短編
※パロ的なもの
※色々捏造設定あり
「時間転移?」
「はい。エイリア石の力を使えば理論上は可能なのですが、実験をしようにもマウスではいまいち状況が分からず……」
「それで人間で実験したいと」
「はい。どこかに良い人材はいないものかと」
「……それなら、オレがやろうか」
「は!?何を仰っているのですかグラン様!貴方はこんなことよりもジェネシス計画というもっと重大な役目が!」
「行ってみたいところがあるんだ」
吉良ヒロトの、ところに。
「グラン様。さすがに空間転移を同時に行うというのは……」
「空間転移自体はすでに成功しているんだ。何の問題もないだろう」
「せめて同じ場所にしてください!」
「それじゃあ意味がないだろう」
そう、オレは吉良ヒロトを生かしたいんだ。父さんのために。
「始めてくれ」
「……わかりました」
何も心配することはない。あの人はどうせオレなんて見ていない。見ているのは、そう。自分の息子の吉良ヒロトだけ。
何かの形でオレがあの人の役に立てるのなら、それほど嬉しいことはない。
遠くで大きなアラート音を聞きながらそっと目を閉じる。
もしも、過去を変えられたなら、喜んでくれるだろうか。
もしも、吉良ヒロトが生きていたなら、喜んでくれるだろうか。
「グラン様!実験は中止です。危険な数値を示したため……グラン様?」
研究員が扉を開ける。
そこには、誰もいなかった。
◇◆◇
いた。
赤い髪。快活そうな顔立ち。確かにあれは吉良ヒロトだ。
何度も写真で見たから間違いない。どうやら実験は成功したようだ。
後は、そう。例の事件からかばうだけ。
死因が何でも関係ない。今のオレならそこらの不良に負けるわけがない。
そうしている間に、吉良ヒロトに車が迫った。
なんだ。死因は事故死か。どうやら喧嘩に巻き込まれたわけでもカツアゲにあったわけでもないらしい。
そんなことはどうでもいい。オレはかばうために前に出る。
これで、オレは、何もかもを捨てられる。
もう、疲れたんだ。オレを見ない父さんと、キラキラ眩しい円堂くんと。何が正しいのかなんて、もうオレにはわからないから。
「危ない!」
聞き覚えのない声が、だけどもどこか懐かしい声が、響いた。
体に、衝撃。
それは想定よりも軽いものだった。そして、前からでもない。後ろからだ。
後ろを振り向けば、この世で最も美しい微笑みを見た。
生きろとでも言われているかのようだった。
「あ……」
瞬間。その姿が消えた。
目の前にあるのは突っ込んできた大きな車だ。
どうやらまだ子供が遊び半分で乗りこなそうとしたものらしい。運転席から降りてきて何かを言い合う少年達を見た。
オレはその場にへたり込む。
オレが、殺した。
きっとオレがいなくても死んでいただろうけど、それでも今のオレにはオレが殺したのだと、そうだとしか思えなかった。オレをかばわなければ、吉良ヒロトは、父さんの息子は。父さんの大切な人を、オレが。
その時、後ろから殴られた。
油断していたオレは、そのまま気を失った。
「目が覚めたか!ヒロト!」
気がつくと、オレはベッドに寝かされていた。
何がどうなったんだろう。
そうか。オレは元の時間に帰ってきたのか。
起き上がろうとすると、その男性に止められた。
「まだ起きない方がいいだろ。今先生呼んでくるから待ってろ」
先生って誰だろう。それよりも今出ていった人は誰だろう。研究員にあんな人いたかな。あんな大きな、あたたかそうな人。
しばらくすると、お医者さんらしき人が現れて、オレを診察していく。実験後の検査だろうか。
特に体調に変化はない。そのことをその医者も確認したらしい。怪我も軽度で済んだようだ。
「じゃあ、帰ろうか」
「……?どこに?」
オレの手を引く男性に、戸惑った。さっきから親しげなこの人は誰なんだろう。
「どこって、俺の家に決まってるだろう。色々あって疲れただろうけど、母さんがヒロトの好物を作って待ってるよ」
「家って?」
「どうしたんだヒロト。今は俺の家にホームステイしてるんだろ。頭殴られてそこまで忘れちまったか?」
「ホーム、ステイ……」
その言葉に、まさかと思った。オレはホームステイなんてしたことがない。
「オレは、吉良ヒロト、ですか?」
何の勘違いか、オレは今吉良ヒロトに間違えられているらしい。
