短編
※坂本真綾さんの「雨が降る」という曲を元ネタにできた文章です。
いつか、探していた景色があった。
どこともしれない、けれど、とてもあたたかい。そこには父さんや姉さん、お日さま園のみんながいて、みんな楽しそうに笑ってる。
ああそんな日がいつか来るのだなんて思っていたわけではないけれど、ずっとずっと、心の奥底に眠っていた。
あったかもしれない世界。けれどそれを選ぶことは決して許されない。
だって父さんがそう望むんだから。
そんな夢を今になって思い出したのはどうしてだっけ。そうだ、君に、円堂くんに出会ったからだ。
だって円堂くんは、俺の憧れたひだまりそのままだった。あたたかくて、優しくて、眩しくて、遠い。
俺は、そんなかつて夢見たひだまりに憧れて、知らず知らずに手を伸ばした。
なんのためらいもなく握り返された優しさに、その笑顔に、俺は吸い込まれてそのまま消えてしまいたくなった。
でも父さんが。
そう思ったら無理にでも手を振りほどくしかなかった。
君の悲しむ顔が頭の奥に焼きついて離れない。
俺はその時どんな顔をしていたかな?ちゃんと笑えていただろうか。
これでよかった、はずなんだ。だって俺は父さんのために生きてる。俺を生かしてくれた、俺に生きる道をくれた父さんに恩返ししなくちゃいけないんだから。
父さんのために。
……あれ、どうして。
父さんと、みんなと、楽しい未来を夢見ていたはずなのに。
それは誰のための夢だった?何のために強くなろうとしたんだっけ?
父さんのために。父さんの望みのために。
なら、どうしてこんなに苦しいんだろう。
君に会いたい。
君とまた手を繋ぎたい。
許されないとわかっているのに。どうしても。
父さんも、君も、両方とも手に入れる。そんな未来を。
夢を見るだけなら、許してくれないかな。
君なら、そんな世界に連れて行ってくれるんじゃないか、なんて。期待しても、いいのかな?
◇◆◇
「だって、信じるよりも疑う方がずっと簡単なことだから」
久遠監督が怪しいと、信用できないとみんなが言う中で、困った笑顔でそう言うヒロトに、俺は寂しさ以上に悲しさを感じた。
ヒロトはいつもそうだ。
明日また、すぐに会えるっていうのに、ヒロトの「おやすみ」はまるで永遠のさよならのように、やけに静かに響いた。
ヒロトは宇宙人ではなかったけれど、きっとこの世界に未だに“馴染んで”いない。
どこか他人事で、ふわふわとしている。地に足がついていない。
夜、グラウンドの片隅で一人星を見上げるヒロトを見つけた。その姿は帰るすべをなくした迷子の宇宙人のようで、俺は気づけば駆け出していた。
せめてヒロトが俺のことを待っていてくれればよかったのに、そんな素振りもなく俺がやってきて驚くヒロトを見て焦燥感に駆られた。なぜだか、俺の方が泣きたくなっていた。
ヒロトはきっと気づいていない。だから。
これは俺の押しつけで、ヒロトはこんなこと望まないのかもしれない。それでも。
俺はゆっくりとヒロトを抱きしめた。
この地に留めるように。
ふわふわ浮いて、宇宙に帰ってしまわないように。
この世界に馴染めない君に、一つ愛をわけてあげる。
◇◆◇
「……えん、どう、くん……?」
外でぼんやり星を見ていたら円堂くんが来た。
焦っているようで、どこか物悲しそうで。
どうして円堂くんがそんな顔をしているのかわからずに首を傾げたのもつかの間、ゆっくりと抱きしめられた。
円堂くんの意図がわからない。
普通ならわからなくちゃいけないんだろうな、ということはわかる。
「ヒロト」
俺の名前を呼ぶその声は優しくて、あたたかくて、涙腺を刺激された。……何で?
