短編
※バレンタイン話
※多分高校生で、円堂とヒロトが同じ学校。ヒロトはきっと稲妻町付近に一人暮らし。
バレンタインデー。
この国では一般的に女性が好意を持った男性にチョコレートを贈り、愛の告白をする日として浸透している。
だけど俺は男だし、義理ならまだしも本命を男に渡すなんて、どう考えてもおかしい。
「というわけで義理チョコをみんなに配ってきたんだよ」
「ほう……で?それは何だ?」
「……チョコレート」
「配ってきたんじゃなかったのか?何故ここにそれがある?」
「……貰ったという選択肢は……」
「言い訳してる暇があったらとっとと渡してこい!!」
「うわあっ」
どんな言葉を返したところでどうせ玲名には本当のことなんてバレバレなんだよな。
家を締め出されてしまったからには出かける他に俺が出来ることは何もない。
というかここ俺の家なんだけどね?
君は俺にバレンタインのチョコレートをわざわざ届けに来てくれたんじゃなかったのかい?
そんなことを脳内でツッコミながらも俺はある場所に向かって歩き始めた。
◇◆◇
しまった。
「ヒロト!?」
「……や、やあ円堂くん」
直接なんて論外として、家に届けるのも誰かに見つかったらとためらって、かといってこの時間じゃ学校にも入れない。
円堂くんが必ず行く場所として考えた場所は鉄塔だった。
ここに置いておけば俺も渡した気になれるし、俺が用意したチョコレートだということも円堂くんには気付かれないだろうと思って、ちょうど良いとも思った。
俺からしてみれば、円堂くんが受け取っても受け取らなくてもどっちでも構わなかった。
そもそもこんなところに置いてある食べ物を食べるなんてことをした方が心配になる。俺が置くんだけど。
でも、その場所にまだ本人がいるとはさすがに想定外だった。
だって俺が家を出た頃にはすでに夜の8時を過ぎていた。
夕食を食べ終えて家でゆっくりくつろいでいるような時間じゃないか。
こんな時間まで特訓だなんて円堂くんは熱心だな~。君のサッカー愛には負けるよ。さすが!好きだよ!君のそういうところ!
……とは口が裂けても言えない。
「あ、座るか?」
「ああ……どうも」
円堂くんがさっきまで座っていたベンチに手招かれて、おとなしく隣に座ると、同じように円堂くんもベンチに座った。
……そういえば俺が来た時円堂くんはボンヤリとベンチに座ったまま、いつも特訓に使っているタイヤに触れる様子もなかった。何か考え込んでるようにも見えたし、新しい必殺技か何かのことを考えていたのかな。
やっぱり円堂くんはすごいな。
それに比べて俺は何をやってるんだろう。
義理だなんて言い訳したチョコレートひとつまともに渡せないなんて。
そっと円堂くんを見やると円堂くんは俺の手元をじっと見つめていた。
……手元……?
俺は、普通に手に持っていた紙袋の存在を思い出した。
まさかいるとは思ってなかった円堂くんがいたものだから、隠すことすら忘れていた。
「……それ」
「い、いや!これはっ……!」
今さら隠したところでもう遅い。
誤魔化す意味もないことを知っていたので、俺は諦めて渡すことにした。
「あげる」
「え」
「バレンタインのチョコレート。他のみんなには渡したんだけど、円堂くんには渡せなかったから」
「……渡せ、なかった……」
「うん」
“渡せなかった”なんて、ひどい言い訳だ。
渡すチャンスなんてたくさんあったのに。
ただ、渡すことから逃げ出していただけなのに。
「……よかった……」
「え?」
「食っていいか?」
「あ、どうぞ……」
小さく聞こえた言葉に首をかしげれば、返ってきたのはまぶしい笑顔だった。
ガサガサと包みを開ける円堂くんはどこか嬉しそうで、こんな風に喜んでくれるなら変なことを考え込まないで普通に渡しておけばよかったかもしれない。
美味しそうに食べる円堂くんを微笑ましく思いながら眺めていたら、その視線に気付いたのかこっちを見た円堂くんはチョコレートを一粒取って俺に突きつけた。
「食うか?」
「え、でもそれは円堂くんにあげた物だから……」
「まあいいから」
「……じゃあひとつ」
いわゆる「あーん」の状況で恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど、円堂くんの笑顔に根負けした俺は素直に口を小さく開いた。
「……何で目まで瞑るんだよ」
「え?…………んむっ」
呟かれた言葉がよく聞き取れなくて思わず目を開ければ、その瞬間に口の中にチョコレートを押し込まれた。
途端に広がった甘味と香りの根源は、口内で少し転がしただけであっという間に溶けてなくなってしまった。
「……甘い」
「な、美味いだろ?」
