は?」
「オレも名前に入ってるから、夜かな」
ああ、でも。
「でも、狐は好きじゃないんだ」
「そうなのか?」
やめろ。話すな。
「ごめん、やめようこの話。暗い話だから」
「聞きたい」
「オレ、家族と仲良くなくて。苗字が嫌いなんだよね」
「なるほどな。夜がそういうこと話してくれるなら、俺も話す」
凪生は、明るい声色で秘密を話してくれた。
「前髪の下、火傷痕あんだよね」
「そうなんだ……」
オレたちは、全然違うのに少し似ている気がする。不思議だ。
それから。一室借りて、就寝した。
「夜ー!」
翌朝。スパーンと、襖が開けられた。
「朝から元気だねー」
「おはよう」
「おはよう……」
約束通り、ふたりで朝食を作る。
上手く玉子焼きが作れた。凪生も上手く出来たみたい。
「よし!」
「……じゃあ、交換して食べる?」
「うん。やったー!」
ふたりで朝食を摂る。
「夜の美味い、美味い」
「凪生のも美味しいよ」
何を話そう?
「凪生の好きな料理は?」
「フカヒレスープ」
「鮫だから?」
「それな! あと美味い! 夜は?」
「ハンバーガーかな」
あ、マズい。凪生の食育スイッチが入ってしまったらしい。
「体に悪いものって美味しいんだよ」と、オレはゴニョゴニョ言った。
「何か、ジャンクフード以外で食べたいものは?」
「じゃあ、ハンバーグとか?」
「おっ。じゃあ昼に食べようぜ」
「うん」
食事の後。居間のテレビ辺りを見ていると、映画のDVDを複数枚見付けた。
「夜~?」
「このDVD、凪生の?」
「ああ、そうだな。あとは、同居人だった奴のもある」
「どんな映画が好きなの?」
「サメ映画」
「ベストサメ映画、なに?」
「ジョーズ」
「王道だね」
ジョーズは、一作目だけ見ておけばいい。実は、ジョーズを冠しているけど、全然関係ないやつだったりする。
「オレは、ファンドム・オブ・パラダイスが好き」
「ああ! アレか!」
凪生は、ジェーン・ドウの解剖とかミーガンとかも好きみたいだった。
「ホラー映画のシュミ合う気がする」
オレは、少し笑う。
昼食は、凪生が作ってくれた。
「綺麗に出来た!」
「和風おろしハンバーグ美味しい」
凪生って凄いなー。
「次は何食べたい? ジャンクフードはなしな?」
悩む。オレって、あんまり食事に興味ない人間だったんだ。
「あ、唐揚げかな?」
「分かった。唐揚げな!」
また、家の中を見ている。
物置にて、キーボードを発見。あまり動かした感じがしない。
電池がない?
それと、灰色の腕? を見付けた。
ホラー雑貨じゃ、ないのかな。
日が暮れていく。
凪生に教わりながら、唐揚げを作った。凪生は、満足そうにしている。
「いただきます」
「美味い!」
「うん。美味しいね」
こういう時、普通は何を話すんだろう?