「え、円堂くん……?」
わけがわからなくて、解放を促してみてもびくともしない。意外としっかりと抱きとめられているようだ。その事実に、だんだん恥ずかしくなってきて、焦る。
混乱する頭で俺はただその名前を呼ぶことしかできない。でも、呼べば呼ぶほど深みにハマっていくみたいで、どんどん恥ずかしさが増してくる。どうして円堂くんは、こんなことを。
「……ヒロト」
「は、はい!」
改めて名前を呼ばれて、緊張から返事が震えた。何を言われるんだろう。
「ここにいて、いいんだぞ」
「……え……?」
「ここはもう、ヒロトの居場所だから。だから、もっと、こっちに来いよ」
何を言われているのか、一瞬わからなかった。
でも、それは確かに核心で、俺の心が見透かされているのだと気がついた。
「何を……そんなこと、わかってるよ」
「今ここは、ヒロトの世界だ。他の誰のものでもない。ヒロトにとってのこの世界は、ヒロトのものだ。だから、」
円堂くんは顔を上げると優しく微笑んでゆるりと俺の頬を撫でる。
「もっと、ヒロトはちゃんと、この世界にいたっていいんだよ」
円堂くんの言葉に知らずに涙が溢れてきた。
円堂くんにしがみついてボロボロと泣き出す俺の姿は傍から見たら小さなこどものように幼かっただろう。
許してくれた。誰かに許してほしかった。
この世界にいてもいいのだと。この時間をただの夢で終わらせないでと。
強く、強く。潰れるほどに抱きしめた。ただただこの苦しみを夜の闇に溶かしてしまうために。
落ちた雫が跳ねる姿はまるで流れ星のようで、つくづく俺は星に縁のあるこどもなのだと実感する。
今この瞬間、円堂くんの腕の中で、俺はただの小さなこどもになっていた。
この雨が晴れたら俺はどこに行けばいい?
きっとどこだって構わない。
だからそれは、君のそばでも、いいかな?
君を呼んだら、応えてくれますか。
ふんわり電波。
坂本真綾さんの「雨が降る」ってシングルCDに入ってるもう一曲「プラリネ」も幸せハッピーな円ヒロソングなんでよろしく!
>>2017.6.15
いつか、探していた景色があった。
どこともしれない、けれど、とてもあたたかい。そこには父さんや姉さん、お日さま園のみんながいて、みんな楽しそうに笑ってる。
ああそんな日がいつか来るのだなんて思っていたわけではないけれど、ずっとずっと、心の奥底に眠っていた。
あったかもしれない世界。けれどそれを選ぶことは決して許されない。
だって父さんがそう望むんだから。
そんな夢を今になって思い出したのはどうしてだっけ。そうだ、君に、円堂くんに出会ったからだ。
だって円堂くんは、俺の憧れたひだまりそのままだった。あたたかくて、優しくて、眩しくて、遠い。
俺は、そんなかつて夢見たひだまりに憧れて、知らず知らずに手を伸ばした。
なんのためらいもなく握り返された優しさに、その笑顔に、俺は吸い込まれてそのまま消えてしまいたくなった。
でも父さんが。
そう思ったら無理にでも手を振りほどくしかなかった。
君の悲しむ顔が頭の奥に焼きついて離れない。
俺はその時どんな顔をしていたかな?ちゃんと笑えていただろうか。
これでよかった、はずなんだ。だって俺は父さんのために生きてる。俺を生かしてくれた、俺に生きる道をくれた父さんに恩返ししなくちゃいけないんだから。
父さんのために。
……あれ、どうして。
父さんと、みんなと、楽しい未来を夢見ていたはずなのに。
それは誰のための夢だった?何のために強くなろうとしたんだっけ?
父さんのために。父さんの望みのために。
なら、どうしてこんなに苦しいんだろう。
君に会いたい。
君とまた手を繋ぎたい。
許されないとわかっているのに。どうしても。
父さんも、君も、両方とも手に入れる。そんな未来を。
夢を見るだけなら、許してくれないかな。
君なら、そんな世界に連れて行ってくれるんじゃないか、なんて。期待しても、いいのかな?
