災厄の恋シリーズ
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直哉くん、ゆるしてください。女の子じゃないって言い出せなかった私を、ゆるしてください。
「久し振り、直哉くん……」
初恋を粉々にされてから、一年が経つ。
それは、双方がそうなのだが、引き摺っているのは、自分だけのような気がしている。
「ナマエ君、また背ぇ伸びたなぁ」
「そ、そうかな?」
「自分、なんで女やないん? 綺麗やのに、もったいないなぁ?」
「…………あ、はは……」
困り笑いをするしかないナマエ。
「ずっと、女装しとったらええ」
「そうしたら、直哉くんは……」
「俺が?」
私の恋人になってくれる? と言おうとして、口をつぐんだ。気持ち悪いと思われるのは、もう嫌だった。
「ごめん、なんでもないよ」
「なんやの?」
「ほんとに、なんでもないから。私、そろそろ行くね。じゃあね、直哉くん」
「ほなな」
足早に、直哉から距離を取る。彼の顔を、まともに見ていられない。
初恋の死体を、私だけが大事に抱えている。
心が張り裂けそうだ。
私は、今でも直哉くんのお嫁さんになりたいよ。そんな本音は、言えるはずもなく。
ミョウジナマエは、女になりたい訳ではない。ただ、禪院直哉の「世界で一番好きな人」になりたかった。そういうものになりたくて、堪らなかった。
かつては、“そう”であったはずなのに。失われたものに、いつまでも固執してしまう。
かつて、ふたりの世界は輝いていた。ふたりの恋は、きらきらしていた。ふたりで時間を共有し、笑い合う。今となっては、夢のような時間。今は、失われた時間。
ナマエは、一筋の涙を流した。唇を噛み締めて、声を上げたいのを堪える。振り返って、直哉に駆け寄り、彼の背中に抱き付きたい気持ちを、殺す。
ナマエの胸中には、いつでも直哉への恋がある。それを、常に殺し続けることが、ナマエの現在の世界である。
とても、残酷な世界だった。
もう、京の禪院家へ行くのは、やめよう。ずっと東京にいよう。ナマエは、そう決めた。
◆◆◆
直哉が、次にナマエと再会した時、ふたりは20歳になっていた。彼は、女物の着物を身に付け、長い黒髪を結い上げ、唇に紅を差していた。そこには、一輪の花が立っている。“美しい女”だと思った。
過去のものにしてしまった、恋心が甦る。
「ナマエちゃん…………」
「こんにちは、直哉くん」
ナマエは、所作も美しい。
「今、時間ある? 少し散歩しない? ちょっと歩いたところに、桜が咲いてたんだよ」
「……ああ、ええで」
「やった!」
ナマエは、晴れやかな笑顔で、かつての“ナマエちゃん”のようで。直哉は、心臓が高鳴るのを感じた。
「行こう、直哉くん」
彼は、するりと直哉の手を掴む。手を繋ぐのは、いつ以来だろう?