「凪生って、知られたくないことある?」
「ねぇよ?」
「離れに秘密とかないの?」
「大家さんの荷物がぶち込んであるだけだよ」
「そう」
大家さんについて少し聞いた。歳かさの人らしい。
「好きな本ってある?」
「自分の小説の、初めて出したやつ」
「ふむふむ」
オレも、最初に作った曲は好きだ。それは、“夜の歌”という。
自室に戻ってから、作詞にチャレンジしてみたけど、失敗した。
うーん。もっと凪生のこと知った方がいいかも。
翌日の朝。昨日の残りの唐揚げをかける。
「ポッカレモン、ひとつ唐揚げにかけてみようかな」
凪生に倣ってかけてみると。
「美味しい……!」
「美味いだろ~」
なんか、ここに来てから色んなことしてるな。
また屋敷を探索した。
お昼。
凪生は、チャーハン作ってくれた。
「凪生、オレが来てから楽しい?」
「ひとりでいるより、ずっと楽しい」
「そう。なら、いいんだけど」
チャーハンを咀嚼し、呑み込む。
「そういえばさ、凪生って、好きな音楽あるの?」
「あー。アレだ、白鳥の……よく眠れんだよ」
「白鳥の湖? クラシック聴きながら寝てるってこと?」
じゃあ、よく眠れそうなバラードを作ろうかな。
「あ、凪生の書いた本借りていい?」
「部屋にあるから、勝手に取っていいよ」
許可をもらって借りた小説は、山の話だった。
そういえば、この辺には人食い鬼の話があったような。
よし。もう一度、作詞してみよう。
「うん。出来たな」
新曲が完成した。
「凪生、単三電池2本ある?」
「持って来る」
電池を交換して、キーボードの音がちゃんと鳴るようになる。
「演奏してくれんの?」
「うーん。とりあえず、夕飯の後でいい?」
「おう!」
夕飯は、ミートスパゲッティとポトフ的なものだった。
「いただきます」
お店みたいな味がする。
「凄い美味しいね」
凪生は、得意気に笑った。
「凪生って鮫好きでしょ?」
「好き!」
「海の方に住もうとは思わなかったの?」
「ここが一番好き」
そうなんだ。そういうもんか。
「鮫と鬼って、どっちが強いと思う?」
「陸なら鬼、海なら鮫じゃね?」
一理ある。
「夜はどう思う?」
「鮫が空飛べたら、鮫が勝つんじゃない?」
「シャークトルネード?」
「シャークネードね」
「それだ!」
「鮫が空飛んじゃダメだろ!」と凪生は騒いだ。
「そうだ。凪生の本、読んだよ」
「どうだった?」
「山の話だったね。オレにも分かる話でよかった」
そういえば。
「この山、人食い鬼の伝説? あるよね」
「おう、あるぞ。まあ、鬼じゃなくて、正体は人拐いだったみたいだけどな」
「じゃあ、凪生は人拐いだから、鬼だね」
オレは、凪生をじっと見つめた。
「俺が人食い鬼だったら、どうする?」
「どうもしないけど」
「夜なら、そう言うと思った!」
凪生は、続けてオレに質問する。
「怖い? 人食い鬼」
「全然知らない人だったら怖いけど、凪生のことなら少しは知ってるし、怖くないよ」
凪生は、「あはっ」と笑った。
「俺は、人間だよ。夜を食べたりしねぇよ」
「まあ、食べちゃったら話せないからね」
「うんうん」
食後。
少しの緊張と、高揚感。
息を深く吸い込む。
オレは、キーボードで節をつけて、ここで作った歌を唄う。
しっとりとしたバラードだ。
歌い終えると、凪生が拍手してくれる。
「すげぇ!」
「タイトルもつけたんだけど。“雨と鮫”っていうんだ」
「雨と鮫?」
「どっちも、凪生好きでしょ?」
凪生は、嬉しそうだ。よかった。
この歌は、たったひとりのためのものだから。
「じゃあ、俺は、夜の小説を書いてやろうか?」
「興味、ある」
新しい楽しみを胸に、眠りにつく。
起きると、「なんか怠い気がする」と少し心配そうな凪生に告げることになった。
朝食は、ご飯、味噌汁、酢の物。
ありがたい。
「もしかして、怠い時とかにもインスタントだけで済ませてたのか?」
「そんなことない、ですよ?」
「よ~る~」
「別に、ゼリー飲料だけで終わらせたりしてないし」
凪生は、また怒ってるみたいだ。
今日は、庭に出てみる。
池に気味の悪い魚がいた。
やっぱり、山って怖いところなんだな。
「夜! 昼!」と、凪生の声が響いた。
夜、昼。ちょっと面白い。
用意してくれたのは、たまご粥だった。
凪生は、優しいね。
まともな家族がいたら、こんな感じなのかな。
「夜、なに食べたい?」
「お餅入ったうどん、食べてみたい」
凪生は、笑顔で了承してくれた。
そのあと。オレは、とうとう、行くなと言われている離れに向かう。
そこにあったのは、死体と、灰。いや、死体が灰なのかな。
凪生って何者なんだろう?
