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希望の光を

 ◇◆◇


「うわっ!もうこんな時間か。」

じいちゃんと話してたらすっかり遅くなっちゃったな。
これでも名残惜しいくらいだけど、さすがにこれ以上は明日の練習に響く。
ついでに走って帰っていると、宿舎が近づいてきた頃、グラウンドに人影が見えた。


「あれって……」



 ◇◆◇


グラウンドに寝転がって考えてみた。


イメージ。
目金君に言われた言葉を思い出す。

「天空落とし……」

俺らしさ。流星ブレード。流星。その上の天空。夜空……宇宙?宇宙から落ちる星。流星。
あれ、戻っちゃった。
俺はあんまりこういうことは向いていないのかもしれない。

そもそも流星ブレードが俺らしいって言うけど、これは俺の技じゃなくて“ヒロト”の技だった。
父さんに愛されるために必死になって、何度もビデオを見て身につけた技だった。



空に手を伸ばしてみる。
暗い夜空には星がたくさん輝いていて、アジア予選の時によく見上げていた東京の空に比べるとはっきり物が見えるくらいには明るかった。
俺の手もよく見える。

この手は何かを掴めただろうか?

父さんには、届かなかった。
おひさま園の皆も守れなかった。
俺は何も出来なくて、結局全ては円堂君のおかげで丸く収まったんだ。

俺に何が出来ただろう。
俺はどうしてここに居るんだろう。
どうして俺が、日本代表チームの一人なんだろう。

選ばれた時には緑川も一緒だった。緑川は本当に努力していたし、選ばれたのもよくわかる。
けれど緑川は本戦に行く前に代表から外されることになった。
そして日本を発つ日の空港で、緑川は「必ず追いつく」と言った。
結果として間に合うことは出来なかったけれど、緑川は最後まで諦めてはいなかった。
また戻ってきたいと願っていた。

日本代表として戦いたかったのは緑川だけじゃない。
おひさま園の皆だって、本当は出たかったはずなんだ。
それなのに、俺が日本代表になった時、皆は俺を快く送り出してくれた。

そうだ。だから俺は皆の分も頑張らないといけない。
緑川も、皆も、全部の気持ちを代わりに背負ってここに居る。
俺は皆の代表としてこのチームの一員、日本代表になったんだ。
ここで決めなきゃ、ここで勝たなきゃ、俺が代表になった意味がない。


伸ばした手を、拳を握りしめる。
何としてもこの新しい技を完成させよう。
改めて、覚悟を決めた。



もう一度ボールを持ってゴールに向き合った。
とりあえず、やってみよう。


思い切り高くボールを蹴り上げた。
“天空落とし”の名のように、空高く。
それが上がりきるのを姿勢を低くして見上げる。
地面に手を添えて、ボールを追いかけようと地面を蹴った。
流星ブレードよりも強くならないといけない。
もっと体を捻ってみよう。
空中で一回転。その勢いでボールを蹴る。
イメージは“天空落とし”。
空を、宇宙を、そして星を落とすようにイメージして――打つ!


ボールは今までになく勢いを増してゴールに突き刺さった。


「あ……」

さっきよりも強くなった気がする。
想いの強さで強くなれると教えてくれたのは円堂君だったけれど、イメージというものもそれに近いところがあるのかもしれない。

もう少し、やってみよう。
より正確に“イメージ”するんだ。


そう思ってサッカーボールを拾い上げた瞬間、後ろから声が聞こえた。



「すっげえー!」



「!?」

思わず取り落としかけたボールを慌てて持ち直して振り返ると、そこには目を輝かせた円堂君がいた。


「えっと……おかえり、円堂君」
「ただいま!今のって何だ?新しい技か!?」
「まだ未完成だけどね」
「へ~!」

駆け寄って来た円堂君は興味津々、といった感じだった。
そんなに見られたら出来る練習も出来なくなってしまう、ということには気付いていないんだろうか。


そうだ。せっかくだからさっきの話でもしてみようか。



 ◇◆◇


「イメージ?」
「目金君が言うにはね。円堂君もまだあの技出来てないんでしょう?」
「あ……ああ……うん……」
「おじいさんとも話して来たわけだし、円堂君も考えてみたらどうかな?」
「……イメージ、かぁ~」