本物のヒロトはどうなったんだろう。やっぱり死んでしまったのだろうか。たぶん、そうだ。オレは結局、吉良ヒロトを救えなかったんだ。それどころか、守られて。父さんに合わせる顔がない。
それから数日、オレは記憶喪失として扱われていた。
本当は本人じゃないんだけれど。
それにしても、おかしい。
指定した時間が経てば自然と元の時間に帰るはずだ。それなのに何日経っても戻る気配がなかった。
まさか、オレはこのまま、本当に吉良ヒロトとして暮らすことになるんだろうか。
「ヒロト!ご家族が到着されたぞ!」
「!」
「ヒロト!」
名前を呼ばれて抱きしめられた。
オレは知っている。この暖かさを。
「とう、さん」
「!私のことがわかるのですか!」
「兄さん!わたしのことは?わかる?」
「え、兄さん?」
そこにいたのは少し幼い姉さんだった。
そうか。姉さんにとっては吉良ヒロトは兄さんなんだ。
「わからないのね……」
「あ、えっと」
「かまいません。何であっても、命があるだけ幸せなことです」
「そうね!」
オレはそのまま日本に帰ることになった。
数日の間、吉良ヒロトは現れなかった。
やっぱりオレがヒロトになることは、覆らないんだろうか。
オレはこのまま、吉良ヒロトとして生きるんだろうか。
戻る気配も手がかりもないまま、数ヶ月が過ぎた。
オレは吉良ヒロトとして生きる覚悟を決めつつあった。
だとしたら、オレには会わなければならない人がいる。
それは、オレ自身だ。
見覚えのある道に入った。
前に来た時にも薄々気づいていたが、この場所はこんなにも覚えのある場所だったのか。
歩いていくと、小さな公園に出た。そこに、一人で遊ぶ子供が目に入った。子供の頃の、オレだった。
何も言えず、声もかけられず、しばらく呆然と眺めていると、その子供と目が合った。瞬間。
「この子に何か用ですか」
覚えのある声が聞こえた。振り返ると、そこには、確かに覚えのある女性の姿があった。
知っている。オレはこの人を知っている。
「あ、っと、一人でいたから、迷子かと、思いまして」
「大丈夫です。私がいますから」
「……はい」
その人は母親だった。オレの、母親だった人だ。
「それでは」
「あのっ……!」
立ち去ろうとする親子を慌てて呼び止めた。
「大好き、ですから!その子は、貴女のこと」
「はあ……?」
何を言っているんだ、オレは。
何か弁解しないとと考えるオレに、手を繋がれた小さなオレは微笑んだ。
「またね」
手を振る姿に、オレも手を振って返すしかなかった。
本当はもう会うことなんてない方がいい。
だってここは、オレの生まれた町は、円堂くんのいる稲妻町なんだから。
それから10年が経った。オレは未来に戻れないまま、同じ時間に帰って来た。
とは言ってもこの場所に研究所はない。吉良ヒロトが生きていることになっていることで、エイリア学園も作られなかったからだ。何故かエイリア石も落ちて来なかったことも関係していると思う。
代わりに、お日さま園は作るように父さんに進言した。だから今でも吉良邸はいつも賑やかだ。
基山ヒロトはやっぱり基山ヒロトになっていた。お日さま園に来て、オレに似ているからという理由で基山ヒロトになった。本人も気に入っているらしい。
ただ、雷門中に通うようには言いくるめておいた。基山ヒロトはサッカーが好きだけど、円堂くんには出会っておいた方がいい。
一方で24歳になったオレは父さんの会社を継ぐべく、父さんの秘書として仕事をしていた。父さんはプロのサッカー選手になってもいいと言ってくれたけど、オレは断った。オレが会社を継ぐことで、ヒロトへの償いになればいいと思ったから。
吉良ヒロトとして生きることに戸惑わなかったわけじゃない。ただ、元々ヒロトになりたかったオレだから、この道を選べたのかもしれない。
吉良ヒロトが生きることを願ってこの時間に来たはずなのに、オレが吉良ヒロトになってしまった。それでもオレはやっぱり父さんの息子でいたいと思った。
わがままかもしれないけれど、吉良ヒロトは許してくれないかもしれないけれど、オレはやっぱり、ヒロトになりたい。
それが、オレの答えだ。
勢いしかない。
この話は基山ヒロト少年と円堂くんサイドも書きたいね。円ヒロです。
しかしこのままだと大人ヒロトさんも報われないのでもう円堂くんハーレムしようぜ。両手に花しようぜ。
そんな感じ。
>>2015.8.25
※色々捏造設定あり
「時間転移?」