「うん」
そんなに高い物じゃなかったけどほどよい甘さで、一言で言えば美味しかった。
当然のことだけど味見して買ったわけじゃなかったから円堂くんに喜んでもらえて本当によかった。
「でも、ホントよかった~」
「え、何が?」
ちょうどタイミング良く考えていたことと全く同じ言葉を言われて、思わずドキリとした。
「だってヒロト、他のみんなにはチョコ配ってたんだろ?俺だけ貰えないのかなって思って」
「あ……ごめん……」
やっぱりバレてたんだ。
聞いてるかな、とは思ったんだけど、それは直接渡す勇気には繋がらなかった。
結局直接渡したんだけど。
だけど、その申し訳なさが思考の彼方にすっ飛ぶくらいに次の円堂くんの言葉は衝撃的だった。
「……俺だけ、貰えないから……俺、ヒロトに嫌われてんのかなって……思った」
「へ……」
予想外すぎるどころじゃない円堂くんの考えを、俺は全力で否定した。
「そんなのあり得ないよ!」
「そうか……?」
「そうだよ。むしろ――」
言いかけて、あわてて口をつぐんだ。
何を口走ろうとしているんだ俺は。
「……むしろ?」
「えっ!?…………う……」
けれど、俺の言葉が不自然に途切れたことを不思議に思ったのか円堂くんが先を促すかのように聞いてきた。
なんて言えばいいんだろう。
俺は誤魔化す言葉を探そうとして、気付いた。
こんな風に誤魔化してばかりの俺を、円堂くんはどう思うんだろう。
義理チョコにカモフラージュして渡した本命。
“嫌い”を否定するために“好き”を誤魔化す言葉。
そんなことを積み重ねて、誤魔化してばかりの人間を、円堂くんは好きだなんて思ってくれるのか。
円堂くんはいつだって真っ直ぐだ。
そんな円堂くんに憧れて、好きになって、恋をした。
それなのに、それと真逆のことをし続けていたなら、いつまで経っても近づけるわけがないじゃないか。
そうだ。誤魔化してどうするんだ。
どんなに言葉で否定したって、心までは誤魔化せない。
だって、俺は……。
「……むしろ、俺、円堂くんのこと、好きだから」
「……え……?」
……言っちゃった。
どうしよう、勢いで取り返しのつかないことを言ってしまった。
でも、円堂くんには、もう誤魔化すなんてこと、したくない。
返事なんてどうでもいい。
ただ、ありのままの俺自身を受け止めてほしい。
だから俺は、せめて今だけは逃げるのをやめる。
震える手を握りしめて、零れそうな涙は一旦零そう。
小さく深呼吸してからもう一度顔を上げて、円堂くんの目をしっかりと見つめた。
俺の大好きな、円堂くんの目だ。
その目を見たら、ふっと緊張が和らいだ。
だから俺は笑って言うことができたんだ。
俺の人生最大の、まさに決死の大告白を。
「俺は、円堂くんが好きです」
――君のことが、大好きです!
間に合えバレンタイン!と、当日に書いたのでここで打ち切りです。
続きは二個目のチョコをヒロトに口移しで食わせた円堂さんが色々いっぱいいっぱいになりながら告白返しをするような内容でした。
ちなみに続きぶったぎったので書いてない円堂さん視点を解説すると、
鉄塔のベンチでぼーっと座り込んでた円堂さんはヒロトに義理でもチョコ貰えなくて「嫌われてんのかな」と落ち込んでた(必殺技のことなんて欠片も考えてなかったよ!)。そんな時に当のヒロトが現れたもんで思わず立ち上がってる。そして「渡せなかった」と聞いて「よかった」と呟いた。
あと、「あーん」でヒロトが目を瞑っちゃってたのは後の口移しフラグでした。
ヒロトがやたら「すごいよ円堂くん!」的なことを言ってるのも、実際の円堂さんはヒロトに何も聞けてないし言えてないただのヘタレだったというある意味のフラグでした(笑)
去年のバレンタインと今年の円ヒロの日のリベンジができたので満足です、ハイ。
>>2012.2.14
※多分高校生で、円堂とヒロトが同じ学校。ヒロトはきっと稲妻町付近に一人暮らし。
バレンタインデー。
この国では一般的に女性が好意を持った男性にチョコレートを贈り、愛の告白をする日として浸透している。
だけど俺は男だし、義理ならまだしも本命を男に渡すなんて、どう考えてもおかしい。
「というわけで義理チョコをみんなに配ってきたんだよ」
「ほう……で?それは何だ?」
「……チョコレート」
「配ってきたんじゃなかったのか?何故ここにそれがある?」
「……貰ったという選択肢は……」
「言い訳してる暇があったらとっとと渡してこい!!」
「うわあっ」
どんな言葉を返したところでどうせ玲名には本当のことなんてバレバレなんだよな。
家を締め出されてしまったからには出かける他に俺が出来ることは何もない。
というかここ俺の家なんだけどね?
