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短編

FFIアジア予選真っ最中。
合宿所である雷門中のグラウンドには今日も選手達の声が飛びかっている。
そこに響くはホイッスルの音。
試合終了の合図だ。


「交代!次、B班とD班!」

今は16人を4グループに分けてミニゲーム形式で練習をしている。
俺は一応今勝ったA班の一人で、今度は交代して休憩する番だ。


「お疲れ!」
「うん。頑張って」

これからフィールドに出る円堂くんは珍しくリベロのユニフォームを着ている。
キーパーのいないゲームだから当たり前だけど、青いユニフォームはあまりにも見慣れない。

そんな円堂くんを見送ってベンチに座り込むと、ふわりと頭にタオルをかけられた。


「お疲れさま」


顔を上げればそこにはマネージャーの冬花さんがいた。

「ありがとう」

差し出されたボトルを受けとってお礼を言うと、冬花さんは俺の隣に立ってグラウンドを見つめた。
その先には、さっき俺が見送った円堂くんがいた。


冬花さんは円堂くん曰く「昔一緒に遊んだ幼馴染みのふゆっぺ」だそうだけれど、冬花さん自身はそれに身に覚えがなく、最初のうちは戸惑っていたらしい。
それでも冬花さんは円堂くんのことを、その「幼馴染みのふゆっぺ」が呼んでいたように「守くん」と呼んでいる。
俺はそのことがずっと気になっていた。



「冬花さんはどうして円堂くんを“守くん”って呼ぶの?」
「え?」


突然話しかけたことも悪かったのかもしれないけど、冬花さんは驚いたように視線を円堂くんから俺に移した。
けれども気になるものは仕方ない。
せっかく2人で話せる距離にいるのだからと、ずっと聞いてみたかったことを思い切って口に出す。


「冬花さんは、円堂くんの言う“ふゆっぺ”が君のことじゃないって不安になったりしないの?」

――覚えて、ないんだろう?


そう問えば、冬花さんは考えるように目を伏せた。
そして再び顔を上げて円堂くんを見つめる。その瞳を小さく揺らしながら。


「……不安に思うことがないわけじゃないの。ただ、そうならいいなって、思ってるだけ」


確証なんて、どこにもなかった。
幼い円堂くんのおそらくあやふやな記憶では、他人のそら似である可能性は十二分にある。
彼女自身が身に覚えのないことを信じるなんて、誰が出来るっていうんだろう。


「……俺は、君が本当に円堂くんの言う“ふゆっぺ”であることを願っているよ」

心からそう言えば、目を丸くした冬花さんは少し嬉しそうに笑った。

「ヒロトさんって優しいんですね」
「……どうかな」

話の流れから言えば、普通の感想なのかもしれない。
けれど俺が今の言葉に込めた思いは、決して冬花さんのために優しさで言った言葉ではなかった。


「これは俺の勝手なわがままなのかもしれない。俺はただ円堂くんには他の誰かと間違えるようなことはしてほしくないだけなんだ」

俺は膝を抱えて俯いた。
今の俺はきっと、ひどい顔をしているから。


「だってもしもここに俺と同じ顔で、同じ名前の人がいたとして、円堂くんがその人と間違えて俺を呼んでしまうなんて、そんなの、耐えられない」


“もしも吉良ヒロトが生きていたら”。
その恐怖は以前からいつも考えていることだった。
それは、俺が“基山ヒロト”になれた今でも変わらない。
もしも彼がここにいたならば、俺はちゃんと円堂くんと対等な友達になることができたのだろうか。
円堂くんは、彼を選んだんじゃないか。
“基山ヒロト”という人間は、結局のところ“吉良ヒロト”という人間をなぞって真似しただけの存在だから。
『友達』というこの距離はなんともあやふやで、あっさりとなくなってしまうものだから。
ただそれが怖かった。
“吉良ヒロト”の影が、怖かった。



黙り込んだ俺を見つめる視線は感じていた。
こんな、どうしようもない俺の自分勝手な感情を押し付けられて、冬花さんも困っているだろう。

ごまかさないとと顔を上げた瞬間に目が合った冬花さんは丁度タイミングよく口を開いた。



「じゃあ、もしも私が守くんの言う“ふゆっぺ”とは別人だったとしたら、守くんの代わりにヒロトさんが私を“ふゆっぺ”って呼んでくれませんか?」

「……は?」



予想外の言葉すぎて、思わず言葉になっていない返事をしてしまった。
間抜けな顔をしているだろう俺に、冬花さんは優しく笑って言う。


「ヒロトさんが呼ぶ“ふゆっぺ”は私だけです。それはもう間違えようがありませんから」


確かに、そうかもしれない。
だって俺は本当の“ふゆっぺ”を知らない。
俺が“ふゆっぺ”と呼ぶ人は、今目の前にいる冬花さんだけ。
そんなことを考えたことなんてなかった。
円堂くんが、みんなが呼ぶ“ヒロト”という名前が、俺だけのものだなんて。


「……冬花さんって結構突拍子もないことを言うんだね」
「それと、もしヒロトさんによく似た人が現れたら、ヒロトさんのことは“ヒロっぺ”って呼んであげますね!」
「それはちょっと……」


嬉しそうに提案する冬花さんに苦笑いで返す。
でも、そんなことまで言われるとは思っていなかった俺は、内心ちょっと嬉しかったりする。

俺という存在を、“基山ヒロト”という人間を、認められたような気がした。




※おまけ

スーパーリンクでグランがやってきた!

「グランさん!ヒロっぺさん!」
「ホントやめてください」
「?」


ヒロ冬が好きです。
が、それ以上に円堂さんのことが大好きな2人が大好きなんです。
円堂さんなしにヒロ冬は語れない。
と思うのにピクシブさんにじわじわ増えてきた気がするヒロ冬に円堂さん絡みが全然ないっていうね。悲しい。

円堂さんに救われた2人が幸せそうにしていたら、さらに一緒に居て話してたら俺得っていうだけ。


この組み合わせもっと増えてほしい。
私が幸せになれるから。


>>2011.12.31

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