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希望の光を

※123話を見た勢いの119話時の話。



宙に浮かんだサッカーボール。
それを追うように地面を蹴って、ゴールに打ち落とすようにボールを蹴り入れた。
誰もいないゴールを抜けたボールは勢いよくネットを揺らし、そのまま着地した俺の下へと転がって戻ってきた。
それを足で止めてから一つ息を吐く。
そして額から流れた汗を手の甲で拭いながら改めて白と黒で構成されたサッカーボールを見つめて呟いた。

「違うな……」

これなら、流星ブレードと変わらない。むしろ流星ブレードを強化した方が効率的だろう。
でもそれじゃあ多分駄目だ。
何せ相手はあのオルフェウスを圧倒的な力で敗北に陥れたリトル・ギガントだ。未だ必殺技を使用していないことといい、その実力は計りしれない。
それに……。


今度は顔を上げて目線を移した。
そこにあるのはサッカーゴール。
そこにいつも立っているのは。


「円堂君……」


円堂君は今、おじいさんと2人だけで話をしているらしい。
会えることなんてないと思っていた、死んでいると思っていた、憧れのおじいさんとの会合。
そしてその人は決勝戦の相手、リトル・ギガントの監督でもある。
今までずっと円堂君を成長に導き、支えてくれたおじいさんが今度は敵チームの監督として戦うことになる。
円堂君は今どんな気持ちなんだろう。
憧れのおじいさんとの戦い。
そしてそのおじいさんから貰った新しい可能性。
“ガンシャンドワーン”。
俺にはよくわからなかったけれど、円堂君には響く何かがあったらしい。新たな必殺技のヒントに目を輝かせていた。
何があっても諦めないという目も好きだけれど、ああいう「サッカーが楽しくて仕方がない」という目も好きだな、と思った。
そしてその目を見ていたら何だか俺までわくわくしてしまって、皆が眠り始めた夜に宿舎から一人抜け出して新しい必殺技の考案なんて始めてしまったわけだけれど。


どうやっても流星ブレードとあまり変わらない。
やっぱり諦めて流星ブレードにしておこうか、と考え始めた時、俺を呼ぶ声が聞こえた。


「ヒロトさーん!」

「木暮君?」

駆け寄って来たのは河童の一件以来すっかり仲良くなった木暮君だった。


「どうしたの?」
「ヒロトさんが練習してるのが見えたから。はい、コレ!」

そう言って差し出されたのは以前冬花さんが俺用にと用意してくれたスポーツドリンクだった。

「疲れてるだろうと思ってもらって来たんだ。あと、タオル!」
「ありがとう」

タオルを受け取り、そっと頭を撫でて微笑むと、木暮君は嬉しそうに、照れくさそうにはにかんだ。

嬉しいことに木暮君は俺のことを慕ってくれているようで、その笑顔を見ているとおひさま園の子供達を思い出す。
皆、元気にしてるかな?
少し懐かしく思っていると木暮君はキラキラした目で俺を見上げて尋ねてきた。


「ヒロトさん、新しい必殺技の練習?」
「うん、まあね」

「さすがヒロ「ちょっとちょっと!困るんですよねそういうこと勝手にされたら!」うわぁっ!?」


そこに突然入ってきた声に木暮君は驚いて俺の後ろに隠れた。


「目金君……?」
「新しい必殺技を作るならまず“ボク”を通してからにしてもらわないと!」

目金君はやたら“ボク”の部分を強調して名乗り出て来た。


それを見て木暮君は、
「うわあ、めんどくさいのが来た……」
なんて俺の後ろから嫌そうな声を出していた。

「ちょっと!先輩に対して何ですかその態度は!」
怒りだす目金君とそれを無視してそっぽを向く木暮君に苦笑した。


だけどこれは俺にとってはわりといいチャンスかもしれない。


「そうだね。ちょうど行き詰まってたところだし、目金君なら色んな必殺技を研究してるだろうからいいヒントがもらえるかも」
「え……」
「そうでしょうそうでしょう!『戦略アドバイザー兼必殺技ネーミング担当』であるこの“ボク”が必殺技作りに協力すれば、間違いなんてありません!!」
「うん、よろしく」


