災厄の恋シリーズ

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 禪院家の庭で、真っ赤な着物の少女が、手鞠唄を歌いながら、鞠をついていた。

「まるたけえびすに、おしおいけ、あねさんろっかく、たこにしき、しあやぶったかまつまんごじょう、せったちゃらちゃらうおのたな、ろくじょうひっちょうとおりすぎ、はっちょうこえればとうじみち、くじょうおうじでとどめさす」

 鈴の音のような、可憐な声。夜闇のような長い黒髪。色白の肌。宝石みたいな瞳。美しい、少女だった。
 夕映えの中に、少女と自分が、ふたりきり。それが、禪院直哉の原風景。初恋である。

「きみ、なまえは?」
ミョウジナマエ。あなたは?」
「禪院直哉。なあ、ナマエちゃん、おれのおよめさんにならへん?」
「…………なれないよ。わたし、ぶんけすじだし、じゅりょくなんてないもの」

 少女、ナマエは、鞠をぎゅっと抱えながら、唇を尖らせて言う。

「そんなん、おれが当主になったら、どうとでもしたるわ」
「ほんとに? じゃあ、なおやくんのおよめさんになろうかな。でもね、なおやくんは、きっと、わたしのことをキライになるよ」

 ナマエは、鞠を直哉に投げ渡し、いたいけな視線を寄越す。

「ならへんよ」
「そうかなぁ?」
ナマエちゃん、おれと遊ぼう」
「いいよ」

 少年と少女は、ふたりで日が暮れるまで遊んだ。それはそれは、穏やかな光景だった。
 くだらない大人の集まりなんか忘れて、つまらない権力闘争なんて忘れて、ただ純粋に子供らしく遊ぶのは、直哉にとって初めてのことである。
 直哉は、ナマエに恋をし、たまに禪院家で会えば、一緒に遊んだ。その度に、心臓はドキドキと脈を刻み、頬は熱くなった。
 ナマエの方も、次第に直哉を好きになり、ふたりは両想いに。ふたりは、幸せだった。そんな日々が、いつまでも続いていくと信じていた。
 ある年の始め、ふたりが13歳の頃のことである。親族の集まりで会ったナマエが、男装をしていて、直哉は目を丸くした。

ナマエちゃん? その格好、どないしたの? 男の子みたいやで」
「な、直哉くん。わ、私、その…………」
「え……?」

 声が、違う。あの、可憐な声じゃない。

「風邪でも引いたん? ナマエちゃん」
「直哉くん、違うの。私、男の子……なんだよ……」
「は?」

 裏切りだと思った。積み上げてきた、ふたりの思慕への、手酷い裏切り。直哉は、目を見開いて、ナマエを睨む。ナマエは俯き、小さくなるばかりで、口を開かない。
 ふたりで結婚式ごっこをしたこと。ままごとで夫婦になったこと。手を繋ぎ、共に笑い合ったこと。あの日々が、全てが、まやかしだった?
 しばらくして、直哉の中に、沸々と怒りが湧いてきた。

「はぁ~? キッショ。自分、男やのに俺の嫁になるとか抜かしてたん? オカマなん?」
「ごめんなさい……」
「口開かんといてくれる?」

 捨て台詞を吐き、そのまま居間から廊下へ出る。ミョウジナマエを、視界に入れたくなかった。

「はぁ~」

 壁に片手をつき、深々と溜め息を吐く。ギィ、と爪が壁を引っ掻いた。
 美しい初恋は、こうして汚泥に満ちたものへと変わり果て、直哉は、ナマエを呪う。
 赦せない。赦すものか。ミョウジナマエに呪いあれ。

◆◆◆

 ミョウジ家は、禪院家の分家筋であり、代々禪院家の当主に仕えてきた一族である。そして、ミョウジの男児は、声変わりまで、魔除けのために女装をさせるのが慣わしであった。
 私、どんどん男の子になっていくよ。直哉くん、私を嫌いにならないで。
 そんなナマエの願いも虚しく、直哉はナマエを嫌った。ナマエに恋をしたこと。男と将来を誓い合ったこと。口付けを交わしたこと。全てが呪わしい過去となって、禪院直哉を蝕んだ。
 そして、“男になった”ナマエと直哉の二度目の邂逅は、存外早く訪れた。

「“ナマエ君”やん」
「直哉くん……」
「俺の前に、その面見せんなや」
「ご、ごめんなさい。でも、私、今でも直哉くんのことが好きで…………はは、気持ち悪いよね。だけど、せめて、友達になれませんか……?」
「無理やな。オマエみたいな女の腐ったような男、誰が好き好んで仲良くするん? おらんやろな」
「直哉くん…………ごめん、忘れて……」
「言われんでも、忘れさしてもらうわ。キッショくて敵わんわ」

 散々な言われよう。勇気を出して告白し、それを目の前で破り捨てて、すがったのに。
 ミョウジナマエは、自らを呪う。どうして、女の子として生まれて来なかったのだろうか、と。
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