そこを後にし、離れに繋がる扉の南京錠をかけ直す。
夕食は、リクエスト通りのうどんだった。
「凪生って記憶力いい?」
「ちっちゃい頃のことは覚えてねぇ」
「そう」
オレ、回りくどいことしてるな。
「例え話なんだけど、オレが凪生の前からいなくなるとするじゃん? それでも、ずっと覚えててくれる?」
「忘れねぇよ」
「うん。ありがとう」
あの歌は、凪生が覚えてないと死んじゃうんだ。
翌朝、ジャムを塗られた食パンを食べてから。
そっと、自室で小説を書いている凪生の後ろに行く。
だけど。
「夜?」
「あ、バレた」
音を立ててしまい、文机に向かっていた凪生が振り向いた。
「なんだよ、夜~」
「わっ!」
頭を撫でられる。
「なんか歳の離れた弟が出来たみたいだなぁ」
ああ、そっか。オレは、凪生のことを……。
「オレ、23歳」
「俺は、28だ」
「そんな離れてないじゃん」
「はははっ!」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。
夕飯は、シチュー。
「小説、楽しみにしてる」
「楽しみにしてて~」
「凪生の小説読んだら、帰る。かもしれない」
「そうか」と、感情の読めない声で凪生は言った。
次の日。
「小説出来たけど、読む?」
「読む」
受け取った原稿用紙を広げる。
鬼と、ひとりの人間が出会った話。
人は去り、鬼はまたひとりになる。
「凪生は、これどんな気持ちで書いたの?」
「別に? いつもの話みたいな感じ」
引き止めてよ。
「今度は、凪生がオレん家に来ればいいじゃん」
「俺、ここが好きだから」
「……あの、手伝いっての、するよ?」
「夜、離れ見たろ?」
「……見た」
「ああなるよ?」
「オレ、死ぬの?」
凪生が言うには、オレに“生け贄”を連れて来てほしいらしい。
「凪生。オレは、ここに残るよ」
「あはは! 夜なら、この家を気に入ってくれると思った!」
凪生は、不気味にも思えるほど楽しそうに笑った。
「これから、ずっと夜の好きなもの作ってあげる」
「うん……」
それならオレは、ずっと凪生のために歌ってあげる。
凪生は、オレの家族になってくれるよね?
凪生は、優しいから。
オレには、狐ヶ崎夜には、左目を潰された過去がある。
白い眼帯の下。視力のない左目。
「…………」
世界から隠れるには頼りないビニール傘を差して、ひとり街中を歩いている。
すると、不意に手を引かれた。
陶器のような、手。
「あの、誰? ですか?」
「誘拐犯。自己紹介は、着いてからするな」
「そう、ですか」
ズキズキと片目が痛んだ。
「オレのこと、知ってるんですか?」
「いや?」
「そう…………」
されるがままに、タクシーに乗る。
到着したのは、山の麓。
道中、奇形のカエルを見た。
ちょっとオレみたいだね。
オレと自称誘拐犯の男は、大きな日本家屋に着いた。
「タオル取って来るな」
「……うん」
タオルを受け取り、お風呂まで用意してもらう。
遠慮なく、借りることにした。
そうしたら。体の隅々まで、気持ち悪い感覚に包まれる。
なに?
借りたバスタオルで体を拭いて、借りた衣服を着た。
男は、オレを居間に通して緑茶と茶菓子を出す。
「俺は、鮫嶋凪生」
「オレは、狐ヶ崎夜。苗字長いから、夜でいいよ」
「そうか! 夜って呼ぶな!」
「うん。オレは、凪生って呼んでいい?」
「おう!」
凪生は、ギザギザの歯を見せてニコニコしている。
「なんか、楽しそうだね」
「久々に人が来たのが嬉しくて、つい」
「そっか」
こんな山奥で、こんな広い家で、ひとりなの?