目金君は自分の眼鏡に指をかけて自信ありげに言い放った。
“一人じゃダメなら皆で”。
こういうことも円堂君が教えてくれたんだよな。


「……ヒロトさんって本当にこういう扱い上手いよね……」
「え」

木暮君が呟いた言葉が俺の笑顔を凍り付かせるのは簡単だった。



 ◇◆◇


もう一度見せてほしいと言われたのでさっきの未完成な必殺技(仮)をやってみると、目金君は眉間にしわを寄せて唸りだした。

その隣に座っている木暮君もその様子を不思議そうに見ていて、とりあえず俺もそんな2人の近くに座ることにした。
頭を抱えて何かを真剣に考えている目金君を見て少し不安に思いながら木暮君と顔を見合せ困っていると、突然顔を上げた目金君は俺を指差すと、自信満々にこう言った。



「天空落とし!!」



「……は?」


「って、名前かよ!」

ああ、新しい必殺技の名前か。
いきなり言われるからビックリした。
いつも皆こういう感じでつけられてたのか。よくすんなり受け入れられるな。


だけど目金君はかけた眼鏡の位置を上げ直しながら、いたって真剣に語り始めた。


「名前というものを甘く見てはいけませんよ。名前とはその固定のイメージを作り上げるものです。例えばボク達の名前だって呼ばれれば『ああ、ボク達のことを呼んでるんだな』とわかるでしょう?それと同じです。要するに基山君の技にはイメージが足りないんです。その技をその技と固定するイメージが」


「イメージ……」

確かに、一理あるかもしれない。
どんな技なのか、どういう技にしたいのか、なんて全く考えていなかった。


「というわけで、僭越ながらこのボクが先に付けさせていただきました」
「……嘘くさーい。ただ名前付けたかっただけなんじゃないの?」
「木暮君……」
木暮君が胡散臭そうに白い目で見ているので、思わず苦笑した。
目金君ってそんなに必殺技に名前をつけたがってるんだろうか。
あまりそういう作成に関わったことがなかったから知らなかった。

けれど目金君はそれに力いっぱい反論した。


「失敬な!名前は重要な要素です!基山君がちゃんと形にしやすいように名前という要素を固定したにすぎません!ちゃんと意味だってあるんですからね?今回は基山君の流星ブレードを取り入れた技ということで、今度はあの星だけではなく空そのものを落とす勢い、という意味で“天空落とし”と付けたんです!」


そう言って目金君は真上を指差した。
暗い闇に無数の光が輝いていた。


「天空落とし、か……」

技の名前なんて今まであまり気にしたことがなかったけれど、案外目金君の言うとおり重要なものなのかもしれない。
そして、そこから来るイメージ。

……もう少し考えてみる必要がありそうだ。



「ありがとう、目金君。俺、もう少し考えてみるよ」
「そう!大切なのはイメージです!」

それだけ言うと目金君は満足そうに宿舎に帰って行った。



それを見送っていると、ふと隣から視線を感じた。
見ると、木暮君が悩まし気な顔で俺を見上げていた。

「ヒロトさん……」
「木暮君も、もう遅いから戻って寝た方がいいよ」

そう微笑んで頭を撫でると木暮君は俯いてしまった。
しまった、と思いながら顔を覗き込むと、木暮君は悔しそうに歯を食い縛っていた。

「……俺、全然役に立てなくて……」

落ち込む木暮君に、不謹慎ながら少し嬉しく思ってしまった。
俺のためにこんなに力になろうとしてくれるなんて。
だからこそ優しい笑顔で落ち着かせるように頭を撫でる。

「そんなことないよ。木暮君のおかげでしっかり休めたから」

すると木暮君は不安そうに俺を見上げた。

「……本当に?」
「うん」

だから俺は心からの笑顔で返した。
するとそれを見た木暮君もみるみるうちに表情が笑顔に変わっていった。



木暮君は嬉しそうにステップをしながら大きく手を振った。

「必殺技、楽しみにしてるね!おやすみなさい!」
「うん。おやすみ」

宿舎へと駆けて行く木暮君の背中を手を振り返しながら見送って、その姿が見えなくなったところで改めてゴールを見据えた。



さあ、もう人踏ん張りだ!

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