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君はオレンジ

※ヒロトの目が見えてない
※一応友情の範囲内のつもりだったけどそれとなく円→←ヒロっぽい
※あまりハッピーエンドじゃない




「どうだ、ヒロト」
「ここは……?」
「この鉄塔広場は俺の一番お気に入りの場所でさ。色んな友達にも教えてるんだけど、いつかヒロトも連れて来たいなって思ってたんだよ」

それこそ、ヒロトがエイリア学園として、宇宙人として俺達と戦っていた頃から。
……正直、叶わないと思ってた。
ヒロトに侵略を止めさせたところで、すぐに元いた星に帰るものだと思っていたから。
でもヒロトは人間で、また会えて。しかもそれが稲妻町なんだから、もうこれは連れて来るしかないと思った。

ヒロトはふらりと手すりに掴まってそこから見える景色を見た。
ちょうど夕暮れだから、夕日が差して一番綺麗な時間だ。
それを呆けたように見るヒロトがいつもと違ってただの子供みたいで、何だか可笑しかった。

「綺麗だろ?」
「うん。キラキラしてる。何だか夢の世界に迷い込んだみたいだ」
「大袈裟だな……」
言い回しが少しロマンチックで、ちょっとくすぐったかった。
けど、喜んでもらえたならよかった。
嬉しそうにしているヒロトに満足した俺は、改めてヒロトが眺めているその見慣れた景色を見た。

だから、ヒロトが少し寂しそうな顔をしたことには、気付かなかった。



 ◇◆◇


「姉さん?どうしたの珍しい」
俺に電話がかかって来ていると聞いて出てみると、声の主は瞳子姉さんだった。
今はFFIの真っ最中、どころか決勝戦を間近に控えた大事な時期だ。
まさか今さらネオジャパンとして再戦を挑んでくるなんて考えにくいけれど……姉さんならやりかねないかもしれない。

「……要件は?」
恐る恐る聞いてみると、予想と全く違う返答が返ってきた。


『あなたには、手術を受けてもらいます』


「……え?」


『監督にはもう話を通しました。明日にはそちらを出発してもらいます。今日中に荷造りを済ませて……』
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

あまりにも突然すぎる話に、頭がついていかない。
手術?何の――とは思わないけど。でも、いくらなんでも。

「急すぎるでしょう!?」
『ずっと前から話していたでしょう?本当はFFIが開催される前がよかったのだけれど、先生の都合がつかなくて。それに、まさかあなたがその大会に出場することになるなんて思ってもみなかったのよ。これ以上先のばしにして先生にご迷惑をかけられないし……』
「……俺の都合は?」
『あなただって手術に同意したじゃない』
「それはFFIの前の話でしょう!?」

本当は、姉さんの言っていることはわかる。
わかるけど、でも、わかりたくない。

「……せめてFFIが終わるまで待ってよ……」
『……ヒロト』

こんなことを言っても姉さんを困らせるだけだってわかってる。
そもそも、元々手術を先のばしにしていたのは俺なんだ。
そして今回、手術を受けたいと言ったのも、俺だ。


ジェネシス計画が終わって、俺は思った。
俺の世界はこれから変わっていくんだと。
その世界を、俺はこの目でちゃんと見ていきたいと。
そして、俺の世界を変えるきっかけになった円堂君の見ている世界を俺も見てみたいと。

そう思ったんだ。


――円堂君に鉄塔広場に連れて行ってもらった時、俺はただ悔しかった。
せっかく円堂君が見ている世界を俺に教えてくれたのに、俺には太陽のただ綺麗で眩しい光しか見えなかった。
今の俺は、どんなに近くに居ても円堂君が見ている世界を見ることが出来ない。
そのことを思い知った。

だから。



「……わかったよ、姉さん」
『ヒロト……本当にいいの?』
「うん」


俺は、やっぱりちゃんと、見てみたい。

円堂君が好きだと言っていた、あの景色を。



 ◇◆◇


「今日の練習はここまで!」

監督の声を聞いて、顔を上げた。

――ああ、もう終わりなんだ。
俺にとって最後の練習が。

改めてそう認識すると、疲れを訴えながら引き上げるみんなを見てもそのまま後を追う気にはなれなかった。


「どうしたんだ?ヒロト」
ボーッと立ってみんなを見送っていたら、円堂君に不思議そうに声をかけられた。

「あー、えっと……もうちょっと練習していこうかなって」
そう思っていたことも一応嘘じゃない。
俺はただ、イナズマジャパンの一員として過ごした日々が名残惜しいんだ。


俺の言葉を聞いた円堂君は、持っていたボールを俺に差し出して嬉しそうに笑った。

「じゃあ、付き合うぜ!」

普段なら「悪いよ」なんて言って断っていただろうけど……。

「うん!」

今日くらいは、少し贅沢をしても許される気がする!



 ◇◆◇


普通の練習の後なのに無理してたくさんシュートを打ったせいで仕舞いにはグラウンドに倒れてしまうほどだったけれど、それをずっと受け続けてくれた円堂君も似たようなものだった。

1対1のシュート勝負で、その勝率は半々、実力は五分五分。

グラウンドに転がりながらお互い力尽きたのを確認し合うと、何だかよくわからない笑いが込み上げてきた。

ああ。今すごく、楽しいんだな。



2人でひとしきり笑いあってから、まだ練習すると言った時に冬花さんが残しておいてくれたドリンクを飲んでベンチに座った。

気がつくと夕暮れで、円堂君に鉄塔広場に連れて行ってもらった時のように、太陽が眩しくて綺麗なオレンジ色をしていた。
それを見て俺は、常々思っていたことを口にした。
伝えたく、なったから。


「円堂君って、色に例えるとオレンジだよね」

「は!?」

隣に座ってドリンクを飲んでいた円堂君は唐突すぎる俺の言葉に面白いように驚いて勢いよく振り向いた。
その様子に思わず笑ってしまう。
それを見た円堂君は恥ずかしさを紛らわせようと俺の言葉に応えた。

「あー、いつも付けてるこのバンダナがオレンジ色だからか?」
「うーん。それでもいいけど」

不思議そうにしている円堂君を見つめて、その向こうの太陽を感じ取る。

……やっぱり、似ている。


「――俺にとって、円堂君は太陽なんだよ。眩しいくらいに輝いていて、それがとても綺麗で……勇気を貰えるんだ」

「へ……」


そして、愛しくて堪らない。
その姿をただ見ているだけで心が満たされる。
そんな存在なんだ。


「……ヒロトって時々、かなり恥ずかしいこと言うよな」
「そうかな?」
「そうだよ!」


でもそれは、本当に本心で。

円堂君に出会えて良かった。

心から、そう思うんだ。

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