「はい。エイリア石の力を使えば理論上は可能なのですが、実験をしようにもマウスではいまいち状況が分からず……」
「それで人間で実験したいと」
「はい。どこかに良い人材はいないものかと」
「……それなら、オレがやろうか」
「は!?何を仰っているのですかグラン様!貴方はこんなことよりもジェネシス計画というもっと重大な役目が!」
「行ってみたいところがあるんだ」
吉良ヒロトの、ところに。
「グラン様。さすがに空間転移を同時に行うというのは……」
「空間転移自体はすでに成功しているんだ。何の問題もないだろう」
「せめて同じ場所にしてください!」
「それじゃあ意味がないだろう」
そう、オレは吉良ヒロトを生かしたいんだ。父さんのために。
「始めてくれ」
「……わかりました」
何も心配することはない。あの人はどうせオレなんて見ていない。見ているのは、そう。自分の息子の吉良ヒロトだけ。
何かの形でオレがあの人の役に立てるのなら、それほど嬉しいことはない。
遠くで大きなアラート音を聞きながらそっと目を閉じる。
もしも、過去を変えられたなら、喜んでくれるだろうか。
もしも、吉良ヒロトが生きていたなら、喜んでくれるだろうか。
「グラン様!実験は中止です。危険な数値を示したため……グラン様?」
研究員が扉を開ける。
そこには、誰もいなかった。
◇◆◇
いた。
赤い髪。快活そうな顔立ち。確かにあれは吉良ヒロトだ。
何度も写真で見たから間違いない。どうやら実験は成功したようだ。
後は、そう。例の事件からかばうだけ。
死因が何でも関係ない。今のオレならそこらの不良に負けるわけがない。
そうしている間に、吉良ヒロトに車が迫った。
なんだ。死因は事故死か。どうやら喧嘩に巻き込まれたわけでもカツアゲにあったわけでもないらしい。
そんなことはどうでもいい。オレはかばうために前に出る。
これで、オレは、何もかもを捨てられる。
もう、疲れたんだ。オレを見ない父さんと、キラキラ眩しい円堂くんと。何が正しいのかなんて、もうオレにはわからないから。
「危ない!」
聞き覚えのない声が、だけどもどこか懐かしい声が、響いた。
体に、衝撃。
それは想定よりも軽いものだった。そして、前からでもない。後ろからだ。
後ろを振り向けば、この世で最も美しい微笑みを見た。
生きろとでも言われているかのようだった。
「あ……」
瞬間。その姿が消えた。
目の前にあるのは突っ込んできた大きな車だ。
どうやらまだ子供が遊び半分で乗りこなそうとしたものらしい。運転席から降りてきて何かを言い合う少年達を見た。
オレはその場にへたり込む。
オレが、殺した。
きっとオレがいなくても死んでいただろうけど、それでも今のオレにはオレが殺したのだと、そうだとしか思えなかった。オレをかばわなければ、吉良ヒロトは、父さんの息子は。父さんの大切な人を、オレが。
その時、後ろから殴られた。
油断していたオレは、そのまま気を失った。
「目が覚めたか!ヒロト!」
気がつくと、オレはベッドに寝かされていた。
何がどうなったんだろう。
そうか。オレは元の時間に帰ってきたのか。
起き上がろうとすると、その男性に止められた。
「まだ起きない方がいいだろ。今先生呼んでくるから待ってろ」
先生って誰だろう。それよりも今出ていった人は誰だろう。研究員にあんな人いたかな。あんな大きな、あたたかそうな人。
しばらくすると、お医者さんらしき人が現れて、オレを診察していく。実験後の検査だろうか。
特に体調に変化はない。そのことをその医者も確認したらしい。怪我も軽度で済んだようだ。
「じゃあ、帰ろうか」
「……?どこに?」
オレの手を引く男性に、戸惑った。さっきから親しげなこの人は誰なんだろう。
「どこって、俺の家に決まってるだろう。色々あって疲れただろうけど、母さんがヒロトの好物を作って待ってるよ」
「家って?」
「どうしたんだヒロト。今は俺の家にホームステイしてるんだろ。頭殴られてそこまで忘れちまったか?」
「ホーム、ステイ……」
その言葉に、まさかと思った。オレはホームステイなんてしたことがない。
「オレは、吉良ヒロト、ですか?」
何の勘違いか、オレは今吉良ヒロトに間違えられているらしい。
本物のヒロトはどうなったんだろう。やっぱり死んでしまったのだろうか。たぶん、そうだ。オレは結局、吉良ヒロトを救えなかったんだ。それどころか、守られて。父さんに合わせる顔がない。