君は俺にバレンタインのチョコレートをわざわざ届けに来てくれたんじゃなかったのかい?
そんなことを脳内でツッコミながらも俺はある場所に向かって歩き始めた。
◇◆◇
しまった。
「ヒロト!?」
「……や、やあ円堂くん」
直接なんて論外として、家に届けるのも誰かに見つかったらとためらって、かといってこの時間じゃ学校にも入れない。
円堂くんが必ず行く場所として考えた場所は鉄塔だった。
ここに置いておけば俺も渡した気になれるし、俺が用意したチョコレートだということも円堂くんには気付かれないだろうと思って、ちょうど良いとも思った。
俺からしてみれば、円堂くんが受け取っても受け取らなくてもどっちでも構わなかった。
そもそもこんなところに置いてある食べ物を食べるなんてことをした方が心配になる。俺が置くんだけど。
でも、その場所にまだ本人がいるとはさすがに想定外だった。
だって俺が家を出た頃にはすでに夜の8時を過ぎていた。
夕食を食べ終えて家でゆっくりくつろいでいるような時間じゃないか。
こんな時間まで特訓だなんて円堂くんは熱心だな~。君のサッカー愛には負けるよ。さすが!好きだよ!君のそういうところ!
……とは口が裂けても言えない。
「あ、座るか?」
「ああ……どうも」
円堂くんがさっきまで座っていたベンチに手招かれて、おとなしく隣に座ると、同じように円堂くんもベンチに座った。
……そういえば俺が来た時円堂くんはボンヤリとベンチに座ったまま、いつも特訓に使っているタイヤに触れる様子もなかった。何か考え込んでるようにも見えたし、新しい必殺技か何かのことを考えていたのかな。
やっぱり円堂くんはすごいな。
それに比べて俺は何をやってるんだろう。
義理だなんて言い訳したチョコレートひとつまともに渡せないなんて。
そっと円堂くんを見やると円堂くんは俺の手元をじっと見つめていた。
……手元……?
俺は、普通に手に持っていた紙袋の存在を思い出した。
まさかいるとは思ってなかった円堂くんがいたものだから、隠すことすら忘れていた。
「……それ」
「い、いや!これはっ……!」
今さら隠したところでもう遅い。
誤魔化す意味もないことを知っていたので、俺は諦めて渡すことにした。
「あげる」
「え」
「バレンタインのチョコレート。他のみんなには渡したんだけど、円堂くんには渡せなかったから」
「……渡せ、なかった……」
「うん」
“渡せなかった”なんて、ひどい言い訳だ。
渡すチャンスなんてたくさんあったのに。
ただ、渡すことから逃げ出していただけなのに。
「……よかった……」
「え?」
「食っていいか?」
「あ、どうぞ……」
小さく聞こえた言葉に首をかしげれば、返ってきたのはまぶしい笑顔だった。
ガサガサと包みを開ける円堂くんはどこか嬉しそうで、こんな風に喜んでくれるなら変なことを考え込まないで普通に渡しておけばよかったかもしれない。
美味しそうに食べる円堂くんを微笑ましく思いながら眺めていたら、その視線に気付いたのかこっちを見た円堂くんはチョコレートを一粒取って俺に突きつけた。
「食うか?」
「え、でもそれは円堂くんにあげた物だから……」
「まあいいから」
「……じゃあひとつ」
いわゆる「あーん」の状況で恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど、円堂くんの笑顔に根負けした俺は素直に口を小さく開いた。
「……何で目まで瞑るんだよ」
「え?…………んむっ」
呟かれた言葉がよく聞き取れなくて思わず目を開ければ、その瞬間に口の中にチョコレートを押し込まれた。
途端に広がった甘味と香りの根源は、口内で少し転がしただけであっという間に溶けてなくなってしまった。
「……甘い」
「な、美味いだろ?」
「うん」
そんなに高い物じゃなかったけどほどよい甘さで、一言で言えば美味しかった。