そう呟いて唸りだした円堂君を見て、ふと不思議な気分になった。


3ヶ月前のあの頃は、こんな風に当たり前のように一緒に居たり、新しい必殺技を生み出すヒントを伝えたりするなんて、あり得ないことだった。
敵として戦って、友達としてなんて一緒に居られなくて、嫌われて当然のことをたくさんしてきた。
それなのに円堂君はまた俺を「友達」と言ってくれた。チームメイトとして、肩を叩いてくれた。
声をかけて、名前を呼んでくれた。
一緒に居てもいいんだと、思わせてくれた。


俺は最初、円堂君がいるからという理由で雷門中に足を運んだ。
円堂君の力になりたくて、日本代表になった。
本気で代表になりたかった誰かが聞いたら怒られるかもしれない理由だけど、俺はそれだけのためにこのチームに入った。

けれど俺は、日本代表になりたいと努力を続けている人達のことを知った。負けて悔しいと、泣いている相手チームの存在も知った。
その皆の想いも俺達が背負っていると知った。

過ごすうちに他のチームの皆とも仲良くなった。それぞれ持った想いも知った。
何より、皆サッカーをすることが大好きなんだと知った。

そして俺も、皆と一緒にやるサッカーが楽しくて仕方がないと思うようになっていた。



円堂君の力になりたい、と今だって思っていないわけじゃない。
けれど今はそれよりも「このチームで皆と一緒にサッカーをして、勝ちたい」と思っている。
それは誰かのためじゃなくて、俺自身のためだ。
俺の勝手なわがままな願望だ。



「……やっぱり、優勝したいな」



小さく、本当に小さく呟いたつもりだったけれど、隣に座っていた円堂君が勢いよく顔を上げてこっちを見た。


「え……」

「あ、わ、ごめん独り言!気にしないで!」

円堂君が考えているところを邪魔してしまった。
あわてて取り繕おうとしたけれど、円堂君は何か驚いたままじっと俺のことを見ているだけだった。


「……え、円堂君……?」

その様子を不思議に思って名前を呼ぶと、円堂君は少し嬉しそうに笑った。


「ヒロトがそういうこと言うなんて思わなかった」
「え?」


こっちこそ、そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
どういう意味だろう。
俺はおとなしく円堂君の言葉を待った。

「ヒロトってさ、あんまり自分が思ってること言わない……っていうか、『こうなってほしいな』とか『こうならいいな』ってことあんまり言わないだろ?」

確かにそうだけれど、それは円堂君や皆に迷惑をかけて困らせたりしたくないからで。
でも、まさか円堂君が俺のそんな行動に気づいてくれていただなんて。
嬉しくて、恥ずかしくて、少し顔が赤くなるのを感じた。

「だからさ……嬉しいんだ。だって今のって絶対本心だろ?だからヒロトが本当にそう思ってるんだって思ったら、すっげえ嬉しいなって」

本当に嬉しそうに笑う円堂君を見て、何だか泣きたくなった。


正直、今まで円堂君のために何かが出来たなんて思っていなかった。
結局俺が会いたかっただけなんじゃないか、その言い訳にしていたんじゃないか、と思っていた。

けれど円堂君は今喜んでくれている。
俺が望めば、望んだことを、そしてその想いが同じであることを喜んでくれる。

だったら俺は望みたい。
俺自身の希望を。

……望んでも、いいんだ。


「……勝ち、たい」


今度は独り言じゃなくて、円堂君と想いを共有するために。
大きな声ではっきりと、想いを形に、言葉にしよう。


「勝って、優勝したい!」


そして円堂君はより嬉しそうに、心から笑った。


「ああ、俺もだ!」




想いが強さに、力になるのなら、今の俺達は誰よりも強くいられると思う。

残りはあと一戦、決勝戦を残すのみ。
俺はきっとこの新しい技「天空落とし」でイナズマジャパンを優勝に導いて……いや、皆と一緒に、優勝してみせる!




123話で円堂のパスからシュート=円堂は新技の存在を知っていた?
木暮の言葉から多分木暮は未完成の技を見てる。
目金の反応から元々その技の存在を知っていて、しかも名付け親っぽい。
――ということでこの3人と絡ませたかった。
そんな天空落とし話でした。
123話は神回。

ちなみに「空から振り下ろされた希望の光」=天空落としです。by目金。


しかし2期の頃から考えると本当にヒロト変わったなと思います。もちろんいい方に。
「や、やった!」とかそんな素直に感情出しちゃってもう!!
年相応になったというか「基山ヒロト」になれたっていうか。
本当に、ヒロトが幸せそうで何よりです。うん。

大好き!!


>>2011.5.3

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