きっと自分たちは、他人には、仲睦まじい男女に見えているはずだ。直哉の思う、普通の恋人同士みたいに。
ふたりで、桜を見た。手を繋いだまま。
「私、桜って好きだな。直哉くんは?」
「…………ナマエちゃんが好きや」
「え?」
「お嫁さんには出来ひんけど、恋人になってくれへん?」
「世界で一番、愛してくれる?」
「ああ、ナマエちゃんを愛してる。将来、嫁さんをもらっても、一番はナマエちゃんや」
「いいよ。私、直哉くんの恋人になる」
「好きや、ナマエちゃん…………」
「大好きだよ、直哉くん」
ふたりは抱き合い、口付けを交わした。直哉の唇に紅が付き、ナマエは、けらけらと笑う。
とても、美しい世界だった。
◆◆◆
それで駄目なら、この恋を諦めようと思っていた。
“美しい女”になる努力をして、それでも直哉が好いてくれなかったら、この恋を捨て去るつもりだった。
ミョウジナマエは、賭けに勝ったのである。
「久し振り、直哉くん……」
初恋を粉々にされてから、一年が経つ。
それは、双方がそうなのだが、引き摺っているのは、自分だけのような気がしている。
「ナマエ君、また背ぇ伸びたなぁ」
「そ、そうかな?」
「自分、なんで女やないん? 綺麗やのに、もったいないなぁ?」
「…………あ、はは……」
困り笑いをするしかないナマエ。
「ずっと、女装しとったらええ」
「そうしたら、直哉くんは……」
「俺が?」
私の恋人になってくれる? と言おうとして、口をつぐんだ。気持ち悪いと思われるのは、もう嫌だった。
「ごめん、なんでもないよ」
「なんやの?」
「ほんとに、なんでもないから。私、そろそろ行くね。じゃあね、直哉くん」
「ほなな」
足早に、直哉から距離を取る。彼の顔を、まともに見ていられない。
初恋の死体を、私だけが大事に抱えている。
心が張り裂けそうだ。
私は、今でも直哉くんのお嫁さんになりたいよ。そんな本音は、言えるはずもなく。
ミョウジナマエは、女になりたい訳ではない。ただ、禪院直哉の「世界で一番好きな人」になりたかった。そういうものになりたくて、堪らなかった。
かつては、“そう”であったはずなのに。失われたものに、いつまでも固執してしまう。
かつて、ふたりの世界は輝いていた。ふたりの恋は、きらきらしていた。ふたりで時間を共有し、笑い合う。今となっては、夢のような時間。今は、失われた時間。
ナマエは、一筋の涙を流した。唇を噛み締めて、声を上げたいのを堪える。振り返って、直哉に駆け寄り、彼の背中に抱き付きたい気持ちを、殺す。
ナマエの胸中には、いつでも直哉への恋がある。それを、常に殺し続けることが、ナマエの現在の世界である。
とても、残酷な世界だった。
もう、京の禪院家へ行くのは、やめよう。ずっと東京にいよう。ナマエは、そう決めた。
◆◆◆
直哉が、次にナマエと再会した時、ふたりは20歳になっていた。彼は、女物の着物を身に付け、長い黒髪を結い上げ、唇に紅を差していた。そこには、一輪の花が立っている。“美しい女”だと思った。
過去のものにしてしまった、恋心が甦る。
「ナマエちゃん…………」
「こんにちは、直哉くん」
ナマエは、所作も美しい。
「今、時間ある? 少し散歩しない? ちょっと歩いたところに、桜が咲いてたんだよ」
「……ああ、ええで」
「やった!」
ナマエは、晴れやかな笑顔で、かつての“ナマエちゃん”のようで。直哉は、心臓が高鳴るのを感じた。
「行こう、直哉くん」
彼は、するりと直哉の手を掴む。手を繋ぐのは、いつ以来だろう?
きっと自分たちは、他人には、仲睦まじい男女に見えているはずだ。直哉の思う、普通の恋人同士みたいに。
ふたりで、桜を見た。手を繋いだまま。
「私、桜って好きだな。直哉くんは?」
「…………ナマエちゃんが好きや」
「え?」
「お嫁さんには出来ひんけど、恋人になってくれへん?」
「世界で一番、愛してくれる?」
「ああ、ナマエちゃんを愛してる。将来、嫁さんをもらっても、一番はナマエちゃんや」
「いいよ。私、直哉くんの恋人になる」
「好きや、ナマエちゃん…………」
「大好きだよ、直哉くん」
ふたりは抱き合い、口付けを交わした。直哉の唇に紅が付き、ナマエは、けらけらと笑う。
とても、美しい世界だった。
◆◆◆
それで駄目なら、この恋を諦めようと思っていた。
“美しい女”になる努力をして、それでも直哉が好いてくれなかったら、この恋を捨て去るつもりだった。
ミョウジナマエは、賭けに勝ったのである。
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