当然のことだけど味見して買ったわけじゃなかったから円堂くんに喜んでもらえて本当によかった。
「でも、ホントよかった~」
「え、何が?」
ちょうどタイミング良く考えていたことと全く同じ言葉を言われて、思わずドキリとした。
「だってヒロト、他のみんなにはチョコ配ってたんだろ?俺だけ貰えないのかなって思って」
「あ……ごめん……」
やっぱりバレてたんだ。
聞いてるかな、とは思ったんだけど、それは直接渡す勇気には繋がらなかった。
結局直接渡したんだけど。
だけど、その申し訳なさが思考の彼方にすっ飛ぶくらいに次の円堂くんの言葉は衝撃的だった。
「……俺だけ、貰えないから……俺、ヒロトに嫌われてんのかなって……思った」
「へ……」
予想外すぎるどころじゃない円堂くんの考えを、俺は全力で否定した。
「そんなのあり得ないよ!」
「そうか……?」
「そうだよ。むしろ――」
言いかけて、あわてて口をつぐんだ。
何を口走ろうとしているんだ俺は。
「……むしろ?」
「えっ!?…………う……」
けれど、俺の言葉が不自然に途切れたことを不思議に思ったのか円堂くんが先を促すかのように聞いてきた。
なんて言えばいいんだろう。
俺は誤魔化す言葉を探そうとして、気付いた。
こんな風に誤魔化してばかりの俺を、円堂くんはどう思うんだろう。
義理チョコにカモフラージュして渡した本命。
“嫌い”を否定するために“好き”を誤魔化す言葉。
そんなことを積み重ねて、誤魔化してばかりの人間を、円堂くんは好きだなんて思ってくれるのか。
円堂くんはいつだって真っ直ぐだ。
そんな円堂くんに憧れて、好きになって、恋をした。
それなのに、それと真逆のことをし続けていたなら、いつまで経っても近づけるわけがないじゃないか。
そうだ。誤魔化してどうするんだ。
どんなに言葉で否定したって、心までは誤魔化せない。
だって、俺は……。
「……むしろ、俺、円堂くんのこと、好きだから」
「……え……?」
……言っちゃった。
どうしよう、勢いで取り返しのつかないことを言ってしまった。
でも、円堂くんには、もう誤魔化すなんてこと、したくない。
返事なんてどうでもいい。
ただ、ありのままの俺自身を受け止めてほしい。
だから俺は、せめて今だけは逃げるのをやめる。
震える手を握りしめて、零れそうな涙は一旦零そう。
小さく深呼吸してからもう一度顔を上げて、円堂くんの目をしっかりと見つめた。
俺の大好きな、円堂くんの目だ。
その目を見たら、ふっと緊張が和らいだ。
だから俺は笑って言うことができたんだ。
俺の人生最大の、まさに決死の大告白を。
「俺は、円堂くんが好きです」
――君のことが、大好きです!
間に合えバレンタイン!と、当日に書いたのでここで打ち切りです。
続きは二個目のチョコをヒロトに口移しで食わせた円堂さんが色々いっぱいいっぱいになりながら告白返しをするような内容でした。
ちなみに続きぶったぎったので書いてない円堂さん視点を解説すると、
鉄塔のベンチでぼーっと座り込んでた円堂さんはヒロトに義理でもチョコ貰えなくて「嫌われてんのかな」と落ち込んでた(必殺技のことなんて欠片も考えてなかったよ!)。そんな時に当のヒロトが現れたもんで思わず立ち上がってる。そして「渡せなかった」と聞いて「よかった」と呟いた。
あと、「あーん」でヒロトが目を瞑っちゃってたのは後の口移しフラグでした。
ヒロトがやたら「すごいよ円堂くん!」的なことを言ってるのも、実際の円堂さんはヒロトに何も聞けてないし言えてないただのヘタレだったというある意味のフラグでした(笑)
去年のバレンタインと今年の円ヒロの日のリベンジができたので満足です、ハイ。
>>2012.2.14
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