◇◆◇
「だって、信じるよりも疑う方がずっと簡単なことだから」
久遠監督が怪しいと、信用できないとみんなが言う中で、困った笑顔でそう言うヒロトに、俺は寂しさ以上に悲しさを感じた。
ヒロトはいつもそうだ。
明日また、すぐに会えるっていうのに、ヒロトの「おやすみ」はまるで永遠のさよならのように、やけに静かに響いた。
ヒロトは宇宙人ではなかったけれど、きっとこの世界に未だに“馴染んで”いない。
どこか他人事で、ふわふわとしている。地に足がついていない。
夜、グラウンドの片隅で一人星を見上げるヒロトを見つけた。その姿は帰るすべをなくした迷子の宇宙人のようで、俺は気づけば駆け出していた。
せめてヒロトが俺のことを待っていてくれればよかったのに、そんな素振りもなく俺がやってきて驚くヒロトを見て焦燥感に駆られた。なぜだか、俺の方が泣きたくなっていた。
ヒロトはきっと気づいていない。だから。
これは俺の押しつけで、ヒロトはこんなこと望まないのかもしれない。それでも。
俺はゆっくりとヒロトを抱きしめた。
この地に留めるように。
ふわふわ浮いて、宇宙に帰ってしまわないように。
この世界に馴染めない君に、一つ愛をわけてあげる。
◇◆◇
「……えん、どう、くん……?」
外でぼんやり星を見ていたら円堂くんが来た。
焦っているようで、どこか物悲しそうで。
どうして円堂くんがそんな顔をしているのかわからずに首を傾げたのもつかの間、ゆっくりと抱きしめられた。
円堂くんの意図がわからない。
普通ならわからなくちゃいけないんだろうな、ということはわかる。
「ヒロト」
俺の名前を呼ぶその声は優しくて、あたたかくて、涙腺を刺激された。……何で?
「え、円堂くん……?」
わけがわからなくて、解放を促してみてもびくともしない。意外としっかりと抱きとめられているようだ。その事実に、だんだん恥ずかしくなってきて、焦る。
混乱する頭で俺はただその名前を呼ぶことしかできない。でも、呼べば呼ぶほど深みにハマっていくみたいで、どんどん恥ずかしさが増してくる。どうして円堂くんは、こんなことを。
「……ヒロト」
「は、はい!」
改めて名前を呼ばれて、緊張から返事が震えた。何を言われるんだろう。
「ここにいて、いいんだぞ」
「……え……?」
「ここはもう、ヒロトの居場所だから。だから、もっと、こっちに来いよ」
何を言われているのか、一瞬わからなかった。
でも、それは確かに核心で、俺の心が見透かされているのだと気がついた。
「何を……そんなこと、わかってるよ」
「今ここは、ヒロトの世界だ。他の誰のものでもない。ヒロトにとってのこの世界は、ヒロトのものだ。だから、」
円堂くんは顔を上げると優しく微笑んでゆるりと俺の頬を撫でる。
「もっと、ヒロトはちゃんと、この世界にいたっていいんだよ」
円堂くんの言葉に知らずに涙が溢れてきた。
円堂くんにしがみついてボロボロと泣き出す俺の姿は傍から見たら小さなこどものように幼かっただろう。
許してくれた。誰かに許してほしかった。
この世界にいてもいいのだと。この時間をただの夢で終わらせないでと。
強く、強く。潰れるほどに抱きしめた。ただただこの苦しみを夜の闇に溶かしてしまうために。
落ちた雫が跳ねる姿はまるで流れ星のようで、つくづく俺は星に縁のあるこどもなのだと実感する。
今この瞬間、円堂くんの腕の中で、俺はただの小さなこどもになっていた。
この雨が晴れたら俺はどこに行けばいい?
きっとどこだって構わない。
だからそれは、君のそばでも、いいかな?
君を呼んだら、応えてくれますか。
ふんわり電波。
坂本真綾さんの「雨が降る」ってシングルCDに入ってるもう一曲「プラリネ」も幸せハッピーな円ヒロソングなんでよろしく!
>>2017.6.15
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