「寂しいとかは、ないの?」
「ない。でも、話し相手ほしくなっちゃった」
「それが誘拐した理由ってこと?」
「うん。あと、手伝ってほしいこともある」
「なに?」
「夜が、ここに慣れてから話す」
「そう」
出された豆大福を食べ、お茶を飲む。
「夜は、仕事なにしてんの?」
「ロックバンド。ボーカル担当」
「カッコいい!」
「カッコいいといいんだけど……」
「なんで? カッコいいじゃん」
「ありがとう……」
そりゃあ、カッコよくありたいよ。
でも、オレはいつまでも“いらない子”のままのような気がしている。
「凪生は?」
「俺は、怪奇小説書いてる」
「そうなんだ」
作詞はするけど、小説は書いたことないな。
「……オレは、この仕事いつまで続けられるか不安だよ」
「ふーん?」
「事故とか病気とかで声出せなくなったらどうしようとか、さ。考えちゃって」
「それは、みんなそうだと思うけどな。小説家だって、書けなくなったら終わりだ」
「そう、だね……」
俺は、なんでこんな話をしてるんだろう?
話題を変えよう。
「凪生は、雨ってどう思う?」
「全部綺麗に洗い流してくれるみたいで好き!」
「そっか」
オレは、ちょっと苦手。
その後。家の中は好きに見ていいと言われたから、そうした。
「夜~?」
「はい!」
「夕飯」
「あ、うん」
居間へ向かい、食卓に着く。
「これ、凪生の手作り?」
「うん。ちょっと失敗した!」
「いただきます」
玉子焼きは、少し焦げた味がした。
「凪生っていつも自炊してんの?」
「うん」
「偉いね」
そう言うと、凪生は、オレの食生活がボロボロなことに感付いたらしい。
「ベースブレッドとかじゃダメかな?」
「ダメ! 料理出来るようにしようぜ」
「……じゃあ、頑張ってみるよ」
明日、一緒に料理をすることになった。
「凪生って、なにか好きなモチーフある?」
「名前に入ってる鮫!」
「そっか」
「夜は?」
「オレも名前に入ってるから、夜かな」
ああ、でも。
「でも、狐は好きじゃないんだ」
「そうなのか?」
やめろ。話すな。
「ごめん、やめようこの話。暗い話だから」
「聞きたい」
「オレ、家族と仲良くなくて。苗字が嫌いなんだよね」
「なるほどな。夜がそういうこと話してくれるなら、俺も話す」
凪生は、明るい声色で秘密を話してくれた。
「前髪の下、火傷痕あんだよね」
「そうなんだ……」
オレたちは、全然違うのに少し似ている気がする。不思議だ。
それから。一室借りて、就寝した。
「夜ー!」
翌朝。スパーンと、襖が開けられた。
「朝から元気だねー」
「おはよう」
「おはよう……」
約束通り、ふたりで朝食を作る。
上手く玉子焼きが作れた。凪生も上手く出来たみたい。
「よし!」
「……じゃあ、交換して食べる?」
「うん。やったー!」
ふたりで朝食を摂る。
「夜の美味い、美味い」
「凪生のも美味しいよ」
何を話そう?
「凪生の好きな料理は?」
「フカヒレスープ」
「鮫だから?」
「それな! あと美味い! 夜は?」
「ハンバーガーかな」
あ、マズい。凪生の食育スイッチが入ってしまったらしい。
「体に悪いものって美味しいんだよ」と、オレはゴニョゴニョ言った。
「何か、ジャンクフード以外で食べたいものは?」
「じゃあ、ハンバーグとか?」
「おっ。じゃあ昼に食べようぜ」
「うん」
食事の後。居間のテレビ辺りを見ていると、映画のDVDを複数枚見付けた。
「夜~?」
「このDVD、凪生の?」
「ああ、そうだな。あとは、同居人だった奴のもある」
「どんな映画が好きなの?」
「サメ映画」
「ベストサメ映画、なに?」
「ジョーズ」
「王道だね」
ジョーズは、一作目だけ見ておけばいい。実は、ジョーズを冠しているけど、全然関係ないやつだったりする。
「オレは、ファンドム・オブ・パラダイスが好き」
「ああ! アレか!」
凪生は、ジェーン・ドウの解剖とかミーガンとかも好きみたいだった。
「ホラー映画のシュミ合う気がする」
オレは、少し笑う。
昼食は、凪生が作ってくれた。
「綺麗に出来た!」
「和風おろしハンバーグ美味しい」
凪生って凄いなー。
「次は何食べたい? ジャンクフードはなしな?」
悩む。オレって、あんまり食事に興味ない人間だったんだ。
「あ、唐揚げかな?」
「分かった。唐揚げな!」
また、家の中を見ている。
物置にて、キーボードを発見。あまり動かした感じがしない。
電池がない?
