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短編

練習の合間の休憩時間、円堂くんと2人で過ごすことができた。なんという幸運だろう。
たくさん汗をかいた体を優しく風が撫でる。心地の良い穏やかな時間が過ぎていく。円堂くんとサッカーをしていられるだけで幸せなのに、さらにこんな風に他愛もない話をしていられるなんて、なんて幸せなんだろう。
穏やかで幸せな気持ちとは裏腹に、心はずっと落ち着かない。円堂くんといるといつもそうだ。幸せで、幸せなのに、こんな幸せなくなってしまえばいいと思ってしまう時がある。壊してしまいたい。もっと、違う形になりたい。この距離が遠い。君に触れていたい。触れてほしい。そんなことを考えてはどうにかなりそうだ。
きっと、そんな気持ちが爆発したんだろう。ふと、円堂くんの頬に触れた。触れてしまった。何をしているのか、と考える前に円堂くんの声がやけに響いて聞こえた。
「どうしたんだ?」
キョトンとした円堂くんは、特に怒っている様子はなかった。それにひとまず胸を撫で下ろす。そして頭をフル回転させて何か言い訳を考えてみる。
「……円堂くんのほっぺた、やわらかいね。一度触ってみたかったんだ」
「なんだと!気にしてるのに!」
「ふふ、ごめん。もう触らないから」
少し怒らせてしまったけれど、むくれた円堂くんもかわいい。
名残惜しいけれど円堂くんの心そのもののようにやわらかい頬からそっと離れる。
手のひらからあたたかい温もりが消え、冷たい風が通り抜ける。さっきまであんなに心地よかった風が、なんだか物寂しい空気に感じる。こんなんじゃ、ダメなのに。俺はとっさに微笑んだ。笑うのは、得意だ。どんな時でも笑顔を返せばたいていなんとかなるものだ。
円堂くんが手を引いて、今度は自分から頬に当てた。
「ヒロトの手は冷たいな」
「え、えんどうくん」
なんだこれ、恥ずかしい。
「……ごめん。俺が悪かった。だから離してくれないかな?」
「やだ」
「え……」
俺の手を握り込んで頬に当てながら目を閉じた円堂くんは、しばらくそのまま動かなかった。
そよそよと2人の間を風が流れていく、静かな時間。
遠くからみんなの声が聞こえる。木暮くんが怒られている。またイタズラでもしたのかな。そんな風に現実逃避していないと居心地が悪い。
悪い意味じゃない。ただ、その気持ちを自覚して、かつ相手に知られないようにしているこちらの身としてはどうにも落ち着かない。
と、そこでチラリと片目を開けた円堂くんと目が合った。俺は何も言葉に出せずに円堂くんの気まぐれが収まるのを待った。そうだ、こんな戯れ、気まぐれなんだ。
円堂くんは、何かを言おうと口を開けたが、すぐに閉じてそのまま微笑んだ。なんてまっすぐな瞳だろう。だから円堂くんの眼差しは好きなんだ。見つめられたら、目を離すことなんてできなかった。ドキドキする。触れてもいない自分の顔まで熱い。サッカーをした後だからじゃなく、円堂くんがそうさせていることは彼本人が知らなくても、俺自身が知っている。
しばらく見つめ合った俺達を遮ったのは、遠くから円堂くんを呼ぶ声だった。
「おーい、円堂ー!」
「……今行く!」
そっと頬から離された右手は、円堂くんが立ち上がっても未だに拘束を解かれなかった。「……?」
「ヒロト」
「うん?」
見上げると、俺の手を握ったまま呼ばれた方を見つめる円堂くんの姿が見えた。
「触りたいなら、触ってくれていいんだぞ。俺も、その方が、嬉しいから」
「え……?」
「だから、俺も……触っても、いいかな」
そう呟いて俺の手を離した円堂くんはそのまま風丸くんたちの方に駆けていった。最後の言葉は、空耳だろうか。
握られて、円堂くんの頬に触れて、熱くなりすぎた右手をそっと自分の頬に押しつけた。目を瞑ると、自分の手なのにまるで円堂くんに触れられているかのようで、ドキドキした。




両片思いな円ヒロです。言わないとわからない!


>>2017.01.04

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