それから数日、オレは記憶喪失として扱われていた。
本当は本人じゃないんだけれど。
それにしても、おかしい。
指定した時間が経てば自然と元の時間に帰るはずだ。それなのに何日経っても戻る気配がなかった。
まさか、オレはこのまま、本当に吉良ヒロトとして暮らすことになるんだろうか。
「ヒロト!ご家族が到着されたぞ!」
「!」
「ヒロト!」
名前を呼ばれて抱きしめられた。
オレは知っている。この暖かさを。
「とう、さん」
「!私のことがわかるのですか!」
「兄さん!わたしのことは?わかる?」
「え、兄さん?」
そこにいたのは少し幼い姉さんだった。
そうか。姉さんにとっては吉良ヒロトは兄さんなんだ。
「わからないのね……」
「あ、えっと」
「かまいません。何であっても、命があるだけ幸せなことです」
「そうね!」
オレはそのまま日本に帰ることになった。
数日の間、吉良ヒロトは現れなかった。
やっぱりオレがヒロトになることは、覆らないんだろうか。
オレはこのまま、吉良ヒロトとして生きるんだろうか。
戻る気配も手がかりもないまま、数ヶ月が過ぎた。
オレは吉良ヒロトとして生きる覚悟を決めつつあった。
だとしたら、オレには会わなければならない人がいる。
それは、オレ自身だ。
見覚えのある道に入った。
前に来た時にも薄々気づいていたが、この場所はこんなにも覚えのある場所だったのか。
歩いていくと、小さな公園に出た。そこに、一人で遊ぶ子供が目に入った。子供の頃の、オレだった。
何も言えず、声もかけられず、しばらく呆然と眺めていると、その子供と目が合った。瞬間。
「この子に何か用ですか」
覚えのある声が聞こえた。振り返ると、そこには、確かに覚えのある女性の姿があった。
知っている。オレはこの人を知っている。
「あ、っと、一人でいたから、迷子かと、思いまして」
「大丈夫です。私がいますから」
「……はい」
その人は母親だった。オレの、母親だった人だ。
「それでは」
「あのっ……!」
立ち去ろうとする親子を慌てて呼び止めた。
「大好き、ですから!その子は、貴女のこと」
「はあ……?」
何を言っているんだ、オレは。
何か弁解しないとと考えるオレに、手を繋がれた小さなオレは微笑んだ。
「またね」
手を振る姿に、オレも手を振って返すしかなかった。
本当はもう会うことなんてない方がいい。
だってここは、オレの生まれた町は、円堂くんのいる稲妻町なんだから。
それから10年が経った。オレは未来に戻れないまま、同じ時間に帰って来た。
とは言ってもこの場所に研究所はない。吉良ヒロトが生きていることになっていることで、エイリア学園も作られなかったからだ。何故かエイリア石も落ちて来なかったことも関係していると思う。
代わりに、お日さま園は作るように父さんに進言した。だから今でも吉良邸はいつも賑やかだ。
基山ヒロトはやっぱり基山ヒロトになっていた。お日さま園に来て、オレに似ているからという理由で基山ヒロトになった。本人も気に入っているらしい。
ただ、雷門中に通うようには言いくるめておいた。基山ヒロトはサッカーが好きだけど、円堂くんには出会っておいた方がいい。
一方で24歳になったオレは父さんの会社を継ぐべく、父さんの秘書として仕事をしていた。父さんはプロのサッカー選手になってもいいと言ってくれたけど、オレは断った。オレが会社を継ぐことで、ヒロトへの償いになればいいと思ったから。
吉良ヒロトとして生きることに戸惑わなかったわけじゃない。ただ、元々ヒロトになりたかったオレだから、この道を選べたのかもしれない。
吉良ヒロトが生きることを願ってこの時間に来たはずなのに、オレが吉良ヒロトになってしまった。それでもオレはやっぱり父さんの息子でいたいと思った。
わがままかもしれないけれど、吉良ヒロトは許してくれないかもしれないけれど、オレはやっぱり、ヒロトになりたい。
それが、オレの答えだ。
勢いしかない。
この話は基山ヒロト少年と円堂くんサイドも書きたいね。円ヒロです。
しかしこのままだと大人ヒロトさんも報われないのでもう円堂くんハーレムしようぜ。両手に花しようぜ。
そんな感じ。
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