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短編

※若干円←夏もあるよ



私は今、雷門の屋敷でティータイムを過ごしている。
それ自体はいつものことで、私にとって一日のうち一番心安らげる時間だった。
けれど今はいつもと違って安らぐどころか緊張している。
だって、目の前に彼女がいるんですもの。


「……初めてなの。誰かを家に呼んだのは」
「嬉しい。私が夏未さんの初めてになれるなんて!」
彼女は、冬花さんは嬉しそうに手を叩いた。
冬花さんの笑顔にどきりとするけれど、それよりも今の言葉は少し聞き捨てならない。
「ちょ、ちょっと!その言い方はやめなさい!」
「でも、お友達には秋さんがいるでしょう?私が夏未さんにとっての初めてになれることなんて他にないもの」
「そ、そうかもしれないけれどね……」
本当に冬花さんは私を動揺させることが上手いんだから。
冬花さんの無邪気な笑顔が少し恨めしい。


笑うと本当に冬花さんはかわいらしい。いいえ、笑わなくたって冬花さんはかわいい。
きっと多くの男の子はこういう女の子を好きになるのだろうと思うくらいに彼女はかわいい。

それに比べて私は何なのかしら。
当たり前のように上から目線で口を開けば嫌味ばかり。
それが悪いと思ったのもつい最近、彼らサッカー部の仲間と認められてきた頃で。
けれど人の性格なんてそう簡単に変わるものでもない。ふとした時にそういう態度を取ってしまって後悔することも多く、もはや自分ではどうすることもできないと、開き直るのも一つの手なのかもしれないと思ったりもする。
素直になんてなれやしない。
自分でも本当にどうしようもない人間だと思う。

けれど冬花さんはこんな私のことを「好き」だと言う。
「夏未さんは優しい」と彼女が言うたびに「それは貴女の方でしょう」と返したくなる。
けれど彼女の優しい、愛しげな微笑みに結局何も言えなくなってしまう。

彼女と居るといつもペースを乱される。
振り回されるということもあるけれど、何より私自身が素直になることも嫌味を言うことも出来なくなってしまう。
冬花さんは本当に不思議な人。
いつもいつも、結局冬花さんのペースに飲み込まれている。
でもそれが悪いとはあまり思っていない。

紅茶を飲むついでにちらりと正面に座る冬花さんを見ればパチリと目が合って、彼女は微笑んだ。
対する私は見ていたことに気付かれた気恥ずかしさからカップを傾けて飲むふりをして視線を逸らした。
ああ、何をやっているのかしら、私。


やっぱり、私も冬花さんのことが好きなの?
いいえ、そんなはずはないわ。
だって私は円堂君が好きなのだから。
そんなわけ、ないじゃない。

「冬花さん、私は円堂君が好きなの」
突然声に出た言葉には、私自身も驚いた。
何を言っているの、私。
けれども冬花さんはすぐにふわりと優しく笑った。

「ええ、知ってるわ。だけど、それでも私は夏未さんが好きなの」
やっぱり私は彼女のこの笑顔が好きなのだと思う。
円堂君が好きと言っておきながらそんなことを思うだなんて、私は、本当にずるい。
きっと彼女だって傷ついていないはずはないだろうに。
私はただ優しい彼女を傷つけ続けることしかできないだなんて。

「……冬花さん、私……!」
「言わないで」
たまらずに、言おうと思った。
けれどその言葉は、届く前に当の彼女によって制止された。

「中途半端な気持ちの言葉は聞きたくないの。夏未さんは守くんが好きなんでしょう?今はそれでいいから」
「……冬花さん……」
ああ、なんて彼女は愛しいのかしら。
誠実で、真っ直ぐに優しい。
それを私は否定しきることもできないどっち付かずの中途半端な態度で返すだなんて、なんてひどい女なの。
私は確かに円堂君が好きなのに、そのはずなのに、彼女のことも捨て切れないだなんて。


「大丈夫。自信はあるの。わたしと貴女の出会いは運命よ。だってこんなに心惹かれているんだもの」
席を立った冬花さんはそっと私の頭を抱きしめる。
その腕のやさしいやわらかさに、私は息を呑む。
胸の鼓動が早くなって、顔に熱が集まって。
これが恋でなければ何なのだろう。

冬花さんは言葉を重ねる。
「大丈夫。わたしは待ってる。いつまでも、何年経っても、たとえ貴女やわたしが他の誰かを愛して結婚したとしても、わたし達がおばさんになって、おばあさんになっても、ずっと待ってる」
何とも私に優しい永遠を告げられて、私は思わず冬花さんの手を取った。
振り向けばすぐに触れられる距離に冬花さんの笑顔があって。
「……っ、冬花さ」
「ふふ。わたしずるいね。だってこんなこと言ったら夏未さんがわたしのこと気にしないわけないもの。夏未さんは優しいから」
「……優しくなんて、ないわ」
優しいのは、貴女の方じゃない。
それでも冬花さんはとても嬉しそうに、幸せそうに、愛しそうに、私に愛を囁くの。

「夏未さん。好き。好きよ。大好き。ずっと」

ああ、私はずるい。ここまで言われて何も言わないだなんて。
だって冬花さんがそれがいいって言うんだもの。
本当にいつも冬花さんのペースに呑まれっぱなし。
このままずっと冬花さんの腕の中に抱かれていたいとすら思っているのに。
あのね、冬花さん。私も貴女のことが好きなのよ。確かに好きなの。
それでも私は貴女にそれを伝えることができないの。貴女がそれを許してくれないの。
だからその日まで待っていて。必ず伝えに行くから。
だって私も伝えたいもの。冬花さんのことが好きだから。
私達が出会ったのは、惹かれ合えたのは運命よ。円堂君を介して出会ったの。
一目見たその時から、貴女のことが好きなのよ。
きっとずっと、いつまでも。


「だから貴女もわたしのことを、ずっと、ずうっと考えていてね」




なんというヤンデレエンド。

ふゆっぺに惑わされまくってる夏未さん。
夏未さん視点で書くとふゆっぺがすごくいい人みたいに見えるけどそれもふゆっぺの策略です。ふゆっぺマジ悪女。まぁ計算高いだけで悪いことはしてないけどね。言いくるめてるだけで嘘はついてないから。


>>2012.8.8

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