それと、灰色の腕? を見付けた。
ホラー雑貨じゃ、ないのかな。
日が暮れていく。
凪生に教わりながら、唐揚げを作った。凪生は、満足そうにしている。
「いただきます」
「美味い!」
「うん。美味しいね」
こういう時、普通は何を話すんだろう?
「凪生って、知られたくないことある?」
「ねぇよ?」
「離れに秘密とかないの?」
「大家さんの荷物がぶち込んであるだけだよ」
「そう」
大家さんについて少し聞いた。歳かさの人らしい。
「好きな本ってある?」
「自分の小説の、初めて出したやつ」
「ふむふむ」
オレも、最初に作った曲は好きだ。それは、“夜の歌”という。
自室に戻ってから、作詞にチャレンジしてみたけど、失敗した。
うーん。もっと凪生のこと知った方がいいかも。
翌日の朝。昨日の残りの唐揚げをかける。
「ポッカレモン、ひとつ唐揚げにかけてみようかな」
凪生に倣ってかけてみると。
「美味しい……!」
「美味いだろ~」
なんか、ここに来てから色んなことしてるな。
また屋敷を探索した。
お昼。
凪生は、チャーハン作ってくれた。
「凪生、オレが来てから楽しい?」
「ひとりでいるより、ずっと楽しい」
「そう。なら、いいんだけど」
チャーハンを咀嚼し、呑み込む。
「そういえばさ、凪生って、好きな音楽あるの?」
「あー。アレだ、白鳥の……よく眠れんだよ」
「白鳥の湖? クラシック聴きながら寝てるってこと?」
じゃあ、よく眠れそうなバラードを作ろうかな。
「あ、凪生の書いた本借りていい?」
「部屋にあるから、勝手に取っていいよ」
許可をもらって借りた小説は、山の話だった。
そういえば、この辺には人食い鬼の話があったような。
よし。もう一度、作詞してみよう。
「うん。出来たな」
新曲が完成した。
「凪生、単三電池2本ある?」
「持って来る」
電池を交換して、キーボードの音がちゃんと鳴るようになる。
「演奏してくれんの?」
「うーん。とりあえず、夕飯の後でいい?」
「おう!」
夕飯は、ミートスパゲッティとポトフ的なものだった。
「いただきます」
お店みたいな味がする。
「凄い美味しいね」
凪生は、得意気に笑った。
「凪生って鮫好きでしょ?」
「好き!」
「海の方に住もうとは思わなかったの?」
「ここが一番好き」
そうなんだ。そういうもんか。
「鮫と鬼って、どっちが強いと思う?」
「陸なら鬼、海なら鮫じゃね?」
一理ある。
「夜はどう思う?」
「鮫が空飛べたら、鮫が勝つんじゃない?」
「シャークトルネード?」
「シャークネードね」
「それだ!」
「鮫が空飛んじゃダメだろ!」と凪生は騒いだ。
「そうだ。凪生の本、読んだよ」
「どうだった?」
「山の話だったね。オレにも分かる話でよかった」
そういえば。
「この山、人食い鬼の伝説? あるよね」
「おう、あるぞ。まあ、鬼じゃなくて、正体は人拐いだったみたいだけどな」
「じゃあ、凪生は人拐いだから、鬼だね」
オレは、凪生をじっと見つめた。
「俺が人食い鬼だったら、どうする?」
「どうもしないけど」
「夜なら、そう言うと思った!」
凪生は、続けてオレに質問する。
「怖い? 人食い鬼」
「全然知らない人だったら怖いけど、凪生のことなら少しは知ってるし、怖くないよ」
凪生は、「あはっ」と笑った。
「俺は、人間だよ。夜を食べたりしねぇよ」
「まあ、食べちゃったら話せないからね」
「うんうん」
食後。
少しの緊張と、高揚感。
息を深く吸い込む。
オレは、キーボードで節をつけて、ここで作った歌を唄う。
しっとりとしたバラードだ。
歌い終えると、凪生が拍手してくれる。
「すげぇ!」
「タイトルもつけたんだけど。“雨と鮫”っていうんだ」
「雨と鮫?」
「どっちも、凪生好きでしょ?」
凪生は、嬉しそうだ。よかった。
この歌は、たったひとりのためのものだから。
「じゃあ、俺は、夜の小説を書いてやろうか?」
「興味、ある」
新しい楽しみを胸に、眠りにつく。
起きると、「なんか怠い気がする」と少し心配そうな凪生に告げることになった。
朝食は、ご飯、味噌汁、酢の物。
ありがたい。
「もしかして、怠い時とかにもインスタントだけで済ませてたのか?」
「そんなことない、ですよ?」
「よ~る~」
「別に、ゼリー飲料だけで終わらせたりしてないし」
凪生は、また怒ってるみたいだ。
今日は、庭に出てみる。
池に気味の悪い魚がいた。
やっぱり、山って怖いところなんだな。
「夜! 昼!」と、凪生の声が響いた。
夜、昼。ちょっと面白い。
用意してくれたのは、たまご粥だった。
凪生は、優しいね。
まともな家族がいたら、こんな感じなのかな。
「夜、なに食べたい?」
「お餅入ったうどん、食べてみたい」
凪生は、笑顔で了承してくれた。
そのあと。オレは、とうとう、行くなと言われている離れに向かう。
そこにあったのは、死体と、灰。いや、死体が灰なのかな。
凪生って何者なんだろう?
そこを後にし、離れに繋がる扉の南京錠をかけ直す。
夕食は、リクエスト通りのうどんだった。
「凪生って記憶力いい?」
「ちっちゃい頃のことは覚えてねぇ」
「そう」
オレ、回りくどいことしてるな。
「例え話なんだけど、オレが凪生の前からいなくなるとするじゃん? それでも、ずっと覚えててくれる?」
「忘れねぇよ」
「うん。ありがとう」
あの歌は、凪生が覚えてないと死んじゃうんだ。
翌朝、ジャムを塗られた食パンを食べてから。
そっと、自室で小説を書いている凪生の後ろに行く。
だけど。
「夜?」
「あ、バレた」
音を立ててしまい、文机に向かっていた凪生が振り向いた。
「なんだよ、夜~」
「わっ!」
頭を撫でられる。
「なんか歳の離れた弟が出来たみたいだなぁ」
ああ、そっか。オレは、凪生のことを……。
「オレ、23歳」
「俺は、28だ」
「そんな離れてないじゃん」
「はははっ!」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。
夕飯は、シチュー。
「小説、楽しみにしてる」
「楽しみにしてて~」
「凪生の小説読んだら、帰る。かもしれない」
「そうか」と、感情の読めない声で凪生は言った。
次の日。
「小説出来たけど、読む?」
「読む」
受け取った原稿用紙を広げる。
鬼と、ひとりの人間が出会った話。
人は去り、鬼はまたひとりになる。
「凪生は、これどんな気持ちで書いたの?」
「別に? いつもの話みたいな感じ」
引き止めてよ。
「今度は、凪生がオレん家に来ればいいじゃん」
「俺、ここが好きだから」
「……あの、手伝いっての、するよ?」
「夜、離れ見たろ?」
「……見た」
「ああなるよ?」
「オレ、死ぬの?」
凪生が言うには、オレに“生け贄”を連れて来てほしいらしい。
「凪生。オレは、ここに残るよ」
「あはは! 夜なら、この家を気に入ってくれると思った!」
凪生は、不気味にも思えるほど楽しそうに笑った。
「これから、ずっと夜の好きなもの作ってあげる」
「うん……」
それならオレは、ずっと凪生のために歌ってあげる。
凪生は、オレの家族になってくれるよね?
凪生は、優